95:魔王国へ2

「故郷の”赤の伝説”を布教するために、時々正体を明かしつつ教祖自らが旅をしている……のでしたっけ。レナ様の変身の瞬間を目にした者の元には、幸運が訪れるとか?
あやからせて頂きたいものです」

「違います、違います!」

「ええ違います。それではここで宣教師の本領発揮と」

「させません。ちょっと黙ってて下さいジミーさん」

しゅんとネコミミを折ったルーカがおとなしく口をつぐんだ。

「お見事な調教で」

「ああもう!」

脇道に逸れまくった話はこれくらいにして、レナは本題に入る。
この説明をはしょったことが後に大きな災厄になるなどと、現在のレナは知るよしもないのであった。

レナが個室の検問所でまず話したのは、従魔たちの種族について。
アネース王国の入国検問では誤魔化してしまったが、これは本来ならば申請必須事項である。

緊張で張りつめた空気の中で、レナパーティ全員の[幻覚]が解かれる。
あらわになったきらびやかな容姿の魔物たちを、マリアベルとロベルトは愕然とした表情で眺めた。

「……今まで私はたくさんの魔物を見てきましたが、この従魔たちの外見は初めて目にしました。
該当する種族はそれぞれスター・ジュエルスライム、ハイフェアリー・ダーク、夢喰いヒツジ、羽根飛びウサギ……と。行動を共にしていないギガント・バタフライはアネース王国に国の許可を得て滞在している。
なんともまあ……」

「んっええぇ〜〜!? うわ、うわ。ヒツジとスライムたち、ネコミミヒト族がキラッキラ。
ウサギは……も、もしやカーバンクルに羽根付きの天使族候補ということなの……!?
妖精女王様はちょーーお美しいですぅ! 同じ妖精族として誇らしく思いますです、はぁい!! 闇属性のフェアリーってこれまた珍しいですよねぇ。
うーん、全員に[幻覚]かかってたのは視抜いてたけど……はぁ。
こんなに目立つんじゃあ、姿を偽らないとうかつに街を歩けないよねぇ。
大変だったね、お嬢さんたち」

視抜いた、という言葉の特別なニュアンスに気づいて、レナがドキッと心臓を跳ねさせる。
ライトフェアリー・マリアベルの視線を、体を強張らせて受け止めた。

「ますです、だと……? 言葉使いがおかしかったぞ、マリアベル。シヴァガン王国の威信に関わるのだから気をつけろ」

「そーんなの、私が遅刻して登場した時点で台無しでしょ。あっははは!」

「…………」

▽ロベルトの 氷の吐息!
▽フェアリーの周りに 小さな氷の粒が 渦になって舞う!

「ぎゃっ、さぶーーい!?」

▽薄着のフェアリーに 大ダメージ!

雪豹の物理的な冷たさにあてられたマリアベルが、ぴょんぴょん跳ねながら寒そうに腕をさする。
か弱いパンチをロベルトの手の甲に繰り出すも、ノーダメージ。
ぺいっと払いのけられてしまった。
レナの中で、妖精のイメージが完全に明るい脳筋で定着した。

身内でのこのゆるーいやりとりも十分魔王国の威信に関わるのではないだろうか。もちろんマイナスの意味で。
そんなことをレナパーティが考えていると、マリアベルが誤魔化すようにウインクしてみせたので、[フェアリーアイ]で思考を読んだようだ……と皆が察する。
マリアベル以外の全員がため息をついた。
「技能を悟られるようじゃ職業的に失格だ」と共にため息をついたロベルトが呆れたように呟く。

ロベルトも多少思わせぶりなことを口にしているが、これは誘導のため。
この時点でレナたちがなんらかの反応をしていれば、自分たちの情報が漏れていると考えられる。
レア種族に伴ったレア技能持ちかどうか、探ろうとしていた。

さりげなくレナパーティ全員の様子を横目で伺うものの、職業的に……の言葉を聞いてもルーカは表情を崩さなかった。
ひとまずロベルトの思考が[魔眼]の可能性から逸れる。

「妖精女王様〜」

『まだ、女王様じゃ、ないの。私は……王族候補! これから、きっと、王族に……なる』

「きゃあーーっ! お声も綺麗でシビレますぅ」

▽マリアベルは リリーに メロメロ状態!

見た目的にはマリアベルの方が大人の容姿なのだが、身長はリリーの方が3倍ほど大きい。
二人とも机上に立っているので、サイズが違うお人形を並べたかのようだ。
マリアベルがリリーを見上げてほうっと頬を染めている。
小さな妖精たちは、王族妖精に無条件で魅了されてしまうらしい。

「失礼いたしました、ではリリー様とお呼びさせて頂きたくー。
いやいや本当にお美しいですね、たまりません。ああんっ!
チョコレートみたいな甘い褐色肌にぃ、惚れ惚れするような絹糸の髪、瞳はサファイヤそのものの青……翅も幻想的なお色で!」

『んふふっ……照れちゃう……』

「いったいどのような生を歩んで王族に進化なさったのでしょうかー? きっと長い年月をかけてこの美しさを手になさって、素晴らしい黄魔法の使い手なのでしょうね。
妖精族の得意分野である宝飾にはもう携わったことがありますか?
あっすみません質問攻めして。私、お会いできてもう嬉しくって! えへ、えへへ」

マリアベルの表情が相当だらしない。
トップアイドルに会った信者級ファンのような格好の崩し方だ。

『私の魔物生は、ご主人さまと出会った時から、始まったようなもの……なの!』

「おや?」

『…………………ご主人さまに、出会った瞬間〜♪ この人だと、身体に、電流が走った〜♪ イナズマ級のね。
そう、それは……運命だったの! 幸福、ゲットしたのだよっ! ルララ〜♪』

リリーの言葉を聞いたマリアベルがきょとんと可愛らしく首をかしげて見せ、前髪に隠れたロベルトの片眉がぴくっとはね上がった。

リリーの口を塞ぐため行動するかとレナたちは一瞬身構えたが、リリーが即座にネッシーのように歌ってごまかしたので、浮かしかけた腰を静かに降ろす。
背中には冷たい汗をかいていた。

今までは従魔たちと同種族の魔人族とは出会わなかったので、レナやルーカが従魔たちの言葉を翻訳していたのだ。
仲間以外とは話し慣れていない彼らの会話はまだまだ危なっかしい。
しかし今回のように、これからは従魔たち本人が会話する機会もあるだろう。
ひとまず話術向上を今後の課題に定めておく。

今回の相手は魔王国の諜報部に属しているらしい妖精なので、余計に誘導されやすかった。
ロベルトはマリアベルに対して、同僚だと言ったのだ。

レナパーティと検査官ペアは、お互いににこっと含みのある笑みを交わす。
部屋の空気が極寒である。

<リリーさんアウト! めっ、で御座います!>

『(ごめーん、以後、気を……つけますっ)』

リリーの機転は、脳内通話で声を響かせたスマホのファインプレーによるものだった。
スマホは現在、マジックバッグの中で姿を潜めている。
まだギルドカードの従魔一覧に名前が表示されていないので、わざわざ紹介しないことに決めたのだ。
レア従魔以上の大騒ぎになることは確実である。
レナたちが精霊の友達であることと、極大魔法保持、最高級スライムジュエルについても同様に内緒にしておく。

従魔たちの種族について魔王国側に申請し、嘘をつくことがなかったレナと従魔たちは問題なく検問を通してもらえることになった。
魔物使いがきちんと管理している知能ある魔物、ということで従魔たちは魔物姿のままでも首輪をつけずに門を通ることができる。

魔人族の称号を持っているかという確認はされていない。
ギルドカードで”クローズ”されている情報については、無理やり聞き出してはならないと全ての国で定められているのだ。
まあ、その件はルルゥが魔王国側に「気をつけて見守ってあげてね」と伝えていたし、レナたちとて従魔のお着替えを国内で楽しむつもりでいたのでバレても問題なかったが。一番の問題である種族についてはもうバラしてしまっているのだし。

魔物が魔人族に進化するには何十年もの月日をかけるため、見た目が幼い魔人族など相当珍しいのだが、魔王国には固有種族の子どもたちも多く滞在しているため、レナの従魔がヒト型で出歩いてもそれほど目立たないだろう、とこれまたルルゥから聞いていた。

呪いの魔道具一式、クラーケンストーンに関しても、スチュアート家の保証書を見せて保持を認めてもらう。
呆れたような目で見られてしまったが。

もし万が一にも呪いの魔道具を流出させてしまった場合は、厳重注意と罰金、商業資格がないのに市場に流すなど悪質な事をすれば逮捕されて懲罰を受けることになる……とロベルトからきつく釘を刺される。
従魔たちは『うちのご主人様がそんなことするわけないでしょー!』とむすっとしていたが、ここで暴れても立場が悪くなるだけなので大人しく椅子に座っていた。
クラーケンストーンについては、もし国内で魔物を生まれさせたらすぐに処理かテイムすること、もしくは早めに砕いて真珠を取り出して宝飾買取店に持っていくことを約束して、検査を終えてもらう。

「見事に赤色の魔道具ばかりですね。お好きなんですか?」

「ええまぁ」

深い意味のこもったレナのええまぁであった。
赤色のローブを着ていた時に女王様の称号を得たからという、まったくの偶然すなわち運命である。
そのあとも軽く質疑応答を繰り返す。

「……それではこれで、レナ様と従魔たちの検問を終えます。
入国必須項目は全ておうかがいしたので問題ありませんが、もしなにか追加で相談したいことがあれば、また是非私にご申告ください。
門番でも警備隊でも、国に属するものに”雪豹ロベルトまで”とお伝え頂ければ、急いで皆さんの元に向かいますので」

レナたちのことが記載された魔法紙を手にして「厳重管理、クローズ」と呟いたロベルトは、書いた文字が消えていることを確認して書類を鞄にしまう。
にこやかにレナたちに笑いかけた。
マリアベルが薄気味悪そうにそれを横目で眺めて、腕をさすっている。

「わざわざお越し下さるなんて……ずいぶん私たちのことを気にかけて頂けるのですね?」

「それはもちろん。もしレナ様と従魔たちがこの国に籍を置いて下されば、とても喜ばしいなぁと思っておりますから。これくらいはしますよ」

「下心があると堂々と言われてしまうと頼りづらいのですが……?」

「そんな遠慮なさらずに。困った時などにも私を頼って頂ければ。
なにも恩に着せようなどと悪どいことを考えている訳ではありません。
国の方針として、もし優秀な人材がシヴァガン王国を訪れた場合は、より良い印象を持って頂けるよう、長く滞在して頂けるよう誠意を尽くせ、と徹底されておりますので」

「うーん……困った時に頼れるというのは、私たちにとって見事な飴です。ありがとうございます」

「我が国を楽しんで頂けると光栄です」

「シヴァガン王国は良いところだよ〜!」

ロベルトとマリアベルは誇らしそうな顔で、目の前の冒険者たちに一礼した。
とりあえずの窮地は切り抜けられたようだ、と感じた主従はホッと一息つく。
ようやく肩の力を少し抜いて、微笑んで会釈を返した。

レナたちが立ち上がろうとすると、ロベルトがまた新たに一枚、書類を取り出して机に置く。
ん? と全員でそれを覗き込む。
立ち去ろうとしたこのタイミングで……何やら嫌な予感がする。

先ほどレナと従魔の情報を記載したものとはまた異なる、黒地に赤色で魔法陣が描かれた書類だ。

「……ごめんねー。そっちのネコミミカチューシャの金色くんはまだ魔王国に入れないんだー」

「「!」」

「ジミーくん改め、ルーカティアスくんだっけ。
ちゃんと本名を名乗ってくれてありがとうね!
でも、私たちその名前で確信しちゃったんだー。
お名前と、金髪紫眼の容姿。……貴方は、今悪い意味で話題のガララージュレ王国と関係があるよね? それもかなり根深い感じのー。
ロベルトが客船で貴方たちを見かけてから、私達ちょいと調査してたんだよ」

マリアベルが机からふわりと飛び立ち、空色の瞳でじいっとルーカを至近距離から視つめる。
魂は善人寄りなのにね、と気の毒そうに言った。

ロベルトが鞄をあさり、今度はなにやら中ぐらいの大きさの肖像画を取り出す。
彼が脇に置いた鞄はどうやらマジックバッグのようである。

「この肖像画をご覧頂きたく」

「ああっ!?」

『え。ルーカ……?』

『『女装じゃん! なんで? なんでっ!?』』

『なーんかお化粧がケバそうな予感〜?』

『えっ趣味なの? 黒歴史ってやつ?』

「…………」

ルーカは無言で肖像画を凝視し、顔を引きつらせていた。
肖像画の金髪紫眼の色は、宿屋の鏡で毎日見る自分とまるで同じ。
そこまではわかる。あまり分かりたくないが。問題はレナ達が騒いでいるように、顔の造りだ。

「これは現ガララージュレ王国女王の肖像画です。
つい最近描かれたものを、ミレー大陸にいる同僚が独自に入手しました」

「すんごく綺麗な女の子って噂は有名なんだけど、肖像画はまだ珍しくて貴重なのよー」

ロベルトとマリアベルは静かに告げて、じっとルーカの反応を待つ。
ルーカは眉根を寄せて、綺麗な顔を顰めている。

(肖像画か……ああ、好きそうだな。
でも顔が僕そっくりに描かれてるなんて、一体何事だろう?
僕を嫌っていたシェラトニカがわざわざそのような注文をするなんてあり得ない。
激昂した彼女に画家が殺されてもおかしくないくらいの所業だよ……そんなリスクを犯してまで、僕に似せた理由がまるで見当もつかない。
……まあ今はそんなこと考えてる場合じゃないけど。絶望的な状況だなぁ)

「貴方は何者なの? ルーカティアス。きちんと聞かせてくれるよね。
それとも口をつぐんで、一人この場を去る?」

マリアベルが黙るルーカを急かすように、少し冷たい言葉をかける。

空色の瞳を視返したルーカは「言わなかったら過去を覗き視られるのだろうな」と察して、苦笑した。

自虐的なルーカの反応を見たレナが不安そうな顔になる。

「えーと。……ロベルトさん助けてください」

「! おや。随分早かったですね。あんなに頼りたくなさそうだったのに。
それくらい仲間が大切だという事ですか?」

「もちろんです。まだ国に入国できない……ということは、何か方法はあるんでしょう?
私たちが協力できることは何でもしますので、条件があればご提示をお願いしたいです」

「よく聞いていらっしゃいましたね。それに仲間思いでとても素晴らしい」

ロベルトとマリアベルは目を見張ってレナを見つめた。
利口で良い子だな、と微笑ましそうに目元を和らげる。
従魔たちも『任せて、助けるよ!』と力強いガッツポーズでルーカを励ます。

「……僕は本当に恵まれてるなぁ……」

ルーカもネコミミを揺らして嬉しそうに笑っていた。
……深呼吸して、落ち着いて口を開いた。

▽Next! 運命の分岐点

 

 

 

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