91:ケジメ・ファイナル

尻もちをついて唖然とした顔をしている少年。
少年の真正面にまた戻ってきたウサギは後ろ脚で立ち上がると、スッと目を細めて、くいっくいっと下方から手招き、挑発する。
口が引き結ばれているが、この仕草にセリフを付け加えるなら『かかってこいや!』一択だろう。

少年は混乱していてすぐには動けない。目を丸くして顔を引きつらせながら、ウサギを見つめるのみだ。

しかしここは宿場町の広場の片隅。広場といえど芝生のような草が生えた場所で、子どもたちの遊び場になっている。つまり、ちっちゃなギャラリーがいるということ。

「うはははっ、この兄ちゃんだせぇーー!」

「ウサギに転ばされてる!? 本当に冒険者なのかよー!」

「あはは!」

「ッ!?」

子どもたちの容赦ないヤジが飛び、少年はあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にした。情けなくて、恥ずかしくて、もう涙目だ。
ここで薄暗い怒りの感情に支配されなかったのは、つい先ほどの冒険者ギルドの受付嬢のカミナリ説教が効いているためかもしれない。

肩を震わせながらも、膝に力を込めて立ち上がり、鞭をぐっと握りしめる。少年は目尻を吊り上げてウサギを睨んだが、ウサギには喜ばれてしまった。

『さっき戦闘した時とは違うね。私を……ちゃんと見てくれている! 表情もそんなに暗くない。この人も……。……変われるかもしれない』

ウサギは『私のように』と小さく付け加えた。
身体の内側から歓喜の感情がとめどなく湧き上がってくる。表情を輝かせた。

少年がウサギの微妙な変化に気付き、ぴくっと片眉を上げる。

「……なんだよ。……従魔契約は、術者が己の力でモンスターと正々堂々戦って、勝利を収めたら従えることができる。実力を認めさせられたら。……やってやるよぉッ!」

少年が半ばヤケクソで叫ぶ。
ウサギが凄絶に口角を吊り上げて笑ってみせたので、ビクッ! と膝を震えさせた。

『上等ぉ!』

可愛いウサギがあんまりな表情をしているので、こっそり物陰から眺めていたオカンレナが思わず顔を覆っている。
その反応をすべき場面はこれまでにも幾度もあったはずなので、今更である。

レナはすぐ持ち直して手を下ろし、まっすぐにウサギを見つめた。これからの戦闘を一瞬たりとも見逃すまいと、大きな瞳をさらに見開いている。
その様子に、共にいる従魔たちがクスクスと笑い、自分たちも後輩(予定)へと視線を移した。
スマホが空で控えめにキラリと光る。

<マスター・レナ、ご心配なく! 戦闘は私がエクストラ・ハイビジョンで余すところなく様々な角度から撮影いたしますので、安心して観戦なさって下さいませ。もちろん後ほどPV編集も致します>

「安心した。ありがとう、スマホさん」

絶対安心である。

<ありがたきお言葉! マスターの信頼、大変嬉しく受け止めております。きゃっ! それではここで喜びのゴングをひとつ、そぉーれ! カーーーーーンッ!!>

「私情!? それってアリなの!?」

少し余裕があるとすぐにコントを始めてしまう、これだからレナパーティは。
ゴング音はスマホにダウンロード済みのようだ。

広場の様子に戻ろう。
子どもたちがあまりに騒いでいるので、大人も「なんだなんだ」と足を止めている。
鞭を持った少年と魔物が向かい合っているのを見てぎょっとしているが、魔物がちっぽけなウサギなのでどうすべきか困惑しているようだ。
この場に集った冒険者の男たちの様子も、町人の混乱にさらに拍車をかけている。

「うおおおーー! 少年よ、鞭をうならせろぉ! お前ならきっとできるよぉ!」

「いよっ、魔物使い! すごいぞ、魔物使い! よく知らんけど!」

「いっけーいけいけ、がーんばれッ! おぉーー!」

よく分かってないのに魔物使いに期待したちょっぴりおバカな声援が少年に贈られた。
発声源は、冒険者ギルドで説教の余波をくらい改心した、元素行の悪い冒険者たちである。
メインで叱られていた少年に勝手に仲間意識を抱いていた。

ビリビリ響き渡る、声量と情熱だけはある声援を聞いて、少年は心底ビビっている。いらぬ弊害である。利益は今の所ない。

「へーーい! ウサギ固まってビビっちゃってるぞぉーー! 今だっ!」

ビビっているのは少年だからいい加減にしてやってくれ。

<カーーーーーーーンッ!!>

しゃらくせぇ! そろそろ始めろ! と言わんばかりに、スマホがこの場にいる全員に聞こえるようにゴングを鳴らし、試合の開始を促した。

ウサギが苦笑して、地を蹴る。
少年はハッと表情を引き締めた。

▽戦闘開始!
▽ステップラビットの助走! ……からの、

『スキル[スピン・キック]!』

「うおおっ!?」

最初から全力である。
[駿足]で鋭く駆けていたウサギは、低い姿勢のまま滑り込むように身体を半回転させて、少年の足首を蹴りつけようとした。少年は足首を覆わない靴を履いていたのだ。
スライディングキック!

間一髪! 少年はなんとか蹴りをかわす。
脚を少しだけ浮かせれば小柄なウサギが通れるスペースが開いたため、かわすことが出来た。

『なかなか。スキル[暗躍]』

少年の背後に通り抜けることになったウサギは、彼の視界から逃れた瞬間に、スキルで気配を消し去る。
息をつく間もない戦闘。
遠巻きに見ていたギャラリーも息を飲む。

少年がぞわっと肌を粟立たせた。
くるりと振り返り、あてずっぽうに鞭を振り回す。
狙いなど定まっていなかったが、窮地におちいった少年が鞭を振るう速度はそれなりに早かったので、ウサギはいったん進撃を中断する。

しかし、少年が鞭で攻撃(・・)しているならば、ウサギの使える手段が増えるのだ。

『スキル[逃げ足]っ』

ぎゅんっ! と加速して、少年から遠ざかるウサギ。Uターンして戻ってくるところまでは、これまでの戦闘と同じパターン。

<おおーーっと! 少年、早くも疲れてきているー! 反対にステップラビットはまだまだ余力を残しております!
広場の端の草むらに身を隠しました。日々の訓練の差が顕著に表れておりますね!>

そういうこと。がむしゃらな鞭打ちの速度がいつまでも続くわけがない。
日頃、鞭の練習などしてこなかった少年の腕はすでに重く鈍くなってきていた。

『いくよ!』

「あ!」

広場の端の草むらから飛び出してきた白色を見つけて、少年はちょっと嬉しそうな声を出す。
姿を捉えてやったぜ! と思っての喜びだったが、状況がなにひとつ良くなっていないことを思い出して青ざめる。

「うりゃあーーっ! む、鞭打ち!」

▽魔物使いの 鞭打ち!

『それを待ってた。スキル[ステップ]!』

ウサギがギラリと目を光らせて、鞭が地を打ち付けるタイミングを計る。
スキルで横跳びして、鞭を避けた。
この加速は少年を撹乱するためだった。

▽ウサギは 鞭の先から目を逸らさない。

「うっ!? む、鞭打ち!」

少年がもう一度鞭を振るうより、ウサギの行動のほうが早い。

『スキル[スピン・キック]ぅ!』

▽鞭の先端を狙い 蹴りつけた!
▽鞭がうねり、少年の顔面に強く打ち付けられる!

「ぎゃふんっ!?」

<ワァーーオッ! 少年が己の鞭打ちで体勢を崩したぁーー! 鼻血を噴き出していますね>

ある意味、ずっと手入れをされていなかった鞭の逆襲とも言えようか。ウサギは、クラウドフォックスと鞭の無念も共に晴らしたようだ。

少年の顔へのダメージは、ヒト族が柄を持って本気で鞭を振るった時ほどの威力はなかった。
もしそれほどの力で顔を打たれていたら、皮膚が剥げて傷口から血が噴出し、一生の傷が刻まれていただろう。

少年の顔には現在、横一文字の赤い痣が浮かんでいる。
もちろんこれで終わりではない。

『ケジメのトドメ。スキル[スピン・キック]!』

▽ステップラビットが 渾身の蹴りを 腹にぶち込む!

▽少年が約1メートルふっ飛び 地面に打ち付けられた!

<さん、にー、いち…………カンカンカーーーンッ!!>

▽K・Oーー!

スマホの高らかなゴング音を最後に、広場はしん……と静まり返る。

新人とはいえ冒険者が……ちっぽけなウサギに負けた。というか、あのウサギの機動力・戦闘力は何事だ。

ウサギがぐっ! と拳を天に突き上げる!

物陰に隠れたレナが口元を押さえながら号泣しており、仲間たちに頭を撫でら慰められている。

ーーわああああッ!! と涙まじりの歓声をあげて少年に駆け寄ったのは、件の元荒くれ冒険者たちだった。

「お、お前……よく頑張ったよぉ!!」

「「ナイスファイトぉぉ!!!!」」

おっさんに近い年齢のごつい男たちがおいおい泣く様子はかなり異様である。
くらくらする視界でそれらをあおぎ見てしまった少年は、地獄を覗いたような青白い顔をしている。
……慰めてくれているのだし、邪険には出来ない。ちょっと気絶して現実逃避した。
周りの「うわぁ」という空気が増幅したのがとてもつらかったのだ。

しばらく少年は横たわっていたが、冒険者の一人がヒールをかけてくれたので、仕方なく恐る恐る上体を起こす。
元気出せよバシンッ! と背中を叩かれて前に折れるように倒れてしまったので、加減してほしいと心底思った。
フラフラ立ち上がる。

ウサギをぼうっと見やると、満足そうにニッと笑っていた。

『お疲れさま。ねぇ……! ちゃんと、頑張れたじゃない? 貴方も、変われそうだね!』

ウサギがなにを言っているか少年は理解できなかったが、なんだか明るい言葉をかけられたのは分かった。
ポカンとした表情で話しかける。

「……そういえば。お前さ、なんで俺に会いに来たんだよ……? あの黒髪の魔物使いのパーティに邪険にされたわけじゃないよなぁ……」

「ぞんなごどするわげないでじょぅぅ!?」

「うっわあああ!?」

▽号泣少女レナが 現れた!
▽つきそいの従魔たちが 現れた!

▽少年が 一歩後退した!

レナの涙まみれの顔と、迫力ある一喝にビビったのである。
鼻水も出ていたが、仲間がハンカチで押さえていた。
女子力などかなぐりすてて、今のレナはどこまでもオカン。
少年を睨むその目からはだくだくと涙が溢れ出ていて、正直不気味だ。

「ぞの子が、自分自身のケジメだっで、元主人のあなだがしんぱいだって言うからぁ! だがら私たちはいったん離れて、見送ったんだよぉ! さみしかったし不安だったけどぉぉ……ぐずっ、ずびっ、邪険になんてするわげないでしょぉ!」

「はいはーい、レナ、涙と鼻水そろそろおさめよっか。ほらそこの貴方、謝って」

「謝って!? って、なんでだよ……!」

突然現れたレナパーティの面々に、少年は条件反射的にくってかかる。

自分の見られたくない部分をある意味一番知っている者たちなのだ。
公衆の面前で、なにを暴露されるやらと戦々恐々としている。また、虚勢を張りかけようとしていた。
ジミーがやれやれとわざとらしくため息を吐く。

「魔物使いの主人は従魔に愛情を注ぐものだ、って主人のあり方について啖呵をきったレナが、そんなに簡単にステップラビットを手放すわけないでしょう。分かるよね?
このステップラビットが貴方に会いに行きたいって希望したから、受け入れて協力してたんだよ。
それなのに、邪険にしたーだの、見捨てたーだの言うから。あーあ。レナが泣いちゃったじゃない。
そうやって泣かせたのは、謝らなくちゃいけない理由だよね?」

「う!」

『『あー! いじめっ子ーー! いーけないんだ!』』
『きちんと……ごめんなさい、できるかなー?』
『できなかったらヒツジ頭突きの刑だよー。オススメはしませんがー、容赦もしませんー』

それらしくまとめて諭しているが、黒髪ネコミミお兄さんのセリフはよくよく考えてみるとウルトラモンペ発言である。
ウサギの保護者レナ、レナの保護者ジミーの図になっている。

ちなみにレナが泣いているのはウサギの活躍に感動したからで、けして馬鹿にされたことが原因ではない。
そんな事で泣くほど軟弱なメンタルではないのだ。

従魔たちがレナの背後から少年を囃し立てている。
町人から見ると可愛らしいものだが、以前この従魔たちにガチ威嚇された少年は震え上がっていた。

少年の近くにいるごつい冒険者たちも「女の子を泣かしちゃったら謝らなくちゃなー」などと言っている。
少年にもはや逃げ道はない。

「うわーん、ジミーさぁぁん……!」

「つらかったねーあれはもう泣いちゃうよねー、よしよーし。早くレナとステップラビットに謝ってほしいよねー?」

黒髪二人が悲しみの演出でダメ押しをしている。
少年をチラリチラリとジト目で見るジミーの視線が次第に剣吞になってきた。

「……ッ、ご……ご、ごご……ごめん、なさい!」

▽少年が レナに謝った!
ほんのわずかではあるが、これも成長の証である。

レナがぱあっと笑顔になった。
実に現金だが、レナの[友愛の笑み]パッシブスキルの影響もあり、少年は喉元まで出かかった文句をぐっとこらえた。
それに、自分が色々心ない発言をしたのは事実なのだ。これくらいは飲み込もう、と考えることができた。
「おや、成長してるな」とジミーが小さく頷く。

「…………」

少年は続いて、ステップラビットに視線を合わせた。
赤い瞳はキラキラ輝いていて、眩しくて目を逸らしそうになったが……なんとか口を開いて、震える声で気持ちを伝える。

「……今まで、色々……その、ごめん。……。
また、会いに来てくれてありがとう……」

ウサギが嬉しそうにヒゲをピクピクと揺らす。ご機嫌の証に、耳が揺れている。

天高く拳を突き上げてみせる。
大きな蝶々スタイルのリリーがウサギに勢いよく抱きついた!

少年を囲む人々は、なんだかよく分からないが楽しそうな空気を察して、明るく笑っている。
こんなのは初めてだ、と少年は唖然としながら思った。

散々いいように蹴られて負けて、謝ることになって、かっこ悪いのに。皆、自分を馬鹿にしたりしていない。不思議だった。
後ほど少年はさらに成長し、この”不思議”の理由もきちんと理解する。

少年の目の奥がじんわり熱くなり、視界がうっすら滲んだ。
ふと、白色が近づいてきて、思わず一歩後ろに下がる。
また自分のそばに来たら、傷つけてしまうのではないかと恐れたのだ。

『<私の生き様。新しい道。……しっかり見ててね!>』

「!?」

うさリンガルにより、少年の頭の中にウサギの言葉が心地よく響く。あわてて左右をキョロキョロするが、犯人は空にいる。
よい仕事をしたスマホがキラリと空中で光る。

ーーそういえばこんな声で話すんだっけ、と思い出した少年は、涙をひとしずく零した。

『<お願いね。リリー>』

『<ん! うさぴょんの……心意気、すごく、好きだよっ>』

『<ありがとう>』

リリーはステップラビットから離れて、レナの側に飛んでいき肩にとまった。
触覚をすりすりと頬に触れさせる。

「……私はこのステップラビットをテイムしたいと考えています。勝負を挑んでも?」

レナが静かな声で、少年に問いかける。
少年は「そういえば、俺の従魔契約魔法陣をステップラビットがくぐれたってことは、この子はまだテイムしてないんだっけ」と考えて、よくそんな申し出に付き合ってるよなぁと、脱力したように笑った。
ふっ、と鼻息を吐く。

「……別に、俺に聞かなくても良いんじゃねーの。勝負すれば。
……だけどそのステップラビット、めっちゃくちゃ強いぞ!」

『!』

ウサギが歓喜の気持ちを抑えきれず、ぴくぴくと耳と尻尾を揺らす。口元がにやけている。
少年の言葉を聞いたレナも、快活に笑ってみせた。

「承知しました! 望むところですよ。うちの従魔たちはみーんな強いので、勝ってみせます!」

これはガチな強さである。

レナが、ちょっぴりお飾りではなくなった鞭[赤ノ棘(イバラ)姫]を握りしめた。
今はリリーの幻覚がかけられており、珍しい赤のシンプルな鞭という見た目に偽られている。宝石まみれのゴージャス鞭はそうそう人目に触れさせない方がいい。

レナは従魔たちを使役してステップラビットと戦うことになる。
魔物使いの従魔は、主人の力のうちと認められるのだ。

レナがウサギと向かい合って、お互いに深呼吸する。ぺこりと頭を下げた。

「よろしくね、ウサギさん。……全力でいくよぉ! スキル[従魔契約]!」

『私のワガママにたくさん付き合ってくれてありがとう。レナ。
きっとこれから生涯仕えることになる貴方たちの力、私に教えて!』

ウサギが軽やかに跳ねて、契約魔法陣をくぐる。
レナの前にずらりと並んだ先輩従魔たちが戦闘体勢になる。

「スキル[鼓舞]!」

全力で! と約束したのだ。レナはただでさえ強い従魔たちの戦闘力を底上げした。
従魔たちは気持ちよさそうにぷにょーーん! と伸び、ぐぐっと翅を伸ばし、ぶるるっと鼻息を吐き出す。
「えぐいなー」と、ジミーが苦笑しながらぽつりと呟く。
頑張ってらっしゃい、とレナの背後からヒラヒラ手を振った。

<戦闘開始でございまぁーーす!>

スマホが高らかにゴングを鳴らす!

結論から発表しよう。
ウサギは負けた。
あの重火力従魔たち相手にウサギが一人きりで挑んで、勝てるはずなどなかった。
それでも全力で挑んだのである。
レナたちの実力を知るために、自分をパーティメンバーとして認めてもらうために。

まず、ウサギは正面から先輩たちに挑もうとしたのだが、巨大化したハマルのもふもふボディに進路を阻まれた。
方向転換しようとしたところをスライムたちに絡みつかれて宙吊りにされ、リリーの[飛び蹴り]をくらう。
瞬殺であった。

そしてまだ音を上げなかったので、フラフラしていた所をイズミの球体アクアあたますっぽりで無呼吸責め。
ギリギリで開放して息も絶え絶えな時に、リリーの[魅了]で魅せられてメロメロになり、さすがに陥落した。
傍目に見ていてもえげつない戦術であった。

もっと高難度な攻め方もできたのだが、目立ち過ぎるのを嫌がるレナに従魔たちは配慮したのだ。
すでに相当……というツッコミは胸に秘めておいてほしい。皆思っていることは同じである。

広場のギャラリーは皆、レナパーティの戦力・戦術にドン引きしている。
もちろん少年も。

先ほど少年が味わった空気を自らも味わうことになってしまったレナだが、オカンは頑張った従魔たちを褒めることに忙しいので気付いていない! ……ふりをしている。
上手く生きるようになったなぁ、とルーカが感心していた。

「ねぇウサギさん。私たちの仲間になってほしいの」

レナが満身創痍のウサギににこっと微笑みかける。
ウサギの心が射抜かれる音がした。

<ズギュウウウゥゥゥン!!>

スマホが盛大に効果音を鳴らす。しかし、ほぼこの効果音通りの現象が起こっていた。
レナの[友愛の笑み]パッシブスキルが、鞭を与えたあとの飴をとんでもなく甘美に昇華させたのである。
世界の福音(ベル)が高らかに鳴り響く。

<[従魔契約]が成立しました!>
<従魔:ステップラビットの存在が確認されました!>
<従魔:ステップラビットのステータスが閲覧可能となりました>

<光魔法[|聖(ホーリー)・ジャッジメント]を取得しました!>
<ギルドカードを確認してください>

『あれ。何か取得してる……?』

「そうだったーー!!」

ウサギが首をかしげて、レナが小さく悲鳴をあげる。

そういえば、大精霊シルフィネシアの加護のおかげで、白・青・緑魔法に適性のあるレナの従魔たちは極大魔法をひとつ贈られるのだった。
図らず、さっそくウサギの戦力が強化された。

わいわいとウサギの元に集うレナパーティ。
レナが[ヒール]と[クリーン]魔法をかけてやると、ウサギの白い毛皮は綺麗になり、すっと力強く立ち上がった。
先輩従魔たちと、拳をこつんと合わせて挨拶する。

『……ご主人様』

「はい!」

ウサギに主人と呼ばれたレナが花が咲くように微笑み、感極まったように白い毛玉を抱きしめた。

少年は、あの女の子はおそらくステップラビットに主人と呼ばれたのだろうな、と察して天を仰いた。
どうしたって、あんなすごい魔物使いには自分は生涯敵わないのだろう。
でも、嫉妬の気持ちはもう湧き上がってこなかった。
心は澄みきっている。

少年が見た空の青色は、消えてしまったクラウドフォックスの瞳のようだと思った。
降り注ぐ光が優しくて、自然に心の中で「ごめんな」と口にしていた。

▽Next! ステップラビットを進化させよう!

 

 

 

 

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