90:ケジメ3

ウサギに胸を蹴られ、絶対に勝てると思っていた戦闘に負けた少年はぎゅっと口を引き結んで、膝と喉を震わせていた。
ウサギの蹴る力が予想外に強かったため胸がじんじんと痛みを訴えている。自分はウサギのこの力を、魔物使いの時に生かせていなかったのか? それともあの黒髪の少女らに鍛えられたからこそなのか……いずれにしても、ひどくやるせなくてムカムカする。
痛みに対しての生理現象でじんわりと視界が滲んできたが……泣くまいといっそう強く奥歯を噛み締めた。

(なんて情けない……。か、格好悪い……っ!)

誰にも見られていないとはいえ、少年のプライドはズタズタだった。
実はレナたちに観戦されていたことを知ったら憤死するのではないだろうか。

勝者であるウサギは少年に背を向けて、何やら腕を天に突き上げている。
勝利のポーズなのだろう、と考えた少年の心が、ほの黒く染まり始める……。

(……なんだよ……!? お前は結局、俺を馬鹿にするためにわざわざ戻って来たのかよ。お前も、なのかよっ……畜生!)

ふと、ウサギがクルリと振り返り、赤い瞳で少年をじっと見つめた。
少年はドキリと心臓をはねさせる。ひゅっとか細い吐息が漏れた。

ウサギの澄んだ赤色の瞳には、相変わらず憎しみや嘲笑(あざわら)いなどのいやらしい感情は一切浮かんでいない。
目と目を合わせてしばらく見つめ合い、少年が唖然と呟く。

「……ほんと、なんなんだよぉお前……」

現在、ウサギが何を喋ろうと少年には理解できない。
そのためウサギは口を開くことなく、ただ見つめる事によって少年に何事かを訴えかけているようだ。少年はそう感じていた。そこまでは、ウサギの思惑通りでもある。

少年は視線を合わせていられず、ついっと下方に目を逸らすと、横たわり動かないクラウドフォックスが目に入った。
四苦八苦しながらなんとか少しだけ育てた召喚獣。
……みすぼらしい、と感じた。

少年は己の記憶を再び振り返る。
幼い頃から何をしてもどんくさくて、友達に追いつくことなんてできなくて、超えていくなんて不可能だと諦めてひねくれた。
妄言を吐いて尊大な態度をとり、虚勢をはり続けることで自分の心を守って、結局、全て……失ってしまった。いつだって悪い方ばかり選択してしまう。
親も、優秀な弟妹ばかりに手をかけて、手のかかる長男には早々に見切りをつけ放置していたのだ。少年は「その子どもに合った教育が与えられること」について、己の身で学ぶ事はできなかった。
冒険者になるから家を出る、と告げたら家族には喜ばれてしまったほどだ。
この少年は今まで、誰にとっても厄介者だったのである。

魔物使いになってご主人さまと呼ばれるのは、とても居心地が良かった。自分が誰かの上にいるという認識が、少年自身を肯定している気がしていたのだ。
しかし、持ち前の歪んだ性根のせいもあり栄光の道を歩む事はできず挫折、召喚術士としても失敗を繰り返し、現在、まざまざと敗北を見せつけられている。

力なく横たわるクラウドフォックスの姿は、まさに少年自身の未来なのでは……と感じて、ゾクッと大きく身震いした。
フォックスの感情のこもらないガラス玉のような瞳に見上げられて恐ろしさを感じ、顔から血の気が引いて蒼白になる。

(ーーい、いやだ! 俺は……)

少年は焦り、自分を見つめ続けているウサギに引きつった笑みを向けてみせた。
再度、どうしてウサギはあの黒髪の少女たちと一緒にいないんだろう、そして俺たちにトドメをささなかったんだろう、と考えて、軋(きし)みを上げる心を無理やり妄想で満たす。

「……また従魔にして欲しくて帰ってきたのか? クラウドフォックスを倒したのは、俺に今の実力を見せて自分を売り込むため? ……ははっ、そうか。そうなんだろう!」

『!』

ウサギがパチリと瞬きする。ヒゲが神経質に揺れた。
冷や汗をかきながらにいっと笑う少年を見上げて、彼の言葉の続きを静かに待機。
その姿勢を「従順だ」と受け取った少年が、眼を細める。

「ふん、仕方ねぇなぁ。……いいぜ」

スカした物言いに憤怒したリリーとレナ(漢女とオカン)が、草むらの陰で仲間たちに取り押さえられている。
ルーカとハマルが「すんごい気持ち悪かったよね、分かるけど今は耐えて!」と少年をけなす。
ガサガサ草が揺れて少年が周囲をキョロキョロしだしたので、堪えて頂きたい。

少年はウサギと目を合わせたが、焦点はウサギに定まっておらず、どこか果てしなく遠くを見ているようだった。
ウサギの瞳に、わずかな悲しみと、烈火の如き情熱が滲んでいることにも気付けない。

「ーー[|送還(・・)]、クラウドフォックス」

少年は召喚獣を魔法陣の中に戻した。治療は行っていない。魔力が底をついているのである。
クラウドフォックスはゆっくりと瞳を閉じ、爽やかなブルーの光に包まれた。
”これからはもう、この主人にいたずらに傷付けられることもない。”
感情がないはずの召喚獣だが、何らかを察したのだろうか……完全に姿が消える直前、心地よさそうに耳を揺らして、鼻をひくひくと動かす。まるで生き物のような、穏やかな表情で眠りについた。

少年が、傷付いたクラウドフォックスを再び瞳に映すことは……なかった。
視線はずっとウサギに……いや、その向こうをぼんやり眺めていた。

自分という存在を肯定しなければ。
追い立てられるようにそればかりが頭を支配して、このウサギを使役して自分が成り上がり、ちやほや持て囃(はや)される様を妄想し続けている。

少年の様子を観察したウサギは、思考を正確に読み取った。
レナたちに出会うまでの元主人への執着(ヤンデル)はダテじゃない。
しっかり少年を見ていた。どんな表情の時にどのような思考をしているのか、しぐさの一つ一つまで鮮明に覚えている。感情が手に取るようにわかる。
ウサギに向けられていた負の感情については、過去のウサギは眼を逸らしていたのだが、自分自身と向き合って成長した今では、それらも全て理解していた。

少年の事を誰よりも一番よく知っているのは、このステップラビットなのかもしれない。
ウサギは自分に向けられている所有欲、期待、羨望と嫉妬を、正面から受け止めた。
少年が口を開く。

「ずっと俺につきまとっていたな? お前の気概を買って……また従属させてやろう。ふふん。……今から転職して、魔物使いになってやるよ。俺に認められて、光栄だろ! ついて来い……」

少年は低い声でそう告げると、ウサギを威圧的に見下ろす。
宿場町の方向に足先を向けた。
緊張しているらしく、じとっと汗をかいて耳先が赤くなっている。ウサギの反応をこっそりとうかがっている。

ウサギは、ゆっくり歩き出した。ーー少年のあとに続いて。

少年の表情が歓喜に彩られかけて、あわててクールに取り繕う。
「いくぞっ!」と厳格でカッコイイ声を出そうとしたのだが、語尾が弾んでしまった。喜んでいるのが丸わかりである。

時折チラチラと背後のウサギを振り返りながら、少年は宿場町の冒険者ギルドを目指して、足取り軽やかに森を歩いていく。
自分が先陣切って森を歩くなど不安だったが、先ほどから気持ちの上下が激しすぎて軽い混乱状態だったことと、強くなったウサギが自分に従って歩んでいる! という状況が快感すぎて、そのまま宿場町まで先頭を貫いた。
魔物に襲い掛かられるという事もなく森を抜けることができて、幸先がいいと喜んでいる。まるで学習していない。
異世界ラナシュは幸運に恵まれたらその反動でトラブルに見舞われる仕様なのだ、とここで再認識していただこう。
まあ、統計的に確定していない世界の裏情報なのだが。ついでに裁量は適当である。

ウサギは歩きながら『そっちの道を選んでしまったんだね。……上等』と考えていた。
ウサギが勝負に勝った結果、少年がどのような思考をするか何度も仲間内でシミュレーションしていて、一つの可能性として、また心変わりしてステップラビットを所有したがるだろう……と予想していたのである。
少年がクラウドフォックスを治療して、召喚術士として再出発するという道もあったはず。
弱かったステップラビットでも強くなれるという実例を見せたのだから、改心する未来もあり得たはずなのだ。
少年の魂は黒く染まってはいなかったのだから。
ウサギはそれを願っていた。

……その希望は儚く散ってしまったのだが。
クラウドフォックスが消えた地面の上を通る時、ウサギは後ろ足でひょいっと立ち上がると、ぽふんっと前脚を合わせた。
精一杯戦ったクラウドフォックスに対して、今までお疲れさま、どうか安らかに眠って……と手を合わせたのである。
ウサギと同じ、不遇な扱いを受けていたクラウドフォックス。感情が育っていない状態だったのがかろうじての救いだが、とても悲しい最期だ。少年が転職したら、今の召喚獣のデータは消滅してしまう。
せめて次に生を受ける時があれば、幸せな境遇に恵まれますように、と心から祈った。背後のレナたちも同様に黙祷している。

これだけやっても少年が改心しない以上、無理やり召喚術士を続けさせても、クラウドフォックスは今までのように傷付けられるばかりだろう。
貴方の仇はとるよ、とウサギが瞳の赤を煌々と燃え上がらせる。

宿場町に帰還した。

***

少年はまっすぐに冒険者ギルドに向かった。

(早く、早く! このステップラビットをテイムして、俺は強くなるんだ)

他人の袈裟を借りまくる馬鹿者の所業だが、少年の意識は、世間に認められることだけに向いている。
口元がぴくぴくと引きつり、歪な笑みを形作っていた。

冒険者ギルドの内部に入ると、受付嬢やここを拠点としている冒険者たちに怪訝な視線を向けられる。
少年の後ろを歩く小綺麗なステップラビットと、珍妙な表情の少年を見たためだ。
注目が集まったのは一瞬で、新たな召喚獣を見せびらかしているのかもしれないな……と視線は逸らされた。

魔物使いでないヒト族が魔物を連れて街に入ることは本来認められていない。万が一、街中で暴走したらシャレにならないからだ。
レナがステップラビットを無許可で連れ歩くことができたのは、先輩たちと同じく従魔なのだろうと思われていたから。あまり良くはない。
少年はこれまでにも、ステップラビット、クラウドフォックスを連れて冒険者ギルドを訪れたことがあったため、首輪をつけていないウサギも即排除されなかった。

魔物単体の街への出入りについては、もちろん魔人族たちは例外である。
そして、まだ称号を持たない魔物でもかなり知能が高く聞き分けられる場合は、街に申請して責任者がいることを表す首輪をつければ、特例で滞在を認められる場合がある。
この辺りは状況によって柔軟に対応される。魔人族が多く暮らすジーニアレス大陸ならではの特徴といえよう。ミレージュエ大陸ではもう少し基準が厳格だ。

比較的空いていたカウンターに少年が並ぶ。
ステップラビットは他の冒険者の迷惑にならない程度に少年から距離を開けて、後ろに控えていた。
すぐに少年の順番がまわってくる。

「お前はそこの……そうだな、隅で待ってろ」

少年が室内の角を指差して小声でウサギに話しかけた。
受付嬢は「まだ召喚獣を戻さないのかしら? 変わってるわね……」と一瞬不思議そうな顔をしたが、ステップラビットがおとなしく命令に従って移動したので、危険はないと判断して少年への接客に専念する。

「いらっしゃいませ、冒険者様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「転職したい。……よろしくお願いします」

受付嬢が目を見開く。

「ええと。まだ、召喚術士に転職してからそんなに日が経っていませんよね……? 何か事情がございましたか。
頻繁な転職は、冒険者ギルドとしてはあまりおすすめしておりません。
ご存知だと思いますが、転職するとこれまでの職業補正が全てなくなり、ゼロからの再出発となってしまいます。それに冒険者ランクもGに戻ってしまうためです。あ……まだGランクでしたね。大変失礼いたしました。
それに貴方は召喚術士ですから、クラウドフォックスと、あそこにいるウサギが消滅してしまいますよ。本当によろしいのですか……?」

「かまわない! ……ですっ」

「……そうですか。承知いたしました。私たちは無理やり引き止めることはいたしません。
今までの召喚術士としてのご活躍、お疲れ様でございました。この先に、よりよいお導きがありますよう。
こちらにどうぞ」

受付嬢は少年に頭をさげると、つい十数日前にも彼が利用した魔導室へと案内した。
チラリ、と壁際に佇むウサギを見て、悲しそうな表情を一瞬浮かべる。ウサギの瞳に知性が宿っているような気がして、また不思議そうにパチクリと瞬きした。この短期間で召喚獣が自我を持ったというのだろうか? と疑問に思ったのだ。
しかし顧客を待たせるわけにはいかない。魔導室の扉がパタンと閉められる……。
ウサギはぐっと数秒間目を瞑った。おそらくこの世から消えてしまうのであろうクラウドフォックスを想った。

少年はカチコチの動作でぎこちなく魔導室へ入っていく。
あの子、大丈夫なのかしら? と、他の受付嬢の複雑そうな視線が、パタンと閉められた扉に突き刺さっている。

ーーいつまで経っても、ウサギが消える気配がない。
暴れているわけでもないので、周囲の者はただただ見守っているが、あのウサギは何なのだろう? と全員困惑している。
しばらくすると、少年がようやく魔導室から現れた。

「……ふん! 魔物使いになってやったぞ……!」

腕組みをして、得意げにウサギに話しかける。
ウサギはじいっと少年を見上げた。

「もうっ……! このウサギが召喚獣じゃなく魔物なんだって、先に申告して頂かないと困りますよー!
ステップラビットが言うことをよく聞いて待っていてくれたから良かったものの、もし暴れ出していたらどうするのですかっ」

少年に続いて扉から出てきた受付嬢が、語気を荒げている。目尻を釣り上げて、少年をきつく注意した。
他の受付嬢たちも発言を聞いて、少年を咎めるように眺めている。
冒険者のひとりから失笑が漏れて、悪い意味で注目を浴びている少年は、眉根を寄せて顔を赤くした。

「今回の申告漏れは少々悪質ですよ。私、召喚獣のウサギかと何度も口にしていましたよね?
せめてその時に、この子は魔物なのだと申告をして頂きたかったです」

「あ、悪質ってさぁ! これくらい……結局被害は無かったんだし。見逃して下さいよ。いいじゃん……」

「あら。反省の色なし、と……?
……大変申し訳ございませんが、貴方が違反行為を行ったと、ギルドカードに書き込みさせていただきます。
あと2回、違反を繰り返したら罰金の支払いと、更生施設に数年送られることになりますので、今後の行動は慎重になさって下さい。
貴方にはこれくらいの縛りがないと冒険者としての認識が甘くなる、と判断致しました。
よろしいですね?」

「はっ!? ……そんな!?」

「規則違反した、そして反省していない、という所が重要なのです。結果として何も起きなかったとおっしゃいますが、何かあってからでは遅いのですよ?
万が一があった場合、どう責任を取るおつもりだったのですか。
まだ貴方のペナルティは一度目で、これからの行動に気を付けて頂ければ、日常の制限などは何もございません。
今回のことを教訓としてより良い冒険者となって頂けるよう、私たちは願っております」

よくぞ言ってくれた! と、冒険者ギルドの外から内部を[透視]していたルーカが大きく頷く。
仲間たちも状況を聞いて、このギルド嬢の好感度をがつんと上げた。

▽ギルド嬢は [正論ゲンコツお姉さん]の称号を 取得した!

「な、何事っ!?」

「え。な、何がですか……どうしたんですか?」

偶然だが、ラナシュはこんな時ばかり仕事が早い。
冒険者ギルドの内部からギルド嬢の困惑の声が上がった。少年が、まだ自分が何かやらかしていたのかとビビっている。

「あっ」

ルーカが「やっべ」と言いたげな表情をして口元を押さえている。面白い称号だが、若い女性には申し訳なくなる内容だ。
幸運値が高いレナたちの他者への認識は、称号取得を加速させている……? と、引きつった声で皆に仮説を話す。
称号は本来そんなにホイホイ取得するものではないのだ。
しかしレナの周りの者は、かなりの数を取得している。
称号取得を全員が知り、「まさかねー?」と見合わせた顔には心当たりがありすぎる、と書かれていた。
気まずそうに冒険者ギルドに向かって「すみませーん……」と口にした。

[正論ゲンコツお姉さん]の称号効果は、正論で相手を諭(さと)した時の精神的ダメージが二倍になる、威圧効果がある。
称号効果を即座に確認したギルド嬢は、せっかくだからこの少年に再度お説教しておこうと考えた。あっぱれな心意気である。

「称号……せ、[正論ゲンコツお姉さん]セット」

「何ですかそれ!?」

「いいからお聞きなさい」

みんなにぎょっと驚かれているし、本人も恥ずかしいらしい。
そんな中、新人冒険者のこれからを思って冒険者としての心得を説くギルド嬢は立派だ。

険しい厳格な顔でハキハキと説教し、少年が「でも」「だって」といじいじ言い訳しようとすると「ばっかもぉーーん!」と迫力ある一喝。
ピシャーン! と雷の音が控えめに鳴り響く。
あまり素行の良くなかった他の冒険者数名も余波をくらい、「す、すみませんでしたぁ!」と涙目になり己を振り返っている。

▽少年は 心にダメージを負った!
▽ルーカは 腹筋にダメージを負った!

これを視続けるのはかなりつらい。
しかし[透視]できるのはルーカのみ。
涙目で震えながら冒険者ギルドを視つめている。お疲れさま。
レナたちとの日常で笑いすぎて、すっかり涙腺がゆるくなってしまったようだ。

約30分にわたる正論責めが終わり、少年がぐったりとした表情でギルド嬢に深く頭を下げた。
心持ち頬がこけている。内弁慶で小心者の少年には、公開威圧説教がよほど効いたらしい。

少年とは対照的に、ギルド嬢は世紀末を生き抜いた者のようなどっしりした風格を醸していた。ニッ、と笑う。
この称号がきっかけで、後に伝説のギルド嬢のひとりに名を連ねる事になるとは、この時誰が想像できただろうか。
だいたいレナパーティのせいである。

主要人物であるにもかかわらずかやの外だったウサギの頭を、ギルド嬢がそっと撫でてやる。

「今度こそ……幸せになるのよ」

ウサギはこくりと頷く。
個性豊かな漢女(オトメ)たちは力強く笑いあった。
この気質は、素質のある者に感染するのだろうか……?
猫耳お兄さんの笑いの衝動がもう限界なので、そろそろ勘弁してやってほしい。

改心したちょいワル冒険者たちの熱気とすすり泣きが冒険者ギルド内の空気を情熱的に彩っている。
少年は「頑張れよっ!」「怒られるんじゃなく、叱ってもらえて良かったな!」と厳つい冒険者たちに背中をバシバシ叩かれて応援され、タジタジでギルドを後にした。
ウサギに蹴られた胸が痛いし、背中はじんじんと熱い。心はバッキバキに折られる。満身創痍である。
でも…………いや、この感情に少年はまだ気付いていない。次回に持ち越そう。

「はあはあ……ステップラビット。ようやく、落ち着いて[従魔契約]が出来るな!
これから存分に俺のために働いてくれ……い、いや、働いてください」

絞られたのが相当効いているらしい。
少年が多少しおらしくなっていてウサギは驚いたが「頼りきりではなく、自分で何とかしようという気概も多少は持とうよ!」と思った。

それでも、変化があったことが嬉しくてほんのり苦笑する。
自分たち従者の忠誠が、ほんの少し報われた気がした。
ーーしかし、まだまだだ!

「スキル[従魔契約]!」

少年がパッと明るい顔になり、スキルを発動させてウサギを期待の目で見つめた。

ステップラビットは、トントン、と足先を地に当てて感触を確かめると、グッと腿(もも)に力を込める。
『また、ここから始まるんだね』
瞳孔が獰猛に細くなった。
はたしてウサギとは何であったか。

▽ステップラビットが 魔法陣をくぐった!

「えっ」
少年が困惑の声を上げる。

▽ステップラビットは 少年の足元に威嚇の蹴りを放つ!

▽少年は なんとか蹴りを避けた!
▽尻もちをついた!

「な、なんでえええぇぇっ!?」

たっぷり教えてやるさ、これからの物理戦闘でな!

<さあさあ! 第二回ケジメ戦闘、開始で御座いまぁーーす!>

ゴングの音が高らかに鳴り響いた。

 

 

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