8:ギルドカードを知ろう

レナたち一行は薄暗い森を慎重に進んでいる。
新しく仲間に加わったルーカが敵モンスターを確実に発見していってくれるため、以前に比べて、だいぶ安心して歩けるようになっていた。
彼の道案内は正しい意思に基づいたものか、逐一リリーがチェックしてくれている。
ありがたいなーなんて思って、早速気を緩ませかけているレナ。
ここは森の中なんです。
油断してると…

「…ひーーーー!?」

ほらね。クモが、レナの目の前にぶら下がるようにして降りてきた!

『いっただっきまーーす』
『あー。クー、ずるーい!』
『次はイズに譲るよー』

従魔さんたちが相変わらず頼もしい。
パクッとクモを一口です。

主人は、もう少ししっかりしなければいけないようだ。
都会育ちでいきなり現れる虫に慣れていないせいか、驚いてコケている。
背後を振り返ったルーカも、さすがにちょっと呆れた顔をしていた。

「うーん。
…運動ステータス値がひどいのも確かだけど、それ以前に、レナには運動センスがまったく無いみたいだね…?
驚いたのは分かるけどまさか転ぶとは」

「す、すみません…」

「センスを磨くのは難しいことだから、仕方ないけど。
でも、旅をして行くのにこのままだと困るかなぁ」

なかなかの辛口評価です。
しょんぼりと落ち込んでしまったレナ。
自分の運動神経の悪さはとてもよく知っているのだ。
異世界サバイバルで体力作り中とはいえ、すぐに、センスが改善されるだなんて到底思えなかった。

あまりにも落ち込んでいるので、ルーカが「しょうがないな」とフォローに入る。なかなか面倒見のいい性格らしい。

「まぁ、対策をなんとか考えていくよ。
追っ手を増やした分はちゃんと働くって、さっき約束したからね。
とりあえずは、魔物のいなそうな広場まで歩いたら休憩にするから、そこまで頑張って歩ける?」

「ルーカ先生……!」

「悪い気はしないね。
んー、普通の虫もできるだけ気にして避けていくけど…あとあとは旅の環境として慣れていくんだよ」

とても丁寧なフォローです先生、ありがとうございます…!
従魔たちも、休憩と聞いて、ようやく少しだけ肩の力が抜けたようだ。

戦力としてルーカが加わったとはいえ、レナと従魔たちは疲れが溜まっていたので、モンスターとの戦闘は極力避けつつ進んでいた。

魔眼のおかげで、結局一度もエンカウントする事なく広けた場所にたどり着く。
休むなら、まだ見通しのきく広場の方がいいと思われた。
こんな森奥では、隠れられるような場所ほど、モンスターが寝床にしている可能性が高いのだ。

倒れた大木に腰掛けて、しばらくの休息をとる。
従魔たちは主人の膝の上で、思い思いにくつろぎ始めた。

「お互いのギルドカードを確認しておこうか」
「そうですね」

ルーカとレナがお互いのギルドカードを交換して、眺める。

彼はその目で相手の全ての情報が見れるのだから、レナのカード確認は必要なさそうなものだが…?
手に持ったカードに手をかざすと、何やらブツブツと呪文を唱え始めた。

「ーーー”クローズ”」

…カードの、ステータス値から下の部分がキレイに消えてしまった!
一連の動作を見ていた彼女が、思わず「えっ!?」と驚きの声をあげる。
…なぜか苦い表情でカードを返すルーカ。

「自分のスキルやギフトなんかは生命線になるから、カードでは開示しないのが普通なんだけど。
知らなかったみたいだね?
あのギルドではそれも教えてなかったのか」

「……!うわわ、そうだったんだ。
ぅぅ、何から何までありがとうございますーー…!」

本当にひどいギルドだったらしい。
レナさんは青ざめていて、涙目である。

小都市ダナツェラは、悪名高いガララージュレ王国内でも、特に評判の悪い街だ。
あの周辺で悪ーい魔法の実験やらをしているせいで、自然魔力が濁っており、異常種のモンスターが常々生まれていて、それを狩ろうとこれまた悪い傭兵くずれ達が集まる”掃き溜め”なのだった。
国境の近くで土地の便だけはいいために、たまに訪れるマトモな旅人などは、あのギルドが食い物にしているらしい。
冒険者ギルドとしてはもう全く機能しておらず、ラナシュのギルド協会からも強制除名されているトンデモない施設なのだった。

「そんな所に行ったのに、生きて逃げられて幸運だったねぇ…」と、レナはスライムたちに震え声で話しかける。
ぷよーーん!そうだね、良かったよー!と、主人を慰めるような明るい返事が返ってきた。
彼らをぎゅっと抱きしめて、えへへと笑うレナ。そこにリリーも加わって、即席ほのぼの空間が出来上がっています。
レナさん達は根っこの部分がとてもポジティブ。

(…そうだね、良かったよ。こんな素敵な従魔たちに出会えたんだから。
うん、逃亡頑張ろう)

「ギルドカードの話に戻ってもいい?」

ルーカが、ちょっとだけ遠慮がちにレナに声をかけた。

「あ!すみません…」

「いいよ。
こちらこそ、邪魔しちゃって悪いとは思ってるから」

ギルドカードの隠された情報を見たい時には、所持者が「オープン」と呟けば再び表示され、「クローズ」で隠れる。
長い呪文が必要なのは、最初だけらしい。
本来は、カード発行時にその説明も受けて、呪文をギルドでかけてもらうものだが…ダナツェラギルドではレナの情報をいつでも見れるようにとわざと教えなかったのだろう。
本当に酷い。

もう一度カード情報を「開示」して【ギフト】欄を確認してごらん、とルーカに言われたレナは、おとなしく従ってみる。

「ギフト:[レア・クラスチェンジ体質]☆7
…従魔となった者全てが希少種へとクラスチェンジしていくギフト。
ただし、職業選択権が【魔物使い】のみになる。
従魔が主人と共にいる時間が長いほど、互いに信頼しあっているほど、より強く成長していく[成長促進]の効果がある」

ギフトも今回はしっかりと開示されていた。
……けど、なにこれチート!?
職業が強制で魔物使いだったのは、これが原因だったみたいです。

「すごく…ずるいです…」

唖然と呟くレナ。

どうして、今回はギフト欄が表示されたのか?
ギフトの名称を所持者のレナが知ったことによって、情報が書き込まれたらしい。
【☆6】以上のスペシャルギフトは自動でカードへの書き込みがされずに、魔眼持ちの者がギフト内容を所持者に伝えることによって、初めて情報開示がされる。
「魔眼」ギフトはこの世界で珍しいものではない。ただ、レア度には大きな格差があり、【☆7】持ちなのはおそらくルーカだけだろう。

「うん…僕もこんなに理不尽な内容のギフトは、初めて見たよ。
[レア・クラスチェンジ”体質”]って言うだけあるね?
レナは従魔たちにとって、言わば、もう存在自体がドーピング薬みたいなものなんだと思う。
血を吸ったリリーの成長期待値が、とんでもないことになるわけだ」

「! えっ、まさか副作用とか無いですよね?
リリーちゃん、体調大丈夫!?」

『とってもいいよ…?』

「何も無いみたいだね。うん。とてもズルい」

「よ、良かったぁ…!」

ホッと胸を撫で下ろしているレナ。
ドーピングなんて過激な言葉を聞いたから、心配してしまったらしい。

ちなみに、レナのギフトに話題を全て持っていかれたけど、ルーカ元王子のステータスはこんな感じだった。

「ギルドカード:ランクG
名前:ルーカティアス
職業:魔法剣士 LV.10
装備:貴族服、Mバッグ、魔剣+5
適性:白魔法[雷]

体力:30
知力:50
素早さ:37
魔力:33
運:5

スキル:[身体能力補正]、[瞬発]、[感電]+1、[雷剣]
ギフト:[魔眼]☆7
称号:麗人、制雷マスター」

たいがいズルい。
基本的にステータス値は高く、そして、それ以外のところに突っ込みどころが満載である。
レナの知らない情報だらけだった。

「うわっ…つよ…ルーカさんの適性魔法、白と雷なんですね?そんな種類もあるんだ。
称号って、なんですか?」

「んー。レナはカードの説明なんかもまるで受けてないようだから、まず順番に項目を説明していこうかな。
質問にはあとでまとめて答えるよ。いったん聞いてて?」

「はい!助かります先生」

「いい返事です」

▽ルーカ先生のステータス情報講座がはじまった!
▽皆さんもどうぞ一緒に聞いていってください。

『『ドンドーン!ぱふぱふーーーっ!!』』

「まず、ギルドカードのランクについて説明するよ。
Gが最底辺で、そこからF、E、D、C、B、A、S、SSと順に上がっていく。
これは、冒険者依頼を受けることによってランクアップしていって、上に行くほど、難度の高い依頼を受けられるようになる。
無謀な高難度クエストを受けて亡くなる冒険者を減らすための措置なんだ。
あまりにランク差のある依頼は受付けてはいけないと、ギルド規約で定められている。

職業は、適性のあるものの中からひとつ選ぶ。
その職業によってステータス値に補正がかかったり、独自のスキルが身についていく。
何度でも選択変更は可能だよ。
だけど…変えた瞬間に、強化されてたステータス値がまっさらに戻ってしまうし、新しく就いた職はまたレベル1から上げなくちゃいけないから、あまりオススメしないかな。

基礎魔法は白、黒、赤、青、緑、黄の6種類がある。
この初期の状態で使えるのは、例えば白魔法なら『ライト』や『パラライズ』など、威力の低めな魔法のみ。
魔法を使用していく毎に練度が上がって、白から[光・雷]、黒から[闇・時空]赤から[炎・熱]、青から[水・氷]、黄から[土・付与]、緑から[風・治療]と追加で属性特化魔法を覚えていく。
これらが上級の魔法になるね。
呪文は新しいものを覚えるごとに、世界の福音(ベル)が教えてくれるよ。

スキルには、つどスキル名を詠唱して使用するアクティブ・スキルと、所持しているだけで常時発動状態となるパッシブ・スキルがある。
僕の[身体能力補正]なんかはパッシブ。
まず、特定の動作を行うか職業魔法を使うことによって取得期待値を高めておくと、レベルアップと同時にスキルを覚える。
よく使うスキルは練度があがっていって、「+値」で追加威力が表される。

ギフトについて。
これは、生まれた瞬間に持っている特別な力。
持っていない人もいれば、複数持っている人もいて個人差がとても大きい。
レア度は☆1~7で表されていて、平均レア度は【☆2】。
…だから、僕たちの【☆7】ギフトはとんでもなく珍しいってこと。
出来るだけ他人には[レア・クラスチェンジ体質]を知られない方がいいよ、レナ。
首輪を付けたがる悪党は大勢いるだろうから、気をつけて。

称号は、周りからの評価によって世界から与えられる『名のギフト』みたいなものかな…?
まだよく分かってはいないんだ。
その称号を「セット」すると、自分自身に何かしらの追加効果が現れる。ステータス値が上がったり、人としての魅力が増したりするよ。
ちなみに、『制雷マスター』なら、雷魔法の繊細な制御が可能になる。
取得にはタイムラグがあることが多いから、僕とレナには、そのうち”逃亡者”なんかの称号が付くかもね。

ざっくりとだけ説明したけど、こんな感じかなぁ。
では、分からなかった所の質問を受け付けます」

「はい先生!」

レナが勢いよく手を上げる。

「ステータス項目の説明はとても分かりやすかったです。
逃亡者については、気にしない事にしました…!
装備品の、”魔剣”ってなんですか?」

「ああ、そこね。うん。この剣の事なんだけど」

ルーカは背にくくってあった剣を、鞘からスラリと抜いてみせる。
濃いブルーの柄。涼しげな薄紫の剣身には輝く白で、何やら文字が刻まれていて、高級そう…

「国の宝物庫から盗んできた。まあ、それは置いといて」

「何してるんですかーー!?
ああでも、私も同類だぁーー…うっ」

国宝損失なんて、追手がさらに血眼になっているんだろうけど、ギルド宿舎からムチとシャツをコソ泥してきたレナさんは、もう人のことなんて言えない立場です。
人生で初めて罪を犯した事をちょっと気にしていたのか、気まずそうに目を逸らしている…

…先生の言う通り、この話題はもう横に置いておきましょうか!
「あーなるほどね、同類ねー」魔眼で”視”ないでーー!

「魔剣はね。
作られる時に魔法文字を刻まれた、剣身に上級魔法をまとわせることのできる特殊武器だよ。
とっても高ーい、高級品。
作り手の腕によって+値が表示される」

「へ、へぇ。すごーい!これで戦ったらエフェクト派手そうー!」

「値段聞きたい?」

「やめておきます」

小心者のレナさんはそうした方がいいでしょう、精神衛生上。
そんな高級品をザツに背にくくっているあたり、なんだかんだルーカは元王子様だった。

「ルーカさんは、雷魔法を使う機会が多かったってことなんでしょうか?」

話題を変えたレナ。

「レナの自分からダメージをくらいにくる才能は、本当にすごいね?」

またも地雷をセルフで踏んだらしい。

「え”っ」

「まぁ、聞いてみてよ。
僕の容姿はこの通りだから…変な者を引き寄せることが多くてね。
だいたいは魔眼を気味悪がってそこまで近づいてこないんだけど、それでも、世の中には上位変態もいる。
下心のある者に片っ端からパラライズをかけて失神させまくっていたら、いつの間にか雷魔法の才が開花してたんだ。
つまりは、自分自身を守るため、身についた能力って感じかな。
[瞬発]スキルが出た理由も同じ。逃げるためだね」

うっわ。

「イヤな事思い出させちゃってごめんなさい…!」

「別にいいよ、ははっ。
逃げた今ではそんな視線を向けられる事ももうないから、過去の事だしね。
レナ達が普通に接してくれるから、旅中はとても快適だし」

「その乾いた笑い声が心配です…!」

ルーカの表情は涼しげで、本当に気にしていなさそうに見えるが、なにぶん内容が内容である。
無表情さがかえってこわい。
レナは頭を抱えてしまっていた…この人の過去話は、のほほんと生きてきた日本人には重すぎる。

何と声をかけたらいいのか?…また傷つけてしまわないかなぁ。
悩んでいる様子のレナに、リリーがこっそり話しかけた。

『ご主人さま?悲しまなくても、いいよ……。
あの人、ほんとに、気にして無いみたいだから』

「うん。リリーの言う通りだよレナ。
同情してくれるのなら、落ち込まれるよりも、確実に逃げきれるよう協力を頑張ってくれる方が助かるかな?」

こっそりの意味ない。
魔眼効果でモンスターの言語もバッチリ理解してますルーカさん。

「!はい、それはもちろんですよ!」

俯いていた顔をハッと勢い良く上げたレナ。
しっかりルーカの瞳を見つめて、力強く言った。

「絶対、国外まで逃げきりましょうね!」

「うん」

ほんのりと口角を上げて、満足そうに微笑んだルーカ。
それから、彼は従魔たちにも順番に声をかけていった。

「クレハ、イズミ、リリー」

…ぷよっ!?と、スライムたちは、まだルーカを警戒していたのか勢いよく跳ねあがる。
無遠慮にステータスを覗かれたことが結構イヤだったので、彼への好感度はそこまで高くなかった。

[バタフライ・アイ]を持つリリーは、ルーカが正直に話していることが分かるためか、落ち着いた様子で彼を見つめている。

「…僕たちがこの国から確実に逃げきるためには、君たちの力ももちろん必要なんだ。
協力してくれる?
ご主人様を守るために。レベルアップして強くなっていって欲しい」

『『『!』』』

「僕が成長指導をするよ」

“ご主人さまを守るため”。
それは、何よりも従魔たちのヤる気を引き出す、いわば魔法の言葉だった。
自分たちを一心に信じてくれるご主人さまの、その信頼に応えたい……

従魔たちの表情が、キリリと頼もしく引き締まっていく。

スライムボディはキラキラと輝きを増しているし、リリーは、青い翅をこれでもかと伸ばして戦う気満々のようだ。
ヤる。
絶対にレベルアップして強くなって、また、笑顔で褒めてもらうんだから!
ご主人さまの優しい手を守るのは、自分たちなんだ。

『『やったるでぇーー!!』』
『…強く、なる…!』

従魔たちのその言葉に、レナは号泣した。
一応森の中なので気をつかって声は漏らしていないが、無言で涙を滝のように流す様は、ハッキリ言って不気味である。

ルーカが一旦レナをスルーして、リリーに声をかけた。

「よし。
じゃあまずは、次のレベルアップで進化が見込める貴方のレベルから上げようと思うんだけど、どうかな。
頑張れる?」

『……ヤル!!』

基本的に攻撃手段が[吸血]しかないリリーは、今までは逃げ回るのみだったのだが、今回はヤる気に満ちている。

『…クラスチェンジ、目指すから。…まかせて!』

「うん、いい返事。
レベルをひとつ上げるまで程度の時間なら、森のどこかに留まっていても、追手はまだ来ないと思うよ。
クラスチェンジしたらもう少し距離を稼いでおこうか。
レナとクレハ、イズミは、今回はリリーの戦闘を手伝ってあげてほしい」

『『はーーい!』』

「頑張ります!」

「僕はリリーが[吸血]できそうなモンスターを探してみる。
それをレナたち皆が弱らせる、トドメはリリー、ってことでいい?
貴方たちの戦い方を一度見せてもらいたいから」

「分かりました!
あの、強そうすぎるモンスターはやめて下さいね。ほどほどでお願いします。
…そのあと、ルーカさんの戦闘を見させてもらっても?」

「もちろん、そのつもりだよ。じゃあ移動しようか」

『『頑張ろうねーー!!』』
『…ん!』

「引き続き道案内、よろしくお願いします」

「まかせて」

休息をとったレナたちはまず、リリーのクラスチェンジを目指す事にしたらしい。
体力も少しだけ回復したし、目標もできて、以前より軽い足取りで森を進んでいく。
非力なバタフライでもトドメをさせそうな魔物を求めて、森の出口付近へと向かって行った。

▽レナは ギルドカードの使用方法を学んだ!
▽Next!リリーを、進化させよう

 

 

 

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