75:フルコース

主人の進路の邪魔にならないよう斜め前方に足を進めたモスラが、食堂の扉を開ける。
目の前に現れた赤い道を見て、レナはびくっと動きを止めた。
レッドカーペット……だと?なぜ?嫌な予感が足をすくませる。
レッドカーペットの上を転がってみたくなった従魔たちがうずうずし始めるが、主人よりも先に赤き栄光の道(仮)に降り立つことはしない。ただ、進まないの?と主人をひかえめな視線で促す。
……中にいる人々がこちらをうかがっている気配がする。
しかしお腹が空いている。レナは勇気を出して、レッドカーペットに足を乗せた。あっぱれ!

「例のあの人がいらしたぞ!」
「「「おいでませ赤の女王様ーー!」」」

「ひいっ!?」

やっぱり。
食堂には双子エルフを筆頭に、ほとんどの乗客が集まっていた。その誰もがわくわくした顔でレナたちを眺めて、手持ちの赤いアイテムを身につけて敬意を示している。
レナがバッと宣教師を振り返り見た。
女王様のお供として余計な視線を浴びた影響で恐怖心をあおられ、肩を震わせていたルーカ、もといジミーは、若干怯えの滲んだ目をレナに向ける。

「(……いや、この事態を招いたのは僕じゃないと思うよ。船内で説法したのは船長に対してだけだし、彼には話を広めないように口止めしてあるから。むやみに信者を増やしちゃうとレナに怒られるからね)」

「(そりゃ、怒りますよ!半分くらい自業自得とはいえ、女王様扱いされる度にドスドスダメージが蓄積されているんですから……。ルーカさんの影響じゃないということは、もしかして?)」

レナが胡乱な目で、食堂中央のテーブルにいる双子エルフを見つめた。
なぜそんな物を船に持ち込んでいたのか、お遊び魔道具のクラッカーを弾けさせてはしゃいでいた二人は、ん?と首を傾げる。
入り口までととっと歩いてきて、至近距離でまじまじとレナを眺めた。
レナの顔には、なんてことしてくれたんですか!と明確に書かれており、ようやく自分たちの失敗を悟る。
あちゃーやっちまったなー、とバツが悪そうに頰をかいて、他の乗客に向き直った。

「ごっめーーん! 判断間違えちった。この子、今はレナちゃんだー」

「女王様は現在、お休みになっていらっしゃる。ということで、皆さん、打ち合わせ通りに第二体制でよろしくっ」

「「「了解! 通常対応に戻りまーす!」」」

双子の号令を聞いた他の乗客は、さっとレナパーティから視線を外して各々食事を再開し始める。
見目の良いモスラをちらちらと横目で見る女性もいるものの、過剰なまでの注目はなくなった。

双子が「ドヤ!」と満足そうな表情でレナを見下ろす。何を企画していたのかは知らないが、やはりこやつらの仕業だったか……。
ドッと疲労したレナは、とりあえず仲間とともに隅の方の大人数用テーブルに向かい、席を確保。後をついてきた双子も確保して座らせた。
モスラにごにょごにょと耳打ちする。

「モスラなら私の気持ちを察してくれるよね? 二人にお説教、お願い。ハードモードで」

「承知致しました」

良い笑顔である。従者モスラは主人たちに頼られるのが何より大好きだ。
対照的に青くなったのはライアンとオーウェン。

「そ、そりゃないぜ! レナちゃんごめーん、それだけはどうか、勘弁してー!」

「許して! モス兄のお説教めっちゃくちゃ怖いから! だってあのドエムのジミーが打ちひしがれる怖さなんだよ!?」

レナが驚いた表情でジミーを見る。ジミーは首を振っている。

「誤解です。僕はドエムじゃない。さっき彼らの部屋にいた時、女性恐怖症を発動させた状態でサンクチュアリの中で会話してたから、そう見えたんじゃないかな?」

「ドエム云々については別にいいです。女性恐怖症……ついにそこまで……大変ですね。
それより、ジミーさん、モスラにお説教されてたんですか?」

「まあ、諸々。怒られることいっぱいしてたし」

「それはまた、お疲れ様でした」

説法罪についてお説教してくれてたのかな?と考えたレナは、ちょっと嬉しそうな顔でモスラを見つめた。ありがとう!
実際は事情がまるで異なるのだが、わざわざ言うことでもない。内緒にしておこう。モスラがにこっと笑みを深める。

「レナ様の分はまた後ほど」

「私にもまだお説教があるの……!? あ、あのね、私、さっきアリスちゃんからの手紙読み聞かせられたばっかりだから。せめてまた今度にして……下さいませんか……」

「そのつもりですよ。レナ様も今日はお疲れのようですから、また”後ほど”。つまり、今度お会いした時にお話ししましょうね。主人に無理を強いることは致しません。
ではライアン、オーウェン。そこになおりなさい」

「「は、ははーーーっ!」」

忍び足で立ち去ろうとしていた双子は仲良く襟首を掴まれてしまい、項垂(うなだ)れた。レナも項垂(うなだ)れた。

「ジミー」

「了解。光魔法[サンクチュアリ]」

なかなか良いコンビネーションだ。
ルーカが小さな結界で3人を覆う。外に声が漏れなくなり、逃げられなくなった。
船一隻をまるごと覆うトンデモ結界を披露してしまったジミーは、サンクチュアリをもはや気軽に使っている。
簡単な結界をこうして使って見せることで、あわよくば最大規模のサンクチュアリの印象を薄くできたら……という狙いもある。希望的観測だが。

モスラと隣り合った席に座ってしまったのが、双子の運の尽き。
閉じ込められた二人は約十分間、ぎゅっと凝縮されたお説教を聞くはめになった。

レナたちのテーブルに続々とイカ料理が運ばれてくる。
今晩は乗客全員が同じ食事を頂くので、注文せずとも料理が運ばれてくるようだ。足りなかったらウエイターにおかわりを頼むことができる。
大食らいの冒険者も多いため、ウエイター達は忙しそうにテーブルの間を行ったり来たりしていた。大盛りのイカ料理が乗ったお皿を太い腕にいくつも乗せている。
忙しくても笑顔を絶やさない、いい仕事ぶりですね、とお説教を終えたモスラが彼らを褒めた。
魂を抜かれたかのごとくくたびれきった双子に緑魔法[ヒール]を施して、レナはうきうきと手を合わせる。

「いただきます!」
『『『『いっただきまーす!』』』』

小さな魔物たちも主人に倣(なら)って、思い思いにいただきますポーズをとった。両手を合わせているリリーとハマル、スライムたちはぷよん!と小さく弾む。
仲間たちも一言「いただきます」と言ってから食事を始める。

待ちに待った夕飯!
今宵のメニューは、超贅沢なエンペラー・クラーケンのフルコース。
まずは前菜から、というお上品なルールはなく、軽いものから重いものまで料理が山盛りにされた大皿がこれでもかとテーブルに並ぶ。各自皿に取り分けるシステムのようだ。

各々が好みの料理を欲しいだけ、小皿によそって大口でほおばる。
空っぽだった胃が美味しいご飯で満たされていくこの幸福感は、戦闘を頑張った自分への最高のご褒美!
食いしん坊たちの表情が自然にほころぶ。

イカスミパスタに焼きイカ、野菜とのカラフルマリネ、イカフライ、トマト煮、香草焼き……果てはお刺身まで。お刺身は新鮮なレモンを搾ってバター風味のドレッシングをかけて頂くラナシュスタイル。レナにとっては慣れない味付けだったが、これはこれで爽やかでとても美味しかった。
夜食を部屋で頂くときにお刺身があれば、お醤油も試してみよう。

イカ焼き用のテリヤキソースもハマルの[夢吐き]で獲得済みである。船を降りた後、これを使ってテリヤキイカを作るつもりなのだ。
レナは気合いで狙い通りの夢を見てみせた。食欲の大勝利と言えよう。

エンペラー・クラーケンの身はハリがあり、噛むとプリプリの食感。部位によってはとろりとした舌触りも味わえる。イカらしい旨味がかなり濃厚で、良いところを詰め込んだ素晴らしい食材だ。
クラーケン・ストーンからリトル・クラーケンを生まれさせて、食材にしてしまうか? レナは一瞬、真剣に悩む……。
しかし今はそれより目の前の食事に集中しよう。考えるのはまだ先でいいや、と結論を出して、とりわけ用の大スプーンを手に持った。

テーブルに鎮座している大皿は、旺盛な食欲を見せる仲間たちによってまたたくまに空になっていく。
最大戦力であるスライムたちの体内には、大量の料理がぷかぷか浮かんでいる。すぐに消化していないので、きちんと味わって食べているらしい。感心、感心。
魔物の食事風景を見慣れていない乗客たちは興味深そうに、食堂の一角をこっそり見つめていた。

食事を終えたレナたちはそそくさと部屋に帰る。なんだかんだ注目されてしまうあの場には長居できなかった。それでも、お腹一杯になるまで食事を楽しんだが。
双子エルフとはいったん別れて、また後ほど合流しよう、と話した。レナの泊まる三人部屋にこれ以上人を詰め込むのは難しい。

後で双子に聞いた、彼らが食堂で乗客たちに話した”赤の伝説”について、軽く説明しておこう。
食堂で、謎の美形二人について教えて! 主人の女の子って女王様なの? と質問攻めにされた双子は、ジミーの説法を真似して、即席でそれらしい作り話をしてみせた。
……かなり長いので要約すると「月の加護を受けた特別な少女は、必要に応じて赤の女王様に変身する。正体を隠して悪者退治の旅をしている。内緒だよ? ジミさんモスさんはそんな彼女の護衛。やっておしまいなさい!と命じられたら正義の鉄槌を下すのだ!」という実にアイタタなものだった。
冗談にしか受け取れない、とてもクオリティの低い話である。

しかし今回に限って言えば、何やら従者がすごそうなのは事実だし、ラチェリで赤の女王様云々という噂を聞いた乗客もいた。さらに、レナを敬えば運に恵まれるらしいと聞いて、乗客たちはお祭り気分で話に乗っかってしまった……。喜劇である。
ここだけの話!と言われると途端に興味をそそられてしまうのは、地球でもラナシュでも変わらない。
しかし内緒と言いつつ堂々と女王様歓迎会をしてのけた双子は、本当にノリと勢いで生きている。

おかげで、と言うのはかなり悔しいが……レナたちはこのデタラメ布教のおかげで、港に着くまでの船旅を快適に過ごすことができた。
遠方から拝まれたりはしたものの、説明を求めて絡んでくる者はいなかったのだ。
もしかしたらまた美形になるかも、と考えた女性に群がられる心配が無くなったジミーは双子に深く感謝して、仲良しになった。
▽ルーカは 生涯で初めての 親友を得た!
喜ばしい。

部屋に運ばれてきた夜食を幼い魔人族たちがはしゃぎながら平らげる様子は、大変愛らしかった。
ほぼ無限の胃袋容量を持つクーイズは余裕で食事を再開し、魔物姿では食べられる物が限られていたリリー・ハマルは嬉々としてフォークを小さな手で握りしめる。
フォーク使いもかなり慣れてきて、こぼさず上手に食事ができていた。
お刺身も運ばれてきたため、レナが喜んで味見をしてみる。やっぱり日本人にはコレが一番。
お醤油との組み合わせは仲間たちの口にもあったようだ。
今回こそモスラが料理のとりわけ番を買って出て、先輩たちに食事を食べさせてあげる場面もあり、オカンはニコニコが止まらなかった。
何かといらぬ苦労を背負い込みがちなレナの一番の癒しタイムである。

***

乗客たちが寝静まった遅い時間に、レナたちと船長、数人の船員、ライアン、オーウェンが甲板に集い、闇色に染まった穏やかな海を眺めていた。
ささやかなオレンジの照明が、足元のみをぼんやり照らしている。
夜間、船は海上に停泊している。
明るすぎるとモンスターの標的にされてしまうため、夜の灯りは必要最低限しか確保されていない。見張り番の船員たちは特殊な暗視スコープを身につけて周囲を索敵中だ。

どうして夜更けに甲板にいるのかというと、モスラとパトリシアがもうこの船を発つためである。
昼間に蝶々姿で飛行すると無駄に目立ってしまうため、深夜に帰りたいと申し出があった。
清掃された従業員用の仮眠室が使われることはなかったが、こんな機会でも無いと大掃除しないので丁度良かったです、と船員は旅立ちを快く受け入れてくれた。

またしばらく会えなくなるから……と、レナは屈んだモスラの髪を撫でてやる。細い指の間からさらさらと艶やかな黒髪がこぼれた。

「久しぶりに会えたのにもうお別れかぁ……寂しいね。また、必ず呼ぶよ。魔王国の王都に着いたら一緒にブレスレットを買いに行こうね。
それにこっちからも絶対会いに行くから。って、アリスちゃんにも伝えてくれるかな?」

「確かに、お言付けを頂戴致しました。必ずやアリス様にお伝えします。
もう少し一緒にいる時間をとれたら良かったのですが……予定が空いていたのが、たまたま今日1日だけだったのです。
明日からは、またアリス様の商業会合がたくさん控えていて忙しいですし。今日だけでも予定がなくて本当に運が良かった。さすがレナ様のお呼び出しですね。先輩方も、どうかお元気で」

『おうともよーー!』
『また今度は背中に乗っけてね!』
『……帰り道、気をつけるんだよ?お家に帰るまでが、遠征……なんだからね!』
『今度は男子会もしようねー』

「いいですね。楽しみです」

先輩従魔たちとモスラは明るく別れの挨拶を交わした。
パトリシアがレナの頭を軽く撫でる。

「明日は花屋の営業日だしなー。毎回来てくれる固定客も出来たことだし、そうそう休めないんだ。悪いね、レナ。バタバタしちゃって」

「しょうがないよ。今日来てくれただけでもすごく嬉しかった。ありがとう。
お説教タイムは辛かったけど……久しぶりにパトリシアちゃんとお話できて楽しかった! また通話しようねー」

「おう。へへっ、照れるなー。そうかそうか、私と話せて嬉しかったか。来たかいがあったってもんだ。ルルゥに自慢してやろーっと。
これから肌寒くなってくるし、みんな、風邪引かないように気をつけるんだぞ」

『『『『はーーい!』』』』

「はーい。まあ旅の最中でもハーくんベッドでぬくぬくだから、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。
これ、パトリシアちゃんにあげるね。私たちからのお土産」

「ん?」

レナがパトリシアに押し付けるようにして渡したのは、港町グレンツェ・ミレーのコスプレ子供服屋で購入したクラシカルメイド服。

▽パトリシアは メイド服を 手に入れた!×1

店内の商品はほとんどが子供服だったが、数点、大人用のコスプレ服もあった。
このクラシカルメイド服はかなり丈が長めなので、もう少し布を足したら長身のパトリシアでも着用できそうだ。
パトリシアは可愛いものが好きだし、せっかくスチュアート邸で従者のバイトをするならメイド服があればいいよね、とレナは考えた。
店長にのせられてつい購入してしまった物だが、いい機会に恵まれた。
レナが着るには丈が長いので、最悪ルーカに託すという選択肢も考えてなくはなかったが、説法制裁を食らいそうなので持て余し……んんっ。

畳まれたメイド服のエプロンについたフリルを見たパトリシアはぽわっと頬を染める。そしてぶんぶんと頭を振った。

「こ、これ着ろって?私が?……む、無理無理!似合わねーから!笑われるって!」

「大丈夫だよー。パトリシアちゃんも女の子らしく整えてもらえば、美人さんになると私は判定したもん。
ね、モスラ。今度お屋敷に行った時には可愛いメイド姿のパトリシアちゃんが見たいなー」

「承知致しました。
レナ様の頼みとあらば、必ずや、私の手でパトリシアを立派な淑女に教育してみせましょう。
メイド服の縫い直しとアレンジもお任せ下さいませ」

「楽しみにしてるー!」

「ほんと楽しそうだなお前ら!ち、ちくしょう!あーもう、帰るぞ」

「発たれるのですね。それでは、こちらをお持ちください」

仲良しな会話を微笑ましそうに見守っていた船長が、パトリシアに大きく膨らんだ白い防水布袋を渡す。
中身はもちろん、エンペラー・クラーケンの切り身である。どっしりと重たい袋を、パトリシアは難なく肩に担いでみせる。まるでサンタクロースのよう。
メイド服にクラーケンの切り身に、ついでに夢産のマヨネーズとお醤油(予備)に、次から次へとかさばるお土産品を渡されて、結局ここに来た時よりも大荷物になってしまった。
まさかお土産を渡されるとは思わず、容量の少ないマジックバッグしか持ってきていなかったので、布袋はパトリシアが担ぐしかない。余裕である。

「ありがとーございます、船長さん。家で食べるのが楽しみっす」

「いえいえ、モスラさんのご活躍があってこその食材ですから。
むしろ、これだけしかお渡し出来ずに申し訳ありません。
クラーケンの素材を乗せた漁獲船が明後日にはグレンツェ・ミレー港に着くと思いますので、優先的に買い付けできるよう、スチュアート様のお名前を載せた通達書を一緒に渡しました。お名前を告げて頂ければ、割引優待が受けられます。
お手数をおかけしますが、もし追加でクラーケンをお求めの際には、そちらをご利用下さい」

モスラが船長に会釈する。

「ご配慮ありがとうございます。私の主人にとって、港との商品取引の経験を積む良い機会となるでしょう。
素材回収などに人手も使っていますし、これ以上無料で素材を頂こうとは考えておりませんから。十分すぎるくらい良くして頂きました」

「そう言ってもらえると助かります。アリス・スチュアート様にもよろしくお伝え下さい」

クラーケン素材についての話はまとまったようだ。
巨大なエンペラー・クラーケンの切り身を全てこの客船に保管することは出来なかった。
客船が大量の食材を手に入れた際には、周辺にいる漁獲船に連絡をとって食材を渡し、一足早く港に運ぶという特殊な連携が取られる。
船長はぶつ切りにされたエンペラー・クラーケンを回収すると同時に、船に載せきれない余剰分を漁獲船へ引き渡す手配を素早く行っていた。

「それでは、失礼致します」
「またなー!」

モスラは主人に向けて綺麗に一礼し、くるりと踵を返すとためらいなく船のヘリを越えて、夜の海に身を躍らせる。
海面に身体が触れる前にギガントバタフライ姿になり、音を立てずに船の周りを一周した。

モスラがレナたちのいる地点に帰ってきたところで、パトリシアが駆け出す。
勢いをつけて翅に飛び乗る。翅の端から背中まで、上手にバランスを取りながら一気に走り抜け、腰を下ろすと、胴体に生えた柔らかな産毛をがしっと掴んだ。
そして船上に向けて一度だけひらりと手を振る。

産毛とはいえ、巨体に合わせてそれなりの長さがある。パトリシアが掴まるには十分な長さだ。
パトリシアの【剛腕】とモスラの[風除け]スキルを合わせれば、上空でも快適にバタフライ飛行を楽しむ事が出来る。戦闘に巻き込まれさえしなければ、だが。
今の段階では、パトリシア以外がモスラに乗ることは難しいが、そのうちアリスが何らかの解決策を見つけ出すだろう。
こんなに便利な移動手段を大商人が活用しないはずがない。
後ほど、大陸間を繋ぐドラゴン便の他に、年に数回、バタフライ便が追加されることになる。まだ先の話だ。

モスラの着ていた執事服は魔道具の”結び糸”により胴体に繋がれている。
これは大事な物を無くさないように、持ち主と物を透明な糸で繋いでおいて、一定距離が開いたら赤く具現化するという魔法の糸だ。縛ったあと糸が透明な間は、糸の質量が消えるため生活の邪魔にならない。
パトリシアは赤い糸を手繰り寄せて服をひっ掴むと、豪快に膝で押さえ込んだ。

モスラが魔物姿になる度にいちいち服を使い捨ててしまうのは勿体ないので、執事服にも特別な形状記憶の魔法がかけられている。これのおかげで、ビリビリになった服も綺麗に元どおりになる。魔法万歳。
夜空に一瞬ひらめいたモスラの服の中には下着が見当たらなかった。周囲に見苦しいものを晒さないようにと、あらかじめ身につけていなかったようだ。
早くブレスレットを買ってやらねば!と、オカンは強く決心した。

甲板から空に手を振るレナたち。
スマホさんが小音でクラシック音楽を鳴らす。優雅で美しい「月の光」のしらべ。
レナが勝手に心に無駄なダメージを負った。最近のレナは繊細だ。

それぞれが部屋に戻って、穏やかな眠りにつく。
夜が明けて朝を迎え、さらに数日の船旅を経て、客船はついにジーニアレス大陸の港に辿り着いた。

▽Next!乗客それぞれの旅立ち

 

 

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