70:甲板にて

航海2日目の昼間、空は快晴。
レナとルーカは船の甲板(かんぱん)で見つめ合っている。
従魔たちは双子のエルフ・ライアン&オーウェンと船内でおてだまをして遊んでいた。ジャグリングの要領でスライムジェルをくるくる放り投げて技を競っている。うっかり割ってヌメヌメになったら負け。
主人たちが話し合いやすいよう、今回は気を遣ったようだ。

レナの三つ編みと、ルーカの肩まで伸びた黒髪が潮風になびいている。
二人は揃って苦笑していた。

「猫耳カチューシャを買って正解でしたねぇ…ルーカさんは感情を隠すのが上手だから、猫耳がなかったら落ち込んでいるのを見逃してしまうところでした」

レナの言葉を聞いて、ルーカは頭の上でひくひく動いている猫耳を指先でつまむ。
わずかな熱が伝わってきて、高性能さにかえって苦笑を深めた。

「うーん。心を見透かされるのって存外恥ずかしいものだね…?
まさか猫耳カチューシャが外れなくなるなんて予想外だったよ。試作品だから魔法のかかりが弱いかも、とは聞かされていたけど、こう誤作動したかって感じだよね」

「引きが強いあたりは、さすがというか何というか…。まぁ、たまには感情を暴かれる側になってみるのも良いんじゃないでしょうか?」

「たまには、ならね。早く器用さを上げて付け外しできるようになりたいなぁ…恥ずかしいし」

話している間にも、ルーカの猫耳は感情を察知してぴくりぴくりと敏感に動いている。レナとじっくり目を合わせた時には、耳はへにょんと伏せてしまった。
ぷぷっ!とレナがなんとか笑いを噛みころす。
ルーカはため息を吐いて、意を決した様子で目の前の少女にテレパシーを送った。互いの黒い瞳がかち合う。

「(貴方をこの異世界ラナシュに呼んでしまったのは、僕の責任も相当大きい。何度も繰り返すけど本当にごめんね…)」

「(こうして謝罪を頂くのは何度目でしょうか?やっぱり、その部分を気に病んで落ち込んでいらっしゃったんですねぇ。
ルーカさんはたまにすごくネガティブになっちゃいますね…?)」

「(ぐだぐだ謝られるのも気分がいいものではないと分かっているんだけどね、気になって、どうしようもなくて。本当に、申し訳ないと思ってるんだ)」

レナが肩をすくめた。

「(ルーカさんはきちんと全て話してくれましたし…ガララージュレ王国からの逃亡も手助けして下さいました。
それで私は十分救われましたから。その件で貴方を責める気持ちはありません。どうかこの言葉を信じて下さい)」

しょんぼりしているルーカとは対照的に、レナは落ち着いて話している。
レナの視線がふと、随分遠くなったミレー大陸に一瞬だけ向けられてほのかに揺れ…そしてルーカを見つめ直した。
安心させるように、目元はやんわりと弧を描いている。

ルーカが苦しんでいるのは、レナが異世界に”召喚された”事情について。自分もその件に深く関わっていたこと…。

レナが異世界ラナシュに足を踏み入れてしまったのは偶然などではなかった。
ガララージュレ王国の魔法実験の一環である”勇者召喚の儀”に巻き込まれてしまった、らしい。

ガララージュレ王国政府は高名な学者が書き上げた暗号まみれの論文をルーカに【魔眼】で読み解かせ、片っ端からそれに基づいた様々な実験を行っていた。
有益な技術があれば秘密裏に国策に取り入れ、軍事力の増強を図っていたのだ。いずれは武力でもって他国の領土を手中に収めてやろう、と目論んでいた。
学者たちは、難しすぎる暗号文を読み解ける天才が現れることを期待して己の論文を研究者ギルドに多数寄贈しており、誰でも閲覧可能な状況だったため、工作員が各ギルドから書類を持ち出すことも比較的簡単だった。
警備が厳重になるまでの数回は持ち出しに成功していて、それなりの数の論文がガララージュレ王国のものとなった。
もちろん、平和的な使い方しか模索できないよう論文には絞られた情報しか記載されていなかったが…ルーカの【☆7】魔眼は、論文を書いている最中の学者の思考すら読み取ることができる。
これほど効率のいい技術取得方法もないと言えよう。

かくして、とある魔法論文をもとに”勇者召喚の儀”は行われた。
学者本人も趣味の範疇で書いたもので完全に理論を組み立てていなかったため、魔法は理想通りには発動せず、レナの中の”勇者の芽”は枯れてしまい魔法陣から召喚されることも無かったが…
異世界ラナシュの適当さの範囲に引っかかり、地球からダナツェラ近郊に移動させられてしまった、ということらしい。

…初めて事の真相を聞かされた時はレナとてかなり動揺してしまい、ガララージュレ王国を心底恨めしく思うドロドロした暗い感情を持った。
行き場のない感情を、僅かだが目の前のルーカに反映させかけてしまい…苦しそうに、だがまっすぐレナを見つめる紫の瞳を見て、ひたすら悲しい気持ちになった。

ルーカにはあらがう術など無かったことをよく知っている。それはレナが召喚の儀に巻き込まれた環境とまるで同じだ、と思った。
大きな流れに飲み込まれてしまい、必死の抵抗は成果を残すことができなかったのだろう。

レナは物事の良い点を探すことが得意な少女である。
宿でこの話を聞いた後、じっと目の前の元王子を見つめて「貴方との旅は楽しかったよ」と心から伝えた。
ルーカは仲間思いだし、頼りになるし、笑い方だってとても優しくて一緒にいて安心するんだ、と。だから一緒にいましょうよ、と。
レナを[心眼]で視つめていたルーカは魂の眩しい光を直視してしまい、泣き笑いの表情になった。
ダナツェラ近郊で出会った時よりも、レナの魂はさらに強く輝いている。ふと落ち込んだ時には、この光を見たくなる…。
そして従魔たちからも『今後もよろしく!』の突進攻撃をくらい、ようやく「ありがとう」の言葉を口にしたのだった。

現在の話に戻ろう。
レナはルーカを励ますように、ポンポンと軽く肩を叩く。

「ごめんなさい、を言う場面ではないってもうお気づきですよね。
こういう時、なんて言うのかなー?お兄さんは上手に言えるかなー?」

いつの間にやら、優しい笑みはにんまりしたからかいの表情に変化している。
レナの思惑を読み取ったルーカは「う」と小さく声を漏らして、自分の複雑な気持ちにとりあえず決着を付けるために風に遊ぶ髪の毛先を落ち着かなさそうにいじった。目の前のレナを見つめる。

「…ありがとう」

少し震えた、それでもしっかりとした声で言葉を伝えた。

「上手に言えましたね!ふふっ」

レナはとびきりの笑顔を返した。

ルーカにはまだまだレナ式ポジティブ教育(ブートキャンプ)が必要なようだ。
以前に比べたら格段に明るい思考ができるようになっているが、時々、根暗が顔を出してしまう。

「もうこの話はこれで終わり!ごめんなさいの言葉を受け取ったうえで、許しましたから」とレナはやんわり告げた。
ルーカは何も悪くないんだ、と表現してもよかったが、本人の気持ちを汲んで謝罪も受け取ることにしたようだ。

過去の話はここまで。
これからの事について、二人は話し合いを始めた。
船の向かう先…まだ姿の見えないジーニアレス大陸の方角を、穏やかな気持ちで眺めている。

「とりあえず…ジーニ大陸に着いたら魔王国を目指しましょうか。港からそう遠くないようですし。
従魔用の”装飾保存ブレスレット”を買って、それからは…うーん。あとで考えます。
王都は広くて見所がいっぱいって聞いたから観光してもいいなぁ」

「それがいいだろうね。せっかく子供服を手に入れたんだし、早くブレスレットを買ってあげよう。
(異世界に帰る方法を探してみる…?)」

「!そうですね…その件についても考えてなくはないです。
でも、旅のついでにもし機会があれば…って感じでしょうか。それを目的に旅する気はあんまり無いんですよねぇ。
…もし私がずっと一人きりだったなら、きっと故郷に帰りたくて仕方なくて、その方法を探して旅をしていたと思う。
でも従魔たちが側にいてくれたでしょう?あの子達のことがとても大切だから。
…置いていくなんて考えられないし、かといって、もし故郷に連れていく事が出来ても馴染むのはきっと難しい。戸籍を偽り続けることは不可能ですから。
…何らかの方法が見つかったとしても、私は帰還を選ばないだろうなあって思ってます。
お兄ちゃんにだけはきちんと現況を伝えたいですけどね。すごく心配をかけてる筈だから」

レナはもう心を決めていた。
地球には帰らないつもりでいる、と寂しげに笑って、風にふわっとあおられた三つ編みを手のひらで押さえる。
もちろん全て割り切れているわけではなく、魂はほのかに揺れているが…帰還という誘惑以上に、従魔たちの事を深く想っているのだろう。
一度懐に入れた可愛い子たちを守りきってこそ、主人であり、女王様なのだ。
藤堂レナはブレなかった。

「そっか…。レナは本当に立派なご主人様だね。きちんとこれからの事も考えていたんだ。
(確かに、故郷に従魔たちと帰ったとしても戸籍やら目立つ見た目やらでトラブルは避けられないと思う…。
魔法がどれだけ通用するのかも分からないし、そもそも全く使えないかもしれない。ヒト型になれるかも分からない。
それを考えると、皆一緒に帰還という選択もかなりリスクが高いね…)
とりあえず方法だけ探してみる、というのは僕も賛成する。協力は惜しまないよ。
それらしい情報が僅かでも手に入れば必ず貴方に伝えると約束しよう」

「ありがとうございます…!すごく頼りにしてます」

「!うんっ、まかせて。
僕の取り柄は多彩な能力くらいだから、きっと貴方の力になれるはずイタイ」

パッと明るい笑顔でネガティブなことを堂々と言い放ったルーカの口を、レナは強めにつねった。
またあとで教育が必要なようだ。

『いいなー…』

「「!」」

▽マゾヒツジが 現れた!

こっそり忍び足で近づいてきていたハマルにとてもよろしくない場面を見られてしまった…レナは冷や汗をかいている。
期待した目で見上げられている。可愛い。
よしよし、と[幻覚]により白く見えている毛を二人がかりで撫でてやると、それはそれで心地よかったらしくふにゃーんと床に伸びてしまった。

▽レナとルーカの 撫でまわし!
▽ハマルは 陥落した!

毛の表面はスライムジェルによりちょっぴりヌメヌメしていた。
ごにょごにょと『今踏まれたらきっと最高にイイ気分…』などと呟いている…こちらにも後ほど正しい教育が必要なようである。

ルーカは先ほどの話を少しだけ続けた。

「貴方のお兄さんは、すごく良いお兄さんなんだね」

唐突な言葉にレナはきょとんとしていたが…ルーカのどこか羨望の滲んだ眼差しと、揺れる猫耳を見てなんとなく察した。
自分も一応兄であるという点が、彼をなんとも言えない憂いた表情にしてしまっているのだろう。
心の奥底でルーカがひっそり望んでいるであろう答えをレナは口にする。レナの本心でもある。

「はい!兄は私の自慢です」

「いいご家族に恵まれたね。お兄さんに連絡を取れるよう、僕もこれから情報収集を頑張ってみるから」

「ルーカさんのことも良いお兄さんだと思っていますよ。
私と、クレハとイズミ、リリーちゃんにハーくん、みんなにとっての素敵なお兄さん」

「…えっ」

「こういう言葉は重荷になってしまいますか?」

「…いや。すごく嬉しい。ええと…その、ありがとう」

「こちらこそ、いつもありがとうございます!」

レナとルーカは見つめあい、照れたように笑った。

『『とりゃあーー!ヌメヌメアタック!』』

▽クレハとイズミが 現れた!
▽レナとルーカの 懐にとび込む!

「!うわっ…!?」
「ひょえっ!つ、冷たいぃぃーー!」

スライムジェルまみれのクーイズがふっとんできて、レナとルーカの身体をヌラリヌラリと這い回る。
クレハはちょっぴり暖かく、イズミはひんやりしていた。
首筋にぴとっ!とやられてよりイヤなのは今回はイズミである。いや、違うか。どちらでもヌメヌメはかなり嫌だ。

レナとルーカは身体を震わせながらスライム達が跳んできた方を見やる。
ライアン&オーウェンの姿が見えた。スライムは彼らの肩を台にして跳んだらしい。
双子エルフも全身ジェルまみれで、周囲の視線を二人じめしている
注目を嫌がったレナが「せめて静かにしててね!しーっ」と口元に人差し指をあてるジェスチャーをするも、双子はぶんぶんと腕を振って嬉しそうに応えてしまった。そうじゃない。一番悪い選択である。

「ちーーっす、お二方ぁ!魔女夜会(サバト)は終わりましたかー?」

「ちげーだろー。お前はサバトって言いたかっただけだろ。女王様昼会だよっ」

「え…語呂悪ーい。むしろ赤の御会合なんてのはどーよ?」

「なかなかいいねー!」

「よくないですっ」

レナの小さな叫びには「ちょっと黙って下さいますか!」との意味が込められていたが…彼らが言葉の裏など読める筈がなかった。ケラケラと快活に笑っている。
ふわん、と蝶々状態のリリーがレナの頭に着地した。

『ご主人さま…あのね、廊下、汚しちゃった。ごめんなさい…』

「!」

船内と甲板を結ぶ扉は昼間は常時開放されている。
従魔と双子が歩いてきたであろう道筋にはキラキラ輝くスライムジェルが散らばっており、廊下を盛大に汚していた。
部屋でおてだま合戦を楽しんで全員ヌメヌメになったまま、甲板(かんぱん)にきてしまったようだ。
扉の近くには戦闘員兼船員のムキムキの男性が笑顔で立っており、ちょいちょい、レナを手招きしている。いくつかのデッキブラシとモップを手に持っていた。
レナは大慌てで彼に走り寄った。

「従魔のそそうは主人の責任、だね?お嬢ちゃん。
お掃除をお願いするよ。人が通りにくいから、できるだけ急いでほしいな」

「はい…もちろんです…!」

「うむ。感心感心」

レナが素直に掃除に応じたことで、特に怒られることはなかった。
泥汚れなどだったらまた対応が違ったのだろうが、キラキラのジェルは雑巾などですぐ拭き取れるし、ジェルが触れていた箇所はピカピカになっているのだ。
それをあらかじめ確認していた船員は「掃除後には廊下が綺麗になりそうだなぁ!」などと笑っていた。

自分たちの身体に付着したジェルは緑魔法[クリーン]で取り除き、せっせとモップなどで床掃除をしたレナたち。ジェルワックス掛けはサービスだ。
ジェルが付着していた床はまるで新品張りたてみたいにピッカピカになった!
さすがに疲れて廊下の椅子に座って休んでいると、先ほどの船員がレモンジュースを差し入れてくれる。
爽やかな酸味が身体にじんわり染み渡っていく…皆はホッと息をついた。

スライムジェルをいくらか売ってくれないか、と船員に交渉されたが、アレを商品として世に出してしまうと後々騒ぎになるのは目に見えていたのでさすがに必死で断った。
しかしどうしてもと食い下がられてしまい「アネース王国トイリア市のアリス・スチュアートという商人さんにお問い合わせ下さい!」とレナは逃げ道をつくり、自分の首を絞めた。
アリスならとても上手に采配してくれるだろうが、お説教がまた増えるのは避けられない。
レナは涙目で、さすがに可愛い従魔たちにもチクリと注意をしていた。
てへぺろしている双子はルーカが説き伏せて泣かせた。大人気ない行いをとりあえず悔いたようである。

部屋に戻ってちょこっと[快眠]して、体力を回復したレナたちは再び甲板へ。
なにやら外が騒々しい、と感じたのだ。
甲板では人々がバタバタと行き交っており、船員たちは、返し針と頑丈な糸が付いた釣竿仕様の小型バリスタの整備をしている。
事情を聞こうにも話しかけ辛い雰囲気で、レナたちはすみっこで立ち往生していたが、ルーカが船員の思考を読み取ってくれた。

「…どうやら漁場を見つけたらしい。
船の向かう先の海上に鳥たちがたくさん集まっているでしょう。あの下に餌となる魚なんかの大群がいるんだ。
それを獲ろう、って魂胆だね」

「あ。そういえば…船の予約を取る際に説明されましたね。
漁場に遭遇したら狩りを行う、その際助力した冒険者には船賃の割引を行う、って」

レナの目に少々現金な光が宿る。
漁獲協力権が冒険者に限定されているのは、非力な民間人たちにお祭り気分で参加されてしまうと作業が滞り、危険だからだ。
逃げ場のない海の上ではできるかぎり危険を避けなければならない。
戦力として認められそう、と判断された人物が漁獲協力を申し出た場合には、現場判断でその場で許可が出されるという仕様である。

「私たちも手伝います?」

レナがルーカに問うと、苦笑を返された。

「いや、船のアナウンスを聞いてから判断しよう。
僕らは戦闘に関してはどちらかと言えば近接型だし、力仕事も向いていないから。留まっている船に近づいてきたモンスターがいれば助力する、くらいの方がいいんじゃないかな」

『『さっすがー!ルーカ先生、しりょぶかいー!』』

妹弟たちによいしょされた猫耳お兄さんは涼しげな顔を保っているが、猫耳は感情に素直にピコピコと揺れていた。かなり嬉しかったのだろう。

しばらく甲板で待機していると、船内外にアナウンスが流れる。

<ーーテスト、テスト。
船の進行方向に漁場を発見しました。これよりしばらく、漁獲作業に入ります。船は一定時間海上に留まることになりますので、どうぞご了承下さい。
今回の標的はイカモンスターの群れです。船発超音波により既に混乱済み、漁場を離れることはないでしょう。安全に漁獲を行う事が出来ると判断いたしました。
遠方から狩りを行いますので、遠距離攻撃が得意な冒険者様方の協力を願います。
また、水揚げされたモンスターにトドメをさし保管庫に運ぶ必要もありますので、力自慢の皆様の申し出もお待ちしております。
ーー再度、狩りの順序を繰り返します。
漁場にて、超音波により海面付近に浮かんできたイカモンスターを遠距離攻撃で弱らせる。そのモンスターはバリスタで釣り上げて甲板に、確実に仕留めてから保管庫へ。
この順序をお間違えのないようによろしくお願い申し上げます。
見学なさる皆様につきましては、船内廊下の窓より狩りの様子がご覧になれますので、どうぞお楽しみ下さい。
ただ、くれぐれも作業中の甲板へはいらっしゃらないようお願い申し上げます。
ーー以上、アナウンスを終了いたします>

アナウンスを聞いたレナたちは顔を見合わせた。協力するべきか…少々悩んでしまう内容だ。
しかしほとんどの民間人はすでに船内に引き返しており、判断を急がなくてはならない。

「うーん。力仕事は難しいけど…トドメをさすのは出来そうですね。私たちも参加しましょう」

「そうする?貴方なら船内に戻るって判断するかと思ったけど、意外だね」

パーティ皆の注目を浴びたレナはなにやら苦い顔をしている。

「…いや、さっき気になる呟きを聞いてしまいまして…。
船員さんがね、”イカモンスターの群れにはたまにエンペラー・クラーケンが混じってるんだっけ。まあ数十年に一度しか現れない幻みたいな存在だし、今回も大丈夫だろー!”…って言ってたんです。
皆、どう思う…?」

『『おいしそーー!』』
『『まさしく遭遇しそうー』』

「…うん。まあ、僕らの巡り合わせの確率じゃあ…ねぇ…」

「ですよねー」

意見は一致した。
こういう展開はハズさないドンマイなレナパーティである。

「やっぱり、嫌な予感がしますよねぇ…どうせ船と私たちは運命を共にしていますし、だったら最初から甲板で戦闘に備えるべきかなって思って。あはは」

「…そうだね。早めに助力を申し出ようか」

レナたちがため息と共に判断をした時、船内から、慌ただしく戦闘装備に着替えたライアンとオーウェンが出てきた。
弓筒を背に括り付け、手には仕事道具の大弓を持っている。

「…あっ!レナちゃんとジミー。従魔のみんなも。戦闘に参加するの?
一緒に頑張ろーねー!」

「なんかさぁ、イカモンスターいっぱい浮かんできてるじゃん。
船の索敵魔道具で調べたら海の中にはまだまだとんでもない数のモンスターがいて、こんな大きな群れは見たことも聞いたこともないぞ!ってさっき船員さんが言ってたよー。
マジやばくない?これも運命のお導きなのかなぁ」

「「ね、ね、レナちゃんそこんとこどう!?」」

レナは遠い目をしたまま黒いペンダントトップを手に持った。
ゆっくりとそれを口元に持っていく。見事な悟り顔である。

「もう呼び笛吹いとこう」

「判断はやっ!?」

『『わーい!久しぶりに弟に会えるねーー♪』』

ピィーーーーーッ…と澄んだ音が船上に響く。
賽は投げられた。
トイリアにいたモスラはハッと顔を上げ、大歓喜でアリスに出かける旨を伝える。アリスは満面の笑顔で外出許可を出した。

笛を吹いて遊んでいるお子ちゃまがいる…と思われたのだろうか。
船員が難しい顔でレナに駆け寄ってきて、声をかける。

「お嬢ちゃん、早く船内に戻った方がいいんじゃないかな?これからここにはモンスターが水揚げされるから危険なんだぜ。
……おっと。失礼。君は魔物使いの子だったのか」

ちっちゃな従魔たちがしゃーーッ!!と厳つい船員を威嚇し、ご主人さまは冒険者なんだぞ!すごいんだぞ!と口々に主張する。
船員は魔物の言葉こそ理解できなかったものの、気迫に驚いて、すぐ謝ってくれた。
レナが従魔たちをまあまあ、と悟り顔のままなだめる。
船員は苦笑して、狩りに協力してくれるのかい?と膝を折ってレナに問いかけた。レナはパーティの皆でモンスターを仕留めるところを助力したいと伝えた。
船員はトドメ要員待機場所についてざっくり口頭で説明する。
直接連れてってあげられなくて悪い、大忙しなんだよ、と早口で告げると、他の一般乗客たちのもとにあわてて走っていった。
戦闘に乗客への言葉かけに、大忙しなのは船員たちにとって嬉しい悲鳴でもあるのだろう。
あまりに珍しい大漁に出くわした船員たちは皆忙しそうだが、表情は輝いている。

その笑顔を、守りたい。
レナたちは海上の様子に気を配りながら、水揚げされたモンスターにしっかりトドメをさす作業を確実にこなしていった。

レナたちの戦いはこれからだ!

▽Next!巨大イカ祭り

 

 

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