7:金色モンスター?

「ぐあああぁー……!」

『大丈夫レナーー!?』
『くそー、なんて姑息なやつなんだ金色!
まさか精神攻撃でレナの自滅を誘うだなんて』
『……許さない』

自分のムチを頭に当ててしまい、悶絶しているレナ。
とりあえず原因の金色を睨みつけておく従魔たちと、興味深そうに4名を眺めている金色モンスター(仮)。

「その評価、すごく納得いかないんだけど。
…とりあえず、ムチの跡は残りやすいんだし、早く傷を冷やしてあげたら?イズミ」

『!? なんで、イズの名前まで知ってるのー!』

イズミが、ぴょーん!と跳び上がりながら金色モンスターにくってかかる。

「視えてるからね」

向こうは飄々とした調子で返した。

『『なにそれーー!?ずるいっ』』
『…!』

「視える」発言に混乱させられたイズミだが……それよりも、悶絶している主人が心配だったので、レナの頭に素直によじ登って傷を冷やしていく。

『アクアー』

スライムボディがひんやり冷たくなり、心地よく主人のセルフ鞭跡を労わっていた。

クレハとリリーは金色を警戒してレナの前に仁王立ち(イメージ)している。
身体がちっちゃいので、全然カバーしきれていないけど、ご主人様は頼もしい従魔にしっかり愛され、守られているようだ。

「ううう……みんな、ありがとう…」

唸りながら、なんとか持ち直すレナ。

まだ痛そうに跡をさすっているけど、ひんやりイズミのおかげで随分ラクになった様子。

…俯けていた顔をキッと勢いよく上げて前を見やった。
金色モンスターは近づいて来てはおらず、5Mほど離れた所からレナたちを伺っている。

悶えているうちに攻撃されなくて良かったなぁ……危ない橋を自ら渡りに行っちゃった、と、先ほどの錯乱を深く反省するレナ。
自分がやられてしまったら、従魔たちにまで迷惑をかけてしまうのだから。
気をつけなくてはいけない。

動かない喋らない金色を、じっくり観察してみた。
…見れば見るほど、異様な存在だとしか感じられない。

うっそうと暗色の木や草が茂る不気味なこの森奥で、彼がいる一角だけは、まるで絵画のような美しさを誇っているのだ。
周辺効果すごすぎィ!
余計に、あのキラキラしたヒト型は怪しすぎる!とレナは警戒した。

(優しそうなギルド員さんに騙されたばかりの人間不信MAXな私を油断させようとしても、逆効果なんだからねモンスターー!?
浅はかなのだよっ)

疲れていたレナは変な口調で脳内で彼に言い放ち、ムチを再び構えなおして!(フラグでしかない)
キツい口調で言い放った。

「どちらさまですかッ!」

……ええと、キツい口調で…。レナさんにしてはキツめです。
精一杯目を吊り上げて睨みつけ、金色さんを威嚇している。

紫(アメジスト)の瞳が、静かに見返してきた。
なんだか自分の何もかもを見透かされているように感じて、背がゾクーーッと冷える。

「初めまして。僕の名前は、ルーカティアスだよ」
「…初めまして」

意外にも、素直に名乗ってきた金色。
……礼儀正しい存在なのだろうか。これは対応に悩む。

会話が成立したことで、彼が普通にヒト族であるという可能性が出てきた。
名前もすでにあるようだし、ますます、アレがワケの分からない存在になっていく……混乱して顔を引きつらせるレナ。

「その鞭の構え方だと、振った時にまた自分に当たると思うよ。
下からすくうように持つのは相当上級のやり方だから、初心者なら、まず上から被せるように握った方が扱いやすい。
フォームを変えてみたら?」

注意されました。

「あ、はいすみません」

うっかり、素直に鞭を構え直してしまう。
確かに、しっくりくる…

「…いやそうじゃない!助かるけど、今はそんな場合じゃない!」

そうですねレナさん、ドンマイ。

「見事な適応力だね」

「くうっ」

「大切なことだと思うよ」

バカにされたんだろうか。
どうしてわざわざ丁寧にアドバイスしてくれてるの?
…私なんかの鞭じゃ、まだまだダメージを与えられないぞふふんって事ですか、きっとその通りです。くう!

怪しいヒト族(多分)。
(話が通じるのなら、どんな存在なのか、会話から探って行くのが良いのかなぁ…)
[バタフライ・アイ]を持つリリーと、レナはそっと目配せしあった。

リリーなら、彼が嘘を言っていたら見抜く事ができる。
覚悟を決めて、レナは再び話しかけてみる事にした。

「ルーカチアスさん」

噛みました。

恥じて黙り込んでいる間に、またも金色に先手を取られてしまう。
浪々と、テノールの、キレイだけど抑揚の少ない声が森に響いていった。

「貴方は”藤堂(とうどう) レナ”。

…職業は”魔物使い”で、今のところスキルを5つまで取得済み。
そのどれもが従魔のためのもの。
運動能力は平均以下だけど、知力は高め。
17歳の女性で、【☆7】の特殊ギフト持ちだね。
へぇ。…[レア・クラスチェンジ体質]かー」

「ーーーー…ッ!?」

…このヒトはなんだろう。
そんな詳細な個人情報を知っているなんて…もしかして、ギルドの関係者なのか?
ザッと、一気に青ざめ焦るレナ。

彼は、言葉を止める様子がない。

「”クレハ”と”イズミ”。
種族はミニ・ジュエルスライム……未だ確認されたことの無かった、希少種のスライム。
レベル5で早々に進化した。
生まれる時に身体が2つに分かれたため、小さな個体となった、魂を共有している兄弟もしくは姉妹。
所持スキルは[溶解]、[超硬化]の2つで、【☆4】のギフト持ち」

『…えっちーー!?』
『なに、覗いてんのよーー!!』

「”リリー”。
テイムされてからまだ育てられていない、♀(メス)のナイトバタフライ。
所持スキルは2つ、ギフトは【☆2】バタフライ・アイ。
[吸血]スキルで主人の血液を身体に取り込んでいるため、次のレベルアップで早くも進化が見込める」

『……えっ?』

「こんなところ、かな」

そこまで言い切った金色は、また静かに黙り込む。
レナたちをじっと見つめていた。
紫の瞳は凪いでいて、そこに感情を見出すことはできない。

詳細な情報をひたすら一方的に暴かれた主人と従魔たちは、驚きのあまり、唖然として固まっている。

(…こんな森のド真ん中でこの反応とは。
ヒト族の彼女は17年間、いったいどんな平和な世界で生きてきたんだろうね?
魂も善良すぎるし、不思議。)

金色はそんな事を”視”つつ、いつまで立っても動かないレナたちに対して「仕方ないな」とでも言いたげな表情で、また話し始めた。

ーーー本題を言うならこのタイミングがいいだろう。

「僕の目って、便利でしょう。
“相手のほぼ全ての情報を視る”事ができる【☆7】スペシャルギフトの魔眼の効果なんだけど。
この能力。逃亡するために、欲しいと思わない?」

「っ!?」

「って、売り込みにきたんだ」

息を飲む、レナたち一同。
その反応に、彼は満足そうに少しだけ笑った。

「つまりね。僕の能力は逃亡するとき有益だよ、って事が言いたい。
【魔眼】なら、これから出会う人の情報が全て分かるし、相手の歩いてきた道なんかも情報として”視る”ことができる。
それでレナたちの事も見つけたんだよ。

ーーーだから、逃亡仲間に加えてくれないかなーって交渉しに来たんだけど。
どう?

今なら【☆7】ギフトに加えて、アイテム収納済みのマジックバッグ、更には、国外までのナビゲート機能もついてきます。
成長促進の指導も得意だよ」

「……!?
ま、待って待って待って!?」

便利!
でも、逃亡仲間にって、どういうこと。

「チュートリアルさん!」

「…ルーカティアスなんだけど。
二人とも追われてるんだし、早めに判断してくれた方が助かるなぁ」

「あ、はいすみません。
って、なに…!?……貴方も追われているの?
(罪人さん?)」

「罪人とかやめて」

「思考読まないでくださいよ!」

レナさんって超素直で分かりやすいです。
「顔にバッチリ書かれてるから」
「くうっ」

ライフをガリガリ削られているレナ。
今の彼女に、『分かりやすい』とか『単純娘』とかの言葉は禁句なのだ。
うーーっと小さく唇を噛みしめて、涙目で悔しそうである。
単純素直が原因でギルドで騙されかけたことを、思い出してしまっていた。
いけないいけない、と沈みかけた気持ちを持ち直す。

向こうのペースに乗せられまくっているけど、きちんと考えなくては。
(……ええと、彼は結局、こちらの仲間になりたがっているの?)

「その話を受けたとして、貴方にどのようなメリットがあるか、教えて下さい」

…見返りを求められない優しさの怖さは、ダナツェラで嫌ほど学んだ後なのである。
疑ってかかれ!
また、うかつに甘い話に乗っかって騙されるわけにはいかないのだ。

学習したことに若干ドヤ顔のレナ。
しかし、初対面のやたら親切な人を疑うのは、ラナシュ人としての常識事項(キホン)です。

…金色さんは言葉を選びつつ、ゆっくりとした口調で、自らの”事情”について話し始めた。

「そうだね。何から語っていこうか」

***

金色の彼の本来の名前は、ルーカティアス・グェイン・ライアスハート。

この、悪名高いガララージュレ王国の王子だった。
“だった”と過去形なのは、今の彼が王宮から逃げてきた逃亡者だから。
腐った政府に[魔眼]を悪用されることを常々イヤだと思っていたルーカは、逃げるチャンスがあったため、躊躇せずに王子の座を捨ててきたのだ。

生まれた瞬間から[魔眼]の有用性を見出されて、服従魔法をかけられていた王子。
いつも、どこに行くにも首輪と護衛が付いていて、王宮から逃げることなんてできなかった。

だが今回、ジュエルスライム騒動が起こり事情が変わる。
逃げたスライムを捕まえるために、どうしても魔眼が必要だという話になったのだ。
欲深い王たちはジュエルスライムを諦めきれずに、ついに、彼が捜索隊として王宮から出される事に決まった。

もちろん、いつものように服従の首輪をつけて、ではあるが。
王たちは首輪を付けることで安心しきっていた。

…しかし、今回はさらにイレギュラーな事情が加わってくる。
用意された服従の首輪に、ルーカの妹がわざと魔法を施していなかったのだ。
こういう理由である。

「今回の遠征では、お義兄さまはもう自由にうごけるわぁ。
どこに行ってもいいのよー?
ぜひ、私の目の届かないところで、野たれ死んで下さいな!」

…キレイな理由ではないが、結果として、王子は自由を手に入れた。

義妹はとにかく自分の美しさを褒められるのが大好きな少女だった。
自分よりも見目の良い義兄を心底憎んでいて、誰にも知られない方法で彼を亡き者にする機会を、ずっと伺っていたのだ。
自分が一番でないと気が済まない。
ガララージュレ王族らしさ全開の、気の強い身勝手な性格の姫。
………。

よしチャンスきた!とばかりに、義妹の言葉を即受け入れたルーカティアス元王子。
遠征隊とダナツェラに辿り着いたとたんに、魔眼で部下たちを撒きまくって森に逃げこんだ。

もちろん生き残るつもりである。
今後、確実に国外逃亡するために、彼は彼でレナたち一行を探すことにしたのだ。
自分だけで国外逃亡することは難しいと考えていた。
同じく逃げたいと考えているだろう彼女たちと、協力できたなら、国外まで逃げ切れる可能性も上がるだろう。

何やら珍しい魔物持ちのモンスターテイマーのようだし、あちらも有益な力を持っているはず。
どんな人物かも分からないのに軽率?
……勘(カン)かな。

***

「こんな理由で、僕も追われていてね。
今もとても危ない身で、できればすぐにでも国外逃亡したい。協力しない?」

「なに、追手増やしてくれちゃってるんですかーーー!?」

レナさん、もう涙目。
ただでさえ、怖ーいギルド関係者から逃げるために必死だというのに、王子の追手まで追加されてるだなんて。
しかもそっちの方が確実に血眼案件である。
やめてーーー!

レア魔眼持ちなんて、政府は絶対手放したくないだろう。

うなるレナ。対する金色王子の謝罪はかっるい。

「そこに注目したかー。うん、ごめんね?」

「そんなんで許しませんよ!?もーー!
…リリーちゃん、この人の言葉に嘘は?」

『……ない』

取り急ぎ、リリーに確認するレナ。
なんとも重ーい話を聞いて、主人と従魔一同は複雑そうな表情をしている。
厄介なものを引き寄せちゃった……と、スライムたちがちょっと落ち込んでいたので、慌ててレナが慰めていた。

「ーーー行こう!」

…しかし、覚悟を決めたようだ。

レナが声をかけたメンバーには、かの金色王子も含まれている。

もう、ここにじっと潜んでいる訳にはいかないらしいし。
早く別の場所に逃げるためには、不本意だけど……
この人がいた方がいいのだろう。

「(コクッ)」
力強い頷きで返された。いや、そういうのいいから!

じとーーーっと、少し恨めしげに金色王子を見やるレナ。
裏切ったりなんかしたら許しませんからね!と、念押しの意味が込められている。いつになく強気なレナの様子に、金色は少し驚いているようだ。

「ごめんね。
迷惑かけた分くらいは、役に立つから」

「…当たり前ですよ、もぅ!
ナビゲーション期待してますから。道案内お願いします、ルーカティアスさん」

「随分、信用までが早かったね」

「ここまで場を整えといて今更そんなこと言うんですか!?
……覚悟は決まりましたから」

もうヤケクソで小さく叫んでいるレナ。
従魔のスライムとバタフライを、優しい瞳で眺めている。

「私は…自分のことは信じられないけど、大切な従魔たちなら信じられる。
リリーちゃんが、貴方の言葉に嘘はないっていうならそれを信じます」

『…ご主人さま。…すき』
『クーが、レナの代わりにレナを信じているからねっ』
『イズもだよーー!』

「!ふふっ、ありがとう。
さあ、一緒に逃げましょう」

レナは、金色(ルーカ)さんの目をまっすぐに見つめて言った。

「うん。
ありがとう。頼りにしてくれていいよ」

その言葉を聞いたルーカは、嬉しそうにほんのりとだけ笑うと、森の奥方よりも少し逸れた方角に向かって足を進め、歩き出した。

そのあとを、レナたち一同も続く。
あ、レナさんなんだかんだ同情してこっそり泣いてます。バレバレだよ?

旅仲間が1名増えて(ほぼ強制)、より賑やかになったレナたち一行。
国外逃亡珍道中は、まだしばらく続いていくようだ。

▽レナは案内人と出会った!
▽元王子ルーカティアスが仲間になった!

 

 

 

 

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