69:思わぬ再会

「ちょっ…お兄さん達、どうか頭を上げて下さい!すごく目立ってますからね!?」

「「女王様は目立つべき存在ですから問題ありません、ご安心下さいませぇ!」」

何を安心しろというのか。
双子の最敬礼がいつまでも収まる様子がなかったので、さすがに業を煮やしたレナはキッ!と目を吊り上げる。

「…怒りますよ!」

「「ありがたき幸せぇーー!」」

「もーーー!」

これはひどい。船内廊下でわいわい騒いでいたため乗客からの注目がシャレにならなくなってきた。
ルーカがクレハとイズミにこっそり目配せをする。
スライムたちはぽよんっと跳ねてレナの肩から降りた。

『『スライムギブスー!』』

クーイズはボディをひも状に変化させて双子弓使いの背中に張りつき、姿勢をぐいっと直立に矯正してみせる!
顔を覆って口を黙らせても良かったのだが、こちらが悪者になってしまいそうなので自重した。

▽双子は驚いている!

面白がったクーイズがさらに締め付けを強めた。

「「ア、アイタアァァァ!」」

「それは少女の心の痛みです…悔い改めなさい」

「「すいませーーんっ」」

[赤の宣教師]が絶好調である。反動によりあとで悪運の襲来に合わないことを祈ろう。
レナは双子を叱るべきかルーカを叱るべきか迷った…が、この場を収めることを優先させたようだ。
ゆっくり視線に晒されていると船内でも話題の人になってしまう、航海は長いのだ…それは避けたい!
手遅れだという反論は受け付けないのでよろしく。

スライム拘束を解かれた双子は床に膝をついてしばらく悶絶していた。しっかり逆関節がキマっていたらしい。
ちょっぴり大きくなったハマルが背に双子を乗っけて、レナ達は後ろを振り返ることなく早足で甲板(かんぱん)へと移動した。
▽視線が 背中に 突き刺さっている…

***

甲板(かんぱん)の片隅でこそこそと話し合っているレナと愉快な仲間たち。
先ほどの騒動を目にした者からたまーに好奇の視線を寄越されているが、なんとか騒ぎにはならずに済んでいる。

はあ、とため息を吐くレナの表情が疲れている。
対照的に双子の表情は晴れやかなものだ。まるで反省していない。

「なぁーんだ、今は女王様じゃなくて魔物使いレナちゃんだったのかー。
そりゃいきなり敬われても困るよなぁ。ごめんね!」

「うん、驚かせてごめん。
俺たち女王様のことちょーリスペクトしてるからさ、ついテンション上げちゃったんだよねー。
同じ船に乗り合わせるとかまじ運命っぽくない?もしや使徒として俺らも認められた的な?」

「まじで!イケメンデビューしてるかな!?」

「ちょ、俺の顔見てみて」

「うーん変わってないなー。こっちはどう?」

「うわ、目の前に俺がいるわ」

「表現遠回りすぎだろ!?ふははっ」

…疲れる。レナたち全員が同じ感想を抱いていた。
比較的似たかけ合いをするクーイズもついて行けていない。

よくしゃべる双子の弓使いは口調がチャラ男風で、声のボリュームを抑えてはいるもののかなり騒がしい。
ケラケラと笑う彼らの容姿はまあ、標準。
ただ身なりにかなり気を使っているため、雰囲気イケメン風だとフォローしておこう。
そっくりな造りの色白の顔に明るいレモンイエローの髪、緑の瞳。
チロル風の服装は故郷の伝統衣装なのだとか。
そして、長く尖った耳が特徴的だとレナは思った。
以前ラチェリで会った時には弓兵用のヘルメットを被っていたため気付かなかった。

「お二人はヒト族なのでしょうか…?」

「「いやいや、エルフ族だよー」」

レナが言葉を選んで問いかけると、なんともかるーい返事が返ってきた。
地球ではファンタジー小説によく登場するエルフ族。
ラナシュ世界におけるエルフ族はどちらかといえば魔人族寄りの存在で、ジーニアレス大陸の森林地帯にいくつかの集落を作り暮らしているそう。
服飾一族として有名で、質のいい織物や服、裁縫小物作りを伝統的な生業としている。
集落同士の仲は良好、部族ごとに異なった布の織り方や個性的なチロル模様が受け継がれていた。

双子の弓使いが現在身につけている伝統衣装は装飾が多く、戦闘には不向きに見える。
その事についてレナが尋ねると、ちょっと照れくさそうに笑った。

「なんかさー、ラチェリでドラゴン親子を見てたら急に故郷が恋しくなってきちゃったっていうか。
俺ら家出同然に旅立ってきたけど…一回帰省してみようかなー、って。
んで、正装した的な?」

「そうそう。心に気合い入れるためにもねー。
家に入れてもらうには父様に謝り倒さなくちゃいけないからさ、せめて誠意を見せようって魂胆もアリ。
…多分めちゃくちゃ怒られるだろうからなぁ…うわー、ヤダヤダ!会うの怖くなってきた。
だって書き置きだけ残してクールに去って来ちゃったもん。母様には泣かれそうだなー、そして更に父様の怒りを買う、と」

「それな。気が重いっちゃー重いんだよね。
…でも、なかなか優秀な弓使いになれたよって報告したら二人とも喜んでくれるかなって。
息子は元気でやってるよー、ちょっとは冒険者として認められてるんだよ、って報告しに行くよ。
俺らはちまちま裁縫するより狩りをする方が性に合ってるからさ。使いにくいデカ弓極めてみようぜ!って思い立って腕を磨くために旅に出たんだ。
こういうエルフ族は珍しいね」

「思い立ったが吉日!って家出してきちゃって。
実家にいたら弓より服飾技術磨けって父様がうるさいしー…ウチ結構な名家だからさぁ、家を継いで欲しいって気持ちも分かるんだけど。弟か妹に期待したいね。生まれてないけど」

「うん、悪いけど細かい作業向いてないもんな」

「それな」

双子は長々と話すと、ヤレヤレとばかりに肩をすくめた。
同じテンションで相槌を打つ相棒がいるため、おしゃべりがなかなか止まらない。
現在は服飾が伝統事業になっており交易で日々の糧を得ているエルフ族だが、大昔には大弓を使って狩りをする狩猟民族だったのだとか。

なるほど、とレナ達が頷く。

「黙って家出とは…かなりご両親に悪いことをしてしまいましたね。
ここは素直に謝って怒られるべきでしょう」

先ほど自らの叱責が効かなかったこともあり、レナの反応は少々つめたい。
双子が絞られることに大いに賛成している。
自由すぎる彼らには熱ーい灸が必要だろう。ついでに空気を読むスキルが身につくといいのだが…そこまでは高望みか。

エルフ族の寿命は約400年。外見年齢はヒト族と同じように成長し青年期で成長が一時的に止まるため、この双子のように精神年齢が外見に追いついていない者が稀に存在する。
見た目は大人、中身は子供ということだ。
厄介な人物とはほぼ確実に知り合ってしまうレナ…これも運命なのだろうか。
すべてのエルフ族がこんなにチャラい訳ではないと言っておこう。

「えー、レナちゃん助けてー。何か助言くれない?」
「うんうん、父様のお小言が少なくなるような魔法の言葉を教えてほしいなー、なんてね!」

「私が知りたいですよそんなの…!」

アリスとモスラのお説教を控えているレナはかなり切実である。
思わぬ反応を返された双子はポカンとしていた。
レナは咳払いしてごまかす。

「んんっ!ま、まあ、それは置いておいて…。
気まずくてもきちんと謝らないと、いつまでもご両親との時間を作れませんよ。
ご両親はお二人にとって大切な存在なんでしょう?
せっかく同じ世界で同じ時間を過ごしているんですから、大切な人との縁は手放さないで下さい。
“今”が永遠に続くわけではありません。
共に過ごした思い出を生涯でどれだけ作れるかは、自分の行動にかかってるんですよ」

「「深い…」」

双子エルフは感心したように呟いて、頷いた。

目の前の小さな少女はどのような人生を送ってきて、この答えに辿り着いたのだろうか、としんみりと考える。
家族を大切に、と口にするレナは冒険者として旅をしている。同行者はいるものの宣教師ジミーは兄ではなさそうだし、魔物たちとの関係も特殊。
双子は、両親とは事情があって会えないのだろう…と思い至った。
冒険者として生活するうちに、子を残して命を散らせてしまった親や両親に先立たれ孤児になった子供を見てきた。
もしくは…レナの場合、[赤の女王様]に関係した複雑な事情があるのかもしれない、との答えを導き出した。

後者は大ハズレである。
しかし、なんだか申し訳なくなった双子はしゅん、と眉尻を下げた。
ルーカの猫耳もぺたんと伏せていた。

この反応に、あれ?と首を傾げたのはレナ本人だ。
言葉通り、家族を大切にね!と伝えたかっただけなのだが…こんなにも落ち込まれれるのは予想外。あわててフォローする。

「…ウチの子達もきちんとごめんなさいできますから。謝るのって難しくないんですよ!」

今回双子が恐れている点はそこではないし、幼い魔物と比較するのはどうなんだろう。
レナはちょっぴり混乱していた。

『うん!前にレナへのくすぐり攻撃止めなかったら叱られちゃったよー』

『バスルームで走ると危ないよーってよく言われるよね!』

『『でもでも、ちゃんと謝ったら許してくれるよ。
レナは従魔を家族みたいに愛してくれるからね〜』』

『血の、繋がりのある…仲良しのご両親なら。きっとお兄さん達の事、すごく…心配してるはずなの』

『ごめんなさいしよーよ。
大丈夫だよー、愛のあるお叱りってご褒美だからー』

「ホラ、ウチの子たちもこう言ってますし!
元気出して下さいお兄さん達。早くごめんなさいして、許してもらいましょうよ。
幻黒竜たちにも謝って和解出来たじゃないですか」

「た、確かにー。
いや俺ら魔物の言葉わからないけどね?」

「ウルルの親に謝るのめちゃくちゃ怖かったよなぁ。お互い様だからって精霊様が状況説明してくれなかったらどうなってた事やら。
まあ、それに比べたら父様は怒られるだけって分かってる分マシか…」

「うん。頑張れ!頑張れ!」

「「…っす!謝る勇気出たっす!あざまーす!」」

レナの有難いお言葉により双子は心を奮い立たせることが出来たようである。
久しぶりに父様に会うのも何だかんだ楽しみ、と笑顔で口にしていた。

話を聞くと父親は無口で頑固、母親はおっとりしていて優しい人らしい。エルフ族には物静かな人が多いのだ。
どちらも子供思いの良い親だと思う…と船の進む方角を見つめながら、双子は穏やかに告げる。

父親の苦言とやらは、いつまでも職を定めようとしない息子たちの将来を案じたからなのでは…?とレナは感じていた。おせっかいすぎるので口にはしないが。
兄弟エルフが家を出た当時の年齢は30歳。現在は35歳で見た目は20代前半、思考は中学2年生というところか。
エルフ族は25歳ごろには生涯の職を定めるらしいので、レナの勘はハズレていないだろう。
両親にはそうとう心配をかけていたはずだ。
レナが双子を見る目が少し生あたたかかくなった…が、やりたい事を見定めるために必要な期間だったのだ、と考えよう。

「お兄さん、じゃなくて名前で呼んでよレナちゃん!」

「俺たちはライアンとオーウェンだよ。覚えてたかなー?え、忘れてた?」

なるほど、オーライ、引き返せお前たち…と略したくなる。

「覚えていますよ。ではお名前で」

「やったね!ところでさぁ、ジミーの猫耳どうしたの?」

「信仰心高めすぎて女王様のお声を確実に拾うために第三第四の耳生えちゃったの?」

「その通りです」

「「すげー!」」

「ちがーう!」

ルーカは変にノリがいい所がある。
双子エルフの兄弟とわいわい話していると時間が過ぎるのがとても早い。
早朝に船に乗って、現在はもう太陽が真上に登ってきていた。
そろそろお昼ご飯の時間だ。
甲板にいた乗客はすでに殆どが船内に引き返している。

レナ達も食堂に向かうことにした。

「今日の献立は何かなー」
「お昼は日替わりのプレートランチが人気なんだってね」

双子の呟きを聞いたレナは、得意げに口を開く。

「ふふふ、その辺のリサーチは抜かりありません!
今日の日替わりランチはイカとお野菜のトマト煮込みだそうです。コーンスープとパンも付いてますよ。
従魔たちはイカが大好物なので、私たちは皆これを注文するつもりです」

『『イカは魔物状態の味覚にも合ってて美味しくいただけるのだー!』』

船内では食堂で食事をすることになる。
従魔たちはしばらく魔物姿でご飯を食べなくてはならない。
嗜好の合う食材をきちんと選んであげなくては、とオカンはメニューを予習していた。

「ハーくんも成長して草以外も食べられるようになったし、よかったねぇ。リリーちゃんには私の分のコーンスープもあげるからね」

「僕のもどうぞ」

『何でも美味しく頂ける雑食ヒツジになりましたー』

『ありがとう、ご主人さま!ルーカ!…デザートも、楽しみにしてるね。お願い♡』

デザート、つまりはご主人様の血液である。

「は、はい」

ルーカを横目で見ると「今の血液量なら多少提供しても大丈夫」とテレパシーで告げられたため、親バカレナは頷くしかなかった。

レナパーティはイカを好むのかー、そうなのかー。承知した。
船内レストランの食事はなかなか美味しかったようだ。

▽Next!イカ祭り

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!