68:港街グレンツェ・ミレー

足元の白い石畳、白い建物が太陽の光をまぶしく反射している。
少し遠くに見える海は爽やかな青で、港街全体を眺めるとラビリンス<青の秘洞>によく似た色合いだなぁ、とレナは早くも懐かしさを感じていた。

ここは港街グレンツェ・ミレー。
ミレー大陸とジーニ大陸をつなぐ玄関口である。
ミレー大陸には大きな港がいくつか存在していて、その中でも魔王国に一番近いグレンツェは特に賑わっていた。

海特有の潮のにおいがほのかに漂ってくる。
大きな船からは常にたくさんの貨物が運び出されており、どこを向いても商人たちが騒々しく道を行き交っていた。
いかにも港らしい活気に満ちている。

街の建物はすべてが商業施設であり、個人の家は存在しない。
いくつかの国が共同で港を作ったため、新たにグレンツェ住民の籍を設けることが難しく、国家間でトラブルが起きないようにと住民権をあらかじめ設定しなかったのだ。
店舗を借りている商人たちは皆、国営の宿屋に宿泊している。専用の割引がある。

街の中心には大きくて目立つ国営商業店舗が九つ。
どれも純白でよく似た外観だが、建物の大きさは港への出資金により異なっていて、それぞれの国旗が飾られており装飾で各国らしさがアピールされていた。
道沿いには小さな商店が連なり、個人商人が貸店舗で商売をしている。
一見自由に展開しているように見える食べ物屋台群も、細かく営業場所が定められているなど、商売の権利が平等になるようきちんと配慮されていた。
賑わうこの港で稼ぎたい者は山ほどいるのだ。
書類選考を勝ち抜き営業権を手にした優秀な商人たちの扱う商品、サービスは当然どれもとても質が高い。

レナ達の買い物もはかどるはかどる。

「これ…!見て見て、すっごく可愛い幼児用ドレスー!
絶対リリーちゃんに似合うよねぇ」

『わぁ!可愛いねっ』

▽レナは ラブリーチャーミー水色ドレスを 手に取った。

パフスリーブの袖とレース素材の襟、薄いシフォン生地を幾重にも重ねたふわっふわのスカートがとても可愛い一品である。
淡い水色は褐色の肌に映えるだろうし、ヒト化したリリーが着たらきっとビスクドールの様に可憐だろう。

港街に入ったレナたちは早々にお店を周りはじめ、さっそく子供服屋で足を止めていた。
店の名前は「リトル・チャーム」。商品の半分以上は子供服だ。

レナと共に水色ドレスを眺めるリリーは楽しそうに羽をパタパタ開閉させていて、クーイズ、ハマルも口々にドレスの可愛さを褒めている。

「んー…ドレスは日常使い出来ないからやめた方がいいと思うけどなぁ…。
でも、よく似合うだろうね。
こっちのこれは動きやすそうだと思うけど。どう?」

皆がドレスに夢中な中、ルーカだけがほんの少しだけ忠告をする。困ったように笑っていた。
まあ、苦言の後ばっちりリリーをフォローしているが。
ルーカは隅のほうにこっそり展示してあった、どこか手作り感がある聖歌隊風の衣装を手に取る。

▽ルーカは エンジェル・デビルゴスペルを 手に取った。

デザイン違いの二種類の聖歌隊服。ゆったりしたデザインで、それぞれ背中に天使と悪魔の羽が付いていてこれも可愛い!
お揃いの衣装はクレハとイズミにぴったりだろう。

ミレー大陸では、コスプレ風の衣装が流行っているのだろうか…?
この店舗には猫耳カチューシャやらメイド服やら着ぐるみやらといった、日本でも見かけるコスチューム衣装がいくつか並んでいた。
猫耳の質感が妙にリアルだったり、それぞれの商品に[腕力強化][魅力+]などの魔法効果の札がつけられているところが異世界っぽい。

店主のお姉さんはチラチラレナたちを見つめているものの、話しかけてくる事はなく俯いて裁縫をしている。なんとなく声をかけづらい…。
レナはルーカの手にした服をじっくりと見て、リボンの棚に手を伸ばしひとつを取り出す。

「確かに、それも可愛いですね!
結構シンプルな作りだから…裾にレースのリボンを縫い付けたらもっと可愛くなるかも?
この白のレースリボンがよく合うと思います。
あと、小さなビーズを縫い付けてもいいかと」

「…!うわぁ、素敵な組み合わせ…!
…あの、あの、うちの商品を気にかけて下さってありがとうございまひゅっ」

「わっ」

店主のお姉さんが突然立ち上がり、なにやら大きめの声でレナたちにお礼を告げた。しかし見事に噛んでいる。
レナが驚いてびくっと肩を震わせると、あ…と小さく呟いて恥ずかしそうにまた奥に引っ込んでしまった。
展示された子供服に埋もれており上半身しか見えていない彼女だが、立ち上がった時に見えた服は凝った装飾のシスター服だった。
店主自身もコスプレを楽しんでいるようだ。

▽シスターお姉さんは チラチラと レナたちの様子を伺っている!

話しかけてみよう。

「あの」

「ひゃい!?」

▽シスターお姉さんは 動揺している!

「…え、ええと。ここにある子供服、全部とっても可愛いですね。
特に羽付き服とか猫耳カチューシャとか、他のお店とはまた違った個性的なデザインが素敵です。
お姉さんが自作なさってるんですか?」

「えっ、えっ?ど、どうしてそれを…」

「お手元のお裁縫途中の衣装がコスチューム系なので、そうなのかなーと思って」

「あ…」

お姉さんは顔を赤くしておどおどとレナと衣装を見比べていたが、やがてなにやら覚悟を決めた表情になり、手元の衣装を皆によく見えるようパッと掲げてみせる。
ついでにうっかり待ち針で指を引っ掻いてしまい、「イタタ」と声を上げた。
控えめにレナに問いかける。

「これ、新作なの。どうかな…?」

「可愛いと思います!」

「本当…!?」

ぱあっと笑顔になったお姉さんが掲げていたのは、チャイナドレス風メイド服。なかなかマニアックな選択である。
異世界ラナシュには東国が存在するというので、そこの文化なのだろうか?とレナは少しだけわくわくしていた。
トイリアの魔法使いジーンから故郷の東国の様子について聞いた時、どことなく地球のアジア文化と似ている気がしたのだ。

お姉さんは照れ臭そうに笑っている。

「私のデザインした服、可愛いって言ってもらえてとっても嬉しい…ありがとうございます。
…初めてこんなにたくさん褒めてもらえました。
こういう、特定の職業の制服や伝統衣装をアレンジした服ってとても可愛いと思うんですけど…なかなか考えに賛同してくれる人がいなくて。
裁縫師さんにシリーズで商品化することを相談したけど、売れ筋にならなさそうだからって大量依頼を断られちゃうし。でも一点ものの制作依頼は高額だし…。
商品として需要は見込めなかったけど、どうしても諦められなくて自作を始めたんです。
まだ慣れなくて一着作るのにもかなり時間がかかるし、スキル持ちのプロみたいには縫製できずに苦戦していますけど…今日お嬢さん達に褒めてもらえて、諦めず頑張ってて良かったなぁって思いました。えへへ。
衣装の好みを共有してもらえて、本当に嬉しいです。ありがとうございます…!」

「いえ、そんな。こちらこそ、このお店には素敵な服がたくさんあって私たちも楽しませてもらっていますから。
衣装作り応援しています!」

「嬉しい…!」

お姉さんは目にうるうると涙を溜めはじめてしまった…ルーカが恐る恐るハンカチを差し出すと、お礼を言って受け取り、涙を吸わせる。
そしてにこっと微笑んだ。

「もし良かったら、私の手作りの衣装はすべて3割引いたしますのでご購入頂けませんか?
お嬢さんみたいに可愛らしい方に是非着て頂きたいんです…」

「えっ。でも、コスチューム衣装は元々かなりお手頃なお値段なのに。
更に割引までしてもらっていいんでしょうか…手間もかかっていますよね?」

「私の趣味で販売している物ですから。
もしコスチューム衣装に興味を示してくださる方が増えたら嬉しいですし、こちらとしては是非お嬢さんに着て頂きたいです!」

実際に着るのはヒト化した従魔たちなのだが、店主のお姉さんは、レナが子供服を着るものだと思っているようだ。
さすがに既製品の水色ドレスは小さすぎて着られないが、お姉さんお手製の衣装は着る人のことを考えて伸縮性のある生地でゆったり作られているため、レナでも何とか着用できそうである。
ラナシュ基準では成人しているんだけどな…なんて考えながら、レナは苦笑しつつ胸に手を当てた。

しかし割引してもらえるのはとてもありがたい。
お手製の衣装をいくつか購入していく事にした。

▽ゴスペル風衣装×2を 購入した!

▽クラシカルメイド服を 購入した!

▽軍服風メイド服を 購入した!

▽萌え袖ふわふわセーターを 購入した!

▽もふもふ襟付きコートを 購入した!

▽金色猫耳カチューシャを 購入した!

買いすぎである。
存分にお姉さんの趣味嗜好が反映されている圧巻のラインナップ。
レナはここに更に追加で、赤い魔法リボンとリリー用の水色ドレスを購入していた。
赤いアイテムには祝福装備化をほんのり期待している。

買えば買うほど割引を上乗せされるので、気付けばついついあれもこれもと手に取っていた。
お姉さんは最初こそ人見知りするタイプだったが、一旦話し始めるとお客を乗せるのがかなり上手く、港入り口近くの一等地に店舗を構えているだけあってとても優秀な商人だった。

「ありがとうございました!是非コスチュームプレイを楽しんで下さいね!」

ほくほく顔のシスターお姉さん。
レナは「サービスに」と頭に装着されたヘッドドレスのリボンを揺らして軽い会釈を返すと、仲間と目を合わせて頷き、食料品街の方へこそこそと歩いていった。
“コスプレ”という表現を口にしたのはレナの過失だが…コスチュームプレイと聞いた周囲から向けられる視線が痛い、痛すぎる。
レナが早足で歩いたせいでつまずき、ローブを後ろから引っ張られたルーカは見事な首締めをくらった。
最近調子が良かった反動かもしれない。

レナ達の姿が見えなくなってしばらく経つと、お姉さんのお店には数人の男性がやってくる。
誰もがかっちりとスーツを着込んでおり、お偉方の雰囲気を漂わせていた。
観光客はぎょっと目を見張っており、商人たちは事情を知っているのか各自の用事を優先させている。
幸せそうに表情をとろけさせるお姉さんを見た男たちは、驚きの表情を浮かべていた。

「…レイチェルお嬢様。なにか、良いことがありましたかな?」

「うん!そうなのー。私が趣味で販売しているコスチューム衣装を褒めてくれる子達がいたのよ。とっても嬉しいわ…!
やっぱり可愛い子にはコスプレよねぇ」

「コスプレ、ですか」

「コスチュームプレイ。特別な衣装を着て楽しむことなんだってー。服を買ってくれた女の子が教えてくれたの」

「そ、それはなんともまた…ごほっ、ごほん!」

「…特殊な発想ですな」

不純な大人たちがよからぬ想像をしているが放置しておこう。
男たちは店主のお姉さん、レイチェルにスッと魔道具の眼鏡を差し出した。

「お嬢様。そろそろ国営店舗の方にご来場頂きたく。
大商家オーヴァーの商品展にはお嬢様の手助けが不可欠ですので」

「…ん。お父様からもその件についてはよろしく言われているものね。
リトル・チャームをこうして私好みに営業できるのも、本業をしっかりこなしてこそって約束だし。
分かったわ、すぐ向かいましょう」

「助かります」

お姉さんはそっと目を伏せると、丸縁のメガネをかけた。
すると、おっとりしていたタレ目には強烈な光が宿り、地味だった表情を一気に華やかに引き立たせる。
誰もの目を惹くほどの圧倒的な存在感を放ち始めた。勝気に笑う。

「…商品の魅力を引き出す話術には自信があるもの。私に任せて!
集められた商品はすべて売り切ってみせるからね!」

「頼もしいお言葉、ありがとうございます」

「ん!」

[目覚めの眼鏡]の効果は”本人の隠れた才能を引き出す”というもの。
代々続く大商人家の長女、レイチェルは男たちに輝かんばかりの笑顔を返した。
オーヴァー家の者は皆、一見気弱だが心の奥にキラリと光る商才を秘めている。
全員が魔道具のメガネを装着し熱く商談している光景はまさに圧巻の一言だと、商人たちの間では有名な話だ。

レイチェルが持っているのは良い商品をとことん売り込む才能。販売経路の調整、ブランド展開もお手の物である。
ただし、自らの趣味物に関してはあまりに周りから共感が得られなかったため上手く売り込めていない。
手作りした縫製のあまい衣装についてはまだまだ自分でも”良い品だ”とは言えず、納得がいかないため話術を発揮できないようだ。

それでも、自分が心を込めて作った衣装を手にして好きだと言ってくれる人がいた。
レイチェルは晴れやかな気持ちで、シスター服の裾を揺らし街道でくるりと一回転。
めちゃくちゃ目立っている。ちなみに前転ではない。

後ほどメガネを外して素の自分に戻った際には、この行いを恥じて大いに後悔することだろう。
大商人レイチェルはどこぞの女王様を彷彿とさせる日々を送っていた。

お嬢様を見つめる男たちは驚いた様子もなく、慣れたものだ。
何事も無かったかのように一人が店番を代わり、他の者はレイチェルをエスコートしつつ国営店舗へと足を進める。

あの大商人一族の者が売れない商品にこだわる訳がない。いつかコスチューム衣装が人気となり、日の目を見る時が来るのだろう、と信じて…男たちは今日もレイチェルの奇行を生あたたかく見守っていた。

***

「ご覧下さいこの海鮮の山を!
えーとね、おっきな海老にホタテ、イカ。お魚もあるよぅー…!素晴らしいですね!
気になる食べ方はというと…浜焼きでーす!」

「うわーい!」
「レナ、浜焼きってなぁにー!?」

「あ、そっか。網の上で豪快に丸ごと焼くって調理法だよー。本当は海辺で雰囲気を味わいつつやるものだけど、皆が魔人族になれないからね。室内で楽しみましょう。
というか、網焼きって言えば良かったね」

「「わーい!わーい!」」

「ではルーカさん。キッチンが煤けてしまわないよう、網周りを光の聖結界で囲ってもらえますか?
消臭魔法は私がかけますので」

「了解。[サンクチュアリ]!」

▽ルーカは 光魔法[サンクチュアリ]を唱えた!
▽小さな結界内部で 海鮮がいい具合に炙られている。

精霊様の恩恵の使用方法はこれで良いのだろうか。いいのだ。

日も落ちて暗くなり、レナたちはお宿♡で食事の準備を始めていた。
そう、お宿♡である。
ここは淫魔ムーティのお宿♡、魔王国がバックについたれっきとした国営施設だ。外観は…ピンク電飾が控えめに輝いている、とだけ言っておこう。
ルルゥの店と比べるとだいぶおとなしめの装飾なのは他国に遠慮をしたらしい。

案内所で淫魔のお宿♡があると聞いたレナはここに宿泊することを即決した。
あやしげな名称に眉を顰めたルーカに対してお布団のふかふか具合、コスパの良さ、充実したサービス云々について熱心に説き、渋々ながらも首を縦に振らせたのだった。
案内所の職員は少し複雑そうな表情で、幼く見られがちな少女と20代後半あたりの黒髪青年を眺めていたが、問題なく予約を取ってくれた。
現在のルーカとレナの見た目年齢の差が原因で、周囲からは少々よろしくない視線を向けられがちだ…。

▽ジーンは [ロリコン]の称号を 取得した!

変身元ネタの彼はむしろ熟女好きなのだが、ひどいとばっちりである。

淫魔ルルゥは全てのお宿♡にレナの情報を伝えていたようで、受付で名前を告げて従魔も共に宿泊させたいと伝えたら「あ!話題のレナちゃんねっ」と店主に投げキッスを贈られた。
従魔がのびのび過ごせるように、と淫魔ムーティは親切にも広めの部屋を手配してくれた。
スイートルーム一歩手前の豪華な部屋には大きなキッチンが備え付けられており、許可をとって網焼きを実施することにしたのである。

「…ホタテがそろそろ良い具合かも」

レナはいつになく真剣に、火の通り具合を見極めている。
ぱかっと貝殻が開いたホタテは旨味の凝縮されたエキスを大ぶりな身の周りにたっぷりと蓄えている。
この見た目だけでも、もうたまらない。
消臭魔法効果により匂いは遮断されていたが、ほわんと立ち昇る湯気がいかにも美味しそうで皆はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「…ご主人さまっ!味付けは、どうするの…?」

「露店のバター焼き、美味しそうだと思ったけどなー。どうでしょうかー?」

リリーとハマルが、レナを急かすように尋ねる。
従魔たちは既に魔人族姿になっており、海鮮の味を楽しむ気満々だ。

海鮮焼きを売っている露店ではまずバターで風味を付けて、塩、スパイスとハーブで味付けをしていた。
レナは頷くと、小さく角切りにしたバターをホタテの貝殻の上に乗せる。
じゅうっ!と香ばしそうな音が聞こえた。
レナが結界に手を突っ込めたのは何故かと言えば、結界を張ったのが多芸なルーカだからである。それだけで説明は事足りるだろう。

じーっと網の上を見つめ続ける幼児たちの前に、ようやく小皿に乗ったホタテが登場した。
手を伸ばしかけた幼児たちを「あと少し」と制して、レナはニヤリと笑う。

「貴方たちをこれから味覚の楽園に招待しましょう…楽園へと続く扉の鍵となるのが、こちらの万能調味料。お醤油です!」

「「「「おしょーゆ!」」」」

「はい、よく出来ました。
では、これをホタテに垂らします…」

レナは数滴、赤みを帯びた醤油を手に持ったボトルから垂らす。
バターと混ざり、魅惑の芳香を醸し出すおしょーゆが!たまらない!
結界の外に出されたホタテは香りも湯気ももう遮られることはない。
さあ、思う存分食すがいい!ふーふー、と息を吹きかけて齧りつくのだッ!とホタテ自身が主張しているかのようだ。

「いっただきまーす!」
「あっつぅい!」
「んんっ…美味しいっ…」
「ふあああぁ…!」

歓声を上げつつ、夢中でもぐもぐ口を動かす従魔たち。

ミレー海域で水揚げされるホタテはしっかり熱すると、貝柱も貝殻から自然にほろりと剥がれる。
大ぶりな身をクレハとイズミは丸ごと口に放り込んでおり、リリーとハマルはフォークで切り分けてちまちま食べていた。
皆幸せそうな表情で、バター醤油ホタテを味わっている。

「はい、次が焼けましたよー。ルーカさん、どうぞ」

「ありがとう」

「すっごく楽しみにしてらしたんですねー…?猫耳がピコピコ動いてて、とても分かりやすいです!ふふっ!」

「う…」

焼きたてのバター醤油ホタテを目の前にした金色ルーカはレナの言葉通り、猫耳をかなり大きく揺らしていた。喜びの感情がダダ漏れである。

これは先ほどレイチェルの店で買った魔道具の猫耳カチューシャ。本物の猫耳のように本人と馴染む効果があった。
黒髪青年ジミーの時にはリリーがまとめて[幻覚]をかけてくれている。
パッと見は獣人のように見えるし、元王子としての身元バレ防止になりそうだから、とルーカ自ら購入を決めたのだが…ちょっぴり後悔している様子。
思った以上に敏感に感情に反応してしまうようだ。

へにょん、と力なく伏せた猫耳を見てレナがおかしそうに笑う。
そしてホタテが冷める前にと、二人もアツアツの身に齧りついた。

口の中いっぱいに旨味がじゅわっと広がる…!
舌で撫でればそれだけで身はほろりと崩れて、口当たりも良く、バター醤油の風味が良い味のアクセントになっている。
ルーカの猫耳がピン!と立って、また仲間たちに笑われてしまった。
この光景に皆が慣れるまでは、しばらくからかわれ続けるだろう。

炙られて赤くなった海老は皮を剥いて、塩か醤油を少しだけ付けて豪快に食べる。
イカはあらかじめ切込みを入れて焼き、甘辛いテリヤキソースを絡ませてみた。幼児たちに特に好評だった。

魚も…と思ったが、かなりお腹が膨れてしまったので、翌日の朝ムニエルに調理された。
オカン力の高いレナは魚も捌ける。

新鮮な海の幸をこれでもかと満喫したレナたちは、大満足で早々に寝床についた。
翌日には早くも魔王国行きの船に乗る予定なので、しっかり身体を休めておかなくてはならない。
どんな所なんだろうね、と楽しく話しているうちに、いつの間にかぐっすり眠っていた。

***

船で大陸を渡るには数日はかかる。
ドラゴンに変化した竜人族が客船を運ぶ空の便ならば約1日で大陸を渡ることが出来るが、月に数回しか運行しないので、レナたちとは今回タイミングが合わなかった。

グレンツェの港には長い航海に耐えられる巨大で頑丈な船がたくさん並んでいる。
レナ達はその中の一隻の列に並ぶ。
主に観光客や旅人が利用する客船だ。

大きな帆が風に爽やかになびいている。
風の力だけに頼って進むのだろうか?とレナは首を傾げたが…おそらく魔法の力も借りて常に順調に進むよう工夫されているだろう。
ここは魔法が存在する異世界ラナシュなのだから。
旅をして、知らない文化に触れるたびに地球との違いをひとつひとつ思い知らされる気になる。

…なんだかしんみりしてしまい、レナはふっと細く息を吐きだした。
繊細な心の変化をなんとなく察した従魔が身体をすり寄せてきたので、レナはありがとう、とお礼を言ってそれぞれの好きな場所を撫でてやる。

こうして可愛い子達と触れ合っていると、不安な気持ちなんてどこかに飛んでいってしまうようだ。
まっすぐ前を向いて、しっかりした足取りで船に乗り込むレナは、思い悩むことがあっても持ち直しは早いのである。
ついに客船は出航して、思い出がたくさん詰まったミレー大陸からぐんぐん離れていく。

女王様としての地位を図らずとも築いてしまった場所を離れたことだし…ジーニアレス大陸では静かに過ごそう、とレナは一人密かに決意していた。
宣教師が隣で意味深に頷いている。
つんつん、と二の腕をつつかれる。

彼が指差す先をおそるおそる見やると…何やら見覚えのある人物が、二人。
この場ではあまり再会したくなかったのだが。

「…あれっ、レナ様じゃーん!」
「お前っ、ダメだろ!違うだろ!まず敬礼だろ?」
「あ。いっけね」

「「レナ女王様!お久しゅうございますー!」」

穏やかな門出もひっそりした生活も、無情にも瞬時に泡となって消えてしまった…自身で蒔いた種のせいだが、なぜだろう、納得がいかない。

▽双子の弓使いが 現れた!
▽双子は レナに 最敬礼をとった!

赤の女王様信者の中でも最も口が軽く、また空気を一切読めない人物である。
あの呪術師イヴァンとの戦闘の時に居合わせた上級冒険者だ。
つまり、女王様状態のレナをよーーく知っている。

…厄介な人物と船に乗り合わせてしまった。
しかしすでに港を出てしまっているため、ここで彼らと距離を取ることは不可能。
船上は閉ざされたコミュニティ。
早くも集まる注目、レナの旅路はどうなる!いつも通りの展開である。

▽Next!船上での再会

 

 

 

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