67:旅立ち

精霊祭も無事に終わり、レナたちは2日後にラチェリの街を発つことになった。
どうして2日後なのかと言えば、お祭りの屋台群に興奮したレナがついつい食べ過ぎてしまい、翌日はお腹を壊してぐったりと寝こんでいたからである。
過ぎた食欲は身を滅ぼすのだ…と、青白い顔で残念な名言を生み出していた。

▽赤の宣教師により 有難いお言葉として 広められた!

アネース王国を出国してから自然保護区域の草原を抜けて、ジーニ大陸に渡るための大船が停泊している港街を目指す予定である。
港街は数国が共同で資金提供を行い作られた、とても広くて活気のある所らしい。
アネース王国を含むミレー大陸のいくつかの国々、そして魔王国、それぞれが自国の特産品を扱う大きな商業店舗をかまえている。
それを聞いたレナと従魔たちが目を輝かせたのは言うまでもない。
おいしい食べ物と可愛い子供服がたくさんある気がする!とはしゃぎ、自分が生んだ名言をさっそく忘れているレナ女王様であった。

ラチェリの街を発つのは早朝と決めた。
赤の信者たちに最敬礼で見送られてしまう可能性があったため先手をとったのだ。
レナは赤のローブの上にさらに一回り大きな薄茶色のローブをはおって、赤色で目立ってしまわないよう対策をしている。
クレハとイズミはローブのフードの中。小さくなったハマルを肩に乗せて、姿を消したリリー、ジミメンルーカと共にこそこそと街路を歩いていく…。

まだ薄暗い、人気の少ない街を抜けて街の出入り門へ。
こじんまりした門のそばには顔見知りの門番の姿が見えた。
彼に「また是非お越し下さいね。お待ちしております、赤の女王様」とあたたかい言葉をかけられたレナは、あっけなく泣き笑いの表情になってしまった…ラチェリの街にもなんだかんだ長く滞在していたため、いつの間にか愛着が湧いていたようだ。

街を振り返ると、上空で輝く風をまといながら宙返りしているネッシー&フィーネが見える。笑顔で手を振られたので、レナたちも大きく手を振り返す。
何度経験していても、友達とのお別れは寂しい。
また絶対会いに来ようね、とから元気で仲間たちに明るく話しかけて、レナはなんとか笑顔を保ったまますんっと鼻を鳴らした。

くるりと踵を返して、ひっそり静かに街を出る。クールな退場である。

「「「いってらっしゃいませぇ!赤の女王様ー!」」」

…そのような退場が叶うはずがなかった。
まるで示し合わせたように各家から、脇道から、一斉に信者が飛び出してきていつの間にか特訓されていた揃った動きで最敬礼をとる。
ピシッ!腰は直角90度!
圧巻のサプライズお見送りである。
目を丸くしているレナ。さらに、精霊姉妹が旅立ちの歌を高らかに歌い上げた。
歌に反応した植物がみるみる成長し、精霊の友達の旅立ちを盛り上げるためとばかりに大輪の花を咲かせる。

なんともレナ達らしい、騒々しい旅立ちとなってしまった。
この信者力を育て上げた赤の宣教師が隣で満足そうな顔をしている。つねっておこう。
目立ちたくなかった筈なのにな…なんて苦笑しながらも、「いってらっしゃい」と言葉をかけてもらったレナはとても嬉しそう。
行ってらっしゃい、という言葉には、また帰って来てね、と優しい意味が込められていることをよく知っていた。

いつかまた。
明るく「ただいま!」と言ってラチェリの街を訪れる日が来るだろう。

何度も何度も腕が痛くなるくらい手を振って、レナたちはとうとうラチェリの街を発った。

***

ここで、蛇足ではあるがレナ達が去った後のアネース王国の愉快な仲間たちの様子について記しておこう。

冒険者たちが熱く最敬礼する様子が見られなくなったラチェリの街は、以前よりも少しだけ静かになっていた。
改装されたラビリンスと大精霊様の効果により、観光客がこれでもかと押し寄せ賑わっているが…赤の信者たちはふとした時に憂いを帯びた瞳で空を仰いでいた。
レナの旅立ちを惜しむ声がぽつぽつとあがる中、みんなのアイドルネッシー&フィーネが赤いリボンを身につけ始めたことが話題となる。
これだ…!
ラビリンスの青色と女王様の赤色、この組み合わせがなんとラチェリのシンボルカラーとして認知されてしまった。あちゃー。
夢のコラボに信者連中は大喜びしている。

レナの黒歴史はこうして、後世にまでラチェリの街で語り継がれることになってしまった。

▽レナは [偉人]の称号を 取得する!

トイリアにいる友人たちはどのように過ごしているだろう。

まず、パトリシアの運営する<フラワーショップ・ネイチャー>は精霊の祝福を受けた世界にまたとない幸運な”おもしろ花屋”として、大人気店になっていた。
営業日には新参の花屋にしては多すぎるお客が列を成して並び、お花を次々購入していく。
いちばん売れ筋の商品は、比較的無難な[超速スライムグミフラワー]の種。
超速シリーズの種はパトリシア店の看板商品となっていた。

あまりにの人気ぶりに、先輩店から睨まれる可能性も懸念されていたが…普通の花を求める人は他の花屋を利用しており、お客様を独占している訳ではない。
そして、精霊様のご贔屓店だから幸運に恵まれたのだろう。トイリアに精霊様ゆかりの店があるなんて素晴らしい!とポジティブに受け止められており、花屋間でも良好な関係を築けているようだ。
パトリシアはこの時にようやく、風と水の乙女に心から感謝した。

天才幼女バイヤー・アリスはというと、商業試験にはあっさり合格していた。
難しい筆記試験は当然のように全問正解、質疑応答の席では試験官たちをベテラン顔負けの話術でうならせてみせる。
おそろしい期待の新人が現れたぞ!との噂は瞬く間に商人間で広まり、ぜひ挨拶を…との問い合わせが殺到して、会談に追われ忙しい日々を過ごしていた。
新規顧客獲得に努めているようだ。

モスラは小さな主人に付き添い、執事として一人で10人分ほどの仕事をバッチリこなしている。
優秀な執事なのは誰の目にも明らかで、勧誘の声も多数かかったが、全てバッサリ断っていたため、そんな彼に仕えられるアリス・スチュアートは素晴らしい商人に違いない、とまたも主人の評価を上昇させていた。
こうして伝説の大商人、アリス・スチュアートの基盤が出来上がっていった。

ネッシー&フィーネの精霊ライブはいつも大人気!
毎日定時に行われるラビリンス<青の秘洞>を舞台にしたブルー・ステージは特に素晴らしく、怒涛の勢いでファンを増やしていた。
精霊(アイドル)への信仰心はうなぎのぼり継続中。
ラチェリの宿屋と土産物店は連日大繁盛である。

そして、仲間と言うべきかは悩ましいが…皆様が気になっているであろう、イケメン大好き新人ギルド嬢についても報告しておこう。
なんと彼女は現在、すでにギルド嬢ではなくなっていた。
どういうことかと言うと、観光に訪れていたかなりのイケメン実業家と出会って5分で恋仲となり、速攻で結婚の約束まで取り付けて寿退社していたのだ。

元同僚たちは大喜びで彼女を王都に送り出し、冒険者からは残念そうな声が上がっていた。
豪華なお屋敷に引っ越した彼女は、イケメンの妻となりこれから薔薇色の人生を送るものだと思われたが…生来のイケメン好きの性格はなかなかなおらず、様々なイケメンに声をかけ続けてしまう。
そして夫は、出会って5分で美人と付き合い結婚を決めた面食いだ。
この似た者同士の二人が歩む道が穏やかであるはずはなく、結ばれはしたものの、かなり波乱万丈の人生を送ったようである。
まあ、このあたりの詳細は書くほどでもないのでここで締めさせて頂こう。

***

レナたちの実況に戻ろう。

アネース王国の国境を越えて、港街までは馬車で街道をのんびり進めば7日ほど。
もちろん急げばもっと早く着くので、ラナシュ地理的に考えればそう遠い距離ではない。

そして、爆走するヒツジに乗れば驚愕の早さで辿り着くことができる。
ハマルは数日間、昼間にかなりの速度で草原を駆け抜けていた。
港街が見えるくらい近くまで来ると、食料を確保するため最短ルートから脇に逸れて軽快に魔物たちを撥(は)ねていく。

街はもうすぐそこなので肉を買うこともできるが、節約のため生肉を調達していこうとレナは考えたのである。
メロン大に成長したスター・ジュエルスライムたちは更に大喰らいになっており、いちいち店で買い物をしていたらお財布がすっからかんになってしまう。

宝石など高価な品物をマジックバッグに多数所持しているため潜在財力は計り知れないが、それらを換金するためには、アリスに依頼をしなければならない。
そう、現在怒れる幼女と化しているあのアリス・スチュアートに…恐ろしい…。節約は大切だ。

…ちなみにだが、レナはすでに一度アリスに絞られている。
商業試験後に恐る恐るアリスに電話をしたところ、「お祝いの言葉とスタージュエルをありがとう!」と明るく告げられ、ついでに…とばかりに長すぎるお説教をたっっぷりと頂いていた。
アリス、モスラと再会した際にはまた直々にお説教があるらしい。
再会を楽しみに思う気持ちと怖く思う気持ち、両方を抱えてしまったレナは悩みすぎて珍妙な顔をしていた。

今はその事は忘れておこう。
いずれ思い知ることになるが、今は”いずれ”ではない。頑張った従魔を褒めてあげよう。

「たくさん倒したねぇ。ハーくんつよーい!」

『えへへ、おまかせくださいませー。レナ様の乗り物として恥ずかしくないように、ボク頑張りますー』

立ち止まって主人とのんびり会話している巨大ヒツジの後ろには、撥ねられた魔物が約十数匹も転がっている。
肉のおいしい魔物をピンポイントで狙って撥(は)ねていた。
リリーとルーカ、魔眼コンビの誘導に間違いはない。

『『うっひょーーー!』』

クレハとイズミがハマルの頭から飛び降りて、すさささーっと地面を滑るように移動してご飯へ向かっていく。
気絶して目を回しているだけの魔物を優先的に狙って、バッと飛びかかりゼリーボディに丸ごととりこんで溶かしていった。
半透明のキラキラボディの中には、骨や筋肉、脂肪をグロく晒した魔物がたゆたっている…。

「スキル[伝令]、クレハ、イズミー。
その特大丸ヒツジのロースと腿(モモ)の部位はあとでお料理に使いたいから、解体して残しておいてくれるかな?
明日トマト煮込みにしよう」

『『はーーーい!』』

一般人がドン引きするであろうグロい光景だが、レナはもう慣れたものだ。
逞しい。もう胸を張って、ラナシュ人だと口にしていいだろう…可愛いウチの子たちが喜んで食事をしている様子を、微笑ましそうに眺めている。

穏やかに笑うレナの曇りのない笑顔をまぶしく感じて、ルーカは目を細めていた。

「ハーくんが大人の羊に進化して前よりも乗りやすくなったし。振り落とされる心配も無くなったから、旅がさらに快適になりました!」

「それは何より。貴方を落としたりしたら大顰蹙モノだし、僕はしっかりと背もたれの役をこなすよ」

『…うむ!しっかり、働いてくれたまえっ!』

『よろしくねー、ルーカ。
僕もレナ様を落とす心配しなくて良くなったから走りやすいよー』

「運動センスなくてごめんね…」

レナがしょぼんと眉尻を下げる。

「確か、今まではハマルの金毛を思い切り引っ掴んで爆走に耐えていたんだっけ。
本人は喜んでたみたいだから気にしなくて大丈夫じゃない?」

『クスクスッ!ハーくん、ちょっと痛いの、好きだもんねー…?』

ハマルのキラキラした視線が眩しい、と思うレナであった。
首を真後ろにぎゅるっと曲げて見つめられるとちょっと怖い。

『うんっ。ご褒美ですー!
でもでも、節操なしなわけじゃ無いんだよー。レナ様から与えられるモノだからこそ、痛みや束縛を心地よく感じているのかとー』

調教済みである。

「ああっ、罪悪感が…!」

「責任とってあとで縛って踏んであげたらいいんじゃない?レナ。
それより、クレハとイズミの解体が終わったみたいだよ」

『『…けぷっ。ごちそうさまでしたー!』』

レナの葛藤は適当に流された。
SMの話題で盛り上がっていたが、どうやらタイミング良くクレハとイズミの食事兼解体が終わったらしい。

二体は数倍に膨れ上がった身体で、たぽんたぽんと移動してくる。
コミカルでおっとりした歩みは周囲の魔物から狙われ放題に思えるが、本能で危険を感じた魔物たちは震え上がっており、近づく者などいない。

「スキル[感電]」

そんな中、わざわざスライムを狙ったおバカな生き物たちには、ルーカが遠方からバチッ!と軽く雷を浴びせて処理していた。

触れた者にしか影響を与えられないはずの[感電]スキルだが、万能なルーカにかかれば遠距離から攻撃することも可能である。

今回は羊肉、ウサギ肉、野牛肉が手に入った。
それぞれの柔らかくて美味しい部位だけを、レナは料理用にマジックバッグにストックしておく。
長く日持ちする骨も、別のマジックバッグに保存しておいた。これはスライムたちが小腹を空かせた時のおやつになる。
ルーカが仲間になり手持ちのマジックバッグが増え、容量が大きくなっていた。
レナたちの旅路はどんどん快適になる。

再び港街に進み始めようとした時…リリーが声をあげる。

『なんか…遠くに、黒くて大きくて、丸い岩があるよ。あれ、魔物かな…?』

問いかけられたルカペディア先生が目を細めて黒い岩を視つめた。

「ダイダモント・ボール、か。
まあまあ珍しい魔物だね。
あれは雨の水分だけで生きていけるから、基本的にはその場にとどまっているだけで攻撃はしてこない。転がって移動する。
名前の”ダイダモント”は…金剛石(ダイヤモンド)のように硬いのに宝石としての価値がないことから、”金剛石(ダイヤモンド)もどき”という意味を込めて名付けられた。
割れた黒岩は高級研磨剤として使われている。
かなり硬い魔物だけど、熱してから急激に冷ましてやれば表面が割れるらしい。
中央には[磨(みが)き石]という核が存在している」

「磨き石…?」

「その石に姿を映された者のどこか一部分が、一定時間、絶世の美しさを誇るという効果のアイテム。
効果は石によって違う。例を挙げるなら、顔、体型、言葉遣い、心など。結構細かく決まってる」

「へぇ。珍しい魔物なのかぁ。…じゃあ倒していきましょう」

ダイダモント・ボールはかなり遠方に存在しており、レナたちにはまだ気付いていない。
倒すのがとても面倒な魔物だが…なにやらレナは早くもヤる気十分な様子。
さっそく従魔たちに[鼓舞]スキルをかけてやっている。

「貴方なら、避けて行きたいって言うかと思っていたけど…?」

ルーカが首を傾げると、レナは何かを諦めたような表情になり首を振った。ニヒルな笑いを浮かべている。

「珍しい魔物。アイテム持ち。…そんな存在が私たちの前に現れて、関わることなく終わる筈がないですもん。ね!
というわけで、殺られる前に殺ります」

「了解。そうだよね、すごく納得した。作戦はどうする?」

レナは満面の笑顔を浮かべてみせた。

さて。
現在の配置はハマル、レナ、ルーカが後方におり、イズミはハマルの頭の上で待機中。
リリーがクレハをなんとか両腕で持ち上げ、ダイダモント・ボールの頭上へと運んでいく。
念には念を入れて、[幻覚]で姿を消していた。

『ここくらいが、真上だよね…クレハ、行ってらっしゃーい!』

『あいあいさー!いよっと』

リリーが上空からパッとクレハを手離すと、クレハはボディをびよーんっ!と大きく網状に伸ばしてみせた。
そして落ちながら、新スキルを発動。

『スキル[|火達磨(ひだるま)]ー!』

網状ボディに炎を纏う。
ボボボッ!とダイダモント・ボールの頭上が灼熱の赤に染まり、いきなりの事態に逃げ出す事もできず、火の網にとらわれてしまった。
転がって逃げようとジタバタするものの、伸縮性のあるスライム網からは逃れられない。

ルーカが獲物の表面温度を視定めている。

「…ん、いいよ」

「スキル[伝令]、クレハ!もう大丈夫だってー」

レナの声を合図に、クレハは速攻で網の拘束を解いて、すたこらさっさと魔物から遠ざかる。

魔物の体表にはまだわずかに炎が燻(くすぶ)っており、焦げた臭いがレナたちの元にまで漂ってきていた。
混乱している魔物は、その場でグルグルと回転している。

「…光魔法[サンクチュアリ]!」

ルーカが大きめの光の聖結界で、ダイダモント・ボールを囲った。
これから放たれる魔法を結界の外に漏らさないようにするための措置である。

『うっしゃー!気合い入るぅー!水魔法[ファウンテン]なりー!』

そして、イズミがトドメの極大魔法をキメる!

ゴゴゴゴ…と地鳴りのような音が足元から響いてくる…。
イズミは頑張って魔力を絞っていたものの、やはり極大魔法にはシャレにならない威力がありそうだ。
あ、やばいかも?とレナは冷や汗を浮かべた。
地中の様子を覗いたルーカが、冷静に結界の範囲を拡大する。

…ドッパーーーーンッッ!!

間一髪!
結界範囲内の地面が大きく割れて、鉄砲水を彷彿とさせるすさまじい勢いで、地下水が噴き上がった!
冷たい水で急激に冷却されたダイダモント・ボールは粉々に砕け散った。

「「たまやーー」」

大人組はホッと胸を撫で下ろしている。
くてん、と疲れて身体を伸ばしているイズミに手を伸ばして、よく頑張ったね、とやさしく撫でてやった。

噴水の勢いが落ち着いた頃には、草原の片隅にはぽつんと不自然な泉が出来あがっており、水面の奥底には研磨用の黒石が散らばり輝きを放っていた。
レナは岸に膝をついて水中に腕を入れると、小さな白い石をつかむ。
“磨き石”だ。
姿を映してしまわないように、石を手のひらでぎゅっと握り込んでいた。

「とりあえず、布でくるんでおけばいいでしょうか?」

「うん。魔王国には腕のいい宝飾職人がいるだろうから、ロケットペンダントに加工してもらうといいよ。
そうしたら、望んだ時に姿を映せるからね。
一度効果を発揮した石はただの水晶になってしまうから、タイミングはよく考えて。
えーと…それは[口調]を綺麗にする効果があるみたい」

『えー。なんか地味じゃなーい?』
『ね!レナなら、もっと特別な効果の磨き石を引き寄せるかなって思った』

「いや、これでいいよ…特別なアイテムには不自由してないし…」

むしろもうそういうのはいらない。レナの引きつった顔にはそう書かれていた。

「これも何かしらの運命なんじゃない?
将来、この磨き石が必要になる時が来るんだと思う。
レナならきっと、タイミングを間違えないはずだよ。…ん?これは次の説法で使えるな」

「自重して下さいルーカさん」

『『レナ女王様ぁーー♪』』

愉快なお話はここまで。
噴水に気づいた人々が近づいていることを察知したルーカが指示して、レナたちはこそこそとその場を後にした。

何くわぬ顔で街道を歩いていく道中、すれ違った人々は「泉が湧いたって!」「底に高級研磨剤があるらしいぞ!」と口々に騒いでいた。
高級研磨剤はそのまま放置してきたのである。
硬すぎる研磨剤は基本的に宝石のカットにしか用いられないため使いどころがないし、売れば高いらしいが、お金には困っていない。
それよりも、第一発見者として詳しく事情を聞かれてしまうことを危惧したのだ。

何事もなくのんびりと残りの道を歩み、レナたちはとうとう港街へ。

門前からも見える大海原はレナの心を高揚させた。
たくさんの船、大きな商業施設に屋台群がチラリと見えている。
港特有の活気にあふれた声も耳に届いていた。

これからまた、異世界ラナシュの様々な美しい風景を目にするのだろう。
きっと楽しい事が待ってるはず!と信じてレナはほんのり微笑むと、海鮮を使った本日の夕飯メニューをいそいそと考え始めた。

 

 

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