63:精霊との戯れ

ラチェリのラビリンス<青の秘洞>。
久しぶりにそこを訪れたレナたちは、唖然と立ち尽くしていた。

『みんな いらっしゃーーい♪ようこそー』

『素敵に模様替えできてるでしょう?
私とシルフィネシアのアイデアをいっぱい詰めこんでみたの。
どうかしらー?』

青く輝く空間には、二人の美しい乙女が宙にたゆたうように浮かんでいる。近寄ってきたシャボン・フィッシュと時おり戯れながら、驚いた顔のレナたちを楽しそうに見つめていた。
サプライズ成功!と言わんばかりの満面の笑顔だ。

精霊祭まであと少し。
日々打ち合わせに追われるシルフィネシア達は、つかの間の息抜きとしてレナたちとラビリンスで戯れることを王様に申し入れた。
創造樹による空間メンテナンスのため、ラビリンスは精霊祭まで一時的に閉鎖されている。
しかし、敬愛する精霊たちを働き通しにしていることを申し訳なく思っていた王様は、今回の申し出を快く了承してくれた。

ラビリンス内はかなりの変貌を遂げている。
まず、空間が段違いに広い。
それこそ、東京ドーム何個分…という表現ができるくらいの広さだ。壁などはるか向こうに見えている。
葉を青々と茂らせる背の低い樹木には白い可憐な花が咲いており、時々小さなシャボンの泡をぷくぷくっと吐き出していた。
これにより、空間全体が更にきらめいて見える。

風に揺れる青の草木。
ふわふわと浮かび天井の光を反射するシャボン。
相変わらず爽やかで美しい光景の中、何よりも圧倒的な存在感を放っているのは、広場のド真ん中にででーん!とそびえ立つ大精霊シルフィネシアの創造樹である。

とても小さかった乙女の宿り木は、なんと高さ約70メートルもの大木に成長していた!
宝石を思わせるキラリとした輝きを持つ葉は、青一色のラビリンス内によく映えるあざやかな緑色。
黄緑色(ペリドット)、緑色(エメラルド)…ところどころに水色(アクアマリン)、青色(サファイヤ)の葉も
見られる。
絶妙な配色バランスだと言っておこう。

創造樹の葉にキスしたシャボン・フィッシュのボディは、ほんのりと淡く色づく。
嬉しそうに色付きフィッシュが空間を泳ぎまわる景色は、まるで木の葉が宙を舞っているように見えた。

創造樹そのものが淡く輝いているので、大木の影で周辺の地面が暗くなる事はない。
どういう仕組みなのかはまるで分からないが…枝葉を通した木漏れ日は、地面に水面(みなも)のような模様を映し出している。
まるで、天井にも地面にも水面が存在するかのようだ。
『このアイデアとっても素敵でしょうー♪』とシルフィネシアが歌うように告げた。

皆、夢のような光景にほうっと魅入っている。
いつの間にか体からは余計な力が抜けており、自然にリラックスしていた。
自然エネルギーがとても濃いから、本能的に落ち着くんだろうね…とルーカが誰に言うわけでもなく、ぽつりと呟く。

「…あ。でもこれだけ広いと、帰るときの穴(フォール)を探すのが大変そう?」

レナがふと首を傾げた、その時。
精霊乙女たちは愉快そうに声をあげて笑った。
その言葉を待っていた!
まだ、とっておきのサプライズを用意していた。

ぶわっ!と一陣の強い風が吹き、ローブの裾を激しくはためかせる。
驚いたレナパーティ皆が足をふんばる中、その存在は、ラビリンスの天井部分から急降下してきた!

アクアボディに天井の光をこれでもかと内包しているため、レナは一瞬、小さな太陽が落ちてきたように錯覚してしまう。
光球は背の大きな翼を羽ばたかせて、シルフィネシアの少し後ろで激しい風を纏いながら急停止する。
そして、パァッ!と体内の光を一気に拡散させた。

目を丸くするレナたちを面白そうに眺めると、くるりと宙返り。
体は大きいのに動きはとても軽やかで、まるで体重というものを感じさせない。
誇らしげにフンッと鼻を鳴らした。表情はどこか得意げにすら見える。

「………ああっ!?」

ようやく、レナが声をあげた。

“グルルルゥッ!”

返答の鳴き声はかなり野太い。
が、不思議と威圧感はまったく感じない。
怯えさせるつもりはなく、挨拶のための咆哮だった。

シャボン・フィッシュと同じく爽やかな水色のアクアボディ、瞳は透明感のある黄金色。
頭胴長は約6M。…とても大きい。
その姿は紛れもなくーーアネース王国の森のみに生息するとても珍しいドラゴン、幻黒竜!

先日倒したばかりの呪われていた個体と、まるで同じ厳しい見た目だ。
しかし現在はボディが瑞々しいシャボン状に変化しているため、どこか可愛らしくも見える。
新種のモンスターだろうか?
しかしここはダンジョンではなく、ラビリンスである。

▽シャボン・ドラゴンが あらわれた!

「この子は一体…?」

レナ達が聞くと、よしよしとドラゴンの頭を撫でていたシルフィネシアが振り向いて説明を始める。
友達の驚いた顔が見られて、とても満足そう。

『ふふふー、ビックリしたでしょうーー?
わたしね、大精霊になって できることがたくさん増えたのよー♪
レナのおかげ。ありがとう♪
呪術師との戦闘がおわった つぎの日にね、森をさまようドラゴンのたましいを たまたま みつけたんだー。
ひとりきりで あまりにも 寂しそうだったから…昇華されるまえに たましいを すくいあげて、ラビリンスに招待したのよー。
わたしのちからは [ラビリンスメイキング]だから。
ラビリンスのシャボンで 新しいたましいの器を つくったんだ!
そして、この子の意思で うまれかわってもらったのー♪』

「そ、そうだったんだ…」

大精霊、すごい。
レナはホッとしたように頷いて、優しい微笑みを浮かべてドラゴンを見つめる。

…敵として対峙したドラゴンは呪われた怨みでヒト族を激しく攻撃してきたため、レナたちも反撃せざるを得なかった。
しかしそれも呪術が原因なのだと考えると、利用されたことが哀れでならず、傷つけ、殺したことに罪悪感を持っていた。
ドラゴンを殺した、という事実は消えない。
しかし、現在のドラゴンが少しでも幸せならば何よりだ…と、瞳を潤ませる。

「あの時は痛い思いをさせてしまってごめんなさい」と謝り、レナは従魔たちと共に頭を下げた。
すると、ドラゴンも会釈を返してみせる。かなり頭が良いらしい。
お互い様ねー、もう恨みっこなしよ♪とシルフィネシアが明るく笑った。

[友愛の笑み]パッシブスキルの効果もあり、ドラゴンはレナの笑顔に応えるように、またくるりと宙返りを決めてみせる。
主人であるシルフィネシアにそっくりな動きだ。
翼を使っているが、まるで泳ぐようになめらかに宙を移動している。
先ほどの強風は驚かせるためのパフォーマンスだったのだとか。
みんなは盛大な拍手を贈った。

ラビリンス出口の穴(フォール)まではドラゴンに騎竜していってもらおうと思ってるの!とシルフィネシアは話す。
これまた、大人気必至のスペシャルサービスである。
ちなみに現在のシャボン・ドラゴンは魔物ではなく、フィッシュたちと同じ”ふしぎな生き物”に分類されるらしい。
攻撃スキルを持たないかわりに、再生能力が付与されていた。

しばらくの間、レナ達はドラゴンとシャボン・フィッシュ、精霊乙女たちの華やかな舞いをのんびりと鑑賞した。
世界中で一番贅沢な舞台なのではないか…と考えながら、穏やかな時を過ごした。

舞いの最後はシャボン・フィッシュの群れとドラゴンが勢いよくぶつかり合い、光をはじけさせ、キラキラの雨を空間に降らせてフィニッシュ。
再度、割れんばかりの拍手が贈られる。

「うわぁ、うわぁ、すっごく素敵ー…!
感動してまだ胸がドキドキしてるよぉ…!」

「ほんとに、美しいね…。僕たちにこの光景を一番に見せてくれて、ありがとう」

『くうっ!あまりの綺麗さに見惚れてて、出遅れちゃったー』
『今度は一緒に踊ろうねー?
ボディのきらめきならスタージュエルだって負けないもんっ』

『フェアリー・ダンスとも、共演…してみる?クスクスッ』

『ふあー…うっとりしちゃいましたぁー…!』

精霊乙女の背後に、再び天井から生まれたシャボン・ドラゴンが静かに舞い降りた。
フィッシュたちと同じサイクルで、はじけたら天井から蘇ることが可能なのだ。

『シャボン・ドラゴンはよみがえるよー♪』
『何度でも、ね♪』

“グルルゥ!グルルゥ!”

乙女たちは楽しそうに歌い、ドラゴンが我流の力強いハミングを入れる。
音が合っているとはとても言い難いが…仲良しで何よりである。

ドラゴンがふと、レナに鼻先をすり寄せる。

「わ!…つめたいね。ふふっ」

ボディをはじけさせないようにと、レナは恐る恐るドラゴンに触れた。
冷たさが気持ちよかったらしくペタペタと鼻先を撫ではじめる。
ドラゴンはくすぐったそうに喉を鳴らしている。

シルフィネシアとシルフィーネ姉妹がレナに背後から軽く抱きついて、ふっと耳元に吐息をふきかけた。
…三面楚歌!?とレナが気付いた時には、もう遅い。
可憐な声が甘えるように赤の女王様に”お願い”を告げる。

『あのね?
シャボン・ドラゴンのウルルちゃん、ここには友達のフィッシュがたくさんいるから とってもたのしいって言ってる♪
…でも、ラビリンスの外に心残りがあるらしいのー』

『お外にはお母さんドラゴンがいるらしいわ。
だけど、もう二度と再会は叶わない…シャボンを器としたウルルちゃんはラビリンスから出られないの。
とっても悲しいことよねぇ。
もし、シルフィネシアの大精霊としての力が更に強化されたなら。
この子をお外に連れて行けるかもしれないのだけど…?
あらあらー、困ったわー』

悲しげに告げると、シルフィネシアはレナをぎゅーっと抱きしめる。
姉シルフィーネはあざとさ満点の『お願い♡』ポーズでレナを見つめている。胸の谷間が眩しい。

▽レナは 逃げられない!?

…なんとなく求められているものを察したレナが固まっている。
姉シルフィーネが、支援お願い♡とルーカに向けてウインクした。

「…えーと。
大精霊を従属させることは不可能なので、レナの血で、シルフィネシアの能力のみを強化することが可能だと言えますね」

「ほ、絆されているー!…ルーカさんの裏切り者ーっ」

「有益な対価をきちんとくれるらしいから。レナ、頑張って」

血液提供待ったなし、な展開に、レナはじんわりと冷たい汗をかき始めていた。
ルーカ曰く、大精霊をテイムしてしまう心配はないらしい。
こんなに確実な情報元もない。ちくしょう。

さらにリリーが『私、もうお姉ちゃんだから…至高のデザートも、ちょっとは譲ってあげるの』といじらしい成長をみせる。
完璧なダメ押しである。
我が子がかわいい!

▽レナは 逃げられない!

「…血液。
ど、どうぞお納めくださいませ…っ!」

『わーーーい♪』

意外としたたかな精霊たちの圧勝だった。
覚悟を決めたレナは首元の留めリボンをほどき、ええい!と一思いに赤ローブを豪快にはだける。
漢前(オトコマエ)なオカンである。
個性を詰め込みすぎて文面がよくわからないことになっている。

『では、失礼して。…いただき、まーすっ♡』

リリーがガブリ!とレナの首筋にかじりつく。
「ひえっ」とまるで色気のない声が上がった。

クラスチェンジしてから初めての吸血タイムだと言っておこう。
妖精の身体が60cmになり、牙も僅かに成長している。レナがビビっているのを察したリリーは、覚悟が決まるまで…と吸血を我慢していた。
成長だ。
我慢していたぶん、勢いよく吸ってしまい吸血は痛さをより増していた。

レナは「ひええぇ」と小さくか細い悲鳴をあげ続けている。

「はい、そこまで。ストップ」

『…んむっ!』

ルーカ医師の確実な診断により、ようやく終了宣言が出された。
頬をぷくーっと膨らませたリリーが首筋から牙を抜く。
器用にも、一筋の血もこぼさず唇を離した。
女王様としての覚醒を終えた主人の血液は、以前にも増して従魔にとっての素晴らしい嗜好品となっており、あまりに甘美な味にうっとりと表情を崩している。

生かさず殺さず。なんとか次回の吸血をレナが許容ができる範囲でストップさせたルーカの手腕はさすがである。
[鑑定眼]と[心眼]、[器用裕福]を併用したガチ仕様だ。

リリーは口に含んだ血液を、いざ!
…詳細は省こう。
創造樹シルフィネシアはレナの血液を体内に取り入れて、さらに[ラビリンス・メイキング]の能力を強化することが出来た。

『んーーっ、からだがポカポカしてきて、さいこうに きもちいいよー♪』

頬を染めてそう告げた瞬間。
創造樹の根っこが目にもあざやかな赤色に染まる。
赤色は輝きを帯びており、だんだんと樹の上部へ侵食していく。全ての葉がルビーレッドになってしまった!
さすがに、レナとルーカの顔が引きつる。
従魔たちは無邪気に『きれー!』とはしゃいでいる。
樹の幹から葉から、全てが真っ赤に染まってしまった…。

『おいしかったーー!』

シルフィネシアが歓喜の声をあげると、赤色は樹の内部に吸い込まれるようにして消えていく。
創造樹は、もとの爽やかな緑・青色に戻った。

シルフィネシアは何かを思考するようにナナメ上を向いて、小首を傾げる。
…やがて、パッ!と表情を輝かせた。

『わーーい♪
わたしの はんけい100めーとるを いつでもどこでも ラビリンスの領域と認定できるようになったよー♪
そのはんい内なら、シャボン・フィッシュもシャボン・ドラゴンも お外に連れて行くことが可能になったの!
もしお外でボディがはじけちゃっても、またラビリンスでよみがえるってー。
これで…ウルルちゃんのお母さんを さがしにいけるよ♪』

『まあ、良かったわねぇ』

“グルゥ!グルゥ!”

精霊乙女たちとシャボン・ドラゴンが、宙に浮かんでくるりくるりと喜びの舞いを踊っている。

『よかったねー!』
『精霊祭のときに、みんなでいろんな街を回ればきっとビックリするんじゃない!?』

『あっ!それ、いいねぇー♪』

クレハとイズミの思いつき提案により、今年の精霊祭はさらに特別なものになることが確定した。

精霊シルフィーネが姿を現してくれるかも!どころか、まさかのキラキラシャボン軍団が街中を風とともに吹き抜けていくパフォーマンスをするらしい。
これはまた、信仰心ゲージが振り切れそうである。
後ほど、このトンデモ提案を聞かされた王様は目に涙を浮かべて笑い「楽しみです。せっかくのサプライズなので、皆には知らせず、当日のお楽しみとしましょう」と愉快なたくらみに便乗した。
なかなかおちゃめな人のようだ。

ぼうっと現実逃避しているレナに、姉妹がそれぞれ一枚の葉っぱを差し出す。
姉のシルフィーネからは、緑色(エメラルド)の葉っぱ。
シルフィネシアからは、赤色(レッド・ダイヤモンド)の葉っぱ。
目に痛いほどキラキラだ。

「こ、これは…?」

『『エネルギー・リーフよ』』

姉妹が口を揃えて答える。

『乙女の宿り木の一番上には、ほんの一枚だけ、特別な葉が存在するの。
それがエネルギー・リーフ。
だいたい10年もあればようやく一枚育つくらいかしらー?
これには精霊の力がたくさん詰まっているのよ。
貴方の大切な存在に食べさせてあげるといいわ』

『んーとね。
おねえちゃんのはっぱは 風と水のすごーい加護がつくでしょ♪
わたしの赤色のはっぱは、精霊を大精霊にせいちょう させちゃうくらいの ちからがあるのよー♪
さっき、レナのけつえきにもらったちからの一部を ぜんぶコレにこめてみたんだ。
わたしののぞみは、ウルルちゃんをお外にだしてあげることだからー。
それいがいのパワーは ぜんぶ♪
このはっぱに 入ってるの♪
けつえき ごちそうさまでした〜!』

「…ど、どういたしまして。
えっ。こんな大変なもの私がもらっちゃっていいの…!?」

『レナたちにはいっぱい助けてもらったもん〜』
『サービスサービス♡』

「………」

▽レナは 断れない!

▽エネルギー・リーフ×2を 手に入れた!

これはまた、どえらい物を手に入れてしまった。
いい加減、手持ちアイテムのレア度が天元突破している。
…この存在は、さすがに早いうちに消費してしまわなければヤバそうだ。
しかし現在でも、クラスチェンジ済みの従魔のレア度はすでにヤバい。これ以上にしちゃう?…どうしよう?

どっと疲れたレナは、とりあえず…ふて寝することにした。
ラビリンス内でお昼寝をしよう!とは、最初から決めていたのである。
ハマルの初[夢喰い]を試す予定だった。
これだけ心地いい空間なら、きっといい夢を見させてくれるに違いないと思っていた。

ご主人さまの一声で、ハマルはドラゴン並みに巨大化する。
もっふもふゴールデンベッドに埋もれるようにして、レナたちは仲良く横になり、すぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。

爽やかな風、乙女たちのやさしい歌声が素晴らしく上質な眠りを運んでくれる。
さらに、ゴールデンベッドは毛感触が以前よりも格段に良くなっている。
一度このベッドを体験したら…もう、夜ごとハマルを求めずにはいられない。
人をダメにする極上のもふもふだ。
今回はスキルを使っていないが、この環境で快眠できないはずがなかった。

ハマル本人も瞳をつむってウトウトしている。
夢をストックするだけなら、起きていても寝ていても可能なのだとか。

…どれだけ眠っていただろうか。
あまりの心地よさにかなりの時間お昼寝してしまっていた。

新しく創造樹にみのった風鈴の実が「リリリン」とどこか懐かしい日本の夏の音色を奏でて、まず、レナが目をさます。
シルフィネシアはアニメで観た風鈴がお気に入りだったのだ。
レナ達が寝ている間にも[ラビリンス・メイキング]を行い、創造樹に手を加えていた。
風鈴の実が鈴なりになって、涼やかな音を響かせる。

レナが目を覚ますとすぐさま舞い降りてきたシルフィネシアは、『このおと、ステキだよねー♪ 』と笑いかけた。
寝ぼけたレナは大精霊の頭をいいこいいこ、と撫でてしまう。
姉シルフィーネが『大精霊も、レナの子供みたいねぇ』とお腹をかかえて愉快そうに笑った。

「いま、なんじー…?」

<マスター・レナのご用件を確認しました>
<現在の時刻は16:00です>

ぼんやりとしたレナのつぶやきにも、スマホさんは即座に反応してくれる。

「え”っ」

乙女たちの休憩時間は、ちょうど16:00までだ。
…ということは、レナ達は早くラビリンスから出て、精霊を解放してあげなくてはいけない。
いつまでも独占していたら、アネース王国民に羨ましがられてしまう。

ハマルの夢吐きは、この場ではとりあえず見送ることにした。

ドラゴンに乗ったレナたちが、隣で優雅に浮かんで並走する精霊乙女に手をふる。
アクアボディの背中部分にはくぼみができており、レナたちが振り落とされる心配はなさそうだ。

『『ひゃっほーーう!もっとトばしてトばしてどうぞーーっ!』』
『…きゃっ!シャボンが顔に、当たった…つめたい。クスクスクスッ』
『んーっ、足が地面についてないとちょっと怖いよぉー…』

「またね、シルフィーネ、シルフィネシア。ウルルも」

「今日は素敵な舞いをたくさん見せてくれて、ありがとう!
本当に素晴らしかったよー!
またたくさんお話しようね」

ドラゴンーーウルルは優雅にはばたき、ぐんぐんと上昇していく。
現在のラビリンス出口の穴(フォール)は、水面のような天井のすぐ近くなのだ。
天井の輝きが眩しくて、皆は目を細める。
眼下には、青く美しい自然の景色と泳ぐシャボン・フィッシュの群れを見ることができた。

ラビリンス<青の秘洞>はきっと、以前にも増して有名な観光名所となるだろう。

大切な友だちを見送った精霊の姉妹は顔を見合わせて、とても幸せそうに微笑んでいる。
送迎を終えて戻ってきたウルルと少しだけ戯れると、精霊祭をアネース王国民により楽しんでもらうべく、係員との打ち合わせに向かった。
羽のように軽やかな足取りは、彼女たちの気持ちの高揚をあらわしているようだ。

 

 

 

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