41:悪党たち/パーティ

「…兄さん、雇った冒険者たちからの通信だよ」

「なんだ!?
また、妙な視線を屋敷から感じるとでも言って来たのか…?
ふん!
せっかくガタイのいい厳つい大男ばかりを雇っているのに、全員がそんな理由で怖気づいているとはなァ。
威圧と見張りはしっかりしているようだから、解雇はしないが…小娘一人が住む屋敷に対してなにを恐れることがあるというのだ?
…実にバカらしいッ!」

「親父の幽霊でも出たのかねぇ?ははっ。
兄さん、あんまり怒るとまた血圧上がって倒れるぞー?
なぁエラルド。冒険者たちはなんて言って来たんだよ」

「ん。
…あんまり良くない知らせだ。
あの拾われ子を訪ねて、親父の屋敷には今、身なりのいい大人達が集まっているそうだよ…?
送迎には立派な馬車を使っているらしいから、富豪家系だろうね。
パーティでもするのかな。
男女のペア、たまに子供もいるって。夫婦ばかりってことか」

「「…何だってぇ!!?」」

ーーバァン!!と、社長室の立派な机が力任せに叩かれる。

拳を握りしめ、顔を真っ赤にして激怒している小太りの男。豪快に歯ぎしりをする彼は、天才バイヤーとして世に名を馳せたゲイル・スチュアートの実の息子だ。

怒りに震える長男は、グラハム・スチュアート。
[鑑定眼]等の鑑定系ギフトこそ親から受け継がなかったものの、優れた商才を持った貿易会社の社長である。

会社の評価は「中級の下位」。
感情的になりやすいのがたまにキズの男だが、その欠点は冷静な弟たちが補い、支え合って貿易会社を運営していた。
…支え合わなくては運営が上手くいかなかった、とも言えるが。

「……ちッ!
露骨に動いてきたな、小娘ぇ…。
おそらく商業試験の前に後見人をつけておいて、早々に屋敷の名義変更をしてしまえって魂胆なんだろう。
夫婦と、子供まで招待しているのは顔合わせのためか?
まったく、小賢しい!」

長男ほどではないが、こちらも露骨に嫌悪感を表情に滲ませているのは、次男のイーザ・スチュアート。

弟たちは、2人とも会社の副社長という扱いである。
社長室は防音になっているため、次男も珍しく語尾を荒げていた。

「…ね。
養子契約が成立してしまう前に、早いとこ潰さないとね…。
…ほんと、厄介な置き土産を置いといてくれたもんだ。
どうして息子の俺たちじゃなくて、血のつながりもない拾い子なんかを優遇してるんだか。理解できない。
…おかしいじゃないか」

控えめな声でボソボソ話すのは、三男のエラルド・スチュアート。
彼の能面のような顔は、内心激怒しているためか死人のように蒼白になっている。
自分たちから親元を出て行き姿をくらませていたというのに、随分と自分勝手な言い方をするものだ。

…十分な商才を持った3名が集まっているというのに、どうして貿易会社は”上級”の評価を手に出来なかったのか。
それは、彼ら全員が持ち前の商才にあぐらをかき、勉強することを怠ったからである。

幼い頃から優れた頭脳を持っていた3人は、厳しい父の教育を疎(うと)んじて、長男が成人したタイミングですぐに全員が家出同然にお屋敷を飛び出していた。
そして、親よりもっと自分たちは上手くやれると過信して、持ち出した莫大な資金を元手に、貿易会社を起こしたのである。

しかし社会は、”甘えた”な性分の彼らにはとても厳しかった。
教えを請う姿勢を見せなかったために、同業の先輩社長たちからは早々に見放される。
また、バイヤーとして完璧だった親へのコンプレックスから、顧客が上流階級であるほど取引の際に無意識に高圧的な態度をとってしまい、良い関係を結ぶことはできなかった。
そんな理由で、優良企業を取引先とすることは出来なかった…。

商才そのものはあったので会社は潰れなかったが、繋がりに恵まれなかった会社は、細細とした地味な経営を強いられていた。

流行りを予想して商品をいち早く手配する手腕には長く定評のあった彼らだったが、老いのためか最近ではアタマも硬くなり、流行予測をハズしてしまうことも多く、会社の業績も長く思わしくない。

親が遺した莫大な遺産を補填にあてるだけではまだ不安があり、アリスの取り分すらも手に入れて、傾きかけた会社を立て直したいと考えていた。

…長男がギラギラとした目で、弟たちをまるで睨むように見やる。

「…今夜、すぐに養子契約が結ばれる訳じゃない。
焦って出て行って、こちらが嫌がらせをしていたという証拠を掴まれるのは愚行だ。
話をまとめるのに…まず3日。
それから契約書が交わされ、受理され、遺産の名義変更がされるまでには約1週間。
そう見積もっていいだろう。
今必要なのは、情報だ。
冒険者どもに持たせた映像記録装置を使わせるが、いいな…?
パーティの参加者が誰なのか分かれば、養子契約の妨害もしやすいからな」

「「異論はなし!」」

「よしッ!…やるぞ!」

屋敷を見張らせている冒険者に持たせておいた「短期映像記録装置」。
お高いうえに使い捨てな高級魔道具だが、息子たちはこれを今晩使用することに決めた。
使い時を誤れば、いくら素晴らしい魔道具でもゴミ同然になってしまうのだ。

その辺りの判断力はとても素晴らしかったが、理由が理由だけに、持ち前の才能が残念でならない。

三男が魔道具とセットになっている羊皮紙を目前に掲げ、呪文を唱えて、描かれた魔法陣を発動させる。
遠くにいる冒険者が持つ魔道具の映像記録効果を、解放したのだ。
これを行って初めて、魔道具が価値を持つ。
この付加価値も、既存の商品に彼らが手を加えて、今回のためにわざわざ開発したものである。
冒険者たちに魔道具を盗まれないための措置なのだ。
才の使い道は他にもたくさんあっただろうに、欲にまみれた彼らには、もう他人の遺産しか見えていない…。

暗い目をした息子たちは、互いに誓いあう。

「「「…小娘を、スチュアートの後継者として認めない」」」

ーー悪党たちが動き出した!

***

よく躾をされた馬たちが、静かに、優雅に馬車を引く。
商人たちの使うものとは違い、天蓋が付いていて豪華な装飾が施されている、貴人を送迎するための箱馬車である。
宵闇に紛れるような黒を基調とした品のあるデザイン。
室内にはオレンジ色の灯りがともり、中にいる人物たちをぼんやり映しだしていた。
男性はシルクハットを目深に被り、女性もパーティ用の飾り帽子を身につけて正装しているようだ。

ゆっくりと夜の高級住宅街を行進した馬車は、とあるお屋敷の門の前でピタリと止まる。
その数、5台。
目立つことこの上ないが、高級住宅街の住民は皆、夜には家でのんびり過ごしているため、道中誰かに出会う事は無かった。

ここまで、全て予測通り。
馬車群を唖然と見つめているのは、アリスの敵である見張り番の冒険者たちのみである。

お宿♡から住宅街の入り口付近まではさすがに市民たちに注目されていたが、それを肴に酒を飲む者はいても、騒ぎ立てて絡んでくる馬鹿者はいなかった。
お宿♡に出入りする人間の中には、ヤバいレベルの要人もいるともっぱらの噂なのだ。
まあ、紛うことなき事実なので、店主のルルゥも噂が広まる事はむしろ歓迎している。
馬鹿者たちがお宿♡に寄り付かないため、快適なようだ。
ちなみに、わざわざ要人を狙ってやって来た不審者などは彼女が返り討ちにしていた。

門に一番近い所に留まった馬車の扉が、紅(あか)い目の執事によって静かに開かれる。

車外にはまず、スラリと背の高い男性が降り立った。
彼は馬車内へと腕を伸ばし、共に乗車していた女性の手をとると慣れた動作でエスコートする。
彼に手を預けて登場したのは、スレンダーな身体に品のあるドレスを纏った、色気溢れる美女だった。

荒くれ冒険者たちが、魔道具をかまえながらゴクリと生唾を飲み込んでいる。
夫人の顔の上半分は仮面で覆われていたが…輪郭と唇を見ただけでも、極上の美人だと理解したのだ。

飾り帽子から覗く髪は、甘くセクシーなピンク色。
夫人ルルゥの赤く色付いた唇が、ゆっくりと優雅に弧を描く。

「ふふっ。お出迎えご苦労様!」

声をかけられた紅眼の執事は、口元をほのかな笑みの形にして綺麗な一礼を返した。

長身の男性は再び馬車に向かい、子ども2人を外へ連れ出している。
暗闇でもキラキラと眩しく輝く、ルビーとサファイヤの髪を持つ双子の幼児だ。
こちらも、やはり顔の半分を覆う仮面を付けている。
とても整った顔をしており、フリルブラウス・ハーフパンツを子供の礼服として見事に着こなしていた。

「夜だから、あまり騒いではいけないよ」と先手を打って親に注意された子ども達は、互いの顔を見合わせたあと、お口チャック!の動作をして大人しく男性と手を繋ぐ。
夫人がその様子を見てクスクスと笑っている。
裕福で幸せな家族がそこにいた。

余裕のある優雅な声・動作に、市民ではなかなかお目にかかれないゴージャスな馬車とドレス・タキシード。
加えて、一家全員がかなりの美形揃いときた。
馴染みのない上流階級のオーラに思い切りあてられた荒くれ者たちは、背中に冷たい汗をかき始めている。

ーーもしかして、俺たち、とんでもない相手に喧嘩売らされてるんじゃねぇの…?

ーー数千リルぽっちでこの仕事任されてるの、割りに合わなくねッ!?

つい先日まで、この依頼はボロ儲けだと喜んでいたのに、早々に正反対のことを考え始めている。

冒険者たちの心中など知りもしない男性は、執事に対して比較的砕けた口調で声をかけた。

「ふむ。
…ゲイル・スチュアート氏の訃報は、実に残念だった。心からお悔やみ申し上げる。
今宵のパーティへの招待は、とても嬉しく思っているよ。
…少しは後継者殿の気持ちも落ち着いてきたのだろうか。
ああ、彼女からの挨拶は屋敷の中で構わない。
最近はここらの住宅街にも不審者が出ると聞いている。
わざわざ危険に身を晒すこともないだろう」

「ようこそおいで下さいました、グーリィガ様。
家主への気遣いのお言葉、ありがとうございます。
ええ、只今アリス様は、玄関ホールにて皆様をお待ちしています。
その時に丁重に挨拶させて頂きます、と事付けを預かっております。
どうぞこちらに」

執事は深々と一礼すると、そのまま一家を屋敷へ案内しようとしたが、男性は彼を引き止める。

「…いや。
門は開いているから、私達はこのまま屋敷へ向かわせてもらうよ。
そこまでの案内は必要ない。
後続の馬車への挨拶を早く済ませなさい」

「…重ね重ね、お気遣いありがとうございます。
では、他の招待客の皆様と共に、後ほど屋敷をご案内致します」

「ああ。
ゲイル殿の人嫌いは相当有名だったからな。
使用人も君だけなのだろう?
気にしなくていい」

「恐れ入ります」

短い挨拶をかわした後、男性は家族を引き連れて、護衛と共にスチュアート家の玄関へと向かった。
馬車の脇には、一台につき1人の屈強な護衛が控えていたのだ。
執事ーーモスラは男性に礼をすると、二台目、三台目の馬車に乗った者に順番に挨拶していく。

本来なら、このように招待客を長くまたせるなど非常識極まりないのだが、箱馬車の中にいるのはドレスアップしているだけの普通の市民である。
ルルゥから事情を説明されているため怒り出す者もいないし、使用人が足りない事情もあるため、この対処で問題ないだろう。
レナ達は敵に冒険者だとバレている可能性があるので、メイドとしてお手伝いしている方が違和感があると考えた。

招待客の中には、ゴルダロとジーンの姿も見える。
護衛のほとんどはお宿♡の常連獣人たちである。
彼らは目立つので、特に念入りに変装していた。

全員が屋敷内に入ると、モスラが大きな門扉を早々に閉めていく。

もう少しで完全に扉が閉まるかという所で、ふいに、伏せていた瞳を上げて宵闇の一点を見つめた。

…荒くれ冒険者たちがいる方角である。
視線を受けた彼らの背はゾワゾワッと泡立ち、気分が悪そうにしている者もいた。

…モスラがそちらを見つめていた時間は約30秒ほど。
バレている?などと、余計な深読みをするには十分な時間である。

美しい執事はスッと瞳を細めて、口元だけで器用に笑って見せると、1mmのスキマもなく完璧に門扉を閉めた。
……………。

街道に取り残された荒くれ冒険者たちは、しばらく黙りこみその場に留まっていた。
映像記録魔道具の記録時間オーバーを知らせる「ビーーー」という音でハッと我に返り、どんより青白い顔を向き合わせる。

「…おい。どうするよ?
後ろ盾のない小娘一人だけならともかく、あんな貴族連中に睨まれるだなんてごめんだぞ…!?」

「そうだよなぁ…。
もしかしたら金持ちなだけで階級は無いかもしれんが、ヤバイのには変わりねぇ。
…何だよ!あのとんでもねー護衛ども!」

「俺、もう無理だわ…。
すげぇ良い仕事だったけど、屋敷は不気味だし捕まるリスクはあるし、何より…あの執事がすっげえ不気味なんだよ…!
勘だけだが、嫌な予感しかしねぇ!!見られただけで鳥肌立ったし。
あいつ、いつの間に屋敷の使用人になったんだ?
…俺は抜けるぞッ!!」

「お、おい。ズルいぞ…!?
俺だって、今のままの雇用形態じゃもう続けらんねーわ」

「俺も、嫌だ!」

「「「…とりあえず、魔道具だけ返しに行くかぁ…」」」

浮かない顔をした3名は、ゲスいが意外と真面目だったようである。
力無く頷きあうと、まるで逃げるように駆け出して、高級住宅街を去って行った。

***

「本日は仮装焼肉パーティのためにお集まり下さり、大変ありがとうございますっ!!
メインは虎肉、そして、牛肉、豚肉、羊肉、鳥肉にソーセージ、ベーコンと多数揃えております!
お野菜もたっぷりありますよ。
スープも、必要な方は申し出て下さいねー!
コック長は藤堂(とうどう) レナさん!」

「あなたの胃袋、私が必ず満足させて見せまーーすッ!」

レナさんの掲げたお玉がキラリと光った気がした。今宵の彼女は一段と輝いている!

「「「「きゃあーーっ!!ご主人さまぁーーー!!心も身体も満たしてぇーー!」」」」

美幼児たちにもみくちゃにされた!

「配膳係は、執事モスラと執事パトリシアさんにお願いしております!」

「お任せ下さいませ」

「マジで、自分でもビビるくらいしっくり来るわちくしょう…」

お揃いの執事服を身につけたモスラとパトリシア。
背格好が似ているためモスラの服をパトリシアに貸してみた所、似合いすぎたため即採用になってしまったのである。
本人も了承済みだ。

「パトリシアぁー!かっこ良くて可愛いわよー♡
ひゅーひゅー!」

「がははははははッ!!似合うなぁ!」

「俺より俄然イケメンなんだけど、一体どういうことなの…?」

保護者たちから野次が飛ぶ。

「最後に、ホストは私、アリス・スチュアートでございます。
この大広間に用意されている全ての料理は、スチュアート家と愉快な仲間たちが皆様のためにと用意したものです。
遠慮なく、全て召し上がって下さいね!」

「「「「うおおおおおおおお!!」」」」

愉快な仲間たち、は打ち合わせしていたセリフだったが、大いにウケている。
アリスは照れ臭そうに笑っていた。

「更に更に、差し入れも頂いております!
ルルゥさんからは極上チーズスフレケーキを!
友人様方からはお酒を!
獣人さんたちからは珍しいお野菜を!
肉屋ゴメスさんからはお肉用の特製香味ソースと各種お肉のおすそ分けを頂きましたー!」

「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」

「今宵はパーティを存分にお楽しみ下さいませー!!
では。いただきまーす!」

「「ひゅーひゅー!アーリスー!」」

これは夜の護衛の時に仲良くなったスライム達だ。ルルゥお母様の影響を受けている。

「さすがでございます、アリス様」

「「「「うおおおおおおおおおッ!!!
いただきまーーす!!」」」」

全員ノリノリだ。

アリスの仮想敵との温度差は、実にひどいものである。
家主の挨拶も終わり、仮装焼肉パーティはたいそう賑やかに幕を開けた。

肉はトレーの上に並べて置いてあり、セルフサービスで取って自ら焼くスタイルである。
元家主ゲイルの所有していた魔道具コンロ一式をフルで使えば、大量の肉も野菜も一度に焼けるのだ。
素晴らしい!とレナが絶賛していた。

「スープをくださーいっ!」
「あっ、こっちにも!」
「白ワインをくれー」

「「かしこまりました!」」

なんちゃって執事たちはテキパキと動き、スープだのお酒だのを給仕していく。
コック帽子を被ったレナさんも、ノリノリで力作の虎テールスープをどんぶりに注いでいた。
これは言わば、ごっこ遊びの延長を楽しんでいるのだろう。

とりあえず全員に汁物が行き渡る頃には、すでに酒で出来上がっている者が数人。
楽しそうな笑い声が大広間にやかましく響いている。
まるで大衆酒場のようだ。

酒も食事も上手いし、乗ったドッキリ☆作戦は愉快極まりないのだから楽しくないはずがない。
上品に飾られたスーツやドレスは、着慣れていない事もあり既に着崩されかけている。
後でルルゥが着付け直すか、リリーが馬車に乗り込むまでは[幻覚]でごまかすだろう。

ごっこ遊びをいったん終えたレナと執事たちも、食事の席についた。

「うまく行ったかなぁー。モスラ、手応えはどう?」

「バッチリですね」

話を振られた黒髪紅目の執事は、実にいい笑顔である。

「お、マジ?やったじゃん!
手の込んだ仕掛けしたかいあったなぁー」

パトリシアはジョッキビールを一杯飲み干し、早くも出来上がっていた。

「そっかぁーー…。
ふっふっふ。
じゃ、敵はこっちの動向をヤバイと思ったって事だね?
…これから直接接触してくるかもしれないね。
アリスちゃんの警護をしっかりしておかないと…。
でも、乗り込んできた時こそ、罠に嵌める絶好のチャンスっ!」

「「わーっ!ご主人さま、ヤる気満々じゃーーん」」

「…頑張ろうね?えいえいおーーっ!」

「んー。物理攻撃ならお任せあれー」

「うわわっ…!?」

レナさんがお肉を焼きつつニヤリと笑っていると、既に焼かれたお肉やらを持った美幼児たちにまたも囲まれる。
ハマルとリリーも仮面を付けているのは、来客の子供役をしていたからだ。

主人の脳内考察がひと段落したと見たヒト型従魔たちは、次々にあーん!とお肉を差し出し始める。

「「レーナ!クーとイズからの愛なのよ、受け取ってぇーー♡」」

▽レナは でかい虎肉×2を あーんされた!
▽リスのように 頬張っている!
▽愛を吐き出す訳にはいかない…!気合で飲み込む!
▽しっかりした歯ごたえに甘い脂(サシ)、実に美味しいっ!

「…ご主人さま!
水分も、取らなきゃ。
えーと…ぶどうジュースと、苺ミルク。どっちがいいかな…。ううん、両方あげるね!」

▽レナは グラスジュース×2を 差し出された!
(蝶はとにかく水分をよく摂取するのだ)
▽これも…愛。
▽気合いで吸い上げる!

「レナ様ぁー。お野菜もー、食べよ?
あーんっ」

▽レナは フォークに刺さった サラダを差し出された!
▽不器用なハマルは 時々レナの口元にドレッシングを付けてしまっている…。
▽愛だ。愛なのだ。
▽口元を汚しながらも食べ切った!

「レナ様。失礼致します」

▽レナは モスラに 口元をハンカチで拭われた!

「…なんだろう…すごく恥ずかしい…私、もう17歳なのに…」

▽レナは 心に ダメージを負った!

パトリシアが笑っている。

「ドンマイ、レナ。
正直、レナの主人として従魔の愛情全部受け止めようって姿勢は尊敬してるよ。
…それより飲もーぜ!」

「ちょっ…もうお腹タプタプなんだけど!?
食べてたとこ、見てたよねー!?」

「なーんだよー、友達だろー?ビール美味いよ。
ホラホラホラホラ」

「いーーやーー!」

▽レナは 酔いどれパトリシアに 絡まれている!
▽めんどくさい!

「レナ、スフレケーキ食べる?あーん♡」

「あーーん!」

▽レナは ルルゥの差し出す 極上チーズスフレケーキを 条件反射で口に入れた!
▽ふわっとトロける口どけ…優しいチーズの風味がたまらない…!
▽幸せそうな顔をしている。

「おっぱいみたいにぽよんぽよんの感触でしょ♡うふふっ♡」

「なに言ってるんですかーー!?
よ、酔っ払いめんどくさい…!!」

「「あっはっはっはっ!」」

仲良し姉妹ペアが暴走している。被害者は…レナさんとアリスだ。

▽アリスは 酔っ払いを 大人モードで上手にあしらっている!

一角がやたらと濃いように感じるが、そんなことは無い。一帯全てが濃い。
獣人たちはガツガツと生焼け肉を頬張ってはしゃいでいるし、酒好きの面々は高アルコールのものを飲み比べし、潰しあっていた。
ロシアントマトのハズレ(激辛)に当たったジーンは悶絶していて、それを見たゴルダロの笑い声が広間中にやかましく響いている。
カオスと言う他無い。

まあ、夜のパーティはホストの家に泊まりになる事も珍しくないので、全員今夜はお屋敷に泊まることになるだろう。

「…アリス様、こちらを」

「ありがとう、モスラ!
わあ。私の好きなものばっかりだ」

「当然、貴方様の好みは熟知しておりますから」

「ふふっ」

アリスに差し出されたのは、シンプルなコッコ肉の塩焼きと、豚肉の特製ソース掛け。
キャベツと玉ねぎの焼き野菜に、テールスープ。一口サイズのスフレケーキ。
それらを盛り付けた3つの皿が乗る盆を手に、モスラはアリスに微笑んだ。
アリスも頬を染めて、彼に可憐な笑みを返す。

「…こういう賑やかなのって初めてだから。すっごく楽しいよ!
ご飯も美味しいし、えっと…幸せな気持ちー」

「おや。それは良かったです」

…モスラの中にはずっと、命の恩人のお爺さんの形見であるアリスを守らなければ、という思いがあった。
しかし今は、単純にこの少女に幸せになってほしいという気持ちの方が大きくなって来ている。
クラスチェンジを重ね、知能が上がった事も影響しているだろう。

アリスを守るため。
息子たちには、キッチリ灸を据えなくてはいけないな、と笑顔の奥で考えていた。
アリスが、彼をじっと見つめる。

「…モスラは今、幸せ?」

「!」

紅色の瞳を数回瞬かせたスチュアート家の執事は、花が開くような笑顔でその問いに答えた。

「はい。とっても幸せですっ!」

ーーレナさんが息子と荒くれ者たちをしばく理由が、また一つ増えた。

アリスを守るため。
そして、可愛い新人従魔の幸せを守るため。

ドッキリ☆作戦がクラスチェンジする福音(ベル)が聞こえた気がした。
穏便さんは旅に出たようである。

楽しい美味しい宴は、皆が潰れる明け方頃まで続いた。

***

「なんだァ、これはーーッ!!?
全員が仮面なんぞを付けているではないか!
くっ…素顔が分からん!」

「小賢しい、実に小賢しいッ…!
名前も偽名のようだ。
しかも、帰りの様子は録画していないだと?」

「…分割して撮って、映像時間を確保するくらいしてよ!?
おまけに、雇った奴らが抜けたいって言ってるって…?」

とある貿易会社の社長室は、実に荒れていた。
一人だけ、代表としてここに入室を許されていた連絡係の冒険者も、一人だけ糾弾をうけて、イライラしたように声を荒げている。

「…んなこと、俺に言われても知らねーよッ!?
撮ってた奴らと直接話せばいいじゃねぇか!
あいつらは、この日給だと割りに合わんから辞める!って言ってたぜ。
…話聞いたら向こうについた連中もヤバそうだし、俺も、もうパスだ!
ぶつくさ文句言われるのが俺だけなんてのも不愉快だし、やってらんねぇ!」

「「「待て待てッ!!」」」

慌てて、三兄弟が引き留める。
長男が怒りで顔を赤くしながらも、妥協案を提案した。

「ちッ…!仕方ない。
賃金は3倍に上げる。仕事はとりあえず今までどおりの見張りで、攻撃はやめておけ。
…それでどうだ」

「…おう。随分と気前いいじゃねぇか?
俺たちゃ、今までボラれてたのかねぇ。
ま、それなら、俺は続けてもいいぜ。
他の奴らは分からんが、話はしとくよ、社長(シャチョー)サン!」

「くっ。…返事は早くな」

「あいよ」

結局、経営が苦しい中で更に余計な出費を重ねてしまった…。
そう考えた息子たちは、悔しそうにギリギリと歯を噛み締めている。

「ーー許さんぞッ!!拾われ子め!」

許されないのはお前らである。

お互いの思惑が交錯し、ドッキリ☆大作戦が、ついに目覚めの時を迎えようとしていた…!

 

 

 

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