40:モスラレベリング2

大木の立ち並ぶ森の中を、レナ一行は慎重に進む。
目の届かない頭上からの攻撃を特に警戒していた。
索敵要員のリリーはとても優秀だが、一人で全方位をまんべんなく確認することは出来ない。
彼女に全てを任せ切るのではなく、レナたちも周囲の様子をしっかりと見て、耳を澄ませつつ歩いていた。

カサリ、カサリと葉の擦れる音が聞こえる。
木漏れ日の光が風でゆらりと形を変えるたびに、魔物が木から飛び降りて来たのではないかと警戒して、そちらに目を向けてしまう。

…やはり、見通しのいい草原よりも、森林での行動は神経を使うようだ。
ダナツェラ近郊の森での移動がそこまで苦でなかったのは、特別な目を持つ先導者がいたからだろう。

自分たちが敵に見つかりにくいという点はメリットである。
悪い事ばかりではないと己に言い聞かせて、皆、モスラの戦闘対象となる獲物を目を凝らして探していた。

『…ご主人さま!…あそこに、ミノコムシがいるの。
木にぶら下がってて、動かないし…モスラが的当て、しやすいよっ』

「了解!」

▽レナ達は ミノコムシ×5を 発見した!

初めに低級モンスターを見つけたのは、リリーである。
示された場所をじっと見つめてみると、緑~茶色の葉に包まれた蓑虫(みのむし)型のモンスターがうっすら確認できた。

ミノコムシは木にぶら下がり、木々の隙間からそそぐ陽光を吸収することで蛾のモンスターへと成長する幼体の魔物だ。
蓑虫型の今は[硬化]、[擬態]スキル程度しか取得しておらず、攻撃力はほぼ無いと言っていい。
低レベルバタフライの獲物として、とても良い討伐対象だと言える。
[擬態]により、ほとんどの外敵はミノコムシに気付けないのだが、【フェアリー・アイ】を持つリリーには虫たちの魂の灯火が見えていた。

近場の魔物たちの詳しい情報は、トイリアについてすぐに、レナがギルドの魔物図鑑で確認してある。
レナ達のパーティには[鑑定]スキルを持つ者がいないため、事前に知識を仕入れていたのだ。

「まず、モスラの[吹き飛ばし]スキルで蓑(みの)にくっついてる葉を落とそうか。
そして、[風斬]スキルでミノコムシが木にぶら下がってる”糸”を切断。
落ちてきた所を、ハーくんが撥(は)ねる!
これでいこう!
リリーちゃんは周囲の警戒をお願いね?」

『『はーい!任せてー!』』
『かしこまりました!』

「モスラの[風斬]スキルの命中率に影響するから、今回は[鼓舞]スキルをかけずにいこうと思う。
一撃で倒そうとは思わなくていいから。
先輩たちが攻撃のフォローしてくれるし、落ち着いて当てていこうね」

『はい…!お気遣いありがとうございます』

「ふふっ。皆で頑張ろう!」

『『おーーーーっ!』』
『はい!』

今回は、確実性を特に重視した戦法のようだ。
ミノコムシは従魔たちよりはるかに弱い魔物なので、主人の支援スキルが無くても倒せると見積もった。
レベル差ももちろんあるが、レア種のモンスターは魔物としてすでに強者なのである。

深呼吸をして、草むらの影から一同はミノコムシをじっと見つめる。
…モスラが動いた!

『ーースキル[吹き飛ばし]ッ!!』

「「「「「(!)」」」」」

▽でっかいバタフライが現れた!(ミノコムシ視点)
▽先制攻撃!ミノコムシの 蓑(みの)の葉が 飛ばされた!

モスラの巨大な翅(ハネ)のはばたきにより、森の一角では激しい突風が巻き起こる。
レナも足を踏ん張らなければいけないほどの強い風により、ミノコムシの葉のほとんどが取り去られて、芋虫特有の節のある柔らかいワームボディがあらわになった。

虫たちは何が起こったのか理解できずに混乱し、くねくねと身じろぎしている。
まだ糸により木に吊るされたまま、芋虫が取り乱している今が…勝負時!

『ーースキル[風斬]ッ!』

モスラが追撃した。
一匹、二匹と、ミノコムシは命綱の糸を切られ、為す術もなく地面へと無防備に落ちていく。

「連続攻撃を!」
『ーースキル[風斬]!』

手は緩めない。
魔力を食うが、連続攻撃をするよう主人は指示を出した。

モスラは期待に応えて、器用にも、一度のスキル使用で2匹のミノコムシを落として見せる。

ーーーキィキィッ!!キィー!!

悲鳴と共に落下するミノコムシを、助走をつけた1.5M級のゴールデンシープが軽やかに撥(は)ねていく。
スライム先輩がいないので、額には盾ダンゴムシの殻が貼り付けられている。

『スキル[駆け足]ーー!』

パコンッ!パコーーンッ!
と小気味いい音を立てて、ミノコムシたちは宙に跳ね上がり、レナ達の脳内にはベルの音が響きわたった。
モスラの二度目の戦闘は大成功に終わった!

<従魔:モスラのレベルが上がりました!+1>
<ギルドカードを確認して下さい>

モスラの現在のレベルは3。
もう少しレベルアップをして強化しておきたいところである。
リリーたちは数回のレベルアップで早くもクラスチェンジを果たしたが、新種のモンスターは進化するまでもう少し時間がかかりそうだ。

レナたちは少しの間だけ勝利の余韻にひたると、次なる獲物を求めて、森のさらに奥へと向かった。

***

「あれは…”ポポタン”?」

『…ご主人さま、大正解だよ!
ポポタンなの。私も、見たことあるもんー』

『群生してるねぇー』

▽レナは ポポタン×20を 発見した!

ポポタンとは、真っ白で丸っこいキノコのモンスターである。
見た目はマッシュルームに似ているが、カサの表面は柔らかい産毛に覆われており、大きさは直径5~15cm。
倒木(とうぼく)に寄生して養分を吸い上げ、生きている。
ちなみに、毒性があり、食用には向かないが…スライムへのお土産にいいかもしれない。
狩っていく事にした。

「えーと、たしか、毒の胞子で攻撃してくるから…。
…うん、丁度いいかも。
リリーちゃんは[紅ノ霧]でキノコたちを包んで。
ハーくんは少しだけ待機。
モスラはまず、[威圧]でキノコたちをビビらせてから、胞子を出してきたら[吹き飛ばし]!
風を送る方向は私たちの対極ね。やや上向きで、お願い出来るかな?」

『…まかせてっ!』
『かしこまりました』
『はーい、レナ様ー。…後でボクの出番もあるのー?』

「もちろん。頼りにしてるからね!」

『ふふーん。おまかせあれ〜。頑張るから、あとで褒めてねー?』

…得意げな羊が可愛くてもふりたくなったレナさんだが、今は我慢して、目前の敵に集中する。
キノコはモンスターなので、ある程度の知能はあるはずだ。
“敵に襲われる前に”と、早い段階で胞子を出してくるといいな…と考えていた。

「リリーちゃん、お願いっ!」

主人の指示を合図に、ハンターと化した従魔たちが動き出す。

『…スキル[紅ノ霧]!』

ダークフェアリーがスキルを発動させると、ポポタンたちは濃い紅色の
霧にすっぽりと覆われてしまった。

[紅ノ霧]の効果は、霧に包まれた者を”恐慌状態”にすること。
いきなり視界が紅(あか)く染まり、なぜか恐怖心がこみ上げて来たポポタンたちは、ふるふると小刻みに身震いしている。
中には、倒木から移動しようと、すでに触手のような菌糸を引き抜いている者もいた。
ハンター達がこの好機を逃すはずもない。

『ーースキル[威圧]!』

モスラの複眼効果により、多数の視線に射抜かれたポポタン達は、恐怖心からその場に縫い付けられてしまった。
なんとか反撃しようと、[毒の胞子]を辺りに撒き散らす!

「(やった…!)
ハーくん、[体型変化]で身体の大きさを二倍にしておいてねっ」

『おおせのままにー!』

「モスラ!」

『はいっ!…スキル[吹き飛ばし]!』

森には、またも突如として強い風が吹き荒れる。
紅色の霧と毒胞子がミックスされたトンデモ風は、レナ達の向かい側の木々を舐めまわすようにして吹き抜けていった。
不気味な薄紅色に染まった森の一角…。
宙でキラキラと光る胞子がやたらと美しくて、異様な光景である。

ぷるぷる震えているキノコに注意を向けつつも、風の通っていった道を、レナは目を細めて見ている。
ハマルにこしょこしょと何やら耳打ちしていた。

モスラが未だにキノコを睨みつけている中…。
目の前の大木からは、毒胞子のとばっちりを受けて麻痺状態になったモンスターたちが、ボトボトと落ちてきた!
計算通り。
…ご主人さまは、これを狙っていたのである!
ニヤリと笑って目配せする主人と羊は、とても悪い顔をしていた。

「んー。もう少し待とうか?
胞子がまだ少し舞ってるから、貴方も麻痺毒を受けちゃうかもしれないしね」

『レナ様ぁー、お優しい~!』

本当に、レナさんは身内にはとても優しい。
獲物とみなされたモンスターたちは身体の痺れにより逃げることができず、ジタバタもがいている最中だというのに絶賛放置プレイである。

ハマルがご主人さまを見つめる目は、恍惚…いやいや、尊敬に満ちている。
獲物は[紅ノ霧]により恐怖心も増しているだろうに…。合掌しておく。

「今のうちにキノコを採取しよう。
リリーちゃん、手伝ってくれる?」

『おおせのままに、なのー!
えへへ、ご主人さま、カッコ良かったよっ!』

「ありがとうー!」

マイペースな主人たち会話を聞いたモスラは、レナ様には絶対逆らってはいけないな、と、ポーカーフェイスながらも心の中でこっそり誓っていた。

胞子を出し尽くしてぐったりしているキノコたちのカサ部分だけを、ナイフで採取していくレナと魔人族リリー。
リリーはお宿♡から買い取ったバスローブ姿である。

ポポタンは、軸の部分が残っているとまたそこから手足である菌糸を生やして魔物化してしまうのだ。
気をつけて、カサと軸を切り離して行く。
攻撃手段がもう無いうえに動けないキノコの採取は、実にはかどった。

▽レナは ポポタンのカサ×20を 手に入れた!

毒性のキノコだが、毒抜き技術を持った大都市の薬屋では、調合素材としてなかなかの値段で売れる代物らしい。

魔力を節約するために、今回はモスラの[風斬]を使ってポポタンを仕留めなかった。
狩猟レベリングはもういいのかって…?
経験値対象なら、目の前にいくらでも転がっているのだ。

『…スキル[駆け足]ーー!』

『スキル[風斬]、[風斬]、[風斬]ッ!』

鋭い風の刃が、ただの的となったモンスター達の喉笛を見事に斬り裂いていく。
巨大ヒツジは、麻痺が解けて動き始めた獲物を逃がすまいとダッシュして、軽快に宙に撥(は)ねとばしていった。

ーー圧倒的ではないか、我が従魔たちは!!

…失礼、ご主人さまはそんな事は言わない。
しかし作戦が完璧に思い通りに進んだレナさんは、とっても嬉しそうな表情をしていた。

▽キツツツキ×2を倒した!

▽ヨナグニ蝶×2を倒した!

▽爪猿×1を倒した!

▽ピリピリ蜘蛛×2を倒した!

▽ビリビリ蜘蛛×1を倒した!

<従魔:モスラのレベルが上がりました!+3>
<スキル[旋風(つむじかぜ)]を取得しました!>

<従魔:ハマルのレベルが上がりました!+1>

<<ギルドカードを確認して下さい>>

直接トドメをさした従魔たちはそれぞれレベルアップしている。
リリーは補助だけだったので、経験値をためるだけに留まったようだ。
とりあえず、モスラの現在のステータスを確認してみよう。

「名前:モスラ
種族:ジャイアントバタフライ・ネオ♂、LV.6
適性:緑魔法

体力:22(+2)
知力:18(+3)
素早さ:12
魔力:18(+3)
運:11(+3)

スキル:[吹き飛ばし]、[威圧]、[風斬]、[旋風(つむじかぜ)]
ギフト:[大空の愛子]☆5」

ーーー
・[旋風(つむじかぜ)]…自分の目の届く範囲に小さな風の渦を発生させる。
こめた魔力の量で、渦の大きさと継続時間が変化する。
ーーー

ハマルは体力値と素早さが、それぞれ+1ずつ伸びていた。

先輩たちの補助によってとても効率良く魔物を倒したモスラだが、これだけレベルが上がって強くなっても、まだ進化しないようである。
試しに魔人族になれるかイメージしてもらったが、身体にはなんの変化も現れなかった…。
しゅんとしてしまったモスラに、レナは優しく笑いかけて、よしよしと頭を撫でてやる。

「んー。
やっぱり、新種だからなのかなー…?
まだクラスチェンジには少しレベルが足りないみたいだね。
もう何日かかけて、皆と一緒にレベリングしてみようか。
そんなに落ち込まないで…?
モスラはとっても頑張ったし、強くなってるからね!
今日はお疲れさまでした」

『レナ様…。…お気遣いありがとうございます』

「か、硬いなー…?」

「モスラー!…よく出来ましたっ!
[風斬]すごく上手に、当てられるように、なったねっ?
えらいえらーーい!」

『ボクらもまた手伝うからー、焦らずレベリングしていこうよー。
ね?モスラ』

『先輩方…』

「…ウチの従魔たち、ほんといい子すぎる…!!
優しい子に育って…ううっ…」

主人にならってモスラを撫でるリリーとハマルを見た親バカ筆頭のご主人さまは、涙をボロボロとこぼして感動している。
涙腺のゆるさには定評がある彼女だが、大切な従魔のことになると殊更(ことさら)涙もろい。

森の一部で蹂躙劇を繰り広げたレナ一行は、皆で仲良く会話をしながら、アリスのお屋敷へと帰っていった。

***

雲に遮られて月の光も届かない、宵闇の中。
男たち3人が不安げな表情で、チラリチラリと目前にそびえるお屋敷を眺めている。

「なあ…。
なんか最近、やたらと見られてる感じしないか…?
別に周りに誰かがいるって訳でもないのによぉ、妙にこう…背筋がゾワゾワする時があるっていうか」

「……!
き、気持ち悪いこと言うんじゃねーよ。
夜の高級住宅街を誰が出歩いてるってんだよ!
…警備員か?
まさかな。見張りも立ててるし、気付かれていないはずだぜ」

「そんな数人分の視線じゃねーだろ!
…というか、人なのかどうかもさぁ…」

「お前までかよッ!やめろよ!?」

「てか、その反応さ。
全員、何かしらの違和感感じてたんじゃねーかよ…。
何か嫌な感じだよな。視線、あの屋敷からじゃね?」

「屋敷か…。
…ちッ!立派なもんだよなぁ。
小娘一人が住むには贅沢すぎるぜッ!」

「養父のじじいの遺産が入ってきたんだろぉ?
拾った人間が資産家だっただけでも運が良かったのに、亡くなってからも屋敷を占領してるんだからなぁー。
子供のくせにがめつい奴だ」

「まあまあ。
そのおかげで俺たちに高額依頼が舞い込んだんだからよッ!
小娘にはむしろ、感謝しなきゃいかんだろ?
ぶはははッ!!
屋敷を見張ってるだけで一日1000リルだからな。ボロ儲けだよなぁ!」

「…そうだな!!
会社社長の依頼を受けられるなんて思わなかったぜ。
小娘には存分に怯えてもらおーぜぇ!」

「「「がはははははははッ!!」」」

ーーーーーギラッ!!

…ここは夜の高級住宅街。
スチュアート邸宅(ていたく)を門前から見上げていた男たちは、ふと、とてつもなく恐ろしい者に睨まれている気がして身震いした。
眉を顰めて周囲を見渡すも、人の気配はまるでしない。

結局、お屋敷へと渋々視線を戻す。
その目には、ビビってしまった屈辱と、嫌悪感、恐怖が滲んでいた。
一人が嫌そうに口を開く…。

「……う。またかよぉ。ほんと不気味だなァ…」

「実は呪いの屋敷だったりしてな」

「シャレになんねーよ!」

ブワッと鳥肌の立ったごつい腕を、男たちは寒そうにさする。

そんな彼らを屋上(・・)から見つめる異形(・・)の者は、静かに、確かに存在していた…。

***

モスラのクラスチェンジのため、レナ達は毎日 根を詰めて森林地帯へと通っていた。
時たまモンスターからの奇襲を受けながらも、基本的には先制攻撃を成功させて、効率良くレベリングを行っている。

レベルを上げるごとに、モスラの体はどんどん大きくなっていった。
レナは遠い目をして蝶々を見上げている。
レベル8の時点で早くも全長5メートルを越してしまったバタフライは、お屋敷の玄関にも入れなくなってしまったのだ。

現在は、夜には屋上で翅(ハネ)を休めている。

夜ごとアリスのお屋敷の壁を攻撃する冒険者たちを、監視ついでに[威圧]していた。
そのかいあって、最近では壁への攻撃もほぼなくなっている。
ビビっている彼らを見下ろして口角を上げる(イメージ)モスラは、確実にレナさんファミリーの一員だった。

▽モスラは 殺(ヤ)る気を みなぎらせている…!

モスラのレベリングを始めて、数日目。
彼はついにレベル10になり、進化の時を迎えた!
世界の福音(ベル)を聴いたレナが、歓喜の声を上げる。

「あっ!…モスラ、おめでとう!
クラスチェンジのお知らせだよーっ」

<☆進化の条件が満たされました!>
<進化先:ギガントバタフライ>
<進化させるには、種族名項目をタップして下さい>

『『うわーーーお!!』』

先輩たちも、後輩の成長をとても喜んでいる。
モスラは全員に恭(うやうや)しく頭を下げた。

『…先輩方、長い間特訓にお付き合い下さり、ありがとうございました。
モスラが今進化できるのは、皆さんの協力があったからこそです。
これからも精進いたします…!』

「う、うん。
わあ。どれだけ大きくなるのかなー…?
…まあ、強いのは良い事だもんねぇ。早く進化しちゃおっか!」

『はい!』

レナは明るく笑うと、ギルドカードの進化先項目をタップした。
進化先は…どうやら、完全に新種の魔物のようである。

【ギガントバタフライ】
…ひたすら大きい、バタフライの新種。
強靭な翅(ハネ)を持ち、撥水(はっすい)性の短毛に覆われたボディは岩よりも硬い。
詳しい生態は不明。

案の定!
モスラの巨大化は、もう止まらない…!
ご主人さまは実に穏やかな表情をしており、もはや悟りを開いた様子だった。
進化を始めた従魔をあたたかく見守っている。

モスラはまたも口吻から糸を吐き出して、漆黒の繭に包まれた状態になった。
しばらく内部で蠢(うごめ)く音がしてから、上方が風の刃で斬り開かれて…大きな頭が覗く。

いっそうツヤを増した大きな漆黒の複眼に、愛嬌のある丸い輪郭。
翅(ハネ)はまだ完全に乾ききっておらず、随所がシワになっている。
時間をかけて、モスラはゆっくり翅(ハネ)を伸ばしていった。
光を吸い込むほど深い黒の翅には、アカスジアゲハの名残りである真紅の模様が刻まれている。
完全に翅(ハネ)を乾かしきった彼は、大きくバサリと一度はばたいて、再び主人に頭を垂れる。

ご主人さまは穏やかな表情を…ギリギリ保っていた。
…モスラは、今や全長10Mにまで成長していたのだ!

『『カッコイイーーー!!』』
『お褒めに預かり光栄です、先輩方』

▽モスラは 期待した目で レナを見ている!

デカかろうが、レナにとっては従魔たちはやはり可愛い存在のようである。
巨大蝶々の上目遣いにきゅんとしたらしく、いっぱいいっぱい頭を撫でてやった。

「うんっ。すごーくカッコイイし、強そうー!
さすがだねぇ、モスラ。
素敵だよー」

『!ありがとうございます!』

「ヒト化も試してみようか」

『はいっ!』

どれくらいの大きさの魔人族になるかは予想出来なかったので、モスラの頭にはこれまたお宿♡で買い取った大きなシーツが被されている。
蝶々は身体の一切の動きを止めて、集中してイメージしていた。

…今度はヒト化もスムーズに成功する。
ギルドカードのモスラの項目には”魔人族”の称号が足されている。

純白のシーツをまとった魔人族のモスラは、レナたちと同年代くらいの青年に見えた。
ツヤのある黒髪に白い肌、紅色のアーモンド型の瞳。
中肉中背の身体は少々筋肉質なようだ。
なんにせよ、たいそうな美形である。
レナの従えるレア種の魔物たちは、ヒト型も魔物姿もそろって美しい。

瞳を半月の形にして艶やかに笑ったモスラは、主人に最敬礼をとる。

「レナ様。
これからも、どうぞよろしくお願い致します」

レナも彼に明るい微笑みを返した。

…さあ、こちらの戦力は揃った。
アリスのための宴を始めるとしよう。

▽悪党たちを おびき出せ!

 

 

 

 

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