38:協力者を探そう

たくさん食べて急成長を遂げたモスラだが、身体にはやはり相応の負荷がかかっていたらしい。
疲れた顔(リリー談)をしていたため、今はハマルの[快眠]スキルで半ば強制的に寝かしつけられている。

他の全員は大人数掛けのソファに座り、ハーブティーを飲みながら真剣に作戦を話し合っていた。
意見をまとめているのは、我らがご主人さまだ。

「アリスちゃん。今までにあった嫌がらせについて、詳しく教えてくれるかな?」

「うん…。
えっとね、最初に誰かに見られてる気配を感じたのは、お爺さんが亡くなってから二週間後くらい。
お屋敷のガーデンスペースに大きな窓があるでしょう?
あそこから門の辺りを見下ろしたら、冒険者風の格好をした男の人たち3人がお屋敷をジロジロ見てたの。
その時は睨まれてただけだったけど、それから毎日、お屋敷付近をうろつく大人を見かけるようになって…。
見た人は全員で10人くらい。日替わり当番制みたいで、毎日3人くらいが昼間にお屋敷を門の近くから睨んでる。
食料は保存食の在庫が大量にあったし、私も出来るだけ外にでないようにしてたから、今のところ接触はない。
夜は警備員さんが巡回してるから、昨夜まで不審者は見かけなかったけど…。
お屋敷の壁を蹴られたりしたのは、昨夜が初めてだよ。
大きな音がしてたから、何かスキルを使ったのかも…?」

荒くれ者の様子について話したアリスは、憂鬱そうに小さくため息をつく。
レナ達は、そんな彼女を痛ましげに見ている。

お爺さんを亡くして2週間後、というのは、ちょうど遺産相続の手続きが終わった時期らしい。
その後、息子たちから文句の手紙が送られてきて、それに返信をしてから、妙な大人たちに睨まれるようになったのだ。
怖かったね、とレナが労わるように声をかけると、アリスは悲しげに微笑んでみせた。

幼い彼女は気遣いにあふれた丁寧な文面の手紙を息子たちに送ったというのに、相手は親の死を悼(いた)む一文も添えず、ひたすら遺産についてのみ言及してきたのである。

アリスの言葉を聞いて、レナは眉間にしわを寄せ、顎に指を添えて思考を始めた。

「嫌がらせを冒険者に依頼したのは、息子さんたちで間違いなさそうだよね…。
冒険者たちは、だんだんと人数が増えていったの?」

「うん。
依頼を受けた人たちが全員で打ち合わせて、交代でお屋敷を見張りに来てる感じ。
一度に現れるのは3人くらいだけど、立ち去る時に冒険者同士で挨拶して見張りを交代してたから、お互いを知ってるんだと思う…。
お屋敷が見張られてる時間は、だいたい一日5時間くらい。
日雇いで個人を雇ってるんじゃなくて、長期契約を交わした人がだんだん増えていってる印象かな…」

「そっか。
じゃあ、本格的に手を出して来る前に、きっちり釘を刺しておかなくちゃね…?
…相手がまだアリスちゃんを観察してるだけの今が、言うなればチャンスだと思う。
向こうの戦力が揃わないうちに煽(あお)っておびき出して、こっちの作戦にはめよう!」

「おお…!すげー。攻めるなぁ、レナ」

パトリシアが驚いた表情で、普段は大人しい少女を見つめた。
驚かれたレナ本人は苦笑している。

「向こうが動くのを悠長に待ってたら、私達の方が罠にかけられる可能性が高いからねー。
奇抜な作戦でふいをつかないと、勝てないと思うんだ。
大人の冒険者の力は警戒しなきゃいけないし…。
私達よりずっと人生経験のある人達を相手にするんだから、堅実に動いてちゃダメだよ」

「そうだなぁ。
私は、頭悪いから作戦は考えられないけど…腕っ節と根性には自信があるからそっちは任せてくれな!」

「んー、なんとも回答しづらい…。
えっと、後半部分は頼りにしてるね?」

「おうっ!」

「あははっ、お姉ちゃんたちの会話面白いなぁ。
…本当にありがとう」

「「まかせて(ろ)!」」

▽レナと パトリシアは 張り切っている!

『『『『ふふふ、お任せあれーーー!』』』』

▽魔物たちも 張り切っている!

作戦の方針は決まったようだ。
近々レナ達の方からアクションを起こし、相手が焦って表舞台に出てきた所を思いきり叩く。
ただし、バイヤーアリスの経歴に万が一にも傷を付けないよう、驚かす程度の報復に留めること。
今回の目的は相手を痛めつける事ではなく、お屋敷とアリスを諦めさせることなのだ。
そこを押さえつつ、作戦の詳細を詰めて行こう。

まずは、アリスの護衛になる予定のモスラを強化する。
レベルを上げ、出来ればクラスチェンジを目指し、魔人族になるくらいまで成長させられたらとレナは考えていた。
魔物状態のモスラは主従以外と会話が出来ず、とても不便そうなのも理由である。
将来巨大バタフライになることも想定すると、なおさら早くにヒト化を習得させておきたかった。

次は、作戦のための協力者を得ることを考える。
これについては心当たりがあった。
お宿♡のオーナー淫魔ルルゥに協力を頼みたいとレナが言うと、パトリシアも賛成する。
パトリシアにとっては絶対の信頼をおけるお姉さんだし、ハイレベルな支援魔法の使い手であり、顧客情報を漏らさない口の硬さにも定評があるのだ。
お偉方の話相手になることも多い淫魔は、相手に合わせてオンナを作る演技力も凄いらしい。
レナのドッキリ☆大作戦では、協力者が数人から十数人必要になる予定である。
ルルゥに、信頼の置けそうな者を紹介してもらうと良いだろうと、パトリシアが助言した。

作戦のためにかかる費用については、アリスが遺産からの提供を申し出ている。
遺産は豪遊さえしなければ十分に余裕があるし、自分の事なのに何も協力しないわけにはいかないと主張したのだ。
幼女に安くないお金を出させることに抵抗はあったが、もし自分達がアリスの立場なら同じように提案するだろうとお姉さん達も考えて、申し出を受けることにした。
依頼料も別で出すとまで言われたが、さすがにそれはお断りして、いつでもお屋敷にお泊りしていい権利を代わりにもらう。
数日後、乙女たちと従魔の楽しい楽しいお泊り会が開かれて、それはそれは盛り上がったと言っておこう。

…さて、ここまで読んで下さった皆さんは、これからどのようなドッキリが起こるか、予測できるだろうか。

[レア・クラスチェンジ体質]の主人に強化されるネオ・モスラ。
花を創るパトリシア。
協力者は淫魔とその仲間たち。
投入される巨額の資金。
何より…作戦の立案者は、我らがレナ様である!

確実にやばい。
穏便に終わる気がまるでしない。

…幸運さんもすでにアップを始めているようだし、息子とやらがどのようなドッキリ☆に嵌(は)められるのか、実に見ものである。
楽しみだ。

▽淫魔に 相談してみよう!

***

自分たちが尾行されていないか警戒しながら、レナとリリー、ハマルは足早に夜道を歩く。
スライム達はアリスのお屋敷でお泊まり番だ。
パトリシアとモスラも今晩はお屋敷にいるのだが、花職人に転職したばかりの少女とレベル1の魔物では、万が一荒くれ者が手を出してきた時に対応出来ないかもしれないので護衛を増やした。
言うまでもなくパトリシアとモスラは強いが、レナは身内にはとても過保護なのである。

『…んっ!相変わらず、見つけやすいよね!』
『きらびやか〜』
「…うん…そうだよねー…」

マイホームのお宿♡前に帰ってきたレナは、相変わらずのド派手なショッキングピンク電飾を見て思わず一歩後ずさり、今日もまた、一瞬だけ帰宅を躊躇してしまうのだった。

***

借りている部屋に入ると、レナはすぐさま淫魔の|呼び鈴(ベル)を鳴らしてルルゥを呼ぶ。
緊急の用かしらー?とあわてて姿を現した彼女に「こんな呼び方してごめんなさい」と丁寧に詫びた。
他の客のいる前で、ドッキリ大作戦について話す事は出来なかったのだ。

防音性の高い室内で、レナは、仲良しのアリスという女の子が荒くれ者に狙われている事と、それに関連してパトリシア家の花壇が荒らされていた事を話す。
そして計画しているドッキリ大作戦について説明し、おびき出す際の演出の協力をルルゥに求めた。

ルルゥは冒険者連中の悪行を聞いている際中は顔をしかめていたが、ドッキリ大作戦の内容を聞くうちに鳩が豆鉄砲を食らったような顔になり、最後にはお腹を抱えて大きな声で笑い出してしまう。
目尻に涙すら浮かべていた。

レナの作戦はあまりに愉快で、それでいて相手に絶大なダメージを与えるものだと容易に想像できたのだ。
なまじ想像力が豊かすぎる淫魔は、自らの腹筋に結構なダメージを負っている。
滲(にじ)んだ涙を拭いながら、明るい声で話し出した。

「ふくくくくッ…!もう、おっかしいーーっ!
最高すぎるわぁ、レナ♡
そんな楽しそうなイベント、是非、私にも参加させてちょうだいな!
今からとっても楽しみね。
他の参加者は、私が声をかけて集めておくわね。まかせて。
えーと、高貴に見えるオトナの男女のペアがいいのよね…?
うふふ、心当たりは沢山あるの♡」

「ありがとうございます…!
ルルゥさんが協力してくれるなら、とっても心強いです。
ええと…お屋敷でパーティをする日には、このお宿♡に馬車を何台か呼ぼうと思っています。
衣装屋さんも呼びたいんですけど…大丈夫でしょうか?」

「かまわないわ。
お宿♡の玄関ホールは広いし、空き部屋もあるからね」

「助かります!
アリスちゃんが知り合いのレンタルドレスショップに連絡をしてくれるので、当日に持ち込まれた物の中から、お好みのドレスとタキシードを選んで着替えてもらえますか?
正装で馬車に乗ってお屋敷にお越しください。
費用はスチュアート家払いということで、もう話は済んでいます」

「まあ…!
じゃあ、私達はおめかししてお呼ばれするだけで良いのかしら?
ダンスパーティなの?」

「いえ。
虎肉を使った焼肉パーティです。
アリスちゃんが後見人を付けるかもしれないと相手に勘繰らせて、焦らせるのが目的なので。
お屋敷に入るまでと帰る時だけそれらしく振舞って貰えたら大丈夫です」

まさかの、高級住宅街に夜に正装で赴き、開催されるのが焼肉パーティとは。
レナらしすぎる…!と淫魔の腹筋が再び崩壊した。
笑い終わるまでしばらく待つことになる。

「ぷはっ!
そんなの、得しかないじゃない?
参加したがる人はどれだけでもいるわねぇ…。誰を誘うか。迷っちゃうわぁ。
ご馳走を頂くだけだと申し訳ないから、私からもお野菜やスイーツの差し入れを持って行くわね」

「えっ」
『『わーい!スイーツ!?』』

「ふふっ、嬉しそうねー?
せっかくのパーティだし、とっておきの高級チーズを使ってスフレケーキを作るからね。
ほっぺが落ちちゃうくらい美味しいわよー♡」

『『わーーーいっ!!』』
「こ、こら、2人ともはしゃぎ過ぎだよ?めっ。
すみませんルルゥさん…」

「レナもとっても嬉しそうねぇ♡顔がにやけてるわ?」

「失礼しました…!」

自分の心に正直すぎるレナさんと従魔たちである。
お料理上手なルルゥの作る極上スフレケーキを想像したら、幸せな気持ちになってしまったらしい。
いい笑顔だった。

レナがルルゥ達に求めたのは、言葉通り”相手をおびき出すための演出”。

息子たちがアリスにちょっかいをかけているのは、彼女分の遺産を手に入れるためである。
商業試験にアリスが受かれば遺産の名義が変更されるので、それまでに心を折ってしまおうという腹づもりなのだ。
しかし、今このタイミングで、アリスが地位ある大人を後見人につけたらどうなるのか?
幼女でもお屋敷を管理できる能力があるとみなされ、商業試験を待たずして、名義はアリスに変えられる。
それを息子たちが黙って見逃す筈がないだろう。
焦り、なんらかの行動を起こすはず。
そのために、”アリスのお屋敷に集まる高貴な身分の大人達”の演技が必要なのだ。

危険なやり方だが…相手の手札が揃うまでじっと待っているよりはずっといい。
小さな駆け出し冒険者が覚悟を決めた表情でそう告げると、ルルゥは苦笑して、彼女の艶やかな黒髪を撫でてやる。

「…あんまり一人で重い荷物を背負わないでね。
もっと頼っていいんだから!
貴方がそのアリスちゃんを助けたいように、私だって、レナを手助けしたいわ。
他にも手伝える事があれば遠慮なく言ってね。
ふふっ、私って結構強いのよ。
無理はしないで。貴方もパトリシアも、大切な妹なの」

「……!」

レナは目を大きく見開くと、ルルゥをぽかんと見つめる。
やがて、一瞬だけ肩を震わせたあと、にっこりと明るく笑ってみせた。

「…ありがとうございます。また、頼らせて貰えますか?」

「うんっ」

意外と意地っ張りなのね、とルルゥは笑ってレナの頬をつついて、「また明日詳細な話を詰めましょう」と言い残し、部屋を後にする。
従魔たちには、彼女から意味深なウインクが送られていた。

扉が静かに閉められる。
ハマルとリリーがじっとレナを見つめると、目を合わせたレナは涙をポロポロとこぼす。
自分に気合いを入れるためにも、皆の前では気を張り詰めさせていたのだろう。
ハマルが大きく変化してベッドに腰掛け、リリーが両手を伸ばして、おいでおいで〜とレナを誘った。
レナがぽすっともふもふに埋もれると、今度はフェアリーに小さな手で頭を撫でられる。

「…怖いよぅ」

『『うん』』

か細い主人の言葉に、従魔は落ち着いた声で短くあいづちを打った。
レナは、もふもふに濡れた頬をすり付ける。

「…だって大人の冒険者と、権力者が相手だもん。何してくるかなんて分かんないし、本当に怖いよぅ…。
でも、私アリスちゃんの友達だし。お姉ちゃんだし。ある程度の力ならあるから。
だから…守ってあげなくちゃ。
頑張らなくちゃ…。頑張る。
この世界の全員に優しくなんてできないけど、だからこそ、一度縁が結ばれた友達の事は大切にしたいんだ」

『…うんっ、そうだよね。
頑張って、ドッキリ作戦を、成功させようー!』

『お供しますー、レナ様ー。
縁って大事だもんねぇー。
ん?つまりー、ボクたちとの縁もレナ様にとって尊いものって事かー』

『…その通りっ!逆もね?』

「!」

『『大事な大事なご主人さまをー、甘やかしちゃうっ』』

…その晩、レナは恐怖心を洗い流すようにたくさんたくさん泣いて。
リリーとハマルに撫でられ、もふもふに包み込まれ、めちゃくちゃに甘やかされた。

次の日、目を覚ました彼女はとても晴れやかな顔をしていた。
今日も頑張ろうね!いつもありがとう!と声をはずませて笑い、従魔たちに明るく微笑む。
みんな、支えあって一緒にいるのだ。

カウンターにセクシーに座る優しい淫魔お姉さんに手を振りかえして、レナはお宿♡から元気に駆け出して行った。

 

 

 

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