370:杯の片割れ

海底で降り積もった砂などとともに塊になっていた”白炎聖霊杯”が、ようやく取り出された。

見た目はみすぼらしく、これを磨いて輝かせてようやく、カルメンの時のように人型として現れることができるのだろう。
今できるのは、声を届けることくらいだ。
その声(音)がキンギンギンギンとやかましいのだけれど。

『姉上! お会いしとうございました。さあ今こそ僕とひとつになり白炎聖霊としてこの世に復活を遂げましょう。そこに神の種もあるのですからちょうどいいではないですか。聖霊の悲願たる神への────「黙れ」姉上エェエェ!』

さっきまでレナが努力して否定していたものがまた復活しようとしていたのだ。カルメンの「黙れ」には重さと拒絶があった。

「私の意見だと聞かないはずだから。カルメンが話してあげて」
『ふむ。我は我として帰る場所をみつけた。だからまず、神になる気はないし、そこのダンジョンマスターとの合体もお断りだ』
『なんですって』
『お前のことは長らく探していたし迎えるつもりでおる』
『姉上!では我々二人の』
『いや二人じゃなくてレナさまたちも一緒』
『さまァァァ!?』
『どうせ、こちらを敬うべき人間がとか聖霊として相応しくないとか1000年前の説教をするんだろう。先に言っておく。こちらに迎え入れてやるから我の選んだ世界を信じろ』

マゾヒストの素養を持つものというのは得てしてサディストの素養も持ちがちである。どんなサディスティックなことをされたら嬉しいかという理解があるから。
▽そんな話してたっけ。

『これを拒否するというならただの道具としてお前を我の側に置く。その姿では拒否もできまい』
『そんな……』
『ダンジョンマスターにはくれてやらん。お前が我を望んだように、我もお前を望んでいる。人間のエゴを学んだからな、良きところを思い知らせるという調教』
「ちょっと待ってなんの話?」

思わず割り込んでしまったレナだが「いや逸れて長引くから後でいいや、続けて」と引いた。
このあとももちろん忙しいので、このカルメンの偏りが解消されることはなく、いずれ性根に固定されていくのであった。

『何が正しいかなど時代によって変わるものらしい──。1000年前も1000年後も、常識が変わっているというのなら、その時々で、良いと信じるものを”思い知らせる”しかあるまいよ』

(そんな破壊系プレゼン初めて聞いた)
(明確にその表現を使っていないだけでレナパーティがやってきたことですね)
(レナ様従えて)
(おや。マスター・レナに心地よさを思い知らされて赤の聖地に堕ちたジレさんが感じているとはこれまた説得力のある……)

「一応、一応マシュたんの耳を塞いでおいてねキラ、まだ早いって」
「アイアイサー!」

『なぜ、姉上が人間をそこまで』
『我らが人間の信仰から生まれた聖霊であるからして、人間と手を取り合う素質はあったのかもしれぬ。レナさまは落ちた我を受け止めてくれたのでな。ダンジョンマスターよりもこちらを追いたくなったのだ。
この時代では好きなものを追って良いらしい。お前は何を追う?』

ぐいと杯を覗き込むようにして口角を上げるカルメンは、瞳が|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)の色に輝いている。
とろけるような色彩は、全盛期の白炎聖霊杯の磨かれた表面のようで、その杯を磨いていた古代人の手のひらの感触を、わずかに、思い出したような気がしたのだ。

カッと、杯が熱くなった。

(あちち!)とレナが耐える。こちらの聖霊杯とは契約をしていないので、手袋越しに熱がよく伝わってくる。

『……姉上を。姉上を追います』
『じゃあ決まりだ。こちらに来い。ふふ、狩りの成功は気持ちいいものだな』

カルメンは大事な宝物を抱くように、ボロボロの聖霊杯をそっと胸に迎えた。

『姉!上!柔らかさの!質が!違っ!手のひら!うっうっ……』

『……』

「これまで海底の硬いところにいたわけだから柔らかいものに感激しちゃってる……のかな?」

『我も火山地帯の岩に埋まっていたので、レナさまの懐に収まる喜びを味わっても良いと思う。提供してくれ』

カルメンはすっぽりと、レナの膝に収まった。

「……カルメンさまは本体が小さいですからマスターの懐にいても面積争奪戦にあまり影響しませんし幼女ですし優遇しやすいですね、帰るときには聖霊杯に収まっているとずっとくっついていられますよ」
「キラ今どこで息継ぎしたの?」
「愛です」

▽カルメンの心を 手に入れた!
▽白炎聖霊杯の片割れを 手に入れた!
▽あとで磨いてあげよう。

「ダンジョンマスター氏〜。海底ダンジョンのイカゲソあのままにしていっていいですか?」
「いいわけないだろう!」
「ですよね。食べていいですよ」
「ダンジョンモンスターはリアルな食料を必要としないのだ!」
「じゃあ何で保たれているんですか」
「魔力だ魔力!」
「魔力が尽きたら?」
「再生させるときには必要魔力が半分で済む!」
「便利そうなプログラムをご存知ですね。うちのキラの臨時教師やってみません?」

▽マシュたんではなく キラの教育をとりつけた。
▽リヨンは何かに利用しようと企んでいるが やめておけよ……痛い目見るぜ……
▽海底ダンジョンと協定を結んだ。
▽海底ダンジョンと 赤の聖地が 繋がった。

 

 

 

 

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