369:イカゲッソー!

▽しまった!? 岩場が崩れてきた!

「はりきってしまった」
「この野郎!!!!」

下は渦潮(うずしお)。
さきほどの海水の流入はまだ収まっておらず、ごうごうと水が流れている。ダンジョンの再構成が行われるまでしばらくこのまま。

進化直後でドリューはさすがに疲労が激しい。さっきからツッコミがおとなしかったのは、進化したてで働いた代償の痛みに耐えていたからだったのだ。
それでも動き始めてくれているのだが、全員を助けるほどの体力は残っていない。

(私が本当に危機に陥ったら従魔たちは助けてくれる……)

レナはドリューに「まず私以外から助けて!」と叫んだ。

「キラ、私の考えを届けて、ゴオボボボボボボボ」
<アナウンス、アナウンス、至急、至急、マスター・レナが助けを求めています──>

悪運のあとには。
幸運がきっと、やってくる。

レナは身を守るために腕で頭を抱えた。生身の脚をぐいと曲げてできるだけ岩に接触しないようにする。この世界の人間としてレベルが上がっているため、体そのものの耐久力は上がっているし、生傷は飲みまくったエリクサーの効果も効いている。
だから──
なにか──!

レナの祈りは当てずっぽうではない。これまでの旅の経験と仲間への信頼に基づいている。

ダンジョンの岩壁がメリメリと破壊されていく。”外側から”。

(なん……だと……!? ダンジョンがこんなにも干渉を受けているのは初めてのことだ。過去、座礁船が衝突したときにも海底地震のときにも、これほどは……!)

まるでこの生態系において未確認のものによる侵略。

リヨンが思い出していたのは、神々による侵略戦闘の模様であった。

ダンジョンマスターとして不安になればダンジョンが振動して、さらにガラガラと壁が崩れてしまう。ダメだと思いつつも、こんな時に力強く奮い立たせてくれる相方の聖霊は彼にはもういなかったから。

──けれど、潮の流入は止まった。

──消滅の恐怖に震えていたリヨンが、おそるおそる頭を上げた。

みっちりと、境目に、|イカゲソ(・・・・)が挟まっている。

そのイカゲソが持ち上げられると、イカの吸盤に乗っけられるようにして、レナがいた。
イカゲソの柔らかい吸着で助けられたのだ。レグルスが人口呼吸したおかげで、息を吹き返した。

「げっほごほっ。……ミディ……!」

久しぶりに名前を呼ばれたミディは歓喜して、己のイカゲソを切り落とした。スパァン!
食べられたいすぎた。
ここには白炎もあるから炙れるしね!

「アーーーーっ」
『おっとっト〜』

ミディがみるみる小さくなって、通常二倍イカサイズになりレナとレグルスを救う。
渦潮(うずしお)の中でもスイスイ泳いでいるので、ドリューのプライドがわりと傷ついた。

「アーーーーっまた潮が! 海流がああ!」
「穴を塞ぎたいんだけど、ミディ」

『アアン察してちゃん〜』
「スキル[従順]穴を塞ぎなさい。ずっぽりと」
『わかった。[アクアフュージョン]』

ミディが海水をイカボディにしみこませてみるみる大きくなり、今度は内側から、イカゲソを突っ込む。
みっっっっちり!!
しっかりとイカゲソが挟まった。

「スキル[従順]切り放そう」
『[アクアカッター]』
「スキル[従魔回復]」

▽ご主人様にスキル使ってもらえるのが快感〜〜〜!

さらにそのイカゲソの周辺を「レグルス、オズくん、ジレ[オーバーフレイム]」ちょっと物足りなそうにしているけどご主人様今わりと瀕死だからね! スキルなしでもちゃんと指令を聞けてえらいぞ!

ドリューに助けられていたカルメンが、駆け寄ってきた。

「もっといけるぞレナさま。三匹の獣よ、我が力を授けよう。己ら白炎を宿せ──[火炎放射]!」

海水が焼かれて蒸発してゆく。
ミディのイカゲソはこんがりと──入念に焼かれたゲソ周辺は、岩壁がまあるく緋々色黄金になった。これが本当の「イカリング」なーんて。

壁からイカゲソが生えたまま放置されている。

ダンジョンマスター・リヨンは、イカゲソと、レナとを、交互に眺めていた。言葉が出てこない。

「食料確保。安全確保。よし……………………」
「食料確保いります?あっいるのか」
「そう。ミディの機嫌確保のためにいるでしょ」
「感覚が戻ってきた。ホッとするなぁ」

主従はしみじみと現実に適応している。
恥じらうようにクネクネしているミディに、レナがそっと触れて、再会を喜んだ。
とりあえずひと齧りしておいた。それでしばらくはミディはご機嫌だろうから。

「……父様……」

ゆらぁり、と起き上がったオズワルドが父に凄んでいる。

「かっこいいか、かっこ悪いか、微妙なところだったからな」
「そういう判定もあるだろうな!ふははははは」

それよりも、髪を白炎色に燃え上がらせている息子に興味津々なようで、魔王は目を輝かせている。
そうだろうなあ、だからこいつが魔王なんだよなあ、とオズワルドは口をへの字に曲げる。

「名誉挽回しよ?ダンジョンマスター確保しといてよ」
「いいだろう」
(そんなついでのようにッ)

これから白炎聖霊杯のもう片方が現れるのだから、リヨンは捕縛しておくべきである。
宰相の縄縛りに慣れている魔王にとっては、どのようにすれば抜けにくいのか工夫を凝らすことはカンタンであった。しっっっっかり縛って、レナに|緋の薔薇女王《スカーレットアンペラトリス》を返却した。予備の鞭を携えていたレナは、持ち替えた。ようやく鞭の棘が収まった。

▽従えるべきものが多い。

ミディが海水を吸収したため、地面が見える状態で、空気もからりとしている。
瓦礫の山の中で、レナたちが聖霊杯を探し始める。

「どこだろうね……」

おそらくレナの手のひらに乗るくらいのはずだ。カルメンのものと対だろう。

「あっダンジョンマスターがこっち見てたよ」
「アタリがついたな」
「カルメン」
『うーん……我を呼んでもいいぞ』
『姉上ッッッ』
「いた」

瓦礫の山の中から、一つの杯が掘り出された。

 

 

 

 

 

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