368:ドリューの成長

 

試練は人を成長させるという。

(だからってこんなに次々と死に物狂いの試練を入れてくることなくない!?)──と世界に悪態をつきながら、ドリューが進化を遂げる。

まさかの魚護人(マーマン)になったうえでのさらなるクラスチェンジ。竜宮城にいた同族はみな、魚護人のまま生涯を終えていった。だからこれ以上の進化となると一体どうなるというのか想像もつかないほどだ。

メスであれば、乙姫様と呼ばれるマーメイドの上位種となる。
だがオスは……?

水に呑まれた最中にギルドカードを必死にタップしていたため、種族を見る余裕もアナウンスを聞く余裕もなかった。目の前で、守るべき魔王たちが激流に呑まれたことがドリューをひたすらに動かした。

(男は思い切りの良さが大事ってねえええええ!そうですよねロベルト隊長! あと粘り強さっすね!  クドライヤ副隊長おおお!)

上位種の魔物の進化はとんでもない痛みを伴う、ということをドリューは身をもって知った。

鱗が内側からメリメリと剥げて生まれ変わっていく。これは脱皮だ。その下から現れたのは輝く海龍の尾。エメラルドとブラックダイヤモンドを混ぜて深海の光に晒したようなとんでもない色をしている。

(いってえ。んでもおそろしく息がしやすい)

ドリューは思いきり胸をふくらませると、巨大な泡をいくつも吐き出した。

[泡結界]……弾力のある結界。海の中であれば驚愕の強度を誇る。泡をつくるときに魔力を込めるほど長持ちする。

結界なので術者の融通がそれなりに利くようだ。魔力を使うために感覚を研ぎ澄ませる。進化したばかりなので、たとえ器が大きくなっていても、これまでの持ち前の魔力だけを使うしかないようだ。

繊細な魔力感知が必要だが、暴走魔王に付き従って魔力がぶつかってくる感覚をすぐそばで経験していたから、以前よりも魔力がわかる。

(群れをまとめているものが助けを求めるなら、応えようとするのが魔物の理)

泡が、魔王の近くに流れていく。

「オープン──」(これくらい、かっ)

魔王側の泡の表面を、薄く。

とりこんでから「クローズ──!」

すると泡の中でやわらかく保護される。
海流に揺さぶられてしまうので、口元を押さえていて気分が悪そうなのは頑張ってもらうとしよう。

(っしゃ。あとは)

レナたちもそれぞれ吸い込まれていく。

「ヨッと」

たくましい龍の尾は、逆流をものともしない。

人が入った泡を、そびえ立つ岩の高台めがけてストンストンと投げていく。
全て救ってから、ドリューは自らも高台に登った。

「ふいー」
「「「……」」」
「ああお礼とか?後でいいです、たっぷり褒めてもらっていいッスよ~」

口の端をにいっと上げてみせたが、目尻はくにゃりと人懐っこく下がる。どこか少年っぽさがある素直な笑い方は、成長したあとも、ドリューらしかった。

竜の尾を持つ海護人(カイリュード)は全長が4メートルはあるだろう。肘や耳の下方にヒレが生え、独特の色の鱗が肌のところどころを覆っている。爪が鋭くなり水かきができた大きな手はまだ使い慣れないようで、ふと頬をかすめて傷をつくり「いてっ」と呟いた。その傷も、うそのように治っていく。

びしょ濡れの獣たちが、くやしそうにドリューを見ている。主人を守るのは光栄なことだから。

少し前ならここでややこしくなっていたところだが、主人(レナ)がいるから、落ち着きを保っている。

「ありがとうございます」

レナが微笑んで言った。

ドリューとしては(落ち着かせてくれててありがとうございます!!)という心境である。

「はぁい」

それだけ言って、ドリューはあとはレナたちに譲った。
「”オープン”」パチンと泡を弾けさせた。

▽こういうのは区切りが大事だからさあ!
▽白炎聖霊杯のもう片方、どーする、に戻そっか!

「さっき聞こえた声って」

レナがケホケホと咳をしつつ、みんなに尋ねる。

「声?金属音しか……」
「待てよ。主さんと、多分カルメンだけに聞こえたってことはさ」
「あの。これ……」

ジレが抱えていたのは、深海岩の塊だった。
たくさんのものが降り積もり長年をかけて固まり、サンゴなどが生えたので、一つの塊のようになっている。
そこから確かに”響いて”いた。

『──姉上ーーーーーッッ!そこにいるのですかーーーッッ!姉上ーーーーッッッ──』

「ここに白炎聖霊杯のもう片方が埋まってるとして。色々くっついてるこのままだと周りが認知しづらいってことなのかな。掃除してあげよっか」
「う、うむ」
「あれ? カルメン引いてない?」
「そうだな……なんというか……追われるよりも追う側に意義を見出したあとなのでな」

まさかの。

「追う側」
「レナさまを追いかける時が楽しかった」
「ちょっと待って、さっき私がカルメンを追いかけた直後なんだけど?」
「自らの意思で、側にいることを選ぶ方が良かった。我は、追われるよりも追う方が好きらしい」

離れていかないとカルメンは言いたいのだろう。
やけに遠回りで、言葉を選びながらの会話になったのは、一言発するごとに、塊がビクンビクンと振動しているからだ。
引いている。レナは慣れっこなのでちょっとしか引いてない。

「………………………………………………よし、ここで解放してあげよう」
「そうですね。あとでって持ち帰ったら、ダンジョンマスターが追いかけてきそうですし」
「うううむそうだな。聖霊杯は頑丈だぞ、レナさま」

「そっかあ」

レナはカリカリと塊の表面を引っかいていたけれど、アクションを変えてみることにした。

「オズくん」わかるよね?

「父様のかっこいいとこ見てみたい」
「まかせよ!!!!」

ドゴオオオオン!
魔王の拳の一撃が決まった!!

 

 

 

 

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