366:ダンジョンマスター捕縛

 

カルメンとの[仮契約]の懸念は二つあった。

聖霊であるのに契約できるのか。
レナは耐えることができるか?

希望があるとすれば……
カルメンが聖霊の”半分”であること。
レナが白炎聖霊の司祭であること。

あとは強い意思である。

「私、運いいからね。それにあなたのことが好き」

▽思い切りがいいのもご主人様の魅力だよね! ヒュウーーー!!

「スキル[仮契約]」

レナはすばやく魔法陣を現した。
カルメンはその輝きを尊ぶように眺めている。

ごくりと生唾を呑むように喉を動かす。そんな機能は聖霊にはなかったし現在でも「生唾」が出るような体ではないが、レナパーティの豊かな動作がカルメンへと自然に移っている。
こんなにも馴染んでいる存在を放り出す気はレナにはない。身内びいきなのでね。

「やめよ!」

リヨンの一声は、そのまま飛んでぶつかってくるように重い。鬼気迫る様子で、従魔たちを跳ね飛ばしている。
ぴきり、とレナの額に青筋がたった。

「その聖霊を従えるならば、これから我に近寄った瞬間、主人もろとも”とりこまれる”と心得よ。それほどの覚悟があるわけでもあるまい?
いっときの衝動でその身を滅ぼすことにな…………あああああ〜!」

(言い分はわかるけど)

今ならばレナたちがリヨンに近寄ってもなにも問題ないのだ。カルメンをこちら側に迎えた方が不利となる。
わざわざそんなことをする必要は、常識的に考えたら、ないわけで。

けれど常識をぶち破ることに定評があるレナパーティです、どうも!!

(もしも私が情報理由の危機に陥ったら、キラが一生懸命に助けてくれるんだろうな。それを信じることもしないで、カルメンを守りきれないって切り捨てるようなことは、保守でもなく臆病なだけで、私が、魔物使いのご主人様でいられなくなるんだ)

レナはカルメンを引き寄せる。

「さあ、おいで! この契約魔法陣をくぐったら、もっと手厚く守ってあげられる」
「レナさま」

カルメンは魔法陣をくぐった。
あっけないくらいなんの感覚もなくて、ほんとうに作用したのか?不発だったのか? 不安そうな顔をしている。幼女になった影響なのかちょっと瞳が潤んでいる。

その不安を払拭してあげられるように、レナはあえて強く抱きしめた。

「そんなふうに私を呼んでくれるくらい不安だったんでしょ? 従えてって言えなくても、守って欲しかったんじゃないかなぁ。
だったら頼ろうよ。私だって、困った時には頼れるものを全部頼ってきたから。身内にはそうあってほしいの」

レナにしては強引なくらい。
言ってくれることを素直に信じてみようとカルメンは決めた。

すると、二人の心がとろりと溶け合っていて、内側から焼けるように熱くなる!

(これは……規格外の契約をしようとしたペナルティ)

せめてレナの[成長促進]や[従順]が適用してくれるといいのだけれど。
あらかじめ飲んでいたエリクサーがなければ瀕死だったはずだ。ダンジョン海洋魔物戦の経験に感謝である。

「……な〜んか、従えてるって感じとはちょっと違うような。アナウンスもなかったしね」
「やりましょうかマスター?」

▽キラのサポートが強すぎる。
▽アナウンスは遠慮しておきました。

「状況を整理するとですね……従魔契約とはちょっと違うように結ばれております。前例がなく判定しきれないので、中間をとってるような。
カルメン様はマスターの眷属、マスターはカルメン様の眷属という──いわば手を取り合う”仲間”ですね。うん絶対仲間。それ以外の言葉は謹んでくださいまし」

(つまり、運命を共にする〜とかそれ系は口にしてはダメなわけね? そうしたら私ごとダンジョンマスターに取り込まれそうとか。ええと……)

▽レナの中にカルメンの記憶が流れ込んできている。
▽状況をいそいで整理した。

尊敬や信仰によって生まれるのが「古代聖霊」。聖霊杯などの媒体をもち、生物たちを信者としている。

まとまった生態系によって生まれるのが「神未満」。ラビリンスがダンジョンに成長したときにダンジョンマスターとして自我をもち、創世をまなぶもの。

それらが合体すると、ラナシュ世界における神のひとつとなる。

(つまり……土台がつくられ、中身がみちびかれて、ひとまとまりの小世界(ビオトープ)が完成する? それがラナシュ世界の神様になる条件……神様って、成長式なんだね)

ひたむきなダンジョンマスター・リヨンや、過去のカルメンをみていると、この二種族は、神を目指すというのが常識のようだと感じる。

例えば、野球少年がメジャーリーグを目指すように。ピアノ好きな女子がオーケストラを夢見るように。

レナには、カルメンの「昔と今」の感覚の違いがわかった。

「カルメンはなりたくないそうですよ」

はっきりと言った。
何事もまずは、ここからだ。
ダンジョンマスターが神になることを「当たり前」と思っているならなおさら、伝えなければならない。

「とりあえず、今はまだ。あなたに惹かれるものはないそうです! ノーセンキュー! というか水属性の攻撃をしてくるなら相性が悪いんじゃ……!?」

レナが叫ぶ。
けれど否定をするかのように鉄砲水が迫ってくる。

『させない』

カルメンが白炎により水を瞬時に蒸発させた。

「ほーら。水より炎の方が強いですからねぇ」

▽ドリューは「違いますし」とは言えなかった。

ダンジョンが、ゴゴゴゴゴゴと振動している。
ダンジョンマスターが動揺していて、感情が乱れている証だった。いや、シンプルに”焼かれた”影響もあるかもしれない。思い入れのある古布がもうズタボロだ。白炎はからりとしているくせにしぶとく燃え残る。

「カルメンは何よりもまずは探し物を見つけたいの。そして迷い込んだこのダンジョンからは出たいんだって。そして一番は──私のことが好きで離れる気がないみたい。えへ」

レナは照れながら鞭を構えている。
なんなんだろうこの絵面は。

地獄の炎を背景に、水着美少女が幼女を抱えて、ご立派な鞭を振り下ろそうとしているのだ。

「私は魔物使いレナ。だからこの子の願いは、絶対に叶えてあげなくっちゃねー!」

──こんな言葉を1000年前に聞いたことがある、とリヨンはふと思い出した。

思い出に浸っている間もないくらい、熱の接近を感じる! レナが炎の中を突っきってきているのだ。いかに防水・防炎加工がされている高級水着とはいえ、生地の端が焦げている。赤のマントが炎よりも鮮やかにぶわりと舞っていた。
いやそれよりも。

「おりゃあああああああ」

(このスピードはなんだ!?)
どんどん加速している。

見ると、レナのブーツの下には白炎の[フレイムボール]が光っていた。

つまり戦闘ロボ飛行のようにぶっ飛んでいるのだった。まっすぐにしか飛行できない。

「なあ!?」
(ならば横に避けて聖霊に近づけばいいか……!?)

リヨンには一瞬の迷いがあった。
そのためらいが勝敗を決した。

ジレが力強い[足踏み]バキバキと地面を割り、岩柱をそびえさせる。
左右がでこぼこと塞がったのでリヨンの進路変更がむずかしくなった。

その岩柱を軽々と乗り越えてきたのは二匹の獣。毛皮の半分を純白にしていて、残り半分はそれぞれ黒青・朱赤である。
現れただけでも白炎があふれて周りが燃え上がっている。

そこをレナががむしゃらにつっきってくる。
あまりのスピードにもはや頬が内側から膨れており「ギャグ顔」の有様だ。

「あなたってえええ岩羊に似ていますよねえええ」
「……!?」

そんなことは初めて言われたのでリヨンは否定をしなかった。そんな場合でもないし。

けれどレナにとってはそんな場合だったのである。

鞭を大きくしならせて、アイテム耐久のゴリ押しで白炎を纏わせた。

「スキル[羊鞭]!」

[羊鞭]……羊形状のものを効率的に鞭打ちする。ぶあつい毛や外皮に打撃を邪魔されず、軽快に打ったあとはぐるりと巻きついて締めつける。

マゾヒツジ大歓喜不可避。きっと今頃エルフの里でくしゃみをしたあと、なんとなく白金毛ハンカチを噛みしめてエルフに悲鳴を上げさせているだろう。

「ぐああああああああ!なんじゃこりゃあ!?」

羊鞭です。

「称号[サディスト]セット」

レナは鞭を手放している。それよりもリヨンをぐるぐる巻きにして白炎まみれにさせることを優先したのだ。レナの手を離れたことで鞭は癇癪を起こしていて、トゲトゲささくれている。リヨンの岩のような体表に割れ目を作ってしまうくらい鋭利だ。これのせいでゴロゴロ転がって火を消すこともできない。

パシン!とレナが手を打ち鳴らした。

「私たちと話す場を設けて。そうしてくれないなら、全身を|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)にしてやるわ。そんなにも変わってしまったら、ラナシュ世界において生体情報が保たれるかな? 保証しませんから」

白炎を扱う獣たちが背後で人型になり、純白の髪も神々しく、けれどそんなことを鼻にかけることもなく水着がボロボロのレナに自分たちの服をかけてあげている。
▽レナが着膨れてしまった。

▽絵面はシリアスとギャグが混在したカオスである。

▽ダンジョンマスター・リヨンが捕縛された。

 

 

 

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