365:目的発見!

「カルメーン!」

すこし高飛車で伝えることに全振りしたような声が、ポーーンと飛び込んできた。

「ゲホッゴホッ」

肺を頑張らせすぎて噎せたようだ。
レナらしい。

じゅわりと溶けた岩の壁の向こうで、カルメンはようやく自分の存在が再生されていくのを感じた。

かれこれ白炎が使われなくなってから、一ヶ月なのだ。
その間、カルメンはどんどんと自分が”薄まっている”ように感じていた。
もともと積極的に構おうとしていたのはレナだったから、そのレナが昏睡状態になり話しかけられなくなった。近くにいた従魔たちも己の感情制御で精一杯。

カルメンの意識は日に日にぼんやりとしていって、昔と今を行き来するようになり、「さみしい」と思い始めていた。この輪(パーティ)にやってきて味わったからだ、たくさんの存在に囲まれている日常というのを。良いものを知ってしまえば、たとえ失くしたって求めるに決まってる。

従魔たちに求めるのはダメだった。カルメンが近寄っただけで、クレハはスライムの核(ジュエル)の一部を|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)に変えてしまったし、レグルスやオズワルドは髪の色が真っ白に燃えさかり己を見失ってあばれて、ジレには本能的に必死に威嚇されてしまった。

でもどうしてもさみしかった。

そんな時に感じたのが片割れの波動だった。
ほんのわずかに、槌が金属を打つ時のような、キーーンとうなるような感覚が…………カルメンを呼びつけた。

さみしさを慰めてもらいたくて。
半身と合わされば司祭(レナ)のようにあたたかくなれるはずであると。
カルメンはその願望のままにただひたすら進んだのだ。

たどり着いたのは”たまたま”ダンジョンだった。
ここにきてからようやく、小世界にまつわるルールを思い出した。
(なんという運命なんだろう。チッ)
カルメンは神未満(ダンジョンマスター)に見つからず、片割れの白炎聖霊杯(カンテラ)を見つけなくてはならなかったから。

しかしやる気に反して、すぐにへばってしまった。もともと聖霊としての土台が弱っていたうえに、水属性のこの空間はカルメンの肌に合わない。

ダンジョンマスターの視線をずっと感じていた。あちらは余裕があるようで、じとじと歩むカルメンをしつこく見極めているようだった。
(弱っている聖霊のほうが取り込みやすいのだったな。その意思とは関係なく、従えるように己の力とした神もかつて、いた……)

カルメンは朦朧としながら、意識は過去と現在の狭間を行き来しつつ、足を動かしていた。

思い出す中で一番輝いていたのが、レナパーティとの思い出だ。

そしてカルメンの理想(イメージ)のレナは言うのだ。

「せっかく見つけた白炎聖霊杯(カンテラ)の片割れを、諦めないであげて」……と。

ハッとカルメンの意識が浮上する。
また、ふと昔に呑み込まれていた。いや、これは理想のレナに呑み込まれていたのかもしれない。あの包容力は、酷く癖になる。

じゅわりじゅわり、と岩の壁が溶けていく。
その向こうにいるであろう現実のレナは、どんな表情をしているだろう。
カルメンの覚えていたレナだろうか。それともまったく違う顔をしているだろうか。

怖いけど……会いたいな、と思った。
だって随分と久しぶりに(※一ヶ月)、カルメンのことを心から求めるような声だったから。

▽じゅわり、と岩の壁が溶けた。

▽魔王ドグマが飛び出した!

『何っ!?』

「我、一番!」

『触るなあああああ!』

▽カルメン全力の拒絶!

ゴオオオオオオ!! と白炎が燃え盛る。

▽二番手に迫っていたダンジョンマスター・リヨンに引火して その辺を転がらせて火消しに追わせた。

『我々に触れてよいものは信者のみだと決まっている。お前のように他所の頂点を守るようなものなど、とくにお断りだ。我々は誇り高き白炎聖霊である!』

▽カルメンは少々子供返りしているので。

「ぐおおおお……まさか我を焼くような炎がこの世にあろうとはなァ!ふははははは!」
「ギャアーーーー焼”き”魚”は”嫌”っす!降ろして!降ろせ!」
「火で手の皮が焼けてお前の鱗とくっついてしまっていてな」
「なんで防火ローブじゃないところでこんな事故が……!」

▽運が悪い。
▽ドリューは全力水魔法で 火達磨魔王の拘束を逃れた。

<ドリューのレベルが上がりました!+1>
<★進化の条件を満たしました>

「今進化ぁ!?」

<が、後にしておきましょう>

「なんなんだこのアナウンス!?」
「なんだどうした」
「魔王様まだ末端に炎が燃えてるのであっちいって下さいよ!」
「|福音(ベル)と言ったので気になった」

▽キラの仕業です。

レナたちが岩場に追いついた。
防火ローブとキラの[スペースカット]で白炎を防ぎながら、なんとか辿り着いたのだ。砂もじゅうじゅうと溶けているので、まるで火山地帯のマグマの中をゆくような状況であった。
レグルスとオズワルドが人型になり、レナとキラとともに、Gーレックスの頭上に乗っている。

ズシン、ズシン、ズシン……

▽洞窟とマグマと恐竜が合いすぎる。
▽カルメンはくらっとしながら 過去の火山地帯を思い出した。

「カルメ……ン?」

レナが驚いた声を出す。

「……力を使いすぎたのね?まったくもう」
『遅いぞ』
「迎えにきて差し上げたのよ。光栄に思ってくれるわね?」
『……』
「あらあらそんなに見つめて。さみしかった?」

▽カルメンはレナを見定めようとしている。
▽叱られるか無視されるかと思ったのに……今のレナは……?
▽ネコのような目が丸くなっている。

レナはおもむろにマジックバッグから赤の巻物を出し、床に転がした。

▽防火レッドカーペット!

そして水着に防水ブーツという装いで、マントの裾をなびかせながらカルメンのもとに行く。

ためらわず跪いた。
[お姉様]称号は解除した。

「カルメン。久しぶり。ただいま」

[友愛の笑み]と、優しさをたっぷり含んだ声。

『思ってたのとは少し違った……! でも今のレナ様も悪くないな……!』

こんなところでただいま、なんて。
自分の領地でもないところでレナがこう言うのは、土地ではなく、相手の中にこそ帰る場所を見出しているからだ。
カルメンの心にもレナの為の居場所があることを知っている。その穴の中に自分を惜しみなく注いでくれる。

聖霊のほうを欲しがろうとする言葉はひとつもなく。
だけどレナの中にもカルメンのための場所があるので、カルメンはそこに飛び込んでいった。

さみしさが埋められていく。

『おかえり、ただいま』
「おかえりー」

レナに抱きついてきたカルメンはひび割れた唇を噛んでいる。それがみるみる潤っていった。半透明だった体がたしかな質感を持つ。

カルメンは子供返りしていて、そのまま泣いてしまうかと思った。
不安定な時に白炎を放出してしまったから、また、存在がしぼんでしまっているし。

腕の中にすっぽりとおさまるくらい。
そう。カルメンは今、幼女の姿である。

「可愛いな〜〜」

▽レナさん、本音が出てる。

カルメンが『思ってたのと違う』というのはその通りで、レナはとにかく子供にめちゃくちゃ甘いタイプだ。そりゃあ、無視されたりビビられたり叱られたり、というこれまでのカルメンの行動予測からは外れたことをしてくれる。
頬をスリスリ。
頭をナデナデ。

従魔が嫉妬していないかという件について、ギリギリ白炎を頂いている立場かつ仲間であるので攻撃はしないという段階である。

レナはカルメンを落ち着かせることに忙しい。
すっぽりと抱きしめていて、背中は無防備だ。

そこにめがけて迫ってきたのは、ダンジョンマスター・リヨンである。

カルメンはハッとした。
狙いは自分だ。
それなのにさっき手にした白炎の力を、衝動的にあのケダモノにぶつけて消費してしまった。

(信者なんて、みんな一緒だと思っていた)

同等と見るもの、無くなればまた現れるもの、聖霊を維持するための礎。
そのような考え方をしなければいけなかったけれど。

(この者を傷つけられてはいやだ)

こんな気持ちは聖霊として失格もいいところであった。
けれどカルメンももう純粋な古代聖霊ではなくなっている。あの氷の聖霊を思い出せば、わかる。レナに影響を受けて変わってしまっているのだから、理に反した行動だってできよう。

そのレナを突き放すのは心が張り裂けそうに痛かったけれど。

痛…………どうやったってレナが離れてくれないぜ!
がっしりとカルメンの髪の根を鷲掴みしている。

『そんなに力が強かったか!?いだだだだだだだ』
「むしろ力は弱まったといえるからこれは執念と機転。イダダダダダダ、カルメン爪ぇ!」
『離せっ』
「断るっ」

ごろん!横に転がった。何をやっているんだ。

レナはカルメンの頭を、ぐりいんと横に引っ張る。マゾなのでちょっとだけ嬉しそうなのが……うん。これでもレナは心を痛めているんだぞ?

「ほら見てごらん?」
『地獄か?』

マグマが煌々と燃えるような大地、じゅわりと熱された海水のねばつく空気。
ダンジョンマスターが岩の大砲のように突っ込んで来ているのを、鬼気迫った形相の火炎獅子、デス・ハウンド、Gーレックスがその拳と頭突きで止めている。

怪獣大戦闘といったシーンであった。

(飛び出していきそうなマシュたんはキラが抱えて止めている)

レナがふと力をゆるめて手のひらを滑らせて、カルメンの後頭部をそっと抱え込んだ。
レナからは少女特有のほんのりとした甘い匂いがする(昏睡中もレグルスが懇切丁寧にケアをしました)

「主人がピンチになったらね、従魔たちがみんな200%の力で助けようとしてくれるんだ。だから大丈夫」
『…………変わってる』
「そう?」
『レナ様の方が変わっているんだ。前なら、従魔が無茶するから主人が危険になってはいけないとか言ったと思う。けれど主人の危険を利用している』
「魔物使いらしすぎる?」
『そう』
「さっきオズくんたちにも言われた」

レナがカルメンを抱えたまま、起き上がる。

「でも好きだって。だから私も、ちょっと自分に不安もあったんだけど、じゃあまあ良いかなって。今の自分に正直に、いろいろ試してみることにした!」
『ポジティブなところは変わってない』

カルメンが涙をこぼすと|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)がこぼれた。
これがあるから昔は戦争になったこともあり、泣かないようにしていたけれど、もう良いかなって。

『あの”ダンジョンマスター”に我々が捕まるわけにはいかない。そうしたら合体してあれが下級神になってしまう。我々は、まだ、我々のままいたいのだ』
「カルメンにも自分の意思があるんだからそんなの当然でしょ〜!」

カルメンは自分だけの気持ちに正直になることにした。

『我と、[仮契約]をしてみせて』

▽Next!そういえばレナさんもダンジョンマスターに用がある事だし、協力して捕縛しようぜ!

▽お姉ちゃんが従えられたなんてことになればシスコン片割れもやってくるかもね?

▽二兎を追って勝利する!

 

 

 

 

 

 

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