364:逃亡者から追うものへ?

砂を巻き上げながら走る。
レナとキラは火炎獅子に、ジレはデス・ハウンドに乗っていて、ドリューは魔王に担がれていた。
重たい砂がジャリジャリッと音を立てて、壁に撒き散らされていく。

炎の魔物が走っているので、空気がじゅわりと熱されていく。
もともとの湿度に暑さが加わって、まるで日本の夏のようなむわっとした空気と、閉鎖空間ゆえに逃げ場のない不快感が体と心をすり減らしていく。
とくに暑さ耐性がないドリューが水鉄砲(※威力は大砲)を打ち込んで、空気を定期的に冷やした。

隣を走る謎の者にたまに当たりそうになっている。

(ナニコレ!?!?)

レナパーティWITH魔王軍です。少数精鋭でとんでもないよ!

レナは競うことを楽しむような顔をしていて、それは称号で勝気になっている影響なのかもしれないけれど……こんな問題だらけのときに気分転換ができるような人じゃなかったはずだ。
[仮契約]をよく使うようになった。
レグルスやキサの時はあんなにためらっていたのに。

そのあたりが、従魔たちへの違和感の大きな原因だった。

「魔物使いとして適切すぎる」ことが。

「異世界トリップしてきた女子高生の弱さ」がなくなったことが。

「レナの優しさ」が好きだったから。

良い所が消えてしまうんじゃないか、変わってしまうんじゃないか、なんて妄想が加速してしまって。

この一ヶ月間、従魔たちはそれぞれ主人のことを求めすぎて、妄想するのが癖になっていた。
四六時中、夢にまで見て、どんどんと妄想の主人像を膨らませていたのだ。
従魔一同、特技のひとつが「主人の妄想」であると断言できる。

▽なお独自の発展を遂げたそれぞれの主人像は絶対に他人に知られたくない特殊な代物である。

(思いつめすぎていたのかもしれない)
(主人が笑顔なのに俺たちがしょぼくれていてどうするんだよ)
(現実のレナ様を見逃して、妄想だけしているのってもったいないな)

▽それな。

レナが強くなりたい理由とはなんだっただろうか。

魔王ですら、認識しているようだったのに、妄想の方に傾いてしまって現実のレナを見ることができていなかった。

”守るほうが難しい”

と称されたように、レナはずっと身内を守りたがっているだけなのだ。
逃亡旅を始めた理由だって、それだ。

(主さんはずっと、俺たちのことを思って行動してくれている)
(優しいところはずっと一緒だ)
(少し戦法が変わったところはあるけどさ……一番好きだったところはずっと彼女の芯にあるからついていける)

従魔の気持ちがすんなりと安定していった。

「まずい、遅れてきているわ。みんな、もっともっと素敵なところを見せてくれるわね? スキル[鼓舞]!」

▽グーーン!と従魔のテンションが上がった!

(((従えて!)))

火炎獅子、デス・ハウンドがさらに加速していく。

キラの腕の中で、支えられていたマシュたんがわずかに発光していた。

(マスターは私にこれを託した……乗っている最中に、落とさないように。信頼されたら従魔ってどこまでもやれちゃうんですよね〜)

レナを一ヶ月間奪ったものを、ずっと恨んでいたと思う。

自ら、この状況を招いたと思っているキラであったらなおさらだ。

でもすぐそばで”マシュたん”を解析をしてみたら、ひとまず信用はできると思った。
世界情報にまだ認知されていないから詳細な能力を把握することはできないけど……。

マシュたんの心は、従魔たちの鼓動によく沿っているのだ。
レナが声を張るたびに、興奮したようにピョコリと動いて、あたたかくなる。

[マシュリンガル]はおおよそ完成した。
状況と、マシュたんの行動・体温・鼓動をふまえて翻訳をした。

(し・た・が・え・て?──よし、よしよしっ)

それならば一旦仲間だ。

キラは、この追いかけっこが落ち着いたらマシュたんを撫でてみようか……と、ようやく思うことができた。

レナの耳元で囁く。

「マスター・レナ。マシュたんのことを認めたいです。だからもう、私たちの前で可愛がってみせても大丈夫ですからね」

「あああありがとうキキキラ。わわわ私の可愛い子たちいいい、触れ合ってたら二乗で可愛いわっ」

水たまりをレグルスが飛び越えているのでレナの言葉が乱れている。

もっとちゃんと主人の言葉を聞きたい VS 競争者に負けてはならない=水たまりを全部蒸発させることにした。
白炎の業火が空間を焼き尽くすような勢いで噴出する。

「暴走猫娘(レグルス)……!」

ドリューのフォローが忙しい。
魔王の楽しそうな笑いが空間中に響いていてやかましい。

<職業:魔物使いのレベルが上がりました!+1>
<称号[追跡者]を取得しました!>
<ギルドカードを確認してください>

逃亡者だったレナが、なにかを追いかける立場へと成り上がった瞬間であった。

▽赤の教典・新章に入りまーーーーす!

<赤の教典・第十二章一項>
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赤の女王様はその生命力をけずり、光の会談所に赴いた。
すべては、手に抱えすぎた大切なものたちを取りこぼさないように、己の器を広くするための運命。

これまで人に近しく大地の上を歩いてきた靴(ハイヒール)で、高みに。
されど尋ねられたらその答えは変わらず「魔物を従える者として」。
一説(もうそう)によれば鞭を喉元に突きつけてみせたとか。

そして授けられたやわらかな”|世界の教科書(マシュたん)”を手に、また大地へと戻ってきた。

これからその教科書に与えられる試練をこなし、己の器を広くしてゆくのである。

すべてこなすことができたなら、より強い「魔物を従える者」となれるだろう。

それゆけ赤の女王様!
いざゆけ赤の女王様!

故郷を追われていた悲劇の女王は、もう怖がって泣くことをやめた。
望まれて高みに招待されるほどになり、幸せを追いかけてゆく微笑みの女王となってゆくのだ。
喜びの涙が吸いこまれてゆくのは、オフロウ岬の海底ダンジョン[深海の遺跡]なのであった──。

次項:ダンジョン攻略騒動記
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※修正前:筆記者キラのプロトタイプ版
※書籍化前に編集者モスラのチェックを通すこと
※宣教師ルーカティアスとシュシュにはまだ見せてはならない

▽キラの妄想が完了した。
▽大変満足げな顔をしている。
▽心に余裕があるときは マシュたんに優しくすることもできるというものだ。

(ラ・イ・バ・ル?…………)
「こしゃくな!」

翻訳したら嫉妬が爆発した。
[鼓舞]を至近距離で浴びたために従魔たちの感情が昂りまくっているのだ。

「ちょっっっキラ、背後で喧嘩をするのはおやめなさい。私は支えてほしいのよ?」
「はあいマスター♡」

▽心の余裕って大事だね。

がんがん飛ばしていくレグルスたちに対して、魔王ドグマは下半身を半獣人化させて並走している。
じゅうじゅう音を立てているアツアツの砂上を瞬時に渡りきり、ダメージを受ける前に進んでいくのだ。
ついにレナを追い越した。

どう活用しようかな、とレナが考える。

「称号[追跡者]セット──負けないわ!」
「ふはははははは楽しいなあ!」
「目的が目の前にあってしかも気持ちが楽しければおトクね」
「良いではないか! 良いではないか!」

魔王ドグマを煽っておいて、先に動かすことで、正解の道を行くことができるのだった。

レナの魔物使いとしての手法が研ぎ澄まされている。

ドリューの水鉄砲(※大砲)が壁を壊していくので、キラが瞬時にダンジョンマップを作り直して、従魔は驚くべき統率力でキラルート案内通りに進んでいく。

(じ、自分のダンジョンなのに追いつけない……だと……!?)

ダンジョンマスター・リヨンは岩の弾丸のように前進しているのにレナたちの方が早いだなんて。

ダンジョンマスターだから優位なのではなく、ダンジョン統括異空間にいない限りはこの場の生き物として戦うしかないのだ。それにしたってかなりの高性能ゴーレムの体を使っているはずなんだけれど。

▽壁がぶち抜かれた。
▽壁がぶち抜かれた。
▽壁がぶち抜かれた。

小世界(じぶん)をめちゃめちゃにされてダメージが酷いったらない。

(もうイヤっ)

──と駄々をこねたくなっても、ダンジョンマスターはもはやこの小世界にしか生きる場所がないのであった。

レナの手に握られていた白炎聖霊杯の炎が、しゅわりと消えた。
レグルスの燃え盛っていたたてがみも小さくなり、オズワルドの尻尾の白色ももとの青みがかった黒毛に戻る。

勢いが落ちたわけではない。

吸収されたのだ。

正面の壁が、あちら側から、ぼうっと燃えた。
岩がドロドロ溶けて、円形にじゅわりと熱が広がってゆくのが見える。
鍛治の時に金属が溶けてゆくように、煌々と光っている。それほどの熱を放出できるものはおそらく──

「カルメーン!」

 

 

 

 

 

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