362:ダンジョンマスター

ワープした地下25階。

先ほどよりもさらに薄暗くて、潮の香りが濃い。

ひんやりと底冷えするような空気は地底湖を思わせる。保温と耐水のローブを羽織っていなければ、レナは体調を崩していただろう。

足元はとても細やかな砂で、わずかな足踏みだけでさらりと形を変える。安易に動けばそのままズルリと飲み込まれてしまいそうだった。

オズワルドとリリーが共同開発したのだという「M軽量化ブーツ」を全員が装着する。
[|重力操作(グラヴィティ)軽く][ジャストフィット]の魔法がかけられた優れものだ。青大蛇の皮をなめして作られていて、表面がつやつやとしている。これを磨いている時にリリーと口喧嘩したというので、そういう話もまたゆっくり聞きたいとレナは思った。

「索敵できる?」
「「もちろん」」

レグルスとオズワルドが獣耳をヒクヒクとさせる。

「周りにモンスターはいないようだぞ」

▽魔王のゴーイングマイペース一発。
▽オズワルドが「そんなん分かってたし」と張り合った。

レナは頷いて、キラをツンツンとつついた。

「きゃっ♡」
「ちょっと時間ありそうだし。そろそろステータスを確認しておこうと思うの」
「承知致しました」

「我も見る!」
「……どうしますぅ?」

魔王にまで開示するのか。隣ではドリューがちらりとレナの方を見つめて期待している。

「一緒に行動するからには技能がわかってるって大事だから……。魔王国には一度開示してるし、一緒に確認しましょう。本来なら他言無用の妖精契約をしたいところだけどね……」

リリーがいない。
頼っているなあ、とレナは改めて思わせられた。

「このダンジョンを出てすぐにリリーさんに合流できるように、メッセージを送っておきますね」
「うわあ楽しみ! ありがとう」
「ヤンデル指数は低めですし」
「なんて……?」
「ヤンデル指数」

▽レナは 聞かなかったことにした。
▽聞かなかったらなかったことになるんじゃないだろうか。ならない。

魔王たちには基本ステータスのみ開示し、スキルは口頭でおおよその性能を伝えることにした。

「ギルドカード:ランクA
名前:藤堂(とうどう) レナ
職業:魔物使い(モンスターテイマー)LV.41
装備:フリル水着、赤ノ祝福ヲ賜リシ覇衣(はごろも)、粛清(しゅくせい)ヲ授ケシ淑女ノ赤手袋、M軽量化ブーツ、Mリュック、モスラの呼び笛、朱蜘蛛の喚(よ)び笛、白竜の呼び笛、|緋の薔薇女王《スカーレットアンペラトリス》、M服飾保存ブレスレット(赤)、マシュたん
適性:黒魔法・緑魔法[風・治療]

体力:48(+2)
知力:99(+8)
素早さ:33(+1)
魔力:96(+8)
運:測定不能

スキル:[従魔契約]、[鼓舞]+2、[伝令]、[従順]、[従魔回復]+1、[みね打ち]、[友愛の笑み]、[薙ぎ打ち]、[仮契約]、[体力向上]、[騎乗]、[羊鞭]

従魔:クレハ、イズミ、リリー、ハマル、モスラ、シュシュ、ルーカティアス、オズワルド、キラ、レグルス、キサ、ミディアム・レア、チョココ、アグリスタ、ジレ、マイラ、ギルティア

ギフト:[レア・クラスチェンジ体質]☆7
称号:逃亡者、お姉様、赤の女王様(覇道)、サディスト、精霊の友達、トラブル体質、聖霊の友達、白炎聖霊杯(カンテラ)の司祭、祝福体質、退魔師、物語の主役、異世界人」

「名前:オズワルド
種族:デス・ハウンド♂、LV.40
装備:サンガード、膝丈水着、M最適化コート、M軽量化ブーツ、尾の飾り布、M|身護(みまも)ペンダント、M服飾保存ブレスレット(金)、眼帯
適性:黒魔法[時空]、赤魔法[炎]、黄魔法

体力:84(+2)
知力:46(+1)
素早さ:76(+2)
魔力:45
運:35

スキル:[嚙み砕き]、[心眼]、[観察眼]、[咆哮]、[炎爪]、[炎の毛皮]、[リトル・ボム]、[|重力操作(グラヴィティ)]、[持続力]、[冷静]、[シャドウ・ナイフ]
ギフト:[限界突破]☆5、[|巨人の血筋(タイタンクラン)]☆4
称号:魔人族、魔王の子」

「名前:レグルス・カーネリアン
種族:火炎獅子♀、LV.26
装備:競泳水着、M最適化コート、M軽量化ブーツ、M装飾保存ブレスレット(緋色)
適性:赤魔法[炎、熱]、黄魔法

体力:50(+6)
知力:28(+1)
素早さ:36(+5)
魔力:24(+1)
運:20(+1)

スキル:[炎爪]、[熱風]、[瞬発]、[持久力]、[暗躍]、[観察眼]、[|陽光吸収(フレアチャージ)]、[|陽光強化(フレアブースト)]、[騎乗]、[炎耐久]
ギフト:[獅子の風格]☆5
称号:魔人族、勤勉実直、問題児」

「名前:キラ
種族:パンドラミミック[|黙示録(アポカリプス)ver2] LV.30
装備:赤のリボン、サンガード、短パン水着、M最適化コート、M軽量化ブーツ、赤のタスキ
適性:白魔法[光]、黒魔法[空間]、緑魔法[風]、青魔法[水]

体力:29(+1)
知力:103(+4)
素早さ:24(+1)
魔力:89(+1)
運:33

スキル:[空間創造][スペースカット][スペースペースト][テレフォン][投影][音響][ステルス][理(ことわり)の理解][撮影技術][魔力探知][ダンジョンメイキング][トライ・ワープ]
ギフト:[アース・データベース]☆7、[創造者]☆7
称号:魔人族、ダンジョンマスター」

「名前:ジレ
種族:G-レックス・リトル♂、LV.20
装備:毒消しシャツ、毒消し膝丈水着、毒消しグローブ、M最適化コート、M軽量化ブーツ、M服飾保存ブレスレット(黄)、※従順の首輪
適性:赤魔法[炎]、黒魔法[闇]

※体力:48(+6)
※知力:33
※素早さ:34
※魔力:28
※運:11

スキル:[切り裂き]、[暗躍]、[地を這う黒炎]、[毒溶岩]、[煉獄火蜥蜴]
ギフト:[体幹]☆5
称号:遺族、魔人族、精霊のトモダチ、犯罪者」

「鍛えられているではないかオズワルドよ!」

こんなに一気に伸びているのには理由がある。
オズワルドたちは首輪を外したのだ。
レナがいない間、従魔たちは自分たちのステータスを先に進めなかった。万が一にも主人を傷つけないように。

これまでの経験値が爆発的に現れたのだとしても、このステータスには迫力がある。

魔王ドグマはもうずいぶんと長いことレベルが上がっていないため、輝いた目でステータスウィンドウを眺めていた。

(……キラ〜。ただのシミュレーションだけど、魔王様を仮契約なんてしちゃった場合は?)
(マスター・レナへの負荷を分析中……分析中……即死です)
(デスヨネー)

先ほど、レベルアップの負荷に耐えただけでもレナは気絶してエリクサーをぶっ込んだのである。

できればカルメン探索を手伝ってくれている魔王にお礼を……とも思ったけれど、現時点では不可能だ。それに現魔王である間は、レナが横入りの契約などもってのほかであろうし。

魔物使いとしての気持ちは(もったいない)とも叫んでいるが。ねじふせろ。

「……それに比べてなぁ……」

魔王は、憐れみの視線をレナに向けた。

「せっかくのステータスなのに弱体化状態……」

「一ヶ月寝てたらしいですからねぇ。それにもともと貧弱な方なんですよ! 東方の民って体が小さいじゃないですかっ」

そういう設定だったしな、っとレナはあわてて思い出した。
ここでは思い切りリアクションすべき! と舌を出す。子供っぽいしぐさに従魔はズギュンとして、魔王に殴り込みをかけようとする衝動はときめきに殺された。キラにめちゃくちゃ連写されたので「フラッシュで目がああああ」とレナが膝をついた。

膝についた砂を誰がはらうのかでちょっとドキドキした時間が流れた。

割愛。
割と長くじゃれていた。

レナはじーっと自分のステータスとにらめっこして首を傾げていたけど、視界の端にほのかな光を見つけてそちらに集中する。油断は禁物。

「ここって暗いから見えづらい。かといってフレイムで煌々と明るくしちゃうと目立つよね。自然光がいいと思うんだ」
「このダンジョンで自然光を求める……?」
「ほらあれ」

レナが指差す先にいるのは、天井付近にぼんやりと浮かんでいるほのかに光るクラゲ。

[クラゲランタン]……海底ダンジョンにのみ存在するダンジョンモンスター。攻撃性は低いが、ふとした時に降りてきて顔を丸ごと包まれると呼吸ができずに絶命させられてしまう。魔力を吸い尽くすことが目的のようだ。

これはダンジョンに普及しているモンスターであり、受付の記録書をキラがコピーしていた。

「ああ、ダンジョンにおける自然光ってそういうこと」
「テイムしてみようと思うの」

「ほほう面白い。どうやって?」

ぐいい、と魔王が割り込んでくる。彼が大ジャンプすれば天井まで届くだろう。
それをレナなら、どのように解決するのか見てみたいと表情が語っている。

▽レナは 砂を掘り出した。
▽使っているのは マジックバッグに入っていた呪いのシャベル。

▽呪いが幸運に上書きされて 祝福装備に進化した。
▽トテモホレル!

「……??」
「レグルスも手伝ってくれる?」
「あ、はい」
「レナ様、俺そういうの得意です」
「じゃあ深く掘ってほしいな、ジレ」

主人の奇行に慣れるのが早すぎる従魔。

レナが意図を先に言わないのは、うずうずしている魔王を好奇心で待たせることが目的であった。

(魔物使い、こわー)

ドリューはクラゲランタンを見張っている。
約10メートルの高さにおり、半透明のスライムのような頭に、長い触手を垂らしている。真上にゆらりと移動してきたのでどぎまぎしたが、天井から降下してくることはなかった。

ホ、とドリューが息を吐く。

「よし。オズくん全力で重くして」
「[|重力操作(グラヴィティ)]」

余談だが、この巨人族血統の技を使うと、妻をなつかしんだ魔王の尻尾がぶんぶんと喜ぶ。

ズシャアアアアアア!!!!

▽クラゲランタンが 落ちてきた!×10
▽砂の穴の底にいる。×10

「クラゲランタンさーん。……聞こえてないね? じゃあ交渉じゃなくて習性を利用しよう」

レナが鞭を持つ。
いたいけな少女が鞭を持つ姿がミスマッチ一周して逆にマッチしている。

「スキル[仮契約]」

レナは落とし穴に蓋をするように、魔法陣を発動した。10枚重ねにしない代わりに、魔力を多めに込めてしっかりと構成している。

「ここをくぐったら、あなたたちは私の仮従魔となります。いらっしゃいな」

レナが堂々と宣言して、すうっと弧を描くように腕を回す。
鞭の先端はピシリと鳴って、クラゲランタンが浮上してきた。

<クラゲランタンが[仮従魔]となりました!>
<クラゲランタンが[仮従魔]となりました!>
<クラゲランタンが[仮従魔]となりました!>
<クラゲランタンが[仮従魔]となりました!>
…………

レナはエリクサーをがぶ飲みしつつ、新たな仮従魔のクラゲランタンたちと話している。
その間、ドリューは周りの索敵中だ。

(さっきの、いとも当然のように鞭を振ってましたねー。もう称号セットもしていないのに魔物使いの女王様に見えた)

レナは鞭をピシパシと軽く砂にたたきつけて、音でクラゲランタンとコミュニケーションを図っている。

ワン・ツー
ワン・ツー

その時のクラゲランタンの動きのデータを取って、キラがこのクラゲランタンの[翻訳]を創造するのだそうだ。

(意味がわからない)

ほんとそれ。

「システム解析完了しましたぁ!」

(意味がわからない)

ほんとそれ。

キラの銀髪が暗闇の中でメタリックに光っていて、ゴーレム系統の魔人族とはあらためて珍しいよなあとドリューは横目で眺めた。

ヒト族に人気の彫刻アートみたいな白い肌に整った造形、まばたきをほとんど必要としない黒曜石と|精霊銀(ミスリル)で作られたような瞳に、よく開閉する薄い唇。骨はあるのだろうか。それとも体の中までぜんぶ石材でできているのだろうか。などということをさらっと想像する。
適切な観察をするのは目を育てる訓練だ。
このたびの遠征で成長してこいと先輩たちに言われている。

レグルスはレナに夢中でなかなかしていないようだけど。でもまばたきのまつげの一挙一動までガン見して覚えていそう。

クラゲランタンがほんわり集う薄明かりの下で、レナ・オズワルド・レグルス・ジレ・キラが顔を突き合わせている。
こういう時、驚くほどレナは地味で、存在が埋もれている。

「クラゲランタンと会話することは不可能なようですが、行動原理と記録を分析し、会話のようなものを可能にしました。今からアプリを起動します。[クラリンガル]です!」

「ヒュー!」

(レナさん騒がないで? キラさんの活躍が嬉しいんすよね?)

レナパーティの観察がよくできてるぅ!

「カルメン様に会いましたか?」

キュイ、キュイ、キュイ、とクラゲランタンが首を横に振るように揺れる。

「あ、マスター、それに触れちゃあダメですよ。電気クラゲです」

「さすがにモンスターはえぐいっ!?」

(仮従魔にしていても、レナさんは攻撃を食らうみたいっすねー。無効化とはいかないのか。もしかしたら、当たっても威力弱体化はあるのかもしれない。仮従魔にはどれくらいの従える効果があるんだろう。基本的に考えたら”半分”くらいだけど、あのレナさんは命令じゃなくて言い聞かせるってやり方だから、違いがわかりにくいんだよなぁ……)

「カルメンはもっと奥ってことかあ」

「少々お待ちください。容姿情報をやり取りして……うん……フム……残像をとらえました!」
「残像を!」
「赤い髪に褐色の肌、|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)のアクセサリ。特徴一致です」

キラウィンドウに「だいたいこんな感じ」が映される。
クラゲランタンからどこで・どんなふうに・どの色を・どの向きに・見たのか、交信して画像化してみせたのだろう。なんだその再現技術。

「行こう」

クラゲランタンが触手をふわりと伸ばしたその先に、カルメンが通ったルートがある。

まだこの階にとどまっている可能性もあるため、ひとまず同じ道を通過してみようとレナは呟いた。

「魔王様。なんとなくどちらに進んでみたいですか? 指差してみてください」
「直進」

直感も利用した。
二人ともが指した道は同じ、決定だ。

後方に敵なし、とドリューが確認する。

それにしても静かだ。このあたりはクラゲランタンが敵を感知、他のダンジョンモンスターを誘う効果があったので、クラゲランタンが危険信号を出さない限りはほとんど狙われないのだった。

とはいえ通路に魔物はいる。

▽巨大海賊亀が 現れた!×2

チュインッ! とレナの真横を何だかまばゆい線が通っていく。

▽巨大海賊亀が 串刺しにされた!

「!?」

「[フレイムアロー]だ」

魔王が飄々と言ってのける。

「そこの……ドリューが槍を使っていただろう?」

それですぐ覚えてしまったとでもいうのだろう。この魔王は。だから魔王である。
オズワルドがくっっっやしそうな顔をしている。

(先輩……)
(フッ。いつか倒す目標が高くていいじゃん)
(……先輩……)
(なんでもっと憐れんだような目になるんだよ)

ジレはもう中二病の時期をもっと幼少期に超えてきているから。
オズワルドの眼帯を外したほうがいいと思って憐れんでいる。ハーフ・主効果で、己のときめきを抑えているのだけど(当社比)。

「もう一体、[フレイムアロー]」

魔王があっけなく新たな魔法を使いこなし、巨大海賊亀の動作をとめて、振り返った。
レナたちは呆れたような顔をしている。
それをみていたドリューは(イヤイヤあんたたちだって似たようなもんでしょう)と思っている。
ちなみにドリューの性能も周りから見ると大概チートだ。

ここにいる面々は「普通」を置き去りに、「おかしいぞ」を極めてゆくものばかりであった。

「ほら」

「?」

魔王がそのように話しかけてくるので、オズワルドは首を傾げた。
レナがその背中をトンと叩く。

「オズくんと一緒にやろうと言っているみたいだよ?」
「お前のためじゃなくて我のためだけどなァ。フハハハハハ!」

素直で大変よろしいが、キラ経由で日本の知識をつけていたオズワルドにとっては父親がツンデレという大概キツイ現象をくらってしまったのだった。合掌。

▽巨大海賊亀に トドメを刺した。×2

ごろごろと金銀財宝が転がった。

「なに!?」
「このモンスターは潮とともに流れ込んできたお宝を蓄えているので、倒すと稀にドロップするようです。とても稀なのですが……」
「レナ様は超幸運ですのでね」

従魔が誇らしげである。まるで幼い先輩たちのように胸を張っているので、やはりパーティ内の誰かしらはこのポジションに収まるらしい。

そしてダンジョンの奥底から唸るような悲鳴が聞こえてくる。

「行こうっ」

もしやカルメンやほかの冒険者!? と思ったのだが、曲がり角には誰もおらず、結果としては、ドロップアイテムをまさかの根こそぎ持って行かれたダンジョンマスターの嘆きなのであった。

 

 

 

 

 

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