360:VS巨大海賊亀

 

「さあコンビネーションで行……っ」

レナが目指していたのは、オズワルド・レグルス・ジレの火力。
当初の目的通り、海水を蒸発させるほどの高火力で海底ダンジョンを突き進むつもりである。

しかし、言いよどんでぐっと指示をのみ込んだのは、じつは正解だった。

オズワルドたちがレナを振り返り見るより早く、黒紫色の影がつっ走っていく。

▽魔王ドグマが 飛び出した!

「フン!!」

▽素殴り!

▽巨大海賊亀を 後退させた!×5
▽勢いあまってひっくり返っている。

▽レナは どう反応しようか考えた。
▽暴走するかもとは思っていた。

「とりあえずひっくり返っている間に時間は稼げそうかな……。ちょっと話し合いましょー魔王様ー、こっ…………」

こっちにおいで、と言いかけて言葉をのみ込んだのも正解であった。

「ん”ん”””?」

ぐるりと振り返ったドグマの形相は”恐ろしい”。

闘気が立ち昇って目尻が吊り上っており、日本風にいうならばまさしく<鬼神のごとし!>……キラがこっそり叫ぶ。ラナシュ世界にとって最上位種ではないものの、わかりやすい例えを選んだ適応力はさすがであった。

「ナンデモナイデース」
「そうか!!」
(会話ができるくらいの理性はあるようだけど……これは怖いなあ……)

レナがこっそりとドリューに尋ねる。

「ドリューさんあれどう見ていますか?こっちに呼んで作戦会議してもらってもいいと思います……?」
「いやあ、ちょっと発散してもらわないと止まらないでしょうねえ」
「分かりました」
「理解早っ」

「魔王様ー。魔王様ー!」

レナは小声から、だんだんと声を大きくしていった。
いきなり大声を出すと魔王があの興奮状態のままこっちに向かってくる危険があったからだ。
そうなったら、従魔たちはレナを守ろうとして身内の喧嘩になることもありうる。

三度目で、魔王が反応した。

「なんだぁ!?」
「その亀さん、そろそろ起き上がりそうですよね。その前に面白い遊びがありますよ」

▽魔王ドグマは面白いことが好き。

「亀さんの足を掴んで思い切り横に回してみたら、なにが起こるでしょう?」

▽すぐに答えを言わないのがポイント。

「オズくんのオススメです」
「ちょっと主さんそんな急に俺の名前呼ばれるとえっとその…………(照)」
「俺の名前も呼んでもらっていいですか?」
「ついででいいのでお願いします」
<ついでじゃイヤなので思いっきり触れてぇ!>

▽息子もダシにしよう。
▽息子が照れた。
▽ほかの従魔もみんな乗っかってきた。ビッグウェーブだ! だからどうということもないけど。

「何が起きるんだあああああああ」
(ハイ・テンションの魔王様うるせえぇ)

▽ドリューが言葉をのみ込んだ。えらい!

「ムン!!!!」

魔王は指をめり込ませながら亀の足をつかみ、もげそうなほど勢いよく横にぶん回す。

すると甲羅を軸にして、駒(コマ)のように回り始めた。
ギュルギュルギュルギュル!!!!と回転して猛烈な勢いで床に穴が開いてゆく。

ズドン!
一段下に落ちた。
まだ回転している。

「本当だなあ! これは面白いものだ!」

「……ダンジョンの下に進むのって、これでいいんだっけ……?まあいっか、いきなり飛ばされるよりも周りを索敵しながら全員で下に行けるしね。魔王様ーまだ回せますー?」
「我がやる!」

やりたそうだ。

きゃっきゃとはしゃぎながら、巨大海賊亀をひっくり返してぶん回していく魔王。

床にあいた穴から、さっさと下方に進むレナたち。(誰がレナを運んでいくかで一悶着あり、炎魔法を使わないキラが抱えて行くことになった。オズワルドが[|重力操作(グラヴィティ)]をかけて軽くした)

──5階ほど下に降りた。
ここで問題が生じる。

「飽きた」

魔王の関心がなくなった!

回転、逆回転、縦回転、と味変えをしていたのだがもうバリエーションがなくなった。

「よし。魔王様のテンションが収まったからいっか」

これに利用された巨大海賊亀は泣いてもいい。
ぐったりと足と首を放り出していて、甲羅の中にこもることもしないくらい酔っている。

「この状態なら話しかけても良さそうかなあ。では──コラっ」

「叱ろうというのか!?」

魔王は驚いてざわざわと尻尾の毛を逆立てた。
まさか、と顔に書いてある。

「我は敵を圧倒し、このダンジョンを制圧しようとしている。何の問題がある? 魔物使いレナよ」
「オズくんたちと共闘してみたかったんじゃないんですか?」
「うぐぅ」

ピンポイントでそこを突かれると、弱い。

もしもレナが別の切り口で「魔物使いに仕切らせて欲しかった」などと言ったら「強さこそ魔王国の正義!」などと言い返すこともできたのだが。

「オズくんたちも共闘しようと思っていたんですよ」
「うむ……」
「今からでもしてみませんか?」
「しよう!」

▽決定!

▽さて、目の前にはようやく体勢を立て直した巨大海賊亀がいる。

「ーー、ーー、ーー…………ダメっすね。ダンジョンモンスターだから海洋生物言語が通じません。亀、クジラ、イルカの音で話してみたんすけど……」

「そんなに種類あるんですね」

「我に復讐心を抱かず、しかし恐怖心もない。先ほどと同じように攻撃しようとするだけか……。あやつらめ。ダンジョンモンスターというのは不可解だな」

「どちらかというとシステムのような存在なのでしょう。ムムム、外のダンジョンはこんな感じなのですか……赤の聖地のモムには意思が育っていますが……なにが最も最適なのか……」

キラが分析している。
ふわふわの体重になったレナを片手で抱えながら、もう片方の手でウィンドウを操り、愉しそうだ。
その表情は<わくわく>という感じ。

「|的(まと)にしよう」

オズワルドがそう言って[シャドウ・ナイフ]スキルで亀たちの足をぐっさり留めた。
血が出ることもない。海色の煙がしゅわしゅわと出ていて、どうやらダンジョンマスターの魔力によって作られた存在のようだ。

「ダンジョンマスターになろうとすれば構築のため膨大な魔力が必要そうですね。ダンジョン内で魔力を循環させたりなど工夫はしているのでしょうけれど。私の管理する赤の聖地も、バージョンアップしていきたいものです」

ピ!とキラの指がウィンドウをはじく。
この場所から学ぶものは多そうだ。

オズワルド、レグルス、ジレが横に並んだ。

「魔王様。みんなの後ろにいって、絶対王者の覇気をしてくれますか? 私は鼓舞を行います」
「それは共闘と言えるのか? 魔物使いレナよ……」

魔王はぎらりとレナを睨み、ぞくりとレナが背筋を冷たくする。
けれどそれを表情には出さない。
思いっきり首を縦にふった。

体重が軽くなっていたので上下逆さまになってしまった。
あわててキラが体勢を直してあげて、魔王は虚を突かれたようにぽかんとした。

▽気が抜けて結果オーライ!
▽顔が真っ赤なご主人様も可愛いよね!

「ごほん!い、言えますね!」
「何の話だったか?」
「共闘ですよ共闘!共闘!!……共闘って一緒に戦うことです。この場所は通路が狭いし、縦横無尽な獣人の動きは活かしにくい。まだ序盤ということをふまえて、」

それにしてはとんでもねえモンスターから出てきちゃってるけどね!

「まずは魔力の同調などから始めましょう。そして私たちの結束力が進化していくのです。ダンジョンの奥まで行っちゃうころにはそれはもう、共闘の匠でしょうよ!」

(マスター……恥ずかしさのあまり言葉がおかしくなっててそれもまたいい……記録しておきますね……)

「ダンジョンの奥で暴れるために!?」
「そうです!」

▽ダンジョンマスターが泣いちゃうぞ。

「うおおおおおおお!我の!覇・気!!」
「おりゃああああああああ![鼓舞]!」

▽レナたちの 全力応援! フレーフレー!

▽従魔たちのテンションが ぐーーん!と上がった!

「「「炎魔法[オーバーフレイム]!」」」

▽焼き亀祭り!

海色の煙としょっぱい潮の匂いを残して、巨大海賊亀たちは消えていった──。

髪の毛の一部を白炎化した従魔たちが振り返る。
期待した笑みで。

「レナさ……!レナ様ーーー!?」

(従魔三人とものレベルアップが、なまった体に、きつい……)

ガクッ、とレナが白眼をむいて倒れた。

キラが迅速にエリクサーを飲ませる。あらかじめ打ち合わせていたものの、とんだ荒療治である。

隣にいたドリューがドン引きした表情で光景を眺めている。ここで表情を隠せないところが、まだまだだな。

「ぷはあっ!生”き”返”っ”た”……!まだいける。いく。よーし下に行こう」

「レナさん。その海色の煙に突っ込んだら下の階にワープするそうですよ。はぐれないようにみんなで手を繋いでくださいねー」

この全員で手をつなごうとすればなかなか迫力のある絵面になる。
なるほど、大所帯でダンジョンに潜るものが少ないわけだ。

▽レナたちは ワープした。

 

 

 

 

 

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