358:ダンジョンに行ってみよう!

 

[ダンジョン:深海の遺跡]──通称:海底ダンジョンは港の近くにある。

ジーニアレス大陸の東の端、オフロウ岬にそびえるように立っている苔岩が目印だ。
高さは約30メートル、巨大な卵型で、しかし重さはなんと”ゼロ”であると魔眼判定されている。

とはいえ貴重なダンジョンは観光資源であるため、万が一にも崩壊したり落ちたりしないようにと、岬周辺は頑丈な木枠で幾重にも支えられている。

<どこか清水の舞台を彷彿とさせる光景で御座いますねっ。周りに咲いているのは彼岸花によく似ていますし。海風はやわらかくて海水温度が高め、あたたかい気候もなんだか懐かしいですねえ>

「うわっ主さん落ちそう」
「スライムシートベルトの偉大さを実感しました…………」
「騎乗スキルを使わなかったのですか?」
「使ったけど落ちちゃいそうだよおおお」
「ちょ、非力な主人にキュンとしてないで引き上げるの手伝ってください先輩方! すごい変な姿勢でレナ様捕まってますよ」

せっかくの日本の思い出を聞き流されてしまい、キラはシュンとした。

『もういっそ降りればいいのではないか?』

▽魔王が体をフリフリ。

「うわーーーっ!?……ドリューさんに受け止めていただく日が来るとは」
「褒めなくてもいいのでまじでいいのでとりいそぎ従魔制御してもらっていいです?」
「「嫉妬!!」」
「先輩全部口から出てます」
「スキル[従順]落ち着いて」

大わらわであった。

レグルスとオズワルドが己の反省をして髪をまだらな白炎色にしている時、ピンと来る感覚があった。

「あそこにしっかりとカルメン様の存在を感じる」
「ああ、いるな。随分と燃え盛っているみたいだ」

(そんな事情で判明しちゃうんスね)

「白炎聖霊杯で確認してみようか」

レナが聖霊杯を取り出して、掲げてみる。するとじんわりと白炎が燃えた。
通信ができたらいいのになあと聖霊杯をコツコツつついてみるけど、応答はとくにない。話しかけてみてもダメだった。キラのテレフォンにも繋がらない。

「行くしかなさそうだね。ダンジョンの受付をしようか」
「主さん、港によっていかなくてもいい? 欲しがっていた東方のコメがあるかもしれないけど」
「お腹は空いてるから……持ってきたものを食べよう。売店で売ってるものは体と合わない可能性もあるし、今は体調を整えて攻略していきたいからね〜」

レナがマジックバッグからホットドッグを取り出して、みんなに配る。

岬がよく見える丘の上で、シートを広げて座り、お腹に収めた。

香ばしく焼いた細長いパンの切れ込みに、大ぶりのソーセージが挟まれている。ソーセージの下には酢キャベツが敷かれていて栄養バランスも気にされている逸品だ。トマトから作ったあっさりケチャップもルージュのお手製。
がぶりとかじって、口いっぱいに頬張ってからのみ下し、冷たいお茶で乾いた喉を潤す。

約15分で腹ごしらえは完了した。

「いいものだな!!!!」
「魔王様、ここまで走ってくれてありがとうございました。食事を急いでもらうためにホットドックを10個で終わりにしてしまったけど、まだお腹が空いているでしょうし、デザートを歩きながら食べますか? アメリカンドックなんですけど」
「名称も内容もよく知らんが、食べる!」
「これです」
「……? ホットドッグとやらと同じような味がする……」
「大味なんですよ」
「そうか!」

魔王はいい感じに手懐けているようだ。
まずは自分の持っているものに興味を抱かせて、一つ疑問が生まれるようなものを与えて、尋ねてきたら答えてあげる。これを繰り返していくうちに、頼る癖と、主人そのものを興味深く見るようになる習慣が生まれるのだ。あとちょっとからかっているようである。

(魔物使いによるしつけ、えげつねー。でも今からダンジョンに入るにあたって、魔王様の制御とってくれるの心強ーい)

ドリューが心の中でつぶやきながら、みんなを受付に誘導する。
ちらりと後ろを振り返る。

先頭にいるのはレグルスとオズワルドだ。その後ろにレナがいて、一ヶ月間に衰えた体力にしては頑張って歩いている。最後尾にはジレがいて物珍しそうに周りを見つつ歩いていた。
魔王は半径10メートルくらいを大股で歩いたり立ち止まったりしていて、純粋に久しぶりの遠征を楽しんでいるらしい。

(ま、遠足っぽい雰囲気ですよね。このダンジョンは!)

大きな看板がデデンと置かれている。

[海底ダンジョン]

ようこそ!ジーニアレス自治区へ。
冒険者のみなさまをお待ちしておりました。

・ダンジョン内の環境は海底洞窟によく似ています。
・魚人の方でなくとも基本的に息ができます、けれど万が一のために「深海の鱗」があるといいでしょう(売店にあります)

・ダンジョンなので特殊なモンスターが出現します。
・モンスターは外で生存できません。持ち帰ろうとしないでください。
・レベルアップにのみ適しております。

・ダンジョンなので稀に地形が変わります、最新版の地図をお持ちください(売店にあります)
・稀に海とつながって海水が流れ込むことがあります。「深海の鱗」があるといいでしょう。(売店にあります)
・地下二階までが完全攻略されており、助けを呼ぶことができます。
・以降は自己責任となっております。

・入場料は一回1000リル!
・お一人様 一日二回まで!
・連泊したい方は近隣の宿のダンジョン割引がございます!お問い合わせは港まで。

それではよいダンジョンライフを!

「す、すごい」

やけにビジネス然とした看板文句は、この看板の作成に悩んだ男が、シヴァガン王国のマモンに相談をしたことでこのような文面となってしまったそうだ。そしてとっつきやすい明るい印象を受けた冒険者がはるばるとこの地に集うのだとか。
僻地であるにも関わらず、立派な冒険者ギルドが近くにあるのはそのためである。
レナたちは王都の冒険者ギルドでのちほど連絡をしたらよい。

「ダンジョンでは採取もできないんですよね? それなのに冒険者ギルドに用があるんですか?」
「そうっすねー。人助けクエスト、地図作成クエスト、新種のダンジョンモンスター報告クエスト。あとは現実の海とつながって海底から流されてきたお宝ならダンジョン外に持っていけるので、冒険者ギルドで換金してもらえるそうですよ」
「意外とあるんですね」
「レナさん意外と冷静っすね」
「カルメンのこと早く探しに行きたいけど、早く早くって思って最善にたどり着くわけじゃないから。情報収集?」
「えらいですよ」

理想的なリーダーのようにドリューには感じられる。
隣にいて大アクビをしている魔王様もちょっと影響を受けてほしいくらいだった。

レグルスとオズワルドが眉を顰めている。

(やば。俺ばっかり話して嫉妬くらったかなあ)

「主さん。いこ」

オズワルドが手を取って受付に走り出す。
面白そうに魔王が並走してきたが追いかけっこはしてやらない。

「ドリュー。…………」
「今言っときたいこと?」
「もう少し考えをまとめてから、また相談させてくれ」
「了解」

受付に行くと、冒険者たちがばらばらにたむろしている。
四方八方から集まっているので、並ぶ慣習はないらしい。

(どうやって受付するんですか? それともお忍びでこのダンジョンに潜り込むつもりでした?)
(元々はね。けれど人数も増えたし魔王様をごまかせるわけもないので、このまま真正面から入りましょう。敵戦でもないですし、幸いにして白炎聖霊様に会える確率は上がっているんですから)
(わかりました)

「おいあれ魔王様じゃねえーか!?」
「んだってえ!?」

ざわざわざわざわ、と周りに動揺が走る。

シヴァガン王国の魔王といえば、デス・ケルベロス。それらしい立派な獣耳と尻尾、たくましい体躯を持ち堂々とした仁王立ち。レア魔物がその強さを誇るほどに、魔人族となったときの容姿も壮絶に美しくなる。
にいいい、っと魔王が笑うと鋭い犬歯が覗いて、グワリと口を開けば紫炎がこぼれた。

「──ふははははは!!!!」

「本物だあ! たまげた!」

冒険者たちは興奮しつつも戦いを挑んでくるような者はおらず、[絶対王者の覇気]に当てられて失神しているものまでいるほど。

レナはおもむろに頷いて、腰の鞭を手にとると、反対側の手を口元にしなやかに当ててから息を吸い込んだ。

「[お姉様][サディスト][赤の女王様]セット。──オホホホホホホホ!!」

「主さーーん!?」
「従えて……!じゃない、ゲホンゲホン、どうなさったんですか」
「ん?」

レグルスがピクピクと耳を動かす。
その毛先が白く燃えている。

「カルメン様が反応している……? そうか、いることを知らせるだけでも効果があるのか。カルメン様からこちらに向かってもらえば一番効率がいい。レナ様はそこまで考えて……従えて……!」

<いやそれはどちらかというと、副産物ですね従えて>

▽もはや語尾が 従えて。

受付から巨人族の少女がズカズカズカと大股で歩いてきて、バシイン!!と手のひらを合わせた。
キーーーーン、とする鼓膜を押さえてみんなが悶える。獣人は特に被害甚大だ。

「そこの二人!! あと後ろのつきそいも! 暴れてえんならさっさとダンジョンに行ってこい」
「ちょお姉ちゃん、それはねえよ先に待ってたんだぜ」
「特急料金は10000リルだよ!」
「どっひゃあ」

取れる客からは金を取る。
特急料金が払えないならさっさと列に並び直せ。
マモンの看板効果がこれほどの従業員を育てていたようだ。

レナたちは?
もちろんポンとお金を払った。

レナの便乗はこの流れを狙ったからのようだ。

それによって早々に入ることができた。やったね……?

入り口に向かっていくレナと魔王の背を眺めながら、オズワルドとレグルスが小声で話す。

「なあ……主さんがやっぱり変、か……? 港に寄ろうとしないし、おとなしくダンジョンに潜って正攻法で攻略しようとしているし、聖霊杯だってちょっといじってみて諦めてただろう。
前だったらさ、支度として港で現地のもの食べてたはずだし、魔王だけを利用して自分は隠れてたような気がするし、聖霊杯に頭突きしてでも応答してってもっと訴えかけてたと思うんだ」

「俺たちがよく見ていよう。レナ様のことを。なあジレ」

「レナ様は変わっちゃだめなんですか?」

後輩の困ったような一言によって、新たな考えるべきことが増えてしまって、レグルスはまたドリューに相談をするタイミングを逃してしまったのだった。

 

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!