352:主人のための部屋作り(解釈様々)

 

▽それぞれの ルームコーディネートが 完成した!

「キラはいいの?」

<……ちょっと……何も……出てこなくて……エラーが発生しました──>
『考えすぎはよくないよ!』

にぱっと笑顔のリリーこそ真理であった。

<私は私で手伝うことがありましたから。ほら、カタログをみなさんに見せて、選ばれた家具を”ダンジョンメイキング”するという……>

「破格の品出しだったよねぇぇぇ……」

アリスが目をガッと見開きながら絞るように呟く。

あんな高品質なものをポイポイと出力されては、バイヤーとしての自信が折れそうだった。

キラが一人いれば”なんでも”できてしまうのではないかと思いかけて、背筋がヒヤリとしたほどだ。

キラいわく、スキルは3Dプリンタ・材料はダンジョンマスターの魔力、のような構造らしい。

「はあ。ダンジョンの外では消えてしまうんじゃなければ、うちでも買い取りたいくらいだったよー」

<マスター・レナの故郷の品ですから著作権がねえ……オマージュでありましたら、デザインから学んでこちらでも製造いただけると幸いです。マスターも故郷を想えば、癒されることもあるやもしれません>

「そうだね」

アリスはさっそく、頭の中の商客リストと照らし合わせている。なにか面白いことができるかもしれない。

(レナお姉ちゃん……意識戻ったらびっくりさせまくっちゃうから。そんな私の企みに遭わないくらいに、どうか早く目覚めてね。なんなら部屋が不必要なくらい、すぐでもいいんだから……)

アリスはそんな風に祈りながら、まず手前の部屋の扉を開けた。
閉めた。
──開けた。
──頭を抱えた。
──閉めた。
──深呼吸。

「審査員は私もやるよ……。一人でこれを抱え込むのは大変でしょ?」

<是非。私もエラーが発生していますから、一般的な感性を持つアリスさんに手伝っていただけるのは助かります>

『わたくしたちの誰よりも、レナ様の感性に近いと思いますわ』

「了解。えーとね、まずは無難なところから紹介しようかなあぁ………………」

何事も、段階が大事。
ほら、料理のフルコースだって前菜からだし。
精神が胃もたれしないようなスケジュールをアリスが組んだ。

それにしても従魔はつくづく個性派ぞろいである。

キラが、ジリリリリリとベルを鳴らした。
最後の調整も終わらせて、従魔たちが部屋から出てきた。
すでに目の光が消えている従魔もいるのが不安である。

しょうがないなあとシュシュが隠し持っていた「赤の祝福リボン」を仲間に分けてあげた。私物なのに。なぜ私物なのか。
……仲良きことは美しい、それでいいじゃない──。

「さて動かないと始まらないよ。突撃していくよ!! はいルージュ様、パトリシアお姉ちゃん、点数カードを持っ…………いらないや、ラスト感性で聞くから!」

「なんで!?」

『まあ。そんなの、点数が低いと従魔が悲しそうにするからではありませんか? 魔物使いの主人からすれば、努力している魔物はみな尊いもの。よく頑張りましたねと撫でてあげた上で、このたび最もよくできた子を褒めてあげるものですわ』

「分かるけど。企画の趣旨…………」

▽スターート!!!!

<モスラさん!!>
「品よく。無難ではありますが、だからこそレナ様が安心できるのではないかと考えました」

落ち着いたクラシックスタイルでまとめられた家具。ブラウン、ベージュ、アクセントの赤の色味が全体をまとめている。
一流雑誌に広告として載っているモデルルームのようであった。

「おお。優勝でいいんじゃね?」
「パトリシアお姉ちゃん、評価が早いよー」
『それくらい良いものを作ってえらいですね、という感想としておきましょう。うふふ」

「でもモスラに一言聞きたい。完璧なコーディネートだけれど、ここまで整えてあるとレナお姉ちゃんを寝かせた場合に崩れちゃうよ。どういう意図なの?」

「おお、アリス厳しい」

「よくぞお聞き下さいました、アリス様。レナ様はこの部屋でお眠りになる前に意識を取り戻すので、ルームコーディネートは余興であるとのメッセージが込められております。ふふふ」

「「『………』」」

余裕そうに見えていたモスラ、けっこうな精神ダメージを負っていたようだ。
くすくすと虚無な微笑みが止まらない。キテる。

<次!!!!>

<レグルスさん!>
「俺は実家を参考にしてみた。あそこは周りからの評判も良かったから……」

朱色を主にしたコーディネート。
家具は全体的に大きく、がっしりとしている。しかし素材がいいので粗野な印象はなく、職人技が光る一室だ。

「レナお姉ちゃんが寝るにはかなり大きめのベッドかもしれない」
「レナ様が寝返りをしてもいいように。だって眠っているのだから」
「「『……』」」

まあ……そう考えることもできなくはない。通常の睡眠とはまるで質が違うけれど。アリスたちは大人の対応としてそっと頷いただけであった。

「従魔が添い寝をしても問題がないくらいのクイーンサイズのベッドを……いや、大きさが足りないか! キラ、あと8個のベッドを出してくれ。9マスベッドで埋めるんだ。もちろんレナ様は真ん中に」

<部屋がベッドだけになりますね。とりいそぎ次!!!!>

<オズワルドさん!>
「あー。うん。お疲れキラ。主さんがビビらないような部屋がいいかなと思ってさ。落ち着いた夜色をベースにして、いつ起きても眩しくないようにというか……」

柔らかな星の光のランプ。
窓には遮光カーテンがかけられていて、ぐっすりと眠ることができそうだ。
焚かれたお香は獣人の鼻にもやさしい穏やかな調香で、枕元にはオルゴールが置かれていて東方のオリエンタルな民歌が流れている。レナの故郷があちらなら懐かしい音がいいと思ったそうだ。

「優勝」
「早いってパトリシアお姉ちゃん。でも決定したい気持ちはわかるよ」
『わたくしは従魔それぞれの部屋を全部余すところなく審査したいと思いますわ』
「「覚悟きめよう」」

<次!!……は個性派です>
「早くないか……」
『まあそんなものでしょう。まいりましょう』

<ハマルさん!>
「いーっぱい金毛の毛布敷き詰めたんだあ〜。あ、床を踏む時に気をつけてねぇ、こけちゃうかも。そしたらボクの上に転んでもいいですよ〜? あ、でもねぇ、毛布の数が足りなくて〜ちょっと床が出てるからそこは気をつけて〜」

先ほどのように薄暗くて眠りに適した部屋。
しかし敷かれている白金色の毛布がほんのりと淡く光って、星の海にいるかのようだ。うっとりしてしまう眠りのための空間で、誰もがここでの睡眠に惹かれている。

「でもね〜。ボク的にここはダメ〜」
「なぜ?」
「だってね〜毛布足りないんだもん〜。レナ様とみんながここに集うなら〜足りないのはダメ〜」
「自分の中の美学があるんだねぇ。分かったよ」
「ん? アリスも認めてたんならどうしてこの部屋が個性派に……」

ズリ……
ごとん……
毛布がズレると、その下からは鎖であったり何かの輪っかであったり、明らかに特殊な用途のものが覗いた。
これが置かれていようと「夢のようなふかふかモフモフ」を提供できている白金毛布の性能の素晴らしさが相対的に理解できるね!

「だってー落ち着くものがあるといいんでしょ〜? ボクたちはレナ様に縛られていたいですしー。エヘヘ」
<次!!!!>

<リリーさん!>
「お花畑に、してみたの。ギルティアと一緒に作ったんだよ〜♪」
『花畑に寝転ぶんだってさ。ケッ、どこぞのおとぎ話かってーの』

柔らかな土が敷き詰められていて草花が生き生きと部屋を覆っている。
リリーの要望で、天井は空のように映像が映されていて、外にいるような心地だ。

「ルームコーディネートだったからなあ」
「可愛らしいけれど、ずっとレナお姉ちゃんを寝かせておくのには適さないかもね」
『妖精と樹人らしくて、魔物としては最大限に個性を引き出せていますね。うふふ』

「わーいっ」
『あ、こら、抱きついてくんなっ』

<採用は難しいでしょうけれど、よくできましたね。次に参りましょう>

<キサさん!>
「霧で包んでみたのじゃ。湿気があってもさらりとした感触のシーツ、枕、ブランケット。髪を保護するナイトキャップに、肌を保湿する蛇の脱皮パック」

“絶対にレナのコンディション落とさないセット”と言える。
つらつらと語った通りに体を美しく保つための家具コーティネート。小鉢には温泉水が湧き出て、その湯気と、キサの[クリスタロスドーム]の冷気がぶつかることで霧が発生する。

「オズワルドと発想は似ておるかもしれぬ、目覚めて色々と見えたら驚くだろうと気にしてみたのじゃ」
「いや霧まみれも驚くだろ」
「寝入ったときに光の中であったから、起きたとき同じ状況の方がよいかとな」
「なるほど」
「あとは全裸で寝たら完璧!」

却下された。

<次!!>

<ちょっとやばいところです>
「なあ早くないか????」
「覚悟決めて」
『そんなものです』

<チョココさん! うわっぷ>
「あっ、わたあめモムがスウィートミィしちゃいましたねぇ。パンドラミミックは食べられませんのに、モムは知能が低いですから〜。この部屋にはスウィーツモムがいっぱい漂っていて、起きてすぐに食べていただけまーす! スウィートミィ♪」

マーブルクッキーの床、ツイストマシュマロのベッド、ガムの掛け布団。
ちょっとここらでツッコミをしておこう。

「なぜガム」
「眠るところが重要な企画らしいですからー、ベッドはぜひチョコレートにしたかったんですけどー……溶けてきちゃうと沈んで溺れちゃうかなーと、ガムにしてみました〜」
『……従魔らしい特性、あなたらしい幼い愛らしさはありますが……』
「命の危険があるのはちょっとね。ガムで窒息するかもしれないし……」
「寝起きにスウィーツモム食うのは重いだろうな」

<次!!>

<ミディさん! ごぱあっ>
「扉開けるときに気をつけてネ? って言おうと思ったんだけどナー。海の中みたいに[アクア]の水で満たしたノヨー♪ 起きたときに水の中ならびっくりしちゃうよネ」
「びっくりさせようとしてどうするんだ!」

水が満ちた室内は、ベッドも枕も毛布もたゆたっていて、レナが眠ることはできなさそうだ。

ミディは噂の竜宮城のようにきらびやかにしたかったらしいけれど、技術不足。貝殻のベッドや飾りの真珠などが、水害時のようにダイレクトアタックしてくる未来しか想像ができない。

「「『よく頑張りました』」」
<次!>

<ジレさん、アグリスタさん、マイラさん>
「ごめん」
「早っ」
「ヒイイン……こ、このねぇ、部屋のいろんな場所がびっくり箱になってるんだよぉぅ……」

一見して普通の部屋だ。白く清潔感のあるシーツと毛布、木枠のベッドと家具、観葉植物。
中級冒険者がちょっと贅沢して泊まる部屋という感じ。この三人なりの夢の形だったのだろう。

けれど罠まみれだという。
試しに床を踏んでみたら、ビヨヨーンと床板が吹っ飛んでいった。紙吹雪とともに。

「わわわ私だけのせいなの、本当なの」
「ミディさんが先輩としてアドバイスしていましたから、マイラさんは影響を受けたんでしょうね」
「うう……」
「「『よく頑張りました』」」

<次はだいぶ覚悟をキメてイッテミマショウ>
「カクッとしたその物言い怖い。なに、まだ上があんの?」
「ほら行くよパトリシアお姉ちゃん」
「ああああやったろうじゃん……!」

『シュシュさん!』
「ご主人様に忘れられないようにご主人様の従魔の私物をここに敷き詰めてご主人様本人の私物をそばに置いてご主人様のパネルを置いておいてご主人様がいい香りって言ってくれたお香を焚いて全部赤くした」
「「うわああああああ」」

シュシュが言う通り、とにかく赤いものが選ばれている。

赤茶色の木造りの家具に赤いカバー、赤のベッドに赤の枕に赤の布団。鞭と鞭のレプリカと新種の鞭と、レナのブラウスなどの私物が散らかっている。
これはシュシュがこっそりと集めたコレクションでもある。それを披露してでもレナ本人をこの部屋に呼びたかった。
現在は概念レナがここにいるような執念を感じる。

「気合は分かった」
「保留ということで」
『愛は伝わっていますわね。うちの子にもこのタイプがおりますから、従魔として恥じることはないですよ』
「「(性質として控えた方がいいのでは)……内輪企画だしな(ね)!」」

「くすんくすん……ご主人様……クンクンクンクン……ゴロンゴロン……」

<そっとしておきましょう……シュシュさんはここに滞在していただき、次──>

<ルーカさん!>

困ったようにネコミミを伏せたルーカが、部屋の扉を開けると。
そこには普通にして異常が在った。

ポツンとベッドが一つあるだけなのだ。

部屋の壁も床もベッドもまっ白。

「「……」」
『これがなにを意味するんでしょうか……?』
「心霊番組のリポーターってやつじゃん」

「──最初からなにかがあるってイメージができなくて。レナが存在してからやっと、この部屋が始まるような気がするんだ……」

(((解釈こじらせてる)))

アリスたちが頭を抱えた。宣教師らしくもあり、ネガティブなルーカらしくもあり。部屋として不審点は少ないけれど。

(((でもこれは無し)))
<次!!>

『クレハさん、イズミさん!』
「「ぱふぱふ〜♪」」
『おおーーーっと二人が走り込んで行って空っぽの部屋にはベッドすらもないんですけれども〜〜!』
「「ベッドは我らです」」

光のない目で二人が言った。
なにか、なにかこじらせているのだ。

初期の従魔ほどこの傾向があるのやもしれないとキラは考え始めたが、リリーやハマルはここまでではない。
進化の程度が違っているのか。
出自が違うからなのか。

できれば傾向をまとめておきたいというコンピュータ的な望みと、心という複雑なものは図れないという現実と。自分には何ができるのだろうかという──

<エラーが発生しました──>
「「『終了!!!!』」」

頼もしい仲間がいたことが、キラにとっては幸運であった。

そして結局、「レナが起きること」にみんなはすがるような願いを託して、ハマルの背中で見守り続けて、それでも起きてくれなかったので、三日後にスライム培養槽に移された。
毛穴から栄養をねじこんで回復させてからはルージュの私室が使われた。

従魔たちのコーディネートルームはあまりに念がこもっているので使われることなく、赤の聖地で封印されて、のちに、来訪者を驚かす怪談となるのだった。

従魔たちはスカーレットリゾートの延期措置などを行ったあと、特にやるべきことがなくなってしまった。
何もしていないと、不安な妄想をしてしまって苦しくなることもあった。

それよりは、レナに話していた”やりたいこと”を実行しようと、従魔として旅に出た。

レベルを上げないようにストッパーの魔道具をつけて、レナへの負荷を考慮して。
安全確保がされている場所にのみ、きちんと目的を持って移動した。
従魔であることを忘れないように、レナの私物を大事に持って。

***

「それで私は妙に軽装だったのーーー!?」

レナはベッドの上で大笑いして、その目尻に涙をそっとにじませた。

苦笑するキラは柔らかな表情をしていた。

 

 

 

 

 

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