346:「神使い」の称号を得よう!

これまで長らく旅をしてきた。
その間、できないことが多くてたくさん涙してきた。そしてレナパーティは強くなった。主人のメンタルも、従魔の戦力も、周りとの人脈も、運も。

エントランスホールに従魔を集めたレナは、言い放った。

「今の私には……力がある……!」

幼い従魔たちはワッと手放しで盛り上がった。
先輩従魔たちは、またご主人様ってば自ら傷を負ってる……と生温かく見守った。

▽キラクエスト [神使い]の称号を手に入れよう!

ルーカが挙手する。

「事情はわかったよ。称号を手に入れるにはたくさんの認知が必要だ。観客(・・)を集めればいいんだね?」
「その通りです。私を中心にした舞台をするので……」
「赤の女王様の舞台のプロトタイプってわけだ。理想的に盛り上がってくれそうなメデューサ一族に声をかけてくる」

パトリシアが立ち上がった。

「ネッシーにも頼んでみようぜ。水鏡に映せばラビリンスでも舞台鑑賞できるよな。ラチェリには赤の信者も多いし」
「多いの!?」
「出会った頃の説法を火種に、どんどんと独自解釈が生まれているから方向操作に苦労してるほどだぜ。モスラが定期的に通って修正してる」
(そんな原作説法の同人誌みたいなことに……!?)

リリーは窓から飛び出した。

「私……虫、集めてくる! にんちって、知ってもらうことだもんね? たくさんいた方がいいんだよね。虫、脳みそがちっちゃいから……思い込んだら従順に信じるよ!」
「なんか虫に申し訳ないな……」
「私、虫の制御……するから、まかせて。行ってきまーす」

シュシュがタブレットを豪速で操作し始めた。

「ディスたちも動画配信見るって。若年層の天使族を離塔に呼びつけてみんなでタブレット見るってさ。よかったねご主人様シュシュもお役に立てて本当に良かったし天使族もお役に立てて良かったって思うはずだよ間違いない♡♡」
「シュシュ、息継ぎして。そろそろ宣教師の称号ついちゃわない?」
「狙ってるんだけどなー」
(タイミングを見計らっております。シュシュさんが闇の宣教師になってしまわないように)
(助かるキラ)

▽スムーズすぎる。
▽暴走の気はあれどおおむね大正解なのだ。

(こんなにも意思疎通ができるようになっちゃって……)

レナは懐かしく昔を思い出していた。
それは旅の始め。

頭を冷やしてって頼んだらスライムが顔にズボンときて呼吸困難になったり。リリーに癒しの舞いを頼んだら蜂が求婚にきて追われたり。ルーカにお願いをしたら三倍の要求を後払いで求められたりしたもんだった。

「みんな自己管理ができていてえらいな〜」
『そんなことは御座いませんわ、レナ様』
「ルージュそこを否定する!?」
『うふふ。自己管理についてはまだまだ未熟という印象ですわ』

ルージュが比べているのは自分が使役していた魔物たちだろう。魔物は本能が強いが、まだまだ従順に躾けられるということだ。

『このたびの指示の成功は、主人のために何かしたい、という心のたまもの。魔物使いにとって一番大切なものを、レナ様は真っ先に持っていらっしゃるのね』
「私……職業適性が魔物使いしかなくってさ」
『あら。いいじゃありませんの。また我が一族の伝統的な蔵書を読みましょう』

(魔物使いっていいぞ! って書いてあるのかな)

面白くなって、レナはくすりと笑った。

「さーてみんながお客さん集めに行ってくれたことだし。私も張り切って……」
「レナちゃんが劇の主役と聞いて!!!!」

▽エルフ裁縫師の エリザベートが 現れた!!!!

玄関扉を開けてダッシュしてこようとして、部外者排除の結界にぶちあたって撃沈している。
レナがハンカチをあげると、鼻血を拭いた。
こんなに美人なのに、残念だ。

「エリ……」
「私に服を作らせて欲しいのよ!!」
「無理です。目の下のクマしまってくださいエリザベートさん、何徹目ですか?」
「5かしら? ふふふふエルフ族って寿命が長いから削りやすいのよね」
「デスゲームやめてください。うちホワイト企業目指しているので」
「レッド企業なんじゃない?」
「独自路線すぎる」

だんだんとエリザベートの口調がふにゃふにゃしてきているのは、レナがきっぱり断ったので服への集中力がわずかに途切れたのだろう。

「あちらにハーくんがおりまして」
「金毛羊様!!!!」
「お触り厳禁ですよ。寝室まで案内してくれますから、スカーレットリゾートの客室をお試ししてきてください」
「レナちゃんの服はどうするのよぅ……」

レナの服と憧れの羊毛の間で、エリザベートは揺れている。

「今回は布の衣装はないんですよ。これを使うんです」
「これって……」

なあんだ、布じゃないんだ。
そう思った瞬間、エリザベートの意識はぷっつりと途切れた。
白目を剥いている裁縫職人をスライムロープで縛り、オズワルドが重力を軽くして、とんでもねえ風船のようにしてハマルは客室に持っていった。

このレッド企業はやばい。

「さあやってまいりました!」
「「ぱふぱふーー!!」」

▽クーイズのぱふぱふが唸るぜ!
▽シャボンが弾けて お菓子がパラパラと周りに散った。
▽これを食べながら 鑑賞してね!

「それにしてもなんだか舞台が小さくなーい?」
「分かるぅー。縦100センチ、横200センチって感じ?」
「あそこにレナが収まっちゃうのかしら!?」
「それ箱詰めじゃなくって!? 私を箱詰めでプレゼント?」
「「やーん! 新たな扉が開きそう〜!」」

「そろそろ路線戻そうかクレハにイズミ。ほら新たな扉開きそうになってる従魔いるから」

▽誰かは伏せといてあげようね。

クレハとイズミの野次は、この舞台の鑑賞をするために集まった観客たちの疑問まさにそれだった。

スカーレットリゾートの中央広場。
噴水を背景にして、レナが用意したのは薄っぺらい箱。
そのうえレナ本人は黒子のような服を着ているし、舞台と聞いていた観客は、なんのことやらと思いながらも静かに黙っていた。

▽真剣に箱を見つめている従魔の容姿がよすぎるので。それだけでも来てよかった。

▽いろんな意味で集客に向いているレナパーティであった。
▽できるだけ目立たないのは無理だったが 目立つことなら777点だ。

さて、満を辞してドラムロールが鳴る。

ドゥルルルルルルル……──ダンッッ!!

「よくご覧下さいね。藤堂レナは”紙を使って”、この紙芝居の舞台でみなさまを楽しませてみせましょう!」

「「よっ、紙芝居!!」」

▽従魔の 全力のヤジ!
▽テンションが グーーンと上がった!

箱の中央はくり抜かれていて、そこにレナが持つ「紙人形」がひょっこりと顔を出した。
子どもが描いたような味のあるクレヨン画。

なにせここにいる従魔はみんな絵心がなかった。

ミディやチョココは初めての画材で線を引くところから、オズワルドやキサは良い物を与えてもらう立場だったし、レグルスは戦闘に明け暮れていた。
クーイズやリリーはすぐにふざけてしまうし、キラは0から1を作るのが大変苦手。ジレたちは絵を描くという娯楽を知る機会もなかった。そして意外にもルーカは絵が壊滅的に下手だった。

唯一、絵画並みの画力を持つモスラはアネース王国にいたのだ。

さて、

「この生き物はなんでしょうか?」

ここから!!!!

「カバ?」「花?」「ゴリラ?」「家?」

「ブッブー。ドラゴンです」
『冒涜!』

思わず叫んでしまった水鏡の向こうのラチェリの男が、青ざめて口元を押さえた。
彼は幻黒竜を推しているため、ぐにゃぐにゃの線で描かれてマヌケな顔をしたあの絵を許容できなかったのだ。
ブルブル震えて恐る男に、

「いいんですよ……」

▽レナの[友愛の微笑み]の慈悲が唸るぜ!

男の心にイイパンチを打ち込んだ。

『ああ俺が失礼な物言いをぶつけたのに、許してくださる赤の女王様……』

▽信仰心が上がっていく!
▽カルメンが興味深そうに最後列で観戦している。信者取得の戦扱いをするな。古代じゃないんだぞ?

「よく見ていて下さいね? この紙を使いこなしてみせましょう!」

箱の下側から、絵に描いた草がモサモサっ!
箱の上側から、糸に吊るされた雲の切り紙細工が降りてきた。

レナは木の棒にドラゴンの絵をくくりつけて、舞台の範囲ではげしく動かした。

▽うーん ドラゴンっぽいね……?

見てくれレナのドヤ顔を。
この紙と箱のセットにとても合っているではないか。
まるで子どもが無邪気に遊んでいるようで癒される。ね!!!!!!!!!!!

キラとルーカがいい笑顔で頷いた。

(需要と供給が合ってる)
(レナに求められているのは、未熟ながらも精一杯頑張っている女の子という姿だから)
(従魔たちの応援につられて観客たちも「よっ、紙使い〜!」と盛り上がっていますね)
(必要なのは認知。欲しいもののためには、過程をカッコつけなくてもいい)

と、主人が言っていた。恥をかきにいくと。
そういうところを、二人は本当に尊敬しているのだ。

レナは、黒子の帽子がずり下がってきて前が見えずに箱に頭をぶつけていた。

オウ……! と海外テレビ番組のような観客たちのリアクション。

「未熟だって、私は負けない……紙使いなんだから……!」

『いいぞお嬢ちゃん!』
『いつか紙使いになれるよ!』
『いやもうなってるぜ、だから泣いちゃだめだ〜!』
「「「ブウウウウウウン!!」」」

最後は虫の羽音の大合唱である。怖すぎる。
正直こっちの怖さでレナは鳥肌を立てて涙をこぼしそうになった。

『大事な紙が涙で濡れちゃうぜ……!?』

「ぐすっ。そうだね、続けるよ!」

レナが涙を指先でふいて、ニコッと笑ったところで熱気は最高潮になった。

▽紙使いレナ様ーーーーーー!!
▽ちゃんとできてるよーーー!!
▽がんばっててエラーーーイ!!
▽噛んじゃうのも可愛いからオッケー!

従魔からの評価が甘々である。

その後もレナは、ポンコツ未熟っぷりで存分に観客を沸かせた。

たくさんの喝采を受けた。
こんなことで褒められていいのかと思うところもあるのだが、貰えるものはもらっておこう。(その代わりに赤の女王様の舞台は贅沢に仕上げますから……! 自分で言ってて恥ずかしいけども!)とレナは心の中で謝っておいた。

ドラゴンの襲来。
逃げ惑う街の人々。
英雄が現れてドラゴンと友達になる。
聖者を探してけが人を治してもらう。

というハッピーエンド。

このラナシュ世界ではなかなか見られないふんわりとした希望だらけのストーリーで、逆に新鮮だったのか「よかったぞー!」「よっ紙使いー!」との感想が叫ばれた。

そんな中、メデューサ族長がすっと立ち上がる。無言のまま五秒経った。

最前列でずっと微動だにせずに眺められていたあとに、この重苦しい雰囲気なのでレナはビクッとした。
未熟を演じていたなごりで、目尻にうるっと涙がにじむ。

従魔がすぐさま殺気立ち、しかし楽しい雰囲気を壊さないようにとギリギリ己を保ちながらメデューサの動きを待った。

「……こんな、こんなもの……!」

わなわなと唇を震わせている。

「……何千パターンも想定していたのに思いつかなかったざんす!!」
「愉(・)しかったですか?」
「すごく!!」

ベテラン魔人族はこういうところがある。
技術や魔法を極めてしまっているゆえに、飽きていて、到達できなかったり挫折したりすると大喜びするのだ。

魔王ドグマが強敵相手に目を光らせたり、服飾人エリザベートが未知の布に大興奮するのもそれである。

「この舞台のタイトルを当てよう。”かみつかいレナ様”!」

レナはドキッとした。
メデューサの発音が「紙使い」ではなくて「神使い」に聞こえたからだ。

(油断ならないな……!)

なにか気付いたのかもしれない。しかし幸いにもメデューサはレナにぞっこんだから、それ以上は何も言わずにただ微笑んでいるだけだ。

(味方でいてくれてよかった。……飽きられないようにしないとね)

最高潮に盛り上がっているときに終わるから、いい思い出として覚えてもらえる。
レナはぺこりとお辞儀をして、颯爽とこの広場を去った。

シャボンドラゴンに乗って。
竜へのリスペクトをちゃんと持っているとアピールする。そういうの大事だよね。

ラチェリと繋がった水鏡の向こう側が騒然としていて、ラビリンスにいるシャボンドラゴンと、スカーレットリゾートにいるシャボンドラゴンを交互に見ていた。

こちらのはマイラの水の極大魔法だ。
[ティアコールシャボン]……涙を流すとシャボン生物となる魔法。主人がメデューサに目をつけられたのではないかと心配してこぼれた涙で、新しい才能が花開いたのだった。

「どう? キラ……称号取得にまで至った?」
「ちょっと弱々しいですけど……いけそうです」

[かみつかい(弱)]

「日本語に感謝ですね。漢字で確定しない限り、グレーゾーンの解釈をいじる遊びができますもの。本当に神使いなんて称号を得ようとすれば一体どれだけの手間と時間がかかったやら……今回はこれでよしとしましょう。一日の労力で、従属崩壊を回避できたと思えば上出来です」

「ラナシュ文字の他に日本語もあるんだね……?」
「ええ。世界構成くらいにしか使えませんけどね。世界情報を翻訳、という感じでしょうか。母語はラナシュ言語、サブでネオ日本語」
「ネオ!」
「ええ、上手に操ってみせますとも」

キラはレナに甘えたように微笑みかけた。

「だからかみつかいのマスター・レナは私のことを使いこなして下さいまし♡」
「無茶はしないこと」
「はぁい」

▽称号[かみつかい(弱)]を 取得”したい”!
▽レナは 草原で羊と雌ライオンを乗り回した。

▽レナの レベルが上がった!+1
▽称号[かみつかい(弱)]を 取得した。
▽倒した獣で バーベキューパーティだ!

▽夜になった。
▽Next! キラたちを進化させよう!

 

 

 

 

 

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