34:品種改良

ほのかな甘い香りが漂うレンゲの花畑。
紫がかった薄ピンクの花には、小さなマメ蜂がとまって熱心に蜜を集めている。
可憐な花はほとんどが7分咲きで、種が出来ているものはまだ少ないようだ。
レナたちは、ざっくりと花畑全体を見回して、花の枯れかけている箇所から種を採取していった。

「ちょっと時期がズレてたかー。
種になってるのは少ないけど…まあ、レンゲを主力商品として育てる訳ではないし、[品種改良]用の素材としてはこのくらいでいいだろ。
次の花畑探す?」

「そうだねぇー。
……あっ!パトリシアちゃん、あれ…なんかやたらと毒々しい色のレンゲが咲いてるよ?
た、種採ってく?」

「うっ!?
…一応採取してくか。珍しい品種みたいだし。
えーと、紅カラシレンゲ?
花びらを乾燥させて砕くと、辛味のある薬になる。香辛料としても使えるってさ。
図鑑に書いてある」

「香辛料…!」

「レナは本当に食べ物の事となると嬉しそうな顔するよなぁ。
いっそ清々しいぜ。うりゃっ」

「ぷふぅ。ほっぺをつついちゃいけません…」

「くはははっ!」

じゃれる少女2人は、もうお互いを親友と認識しているようである。
仲良しで何よりだ。

▽パトリシアは レンゲの種×50を 手に入れた!
▽紅カラシレンゲの種×3を 手に入れた!

場所を移動した一行が、次に辿りついたのはチューレの花畑。
地球でいうチューリップに良く似た見た目の、カラフルな花が沢山咲いている。
色はほぼ原色といっていい程濃く、色味調整のための素材に最適そうだ。

「この花は、球根を素材として使うの…?」

「そうだよ。
レナは花の事もよく知ってるなー。
チューレは、タネが作られないから、球根を使うんだよ。
[品種改良]の素材に種を使う理由って、育つ花の情報が全てそこに入ってるからだし。球根でも問題はないんだ。
“植木職人”なんかは、[品種改良]する時には木の実か、接ぎ木用の小枝のどちらかを素材として使うらしい」

「へぇ!……あっ。
あれは、またも毒々しい色の……く、唇!?」

「またかよ!
てか、うっわ…本当に唇みたいな花だなぁ。チューレの亜種とか?
えーと、…違うな、名前はサイコトリア・エラータ。
元々暑い地方用に作られた既成花だったらしいけど、種が運搬中に落ちて、この辺で野生化したんだって」

「「ということは…?」」

“キシャーーーーーーーッ!!”

▽魔物サイコトリア・エラータが現れた!

「「うわーーーーッ!!?」」

▽ハマルドライブ!
▽撥(は)ね上げ からの [溶解]!完全勝利!

▽パトリシアは チューレの球根×10を 手に入れた。
▽魔物花の種×2を 手に入れた。

…不意打ちにより少し疲れた様子の一行が続いて訪れたのは、マリーゴールドとクローバーの花畑である。
恐ろしいことに、クローバーは全ての株が幸運の4つ葉持ちだった。
レナさんの運が絶好調だ。
ちなみに、どうやらこれは変異種のようである。
ん?ご主人さまたちの様子がどうもおかしい。

「んんっ、なんか…空気が目にしみてるよね…!?
うわ、涙がぁ…」

『『ご主人を泣かせた花はどこじゃあーーっ!?許さんぞーー!』』
『…原因を探してっ、虫たち!ぅぅ、目、痛いよぉ…』
『泣けるぅーー…』

「ホントなんだろうなぁコレ…ぐすっ。
マリーゴールドって、確かに匂いは良くないけどこんなしみる感じでは無いし…。
って、これも変異種のせいかッ!」

虫たちがへろへろになりながら発見してくれた涙目の原因の花は、まるでダリアのように大きく丸々と育った、臭気の特別(・・)すぎるシミールゴールドだった。
見た目の美しさと、タマネギエキスを濃縮したような香りのギャップがえげつない。

「うう、こんなに泣かされたんだから……目痛くて腹立つし、種持って帰ってやるぞ!
ドちくしょうッ!」

▽パトリシアは ラッキークローバーの種×60を 手に入れた!
▽マリーゴールドの種×30を 手に入れた!
▽シミールゴールドの種×5を 手に入れた。

…毎度このような感じで、駆け出しの花職人は様々な花のタネを集めていった。
半数以上が、とても貴重な変異種や魔物花のものである。幸運幸運。
一部を紹介しておこう。

・クルミソウ(白の小花を咲かせ、クルミのような硬い実を付ける)×10

・超速アルファルファ(紫の小花を咲かせるマメ科植物。とにかく成長が早い)×20

・オルキス・シミア(コビト形の白い花びらを持つ花。魔物化しかけていた。ゆらゆら動く)×5

・スライムフラワー(青い花が咲いた後、スライムゼリーに良く似た味のグミの実をつける)×30

・鬼アザミ(うっとりする程美しいピンク色の花弁は、ナイフが集まったような鋭い形状。触れれば皮膚が切れることも)×9

…などなど。
訪れた花畑には、ことごとく変異種やら希少種の花が咲いていた。
前に騎乗していらっしゃるほろ酔いご主人さまの運のせいだろうか?

魔物花に会う確率もやたらと高かったので、逃げる際にスライムに縛られ羊の背で揺すられたレナは、またも酔っていた。
さすがに、モンスターフラワーの種ばかりいらないので時々逃げていたのである。
パトリシアの夢はモンスターフラワー・ショップを開く事ではなく、普通の花屋経営なのだとここで再確認しておこう。
かろうじてレナがグロッキーになっていないのは、背後で体を支えてくれた少年娘のおかげだ。

「大丈夫かよー、レナ?
種もずいぶんと集まったし、そろそろ戻るか…。
今日は、付き合ってくれてありがとなー!」

友人は気遣って、レナの背をさすってくれている。

「いえいえー…。
わざわざ指名依頼までしてくれたんだし、親友の夢のお手伝いだし、私たちが頑張るのは当然だよ~…!
ふふっ、たくさん種採取できて良かったねぇ。
帰ろっかー。
ハーくん、アネース王国門までお願いします!…ゆ、ゆっくりめでね?」

『おおせのままにー、レナ様ー。
身体辛かったら途中で止まるからー、ちゃんと言ってね?』

「ありがとうっ…!」

実にチョロいご主人さまは、従魔の優しさに感動して泣いた。
そう、感動して…。

▽シミールローズを 発見した!

「またか!」
「もういいよぉ!」

[状態異常耐性]持ちのスライム以外のメンバー全員で号泣しつつ、腹いせ交じりにパトリシアは種を採取して、ゆっくりと小都市トイリアへと戻っていった。

***

トイリアに帰ってきたレナたちは、パトリシアの家へと向かった。
早朝に草原へと出かけて効率良く種を採取出来ていたので、時刻はまだお昼過ぎなのである。
花職人の[品種改良]に興味があったレナは、友人の作業を隣で見守る事にした。
ついでに夕飯も作るよ、と申し出ると、パトリシアは全力でガッツポーズをしてみせる。
おかしくて、みんなで声を上げて笑った。

床に真っ白な布を敷いて、その上に植物の種の入った鉄カゴ、植物図鑑が置かれている。
白い布が敷かれているのは、万が一にも種を落として見失わないようにだ。

「ーースキル[品種改良]」

パトリシアがスキルを発動させると、布には青紫色の魔法陣が出現する。
大きな円の魔法陣が一つ、その下部に小さな魔法陣が二つくっ付いた形だ。
小さい方の魔法陣の右側に、ベースとなる花の種を置く。
左側には、特徴を抜き出したい種を置いて、これで準備は完了である。

どのような特徴が追加されるのかは一度の改良につき一つだけ、そして完全にランダム。
花の色が変わるのだとすれば、色はベースの種のものと”入れ替え”になる。
元の種の特徴も残ってマーブルの色味になる確率は、わずか3%程らしい。
美しく、また希少性が高い色味の混ざった花は、上流階級の者が好んで贈り物に選ぶそうだ。

花職人としてのレベルが上がれば、[特徴交換選択]や、[確率微上昇]などの改良専用スキルが取得できるので、アレンジの自由度はもっと上がっていくだろう。

「”アレンジメント!”」

パトリシアが2つの種に手をかざし、呪文を唱える。
小さな魔法陣上の種からはみずみずいし緑の芽が芽吹いて、瞬時に成長・開花し、枯れていく。
実った種は魔法陣に吸い込まれていき、大きな円の中に新しい品種の”既成花の種”が出現した。

[品種改良]の行程を見たレナは、「まるで錬金術みたいだなぁ」と呟く。
「新しい物を創り出すんだから、似たようなものだよ。花職人は花の種専門で、あっちは鉱物や薬品とかって違いがあるけど」と返事が返ってくる。
“薬調合師”の作った薬の苦味を取り除いたり、効果をより良くするのが”錬金術師”の主な仕事内容らしい。

▽パトリシアは 超速アルファルファと スライムフラワーを 素材にして…
▽”超速スライムフラワー”を 創り出した!

▽超速スライムフラワーの種×1を手に入れた!

「ーースキル[花鑑定]!
ふぅん…。お望み通りの効果だぜ、レナ。
運が良かったなー。
種を植えてすぐに成長してグミが食べられる、特別なスライムフラワーが完成したっぽい」

「本当?やったぁ…!
ありがとう、パトリシアちゃんっ」

「おー。
今日はとりあえず[品種改良]しまくってレベルを上げる事が目的だし、花を商品として創るより、面白そうな組み合わせを試してみるか」

「そうだねー」

『『斬新なアイデアなら、クーとイズに任せんしゃーーいっ!ふふんっ』』
『…可愛いの、創りたいよねっ!』
『……むにゅぅ…スゥスゥ…』

ああ、レナさんが望んだからこの結果か…と、邪推してしまうのはもう仕方ない。
美味しい食べ物に目が無い彼女は、スライムゼリー味のグミを早く食べて見たかったようだ。
クレハとイズミが生み出すのは、スライムジェルのみなのである。
(一応言っておくと、ジェルの方がよほど高価で珍しい品だ。)

青魔法の「アクア」で、手のひらの上にイズミのようなグレープフルーツ大の水球を作り出すパトリシア。
そこに出来たばかりの種を入れると、水を吸い上げた種はみるみる芽吹き、成長し、50cm程になりヒヤシンスのような青い花を付ける。
花は直径3cmくらいの実となって、見て可愛い食べて美味しい、スライムフラワーグミがたわわに実った。

「うわぁ…!これもう食べて大丈夫かな?」

「ああ。ちょうど食べ頃だと思う」

「では、いただきまーす!皆もどうぞ」

『『うわーーい!共食いだぁー!あまーーい!』』
『…ん!ぷにぷにしてるねっ』
『んぅ。…ムグムグ……ふあっ!美味しいよーー!』

「うん、爽やかなサイダーグミって感じで美味しいね!
…もう次の実ができてるけど。
超速って、実って収穫できるまでだけが超速なのかな…?」

「うわ、マジだ。ずいぶん都合いいな!?」

あまりのご都合主義フラワーに、皆は驚かされている。
ごはん前のおやつにと、軽くお腹が膨れるくらいにスライムフラワーグミを食べた。
ちなみに
レナの”サイダー”は完全に失言で、ラナシュ世界に現時点でサイダーなる飲み物はない。

軽い気持ちで創った種だったが、いざという時の非常食にも!というキャッチコピーで大人気となり、将来パトリシアの店の主力商品の一つになったと言っておく。
フラワーは30分の間、もがれた端から実を付け続けると、枯れて5粒の種を幹の中に残した。
種無しグミだったのである。

「次は…」

『『はいはーーいっ!鬼アザミに、超速スライムフラワーがイイと思いまーすっ!』』

「なんて言ってるか分かんねーよ?」

「「じゃーーん!魔人族化ぁー!」」

「ちょ、クレハとイズミ、裸はダメ!服、服…!」

食後、魔物姿に戻りくつろいでいたスライムたちはノリでヒト化した。
幼児化したスライム達は胸も生殖器官も無い生物だと言っておく。作ろうと思えば、自分達で形もサイズも自在に作れるらしい。

それはともかく…。
鬼アザミに新種の種の合わせ技とは、恐ろしいものが出来上がりそうだが、面白がったパトリシアとレナによって、そのトンデモ案は採用されてしまった。

「スキル[品種改良]…”アレンジメント”!」

▽パトリシアは “超速鬼アザミ”を 創り出した!

超速スライムフラワーのどの特徴が受け継がれるのかと思えば、アルファルファの時に受け継がれた”超速”のみが発現したようである。
これなら、最初から超速アルファルファの方を使用していたら良かったのでは?と思われるが、受け継がれる特徴は完全にランダムなのだ。
よくある事なのだろう。

結果が微妙だったので、お子様なスライムたちは頬を膨らませてしまっている。
パトリシアに、もう一度!と全力の上目遣いでおねだりした。
苦笑した彼女は、一度アザミを成長させ種×10を採取すると、”超速スライムフラワー”と”超速鬼アザミ”を掛け合わせてみてくれた。

▽パトリシアは “食用超速鬼アザミ”を 創り出した!

「おーー!なんか、良い感じじゃん?」

「今度はまた別の効果もついたみたいだねー。食べられるって!
良かったね、クレハ、イズミ。お姉さんにお礼を言おう?」

「「わーい!パティシアお姉ちゃん、ありがとうー!」」

「お、おう…」

実にあざとい。
スライムたちは自分たちの可愛さを自覚して発言しているようだが、かわいさ耐性のない少年娘は照れまくっている。
主人?デレデレに決まっている。

先ほどの”食用超速鬼アザミ”を成長させてみた。
芽はぐんぐんと1M程にまで伸びて、ポン!と軽快な音と共にピンクの大きな花が咲く。…花?
トゲトゲしかった花びらは、丸みを帯びた棒状になっている。まるでポッキィー。
少女二人は顔を見合わせて、パトリシアが恐る恐る花びらを一枚(一本?)つまんで千切ってみた。

「むぐッ!?…い、苺味。美味しいよ?」
「マジか…!」

▽”食用超速鬼アザミ”の「私を食べて」攻撃!

まさかの、千切られた花びらが自動で誰かしらの口に突っ込んでいくというスタイルの鬼アザミだった。
どうして、こうも特異な変化ばかりしているのだろうか…。

「「きゃーー!クーとイズも食べるー!」」
『『こっちにもちょーだいー!』』

「んー…お夕飯が食べられなくなるといけないから、少しだけだよ?」

従魔に甘いご主人さまから許可が出たので、二度目のおやつタイムが始まった。

最初に創った”超速鬼アザミ”の方は、
何度抜いても出てくる花びらを、パトリシアの投擲(とうてき)武器として使用することに決まる。

二度目に創られた食用のものは、将来のパトリシアの花屋で、パーティ用おもしろお菓子としてまたも売れ筋商品になった。
彼女の夢は花屋なのであり、けしてお菓子屋ではない。

他にも、悪ノリしたスライムたちのアイデアにより、様々な武器フラワーが誕生してしまう。

・超速クルミボムフラワー…素早く育ち、クルミ大の実を付ける。何かにぶつかると実が弾け、中のベトベトの粘液が拡散する。

▽パトリシアの投擲(とうてき)武器になった!

・カラクテシミールゴールド…種の時点で既に人を涙目にさせる効果がある劇物。取り扱い注意。
種が割られると激辛+シミルエキスが飛散する。飛散範囲は周囲1Mほど。

▽パトリシアの投擲(とうてき)武器になった!

この他にもえげつない種は生み出されていたが、パトリシアの夢は花屋であって武器屋では…もうやめておこう。

このような物ばかり生み出していたので、普通の可愛らしい花の創り方が分からなくなってしまったパトリシアとレナ。
頼みの綱のリリーに相談してみると、『”サイコトリア・エラータ”と、”枯れキンギョソウ”なんてどうかな…!』というなんとも言えない提案が返ってくる。
魔物花の種に手を出す勇気はまだ無かった。
確実にセクシーリップドクロな見た目になりそうだったので、リリーの提案は丁重にフォローしつつもお断りしておく。
可愛いものは好きだけど花創りのセンスは無いらしい。

夕飯の”にんにくトマトソースかけハンバーグ(つなぎ無し)”を食べながら、残念な乙女たちは途方にくれていた。

▽Next!可愛いお花が好きなあの子に協力してもらおう!

 

 

 

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