331:ギルド職員がやってきた

スカーレットリゾートにて、レナが花の植え替えをしていると、入口の方にギルド職員が現れた。

会ったことがなくてもギルド職員だと分かったのは、制服をこれでもかと正統派に着こなしていたからだ。

シヴァガン王都冒険者ギルドの制服は、白のブラウスに深緑色の|キュロットスラックス(・・・・・・・・・・)。エリの縁にはそれぞれの種族の民族紋様が刺繍されている。腕に、金の勲章を巻いていることでギルド職員としての等級が分かる。Sランク以上を扱う上級職員のようだ。

180センチは越えている体躯で、行儀よく背を伸ばしている。

それでもレナはまっさきに(キラ、ルーカさんに出自と内心を確認してもらって、みんなにアナウンスして)と命じた。
結果──ドラゴンとヒト族の混血で、正規ギルド職員であることが証明されたので、レナは構えていたスコップと鞭を置いた。
幻覚を得意とする者が忍んでくることも警戒したのだ。

(それにしてもギルド職員さん……入り口門のところで待つくらい良識ある人で、現れた影の魔物にもビックリしちゃうくらい素直な性格。あーうち向きっぽい……と選ばれちゃったんでしょうねえ)
(取引しても問題なさそうだよ。内容はレナの想定通りだし)
ということで、情報共有しつつの接客が行われた。控えめに言って下手をうったら公開処刑である。

園芸エプロンを外したレナが、カフェに案内する。

「こちらにどうぞ」
「ありがとうございます……」

声がわずかに震えるほど、影の魔物が怖かったのだろう。ガーディアンの腕の見せ所! とばかりに派手めに浮遊していたから。そこだけドーム状に真夜中のような暗さになっていて、ホーンテッドリゾートさながらであった。

(それでも攻撃しない人だった、ってことだよね)

▽ギルド職員の 評価が上がった。

レナが考えごとをしている間に、ギルド職員は椅子に座りながらまわりを眺めて、ほうと息を吐いた。

カフェのオープンテラスからは、観覧車など大型施設もよく見える。文句なしにこれは話題になる。

カフェそのものも、まだオープンこそしていないものの建物は完成していて、シックな白壁に小花の装飾が彫られているのがオシャレだ。落ち着いたアンティークの家具は品がいい。さらにドワーフ王の認証印入りである。

カフェエプロン姿のリリーがちょっとぎくしゃくしながら、水を運んできてくれた。

「え、これが噂の?」
「水です」

水だ。
エリクサーではない。

しかしギルド職員はわくわくしながら口にして、疲れがとれるようですっ! などと喜んでいるのでプラシーボ効果くらいはあったのかもしれない。そして若干おばかなのだろう……とレナは察した。

(ドラゴン族はおばか目なことが多いのかな……)

▽こらこら。
▽どこぞの白竜の印象が強すぎる。

「お口にあったようで良かったですよー。ところで今日の訪問理由をうかがってもいいでしょうか?」
「はい。凍土の偵察クエストをみなさまに持ってきました」

テーブルに一枚の紙が置かれた。
厚みがあり、光を吸いこんでしまうほどの漆黒は悪魔契約書。金インクで書かれた<SSランク>の字がまぶしい。

ーーーー

○凍土の探索 (冒険者ギルド)
……凍土の現状探索を求ム。付き添いとして雪豹ロベルトの派遣アリ。飛行手段アリ。
レポート一枚につき10000リルの支払い。内容によって金額の上乗せアリ。

ーーーー

書かれていないが、氷の聖霊杯についてのレポートであればかなりの報酬上乗せがあるだろう。お金以外にも交渉できるはずだ。

「ご存知のとおり、私たちがレナパーティです。これはギルドカード」
「確かに……」

レナが首から下げていた紐を引っ張り、ブラウスの下に収まっていたギルドカードを見せた。
くすんだ白だ。白寄りのグレーとも見られる。

「いやちょっと待ってください。染まってきていませんか!?」
「あ、さっきまでの作業の土汚れですよ……土を頭からかぶったので」
「そんな命がけのガーデニングを……?」
「違うんですけど。黒土の中からモムが飛び出してきまして」
「モムが? 噂の!」
「噂……」
「ああえっと、スカーレットリゾート周辺では珍しいモムが現れているって噂があったものですから」
「それは……困る噂ですね。うーん、もしかしたら珍しいモムを求めて悪い人に目をつけられるかもしれないので」
「魔人族でその方向性で目を付けるものはいませんよ? みんな自分よりも強いものにしか興味ありませんから」
「ヒト族が訪れる可能性もありますし。魔人族の中にも変態的な方がいらっしゃるのを見たことがあるので」

服変態お姉さんもいれば鉱石萌えおじさんもいるのだ。

ギルド職員はピンときていなさそうなので(ははあん……さては大事に育てられてストレート就職したお坊ちゃんだな〜)とレナは正しく理解した。

大事に過保護に育てられるというのはドラゴン族の特徴なのでこのギルド職員にも当てはまるようだし、余計な苦労をしなかったぶんこの人はスレていないのだ。
レナにとってはやりやすくていい。

「長く旅をしていたので、そういう出会いもあったのです──」

レナが遠い目をして空を見上げ、念を押した。
だから噂の件はYOROSIKU。

「そうでしたか。では、この噂は冒険者ギルド内の職員からチラリと聞いたものだったので、内輪ネタにとどめるよう周知しますね」

やりやすい。
一発で伝わってる。
レナは、ちょっとじーんとしてしまった。

(後でロベルトさんたちに”モムが出現する噂はガセだった”って流しといてもらおう。わざわざ隠したがるほどの有益な噂なのか? って疑念をもたれるかもしれないし〜)と考えてしまうレナは、己がスレていることを自覚した。

汚れをハンカチで拭いたギルドカードは、ほとんど真っ白。わずかなくすみがあるのは、ジレたち魂がグレーの従魔がいるためだ。
冒険者としては許容範囲のうち。シヴァガン王国の保証もある。

「ギルドカード:ランクA
名前:藤堂(とうどう) レナ
職業:魔物使い(モンスターテイマー)LV.39
装備:ブラウス、スリットスカート、乙女ヲ彩リシ赤キランジェリー、赤ノブーツ、Mバッグ、赤ノ祝福ヲ賜リシ覇衣(はごろも)、モスラの呼び笛、朱蜘蛛の喚(よ)び笛、|緋の薔薇女王《スカーレットアンペラトリス》、M服飾保存ブレスレット(赤)
適性:黒魔法・緑魔法[風・治療]

体力:46
知力:91
素早さ:32
魔力:88
運:測定不能」

以下、冒険者の生命線となる情報は”クローズ”して提出している。

「はい、ギルドカードは問題ありませんね。それではクエストを受注していただけますか?」
「あらかじめ聞いていた件ですから、いいですよ〜」
「ありがとうございます!」

ニコッとさわやかにギルド職員が笑った。
レナは写し鏡のような笑みを返した。

慣れてきた。
しっかり対応できてるよ、と遠くから振られた金色の二股尻尾Vサインに、頷きを返す。

キラがやってきて、粗茶を出す。
また、なんだか元気になる気がしますねえ! というので、ちょっと笑ってしまった。回復の違いがあまりわからないらしい。

(レナ。これだけ彼が癒しの波動に鈍感なのは、光属性のドラゴン族と聖職者の混血だから。それに防御魔道具もたくさん持たされているようだ)
(どんだけ信用されていないんですかね〜私たちのパーティは)
(ふふっ)

すぐ横を、根っこを引きずった薔薇マッチョマンの|なりかけ(・・・・)が通り過ぎていく。ずーりずーり。レナがガーデニングを途中で切り上げた影響がこんなところに出ている。袋をかついだパトリシアが回収していく様子は逆サンタクロースのようであった。

待て待てー! と空飛ぶスイーツを追いかけてチョココが広場を走っていく。すっころんでチョコレートを散らしたので、即座にイズミスライムが床に広がってチョコを食べ尽くして衝撃吸収プルプルマットにもなってあげた。
気をつけるんだよー、とクレハがチョココを抱きおこす。

ぶつかった薔薇マッチョマンとスイーツが、相撲を始めた。

などなど…………

なにかしらやらかす点については、信用されなくても仕方ないかなとレナは実感した。

▽まあ開業前だからさあ。
▽気が抜けてるよね。

ギルド職員がお茶を噎せている。

▽わかるよ。

「ハンカチをどうぞ」
「あ、ありがとうございます。それでは、こちらからは竜の笛を」
「このタイミングで!?」

不思議にはツッコミする、とレナの体にはラナシュ処世術が染み込んでしまっている──。

当たり前のように差し出されたから、つい受け取った後の祭りとなり、タイミングドジをレナは悔いるのだった。

そもそもは、カルメンが幸運に恵まれていた反動で、近日何かの悪運調整はあるだろうと覚悟していたのだ。ドジもそのうち。土をかぶったり、つい竜の笛を受け取ったり。まったくもう。
竜の宝を悪運として受け取るもんじゃないよ〜、ってルーカが笑い混じりに呟いたとキラが伝えた。ややこしい。

「この笛の旋律なんですけど……」

ギルド職員のマイペースさがレナは怖くなってきた。
さすが派遣されてきただけのことはある。

「ちょ、ムリですよ……ミニフルートみたいな形をしてると思ったら、まさか当然のようにそんな要求。私が吹くのをミスってなにが呼ばれても知りませんからね? それでもいいなら……」

あからさまな脅しである。

「少々お待ちくださいね。今、天秤にかけているので」
「天秤に……」
「伝統文化を守ることか、レナパーティの安全か。よしっ、後者が大事だと結論がでました。おめでとうございます。だから穴を押さえずに笛をひと吹きして下さい。それでやってくるように、白竜のほうに言い聞かせておきますからね。あっ」
「白竜なんだ……」
「あとでかっこよく言おうとしていたんですけどね〜」

すみません、と愛嬌をもって言えるのだから得な人である。
しつこくないふつうの顔に、よくいる茶髪茶目なのもなんだか和まされてしまう。

「今から行けますか?」
「……今からですか!?」
「期間は一ヶ月のうちにと書いてありますから、始まりはいつでもいいのかなーって」
「それはまあ……。そうですよねえ……」

言っちゃった。レナはニコリとした。ギルド職員はぱりぱりと頬をかいた。よく見ると、そこに鱗がある。

「ガーデニングの途中じゃなかったんですか?」
「優秀な庭師さんがいるので」

パトリシアが照れた。
▽レナたちの 親友度が 上がった!

「あちらにいく衣服や装備とか……」
「ジャーーーーン!」

▽エリザベートが 現れた!

赤の布地を仮止めしたものをまとったジレたちを押しやるように前に出し、レナにアピールする。

「ね!!」
「わー素敵ですねーー!みんなよく似合ってるよ!!……ということです」
「レナさんが張り付いているのでよく見えませんけど」

そりゃあ従魔がおめかししていたらレナがまず抱きしめるに決まってる。

「よくは見せませんよ、よくは……何言ってるんですか」
「お誘いいただいたのかと思ってしまって」
「違います〜」
「そうだったんですね。こちらの女性が衣装を担当してくれるので凍土の装備も即可能、という判断でよろしいですか? いやあエルフ族の服飾技術者なんて羨ましい限りです」

さらりとギルド職員はペンを走らせて、手帳にチェックをつけていく。

「応急処置セットは?」
「あります。マジックバッグに」
「救難信号の魔道具は?」
「シヴァガン王国へと連絡がとれます」
「テントなどは?」
「羊従魔がベッドになるので」
「食料は?」
「現地でもいいですし、持っていくものもあります。どうにもならなければロベルトさんの知り合いの雪豹たちを頼ります」
「いいですねえ」

ギルド職員の前に、ロベルトが気配を現して、良いタイミングで会釈をする。

「……レナ様にまだ名乗っていないので、お気をつけを」
「あっ、ペチカといいます! 中性です」

従魔からたちのぼる不安のオーラをロベルトが読み、ナイスフォロー。うちにも中性の子多いんですよ〜、とレナが和やかに返した。
つっこむとこじゃなかったかな、と反省しかけたけど、そもそもデリケートな話題をふってきたのはあちらなのでさらりと流す。

「では、笛を初回だけちゃんと吹きますね。広場をお借りしていいですか?」
「はい」

ギルド職員がフルートのような笛に息を吹き入れる。

竜の旋律が、細く長く空へと吸い込まれていく。
ここに迎えにくるように……と逢瀬を謳う、特別な響き。
これに呼ばれてくる竜は、どんなに向かい風に吹かれようとも必ずここへとたどり着く。己の竜のツノを託した相手を求めて。

(これが一番効率がいいだけだから。とギルド長は言ったらしいけど)

従魔が不機嫌である。
レナはステイさせることに忙しい。

雲の白さよりもまばゆく、白竜が飛んできた。
大きな翼をまっすぐに横に広げて、なめらかな飛行だ。
粒のような光を纏い、やわらかく動く翼は神々しくすらある。尻尾をくるりとまるめて、広場に着地してから、まず己の笛のありかを探して、一言。

『なんで貴様が吹いてやがるんだよォ、ペチカァ!』
「いやー頼まれたからです」
『恋文歌を貴様となどと虫唾が走るわ!』
「ほらほらそーいうこと言わないで。この旋律にも納得していたでしょうに」
『それは相手があの傷跡の君だから!』
「運搬係をさせていただく白竜です。ご覧のとおりおとなしくはありませんが、しばらく暴れていたことを反省しており首輪もかけられました。急きょの呼び出しにも応じるくらいに従順でございますから、用途のとおりにお使いください。レナパーティのみなさま、良いフライトを。我々は報酬とともに冒険者ギルドにてお待ちしておりますね!」

レナは、ただ頷いた。
ひっかかるところは、ある。
ドラゴンの言葉もバッチリ翻訳されている。パーティの頭の中で。でも、わからなかったことにした。ギルド職員も白竜も、翻訳技術があることを知らないようだし。

頷いたからもうだまっておくれ。従魔をかまうのに忙しいからね。

レナは、早く悪運を発散して、氷の聖霊に会い、リゾートオープンを迎えたい。

意地でも姿を現さない聖霊の、その事情をきくには懐に入っていくのがいいだろう。

▽凍土に向かおう!

 

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!