330:カルメン元気騒動

スカーレットリゾートに戻ってから、数日。

どっかーーーーん!……と、早朝の派手な音。これにはみんなが目を覚ますしかない。
カーテンを開けると、花火(・・)のきらめきが眩しすぎる。

『おはよう!!!!』

▽カルメンが 現れた!

宙に浮かんだカルメンは灼熱の髪をメラメラと光らせて、真夏の太陽のようにまぶしく微笑んでいる。鉄鉱石を溶かしたような漆黒のスカートがぶわりと舞い、褐色の肌に刻まれた紋様が太ももの付け根まで見られた。もはや芸術品の域、というほどの造形美。

だからといってレナパーティの安眠妨害が許されるわけではない。
▽ご主人様は言う。

「カルメン! 今は朝の五時! 早すぎ!」
『太陽のてっぺんが見えたらもう、我々の興奮が止まらないんだ!』
「くっ、朝のニワトリ係をまかせるんじゃなかった……」

ニワトリ係。
カルドグラン王国に行って以降、元気が有り余っているカルメンに与えてみた役職である。
求めた仕事としては、薄曇りの日や雨の日にも、朝日のような光で一定時間にみんなを起こしてくれること。
──失敗してる。
毎朝、活火山から花火が飛び出してくるかのようだ。

(カルメンの元気の原因は、これだよねえ……)

レナが手にしたのは、ピカピカの”白炎聖霊杯”。

カルドグラン王国にてドワーフ王直々に磨かれて、艶めきを増している。
さらに天秤のような台座を贈ってもらい、これからもし半身を取り戻したらすぐに一つの聖霊杯になれる。嬉しい!!!!

さらに、火山付近に居を構えるドワーフたちから熱い信仰を得た。嬉しい!!!!

つまり、ずっと心の炎が燃えているらしい。

レナはしょぼしょぼする目をこすり、うーむと唸る。

(私たちだけ寝室にこもってカーテン閉めてたらいいんだけどさあ、ニワトリ係を頼んだのに放置するのはいけないし。ていうかカルメンは、放置されたらもっと悦(よろこ)んではしゃぐかもしれないしな……?)

「ね〜、こんなにまぶしかったら朝の感覚が狂っちゃうよ。昼よりも明るいなんて〜……」
『スカーレットリゾートだけの特別な朝だな!』
「特別感出さなくていいとこ」
『眠りからパッと目覚めるなら、いいことではないか』
「いや、朝早いぶんお昼寝したくなっちゃうからね?」

くああ、とレナがあくびをする。
でも昼は昼で、スカーレットリゾートの打ち合わせでバタバタしているのでお昼寝はできないし。寝不足で動き、また朝が早すぎる、という繰り返しのため徐々に疲れが溜まってきている。

『あははは! もう一発!二発!三発!』

▽花火!!!!

「んもーーーーーーー!!」

ドンドンドンとぶち上がるカルメンのテンションを削るような方法は他にないだろうか。
彼女を疲れさせるような、熱いイベントを、なにか……

『めえええぇぇぇ……』

不機嫌そうな低い声が、レナの背後から聞こえた。
ずるぅり、ずるり。
引きずる音も。
寝不足の従魔たちを羊毛に乗せたままやってくる、ハマルであった。

ハマルは状況に対応して、ずっと、おとなしく仲間を寝かしつけるいい子でいたのだが。

限界突破。
レナの安眠という自らのお楽しみを奪われたことで、どす黒いオーラが溢れている。

「は、ハーくん?」
『カルメンさまー。う・る・さ・い・の』
『我々は派手さを信仰されているのでな! 火山から噴出する赤きしたたりを崇められたものだった。聞かせてやろうか?』
『それ、今、いらない』
『……』
『いらないのー。信仰ってさあー。崇められるすごいこと、欲しいものを与えられるご慈悲、をありがたがるんだよねー? 今のカルメン様にそんなものは感じてないしー。求めてもないしー。このスカーレットリゾートにあなたがいるのはねー、”レナ様からの”ご慈悲だよー。従えてーってする方って自覚してねー?』
「いやいらないよ!? あっ」
『……』

三度、いらないと言われた。
さすがのカルメンのテンションも下がる。
かっくーーんと下がる。

クレハやオズワルドなど、白炎の影響を受けている者たちが、あまりのテンション緩急に酔った。
ぐったりと金毛に埋もれている。

(カルメンってばさすがに聖霊。影響力が大きいんだから……)

これがまったくの部外者からの影響であれば、レナがしばいているところである。身内だから、カルメンのことも従魔のことも一緒にレナは考えてやれる。

(ちょっと叱るくらいがいいかな)

しかしどうしてくれよう。
叩いて悦ぶ、無視して悦ぶ、手放すという手は使わない。

『……てやる』
「え?」
『必要とされてやるからな!』
「必要としてあげられるような企画を考えてるところだから、今日のお昼まで待ってごらん!!」

とんでもない言葉には、とんでもない回答をかぶせることにした。

(勢いで言っちゃった〜……けど、やっちゃダメだよって押さえつけてダメだったんだから。波に乗せてあげて、その波を私が操った方がいいよねぇ。よしっ)

▽おおよそ女子高生が行うような世渡りではない。

元女子高生、というより、レナはもはやラナシュ世界式17歳に成長していると見るべきであろう。

▽マスター・レナの魔物使い伝説も中盤!
▽従えてーーー!(キラのアナウンス)
▽従魔の数人が 笑いそうになった。
▽息抜きは大事。

レナパーティの対応は決まった。
とりあえず本日昼までに、なにかは動く。

幸運なんだからどうにかなるでしょ。

(昼に大事(おおごと)が起こるぞ、備えろ!)
(報告書、間に合わないですね〜)
(書くのは後でいい、ダンジョンマスター・キラに映像提供を頼み込め)
(代わりになに要求されるだろ……こないだみたいに珍しい技能のトレースとか望まれたら、もう私のアクロバット飛行のバリエーションが無いですけどおお)
(そんなものは求められてから悩め)
(っす)
(スピードだスピード。出せるものは全部出せ)
(出したところであっちの方が技能多彩とか凹みますよね……お守りもできない……)
(いざとなったら生贄とかやれるだろ)
(そんなの社畜のロベルト隊長くらいですよ! あっ)
(ドリュー後で話がある。どうせお前も護衛対象が危機に陥ってたら助けようとするに決まってる)

護衛たちは雑談を切り上げた。

ロベルトとクドライヤが近辺護衛、スクーとリーカがキラへの交渉、ドリューが政府との往来を行う。政府以上に厄介なのがレナパーティのトラブルなのだ。

レナが、ふふっと笑っている。
──やはり魔眼を共有していたかと、ロベルトはレナの黒紫の目を眺めた。

「ちなみに。この花火がずっと続けば、隣接しているスカーレットリゾートの安全は認められないと思いますが……?」
「ぎゃあ、本当ですかロベルトさん!? せっかくドワーフ王から建物オッケーもらったし、ネレネさんが後輩淫魔さんたちを派遣してくれるのにぃーっ」
「花火が変質する可能性もある、異常は目にみて明らかなので来客も警戒する、リゾート当初の目的であるお屋敷の目くらましどころかお屋敷の方に注目が行ってしまうでしょうからね……」
「カルメンをリゾートに連れて行くのもダメだし」
「危ないの筆頭です」
「で、お屋敷で爆発してたらダメと」
「ダメというより望まない結果になるでしょうね」
「カルメンが行ける範囲ってそれくらいなんだよね。……あ、ダメダメって言ってるけど不満ぶつけてるわけじゃなくて、独り言なので。まさかの雪豹耳さんが声を拾ってくれていたことに驚いてます」
「認識共有は大事ですから」
「大事ですねえ……」

朝日のような淡い光でみんなを起こすんだよ? とカルメンに念押ししたのに、解釈違いに泣かされ続けているレナにはガツンと効いた。

ま、それはさておき切り替えだ。

ぱしん! とレナは自分の頬を軽く叩いた。

すべりこんできたハマルの頬も、ペシペシ叩いた。
▽ドMプロフェッショナルなだけあり初動が早い。

「カルメン。今、幸運付与されているよね?」
『……………………そうだな。なんだ、我々のことが気になるのか!?』
「そりゃあもう。内部までがっつり、視せて、よねっ」

レナが来い来いとカルメンを呼ぶ。
近くに来た時にぐいっと腰を引き寄せて、高い位置にあるゆたかな胸元にむにゅりと顔を埋めた。
黒紫の瞳で、中を探る。

(カルメンの現在の本質は、幸運な金属ってところ。幸運を招きよせる。幸運に出会う。カルメンにとっての一番の幸運といえば……)
(目があああああああああ)

ルーカの女性アレルギーが久しぶりに発動して撃沈してしまった。
カルメンの肉体には質感こそないものの、シチュエーションがトラウマ誘発となったらしい。

レナが急いで、すっぽんと顔を起こした。

「ダウジングやってみない? カルメン」
『だうじんぐ?』
「金属の棒を持って、うろうろと歩きまわるの。もしも地中に金属反応などがあれば、棒が震えたり、ぐにって横に曲がったりする。原始的な金属探知の方法なんだよね」
『なぜそのようなことを』
「今、幸運付与されてるでしょ?」
『うむ?』
「カルメンにとっての一番の幸運ってなに?」
『片割れに会うことだ。……そうか!』
「そうなんだよねえ」

カルメンは煌々と髪を赤く燃え上がらせて、窓枠飾りになっていた金をもっと長く伸ばした。

つまりは緋々色黄金によるダウジング。幸運付き。宙を自在に動き回れるカルメンの機動力付き。

▽疲れてくれ!!
▽よろしくね!!

「このお屋敷内でダウジング練習しておいで。それで金属を探すことに慣れたらさ、火山地帯とか……片割れさんがありそうな場所とかにカルメンを連れて行ってあげるから。そういうのはどう?」
『実にいい!!』

魔王ドグマの口癖が移ってきてるなあ、とレナはこっそり思った。

王であったり聖霊であったりと、上の立場の者は似るのかもしれない。そしてレナも、お姉さま兼女王様になった時のことを考えると千理くらいあるだろう。

▽カルメンがすっ飛んで行った。

『わたくしもお伴しますね』
「助かるよルージュ!」

▽ルージュがお辞儀をして退室した。

「朝のうちに結論出ましたね……内々で済みましたし、正直助かります。今後の方針としてシヴァガン王国にも連絡したいところですが、いかがでしょう?」
「はーい。特殊区域へのご招待お待ちしていますって伝えてください。火山地帯、採取可能で魔物が多いところがいいです」

▽ドリューが書類を持ち退室した。

レナが、寝ぼけ眼の従魔たちを順にあやしながら、ロベルトにふとした疑問を投げかけた。

「ところで、いちいち書類である必要はあるんでしょうか? ロベルトさん」
「遠距離連絡手段をあたりまえに持っているほうが特殊なんですよ。貴族がスイーツを食べながら下々の食卓に疑問を投げかけるようなものですし」
「あっ、気をつけます」
「みなさんは内々で過ごしていることが多いですからね。これからはスカーレットリゾートに他人が来ますから、よくみていると良いと思います。すぐに学習されるはずですから、レナ様たちの応対について心配はしていません」

レナが、ホッと胸を撫で下ろす。
カルメンほどの巨乳とは言わないが半分くらいには育ってもいいのに。と、ついでに思った。

退室したカルメンの名残(・・)を、レナが視(・)る。
白くきらめく熱の魔力だ。

(うーん、熱いなー。でも……昼に対応するね〜って言う前のカルメンは、不安で、心の炎が急速にしぼんでた。──乱されていたんだ。自分の中に浸透していた氷の魔力に)

白くきらめく熱にまぎれて、氷の粒がしゅわりと溶けている。

魔眼で、ほんの一瞬を視ることができなければ、においも形跡も残さなかったであろう、静かすぎる存在感だ。
レナはこれを氷の魔力によるものと視た。

──今、お屋敷を包むような「なにか」があるとみんなが感じている。
チョココが育てたスポンジケーキモムが湿っていたり。
ジレの[地を這う黒炎]がすこし早く鎮火してしまったり。
ギルティアが風邪をひいたり。

それは、おそらく氷の魔力のせいなのだろう。

氷の聖霊は、レナパーティとお屋敷を”見張っている”。

わずかずつ染み込むように、自らをさとられないように静かに。

崇拝されることを重視するため派手好きなのが聖霊・精霊のはずであるが、見られたくないらしい彼女は、異質なタイプと言えるだろう。

余談であるが、氷水時計のしなやかな曲線は細身ビューティな女体!! とドワーフ王が宣言していた。(ガルボに叩かれていた)

異質慣れしているレナパーティにとってはまあ、「ふうん」である。

レナが、ぐわしっと氷の聖霊杯をつかんだ。

白炎聖霊杯とともに、胸に抱く。

「あなたのこと、そのうち凍土に連れて行ってあげるからね」

ガラスの内側の氷が、キィン、と鳴った気がした。

「心配はいらないよ。私たちはね、あなたを見つけた時のことをちゃんと覚えてる。ドワーフ王たちだって鍛治をした時のことをずっと覚えてるよ。どこにいたって、忘れたりしないからね」

レナの指先が、聖霊杯たちをくすぐるように撫でた。

「それくらい認知されてれば、カルメンみたいに人型になれるはずだから。気が向いたら、話しかけておいで」

 

 

 

 

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