326:ドワーフ鍛治工房による交渉

「もてなしてもらっちまって悪いなぁ」

串焼きをぱくつきながら、親方が言う。

「はふはふ、そうでふ、ごっくん。これ酒に合いそうです〜!」
「コロッケお気に召しましたか? はい甘酒」
「甘酒?」

こくこくとガルボが飲む。
ほほーっ!と口を丸くして驚いた。

親方が手を伸ばし、飲み干してしまった。

「こいつぁ酒の味がするぞう!」
「お酒風味には違いありませんねえ。お酒をほしいって主張もでてくると思ったので、先に出すことにしたんです」
「大正解だあ」

親方はぴちゃりと舌を鳴らした。ちょっと下品だ。けれど一度だけの舌鳴らしならまあ、許容だろう。
ゆたかな酒の味をあじわっているらしい。

ガルボは拗ねたような顔をしている。

もう一杯、は残念ながら無いのだ。
この二人に際限なく出すと樽がからっぽになってしまうだろう。

アリスとレナが目配せをする。
値段は”高め”で決定だ。
頑張ればなんとか一杯買えるくらい。飲み過ぎ防止と、買い占め防止のためである。

(味は、この二人に認められたら上等ってことだよね?)
(うん、ドワーフ族の舌を満足させられたら評判になるよ!……ってことはちょっと薄めたいな)
(不味くはならない程度に水を足しますか)

アリスが頷いた。

(目玉はレストランのカレーだから。ここを引き立てるように、全メニューを揃えよう)
(はーい!)

ビジネススタイルについてはアリスに敵うはずがないので任せている。

(コンサルタント料金は高いよ?)

▽もちろん一括で払ってあります。
アリスはぱちんとウインクし、お値段分の働きを期待していてとその場を去った。

「親方さん、どうですかスカーレットリゾートは?」

レナもついつい親方と呼んでしまう。
酒がちょっぴり入ってすっかり緊張が解けた彼は、どっしりと構えていて、親方という言葉が似合いすぎているのだ。

親方は改めてこのリゾートをぐるりと見渡す。

「ああ、立派だ……。立派で斬新で、柱の構造なんかちょっと見たこともねえし、こりゃあいい噂のタネになりそうだぁ。そんじょそこらの鍛治工房が証明つけたところでな、実はあぶねーんじゃねえか?なんてからかう奴は出るだろうよ。リゾート帰りの夜の酒場で気が大きくなっちまってなあ、きっとシヴァガン王国中に響くような大騒ぎだぜ」
「え、えええ?」
「嬢ちゃんはええ子だな」

親方はにやりとする。

夜の酒場のおやじの喧騒なんて知らなくて当たり前なのだ。
従魔も友人もていねいにレナを接待して宝物みたく扱うのだろうから。それでいい、だから状況だけ伝える。

酒場でどのように噂が始まり、唾が飛んで酔いがまわるほど噂は変質していって、無責任な酒飲みは眠りこけて己が話したことなど忘れてしまい、言葉ばかりが悪い噂として広まってゆく……又聞きの、又聞きというこわさ。
「言霊だあ」
レナがうなだれた。

「斬新すぎるってことかぁ……」
「そこでだ」

もったいぶって親方は指を振る。
ちょっとかっこいい仕草、一度やってみたかったらしい。

「ドワーフの王国に挨拶にこないか! 王族に太鼓判押してもらえたら、そりゃあ箔がつくってもんよ! その名で証明されていりゃあ、泥酔したドワーフも一発で酔いが覚めるだろうや」
「おおお……」
「あの王が激怒したとなりゃあ、ドッカン! とまるで火山さ」

従兄弟なんだぜ、と親方が耳打ちする。

「え! もともと王族ってことですか?」
「んーちょっとちげえなあ。俺は屋号もちの名誉ドワーフってとこ。王族っつうめんどくさい集団を作ってねえんだよなー。仕組みはシヴァガン王国と同じだ。鍛治がうまいドワーフが上に登っていく。そのための技術の大会があるんだ。鍛治技術と、酒の強さだ! これが揃っていて認められた奴が王となる。だからとびきりせっかちでこだわり屋の頑固者ドワーフが現王様さぁ。おっと、小せえ時から贅沢なモノづくりをさせてもらえる分、王の子供が王にもなりやすいがな」

(ドワーフも魔人族なんですねえ。魔物らしさが残ってるんですねえ)

……など、言っていいものかレナは迷って口をモゴモゴさせてしまった。
そして、決して失礼なことを言いたいわけではなく、と前置きしてから言った。

「おう、ドワーフの始祖は、マグマの中を這う蜥蜴と漆黒髪の闇魔法使いの異類婚姻譚、って伝えられてらあ。その子らがドワーフ族。きっと蜥蜴はねぐらを作るのが上手だったし、闇魔法使いは酒飲みだったんだろうぜ! がははは! ぐえっ……」

親方が前のめりになった。
赤ら顔のガルボが「もう」と言いながら背中をさすってやった。
そして、小さなトゲが刺さっていることに気づいて寒気を覚える。
これは──吹き矢だ。

(ねぐらを作るとかアハーンな隠語は言わないようにね! レナちゃんにぶつけないように! せめてここでは!)

遠くに薄紫髪の女性が見えていて、メデュリ・アイのテレパシーを飛ばしてきた。

冷静になったガルボが見てみると、なるほど控えている従魔たちの雰囲気がどこかおかしい。
怪しい目で、見られている。ガルボは胸に刻んだ。
ココはレナパーティのテリトリー! セクハラダメ、ゼッタイ!

「あれ、なにかした? ルカにゃん教えて」
『えええ……ひげひっぱらにゃいで……』
「なんかみんなの雰囲気違うんだもん。だめだよ〜、お客さんびっくりさせたら。甘酒勧めたのもこっちだし、酔っ払ったドワーフ族がどうなるのか見せてくれたんじゃない」

(レナさんが主人でよかったあ!!)

ガルボは冷や汗をぬぐい、親方の背中のトゲをプツンと取ってあげた。

「問題ないです、レナさん。えええと親方気持ちよく寝ちゃったんで、私が続きのこと進めますね。もう言うこと決まってるから私でも大丈夫と思いますし」
「お願いします」

広場のテーブルの向かい側に、レナと、喉を撫でられている金色子猫がちょこんと座った。

「ドワーフの王国に行って、設計図に王様の仮承認をもらいましょう。そのあとは王国の仕事を片付けた王様が、リゾートに来て現物確認してくれてから証明発行になりそうです。あんまりかからないと思います、これほど面白い建物だったらあの王様なら大急ぎに来てくれそうー。でもお願いする方から会いにいくのはドワーフ族の常識ですんで、先に行くようにして下さい。
で、もう一個、氷の……聖霊杯? について」

レナがイズミを呼び、その体内に沈められていた砂時計型のアイテムを取りだす。
イズミがブラウスをひょいと上げるとぽこりとしたお腹があって、水色スライム状に変わったところに、レナが腕をつっこんだ。ちょっとしたホラーである。

「ひえっっ」
「この子スライムなんです。体内に隠しものをするのはお手の物なんですよ」

ずるり。間違えて核の宝石を取り出しかけた。
──戻し戻し。

「今のってえ!?」
「気のせいです気のせい。イズミが集めた宝物カナー」
「レナの宝物よー♡我らはレナのもの♡ヤーン♡」
「あとでいっぱい可愛がる! ……っとこれだ」

飴とか、黒い岩とか、雑然としたものをよけて、氷の聖霊杯をひっぱりだした。

砂時計型で、中に入っているのは氷。
おそらく古代凍土の民が崇拝していた聖霊の儀式道具。

「白炎の聖霊杯、の時とは状態が違いますね……中身が見えているなんて」

カルメンの聖霊杯は手のひらサイズの卵形で金属質、溶けかけていたものの中身は露出していない。古代のマグマが入っていると自己申告したが、ルーカによると「長い時間をかけて変質していてこの世界の情報で計れない代物だな……」とのこと。

成分はともあれ、中身が溢れだしたらまずいのは確実である。
聖霊としての存在が揺らぐかもしれないし、現代の環境にも大きな影響を与えることだろう。

「ヒビが入っているところをまずは直したいんです」
「っとなると……パーツを足すのがいいと思います。塞ぐ、という方法。それにはこの聖霊杯に干渉しない金属が必要です」

ゴクリとガルボが喉を鳴らす。
このような交渉事は苦手だ。臆病が顔をだすが、ドミニク・デューチ鍛治工房の看板を背負ってきていること、レナが穏やかなので頑張って口にした。

「高くなりますが! お金のお支度は大丈夫ですか?」
「おいくらになるか聞いてからじゃないと大丈夫とは言えないですけど、リゾートを建築してさらに予算を残すくらいの資金はあります。お話聞かせてほしいです」

理想的な回答をもらえたガルボは、ほーーーっと息を吐いた。
上得意客はわかるぞ、と親方に言われていたことを今、理解した。

あとは技術とツテの最高のものを提供するのみ。

「では提案しますね。ドワーフの王様に会った時、オリハルコンでの補修を要求して下さい。オリハルコンは古代金属とも言われ、大地のとっても深いところからごく稀に産出される希少素材です。たしか海底から産出されたものもあったはず……それならば青魔法、氷魔法とも相性がいいでしょう。ドワーフ王ならば氷の聖霊杯に適した素材を選び、職人を紹介してくれるはずです」

レナが目を見開いている。

「オリハルコン……! ロマンだあ」
「ロマンですよねえ」

ガルボもうっとりと古代金属に想いを馳せた。
レナは嫉妬するカルメンをつねるのに忙しい。テーブルの下に隠れていてほしいが今にも出てきてしまいそうだ。

そろそろお開きとしよう。

「ドワーフ王はせっかちだぜ」
「ひえっ!?」

親方がガバリと起き上がり、復活した! と力こぶを見せつけてくる。

「気になったからすぐきました! って方が気に入られそうだけどなァ」
「そんな〜……うちわりとスケジュール作るようになったんですよ? ンンン……」

しかしレナは修羅場慣れしていたのだった。

「いく! 顔合わせだけでしょう」
「おっしゃ行けぇ!」
「一緒にです」
「仕方ねえわな! 行くぞガルボ」
「ひええええ実家に顔見せたくないですううう」
「交渉直接したらすぐに引き返してきますよ」
「ああ、うちだって忙しいんだぜ、あいつの顔見たらすぐ帰る! お嬢さん、土産あるといいぜ」
「オズくん甘酒の樽持ってきて」
「ん」

オズワルドがちょいちょいとレナの袖を引く。

「え、なに?……へえ魔王様暇なんだあ…………」

▽特急企画!
▽デス・ケルベロスに乗ってドワーフの王国へ!
▽王様同士で挨拶すればいいじゃない?

▽トラブルが起こっていないうちに自主移動できるなんて運がいいね!今しかないね!トラブルが起こってから慌てるよりよほどいいよ!

▽氷の聖霊杯はかなり弱っているようだ。

▽修正しよう!
▽リゾートの保障をもらおう!

 

 

 

 

 

 

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