325:ドワーフ鍛治工房による下見

スカーレットリゾート予定地に、ドワーフ鍛治工房イーベルアーニャの親方とガルボがやってきた。

「呼んでくれてありがとよ。って、完成しとる!」

すでにそびえている建物群を見て、親方たちは目を剥いた。
見たこともない怪奇な建物が上方にそびえている。ダンジョン製の観覧車とウォータースライダーである。

「ひえー……私たちが呼ばれたのって、建物の相談としか聞いてなかったもんですから、設計図とかを提案させていただくもんかなって思ってたんですけども。こんなに……大きい施設ですねええ」

二人はあらかじめ渡されていた設計|案(・)と、建物をなんども交互に見た。
その横でレナがにこーりと営業用の笑顔を浮かべている。

まず広い入り口は門になっており、

「まるで魔王国の入管のような……!」
「リゾートゲートです」

遊園地の一般的なやつである。
ここに金色子猫と受付たちが座る予定だ。
ピンチヒッターとしては冒険者ギルドのクエスト枠を確保してある。

「立派な看板だが、まだ何も書かれてねぇのか……」
「オープンの時にはスカーレットリゾートって書こうかなって。一斉に発表があったほうが注目されるかなと」
「「ほほー」」

ドワーフ族特有の、口をすぼめて一気に息を吐きだす「感動だぜ」というしぐさである。褒められた!

レナたちは、実際に歩きながらリゾートの中を確認していく。

まずはアーケードショップとロッカー群。
持ってきた荷物を収容して、スカーレットリゾートならではのものを新たに購入できる。頭につけるカチューシャや被り物、ちょっと幸運効果がついたリボン。お土産用のぬいぐるみなども帰宅前に買っていける。
リリーの試作品アクセサリーもここに置く。

エプロンやカチューシャなど、全体的に赤色で薔薇のモチーフが多い。
イメージを統一した方が覚えて帰ってもらいやすい、という配慮であった。
まだ数点のサンプルしかないので、これから増産体制を整えていく。

なぜ赤薔薇かといえば、このリゾートの周りには薔薇庭園が広がっているからだ。

パトリシアとリオたちが育てた薔薇は、鮮やかに色づいてふくらみ、ほのかな芳香を漂わせている。リゾートオープンともなれば満開に咲くことだろう。メイン品種の”スカーレッド”を始め、季節ごとに様々な薔薇庭園が作られる。
そして防犯のため、不審者の通行によってトゲを巻きつける凶暴な「薔薇の株」も埋まっている。

「せっかく赤薔薇には自信がありますからね!」
「インパクト抜群ですー。防犯も考えられてるっていうし、薔薇庭園ってなんだか開放的でいいですねえ。ほら高い壁で囲うパターン多いですから、でもリゾートって言葉らしくはないなあと思ってたんですわ」
「ドワーフ族にとっちゃ壁を作る仕事もあるんだがな。しかし楽しいお遊び施設っていうんなら、薔薇のほうがいいに違いねえ。お客の心境がまるで違うだろぉぜ」
「では薔薇の柵のほうを発注したいです。お試しで植えてた防犯用の株、逃げやすくって〜」
「「……」」

前代未聞の発注である。
地中にある植物がふらりと外の自然に遊びに行ってしまうらしいのだ。
従業員 (?)まで遊びすぎだろぉ! と親方がツバを飛ばしてツッコミした。
すっかり常識を忘れてしまったいたレナが小首を傾げてから、てへへと舌を出した。
▽それでも改める気はないけどね!
▽ここは我が城!

アーケードの道を進むと、次に現れるのは遊園地スペース。
コーヒーカップや回転木馬、観覧車などレナにとっては見慣れた「お遊び」が並んでいる。ゴーカート場では車ではなく運転できる馬車が爆走している。魔王ドグマが朝からはしゃいでいても壊れないくらいの頑丈さだ(リアルタイム)

そしてレストランからはなんとも酒が進みそうないい匂いが漂ってくる。あとで試食していってください、というレナの誘いに乗ったものの、まさか大悪魔ニスロクと盃を交わすことになるとはこのときは思いもしなかった。

遊園地の隣にはスライダープール。ぐねぐねと不規則にうねる流れるプールに、大きくそびえたウォータースライダーが竜のように佇む。
スライダーを今まさにドリューが滑ってみせている、大人の男子でもゆうゆう遊ぶことができるので耐久合格をください。

ゆったりしたい魔物のために温泉も備えている。まろやかな湯気が立つ温泉はかまくらのような曲線の屋根に半分覆われており、まわりの雑音を切り離して穏やかな空間をもたらす。ラミア族がパレオを纏い優雅にくつろいでいる最中であった。

「おいこれらの耐久監修くそ難しいだろ」
「はあ、私も同じことを考えてた……」

親方とガルボが目の下をヒクヒクっと引きつらせた。
しかし資料を見ながら真面目に検討してくれている。彫りの深い眼窩に入った目がきょろきょろと忙しく動き、建物の柱の部分などをチェックする。
わし鼻から「フン!」と息が漏れるのは、未知の建物への興奮のためだ。

(よーし。他種族にとってもつかみは上々、楽しそうに見えてるよ、ってことかな)
「にゃーん」

金色子猫が鳴いたので、レナはふわふわを拾い上げて、建物を食い入るように見ていた二人をリゾートホテルに促した。

「メインです!」
「こりゃあすごい……!」

10階建ての縦に長いホテルがいくつか連なっている様子は、まるで淫魔のお宿♡が並んでいるかのよう。安心のホテルチェーン! と魔人族たちをホイホイできるはずである。
すこし前に下見に来ていた上位淫魔ネレネとララニーが最上階から手を振っている。

「もしかしてあの二人をスカウトできたのかあ!?」

「いえいえ、お二人にはホテルの内装整備をしてもらっています〜。お客さんが一番安心できるホテルって淫魔の方々が熟知していますし。それにスカーレットリゾートは淫魔のホテルチェーンって体裁があるから似ているほうが良いんですよ。接客従業員についてはネレネさん推薦の淫魔さんがいらっしゃるそうです。楽しみにしててね♡って」
「ほほー」

だらしなく鼻の下を伸ばして美人淫魔に手を振る親方の脇腹を、ガルボがドスッと突いた。

開かれているホテルの受付には、リゾートと同等のゲートが備えられている。
ガルボが「えええ」と声を上げた。

「メデューサ一族の方がここでまた視るんですかあ!? どんなツテですか!?」
「ツテは向こうから舞い込んでくるんですよねぇ……ふふ(暗黒微笑)」

▽おっとレナさんおちついて。
▽過去を振り返ってネガティブになっている場合じゃないよ!
▽ほらポジティブ! ポジティブ!

「|たまたま(・・・・)知り合いになったメデューサ族の方(トップ)に聞いてみたところ、メデューサ族って就職が難しかったようで。心を視てしまう目がメイン技能なので、薄暗い裏方仕事を任されてしまったりだとか、同僚に緊張されてしまうとか。そこで、ハッピーなリゾートのお仕事なら楽しそうだからって就職して下さって」

「あー、俺たちの間でもよ、メデューサ一族っていったら大陸を旅する占い師団だとか、一箇所に留まらない神秘的な種族だとか、ンググ……そんなつきっ放すような噂ばっかり聞いてたからよぉ」

親方が咳払いして言い淀んだのは、メデューサ族に一番多い噂話「呪われる」「不幸になる」「石にされる」という悪評であろう。
なまじ嘘でもなく、全体的に幸運値の低い種族であるし、恋した場合には相手を1/2の確率で石にしてしまうので繁殖が難しい、それゆえに異性に執着がありすぎるので呪われるという表現もつきまとう。

「噂は噂なので。せっかくたくさんの種族が集うリゾートですから、メデューサ族のみなさんを知ってもらうにもいい機会だと思います。このあたりで断ち切りましょう」

レナがそう言って、よいしょと腕に抱えていた金色子猫を高い高いする。にゃんとか細く鳴いていた。
レナは紫の目を見つめて慰めてあげた。

「で! このスカーレットリゾート受付からもよく見える広場が、舞台の会場となります」
「噂の?」
「噂になってますかそうですかぁ!」

レナはやけくそ混じり&有名になった嬉しさが含まれた、おかしな悲鳴をあげた。

「舞台・赤の女王様のエンターテイメント舞台スペースです!!」

▽じゃーーーん!!!

スペイン広場を彷仏とさせる円形の広場。しかし中央ではなく四隅に噴水が置かれているという変わった配置だ。
どのような利便性が? と首を傾げたドワーフ二人の前で、レナがパチンと指を鳴らす(鳴らしきれなかったのでキラがBGMをかけた)

▽噴水をねじ伏せて 火柱が上がった!

「「わあああああ!?」」
「迫力あるでしょう! 舞台の進行に合わせて演出するんです。さらに」

▽パッチン!(BGM)
▽お菓子が降り注いだ!

クラッカーが上向きに弾けるように、キャンディが吹き出す。

▽パッチン!(BGM)
▽シャボン玉がぶわりと噴き出した!

「どどどどういう仕掛けなんですかぁ!?」
「ちょっと教えられなくて。ざっくり従魔の力です。安全性だけ見てもらえたら、あとは楽しんでもらえたらいいなって思います」

▽レナの照れ笑い!
▽ここで繰り出されると迫力があるのものだ。
▽聞いちゃダメ☆

ごくり、とからからの喉をガルボと親方がひきつらせ、親方は咳き込んだので、売り出す予定のトロピカルジュースをオズワルドが給仕した。

「ンググ。魔王の息子を給仕にさせるとはなぁ……」
「俺はただここで働こうと思ってるだけだから。今は」

ツンとオズワルドが返事をして、立ち去っていく。
親方は古い自分の感性を反省しつつ、ちょっぴり面白くはなさそうだ。

「愛想がないけどいいんですかい?」
「やるときはやる子なんですよ! それに魔王国武闘大会とも開始時期が近いじゃないですか、オズくんはもし魔王の息子として絡まれたらその勝負受けて立つって言ってて、ちなみにそのための舞台も別で用意しています」

▽エンターテイメント!
▽従魔とのバトルシステムは一日二件が予定されております(アナウンス)
▽舞台がスタジアムになります。

実際に広場の真ん中に立って、ガルボが舞台を眺めた。

「あ、ハリボテ……わりと作り込んでありましたから本物かと思っちゃいましたぁ」
「まだデザインを決めかねてて。一番大事なところだから、ドワーフ鍛治工房のお二人に相談したいなって」
「デザインなら、エルフ族などがいいんじゃないですかい?」
「耐久性が大事なので」
「何を……やるつもりなんだ……」
「赤の女王様の舞台とか、コロシアムとか」
「……そうか。酒の準備はあるんかい?」
「シャンメリーを用意します」

親方は黙った。
そして、まあ安全性重視だしなあと頷いた。
ここぞとレナが「ちなみに自宅鑑賞できるDVD(ドラマチックギフト)の販売もありますから!」と売り込んだ。このときの感動をおうちでも。
レナパーティはけしてお金に困っていないので、このイメージが遠方にまで届いたらそれでいいのである。具体的には東方くらいにまで。

ふふっとガルボが笑った。

「レナさん、楽しそうです」
「そうでしたか?」
「はい。前に工房で会ったときには、けっこう厳しいお顔をされてて、私人見知りしちゃったくらい……。だから今、良かったなあって」
「良い日々です」

レナが微笑んだ。

 

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!