323:スペシャルメニュー

「お米みたいなものを作ってみたのですが」

キラがそういうと、レナの反応は理想(・・)通りのものだった。

「オコメミタイナモノ!!!!」

目をキラキラとさせて、信じられない信じたい信じた! というように口を微笑ませた。よだれが垂れそうである。
キラがめっちゃ照れた。頑張った甲斐があるというもの。

「そこまで喜んでいただけたら光栄で御座います♡ 今日の発表までなんども試行錯誤を重ねまして」
「んもー秘密主義なんだから〜」
「やっぱり喜んで欲しいじゃないですか」
「やったーーー!!」
「それではこちらです」

キラが堂々と異空間から取り出したのは、ザルの上にパラパラとした黄色い粒が乗っているものだった。
オコメミタイナモノ!

「小麦粉と水と油で”ちねった”ものです。こう、指先ですり潰すように細かくしていったという意味ですねはい」
「故郷の映像で見たことあるタイプのやつだっ」
「動画をダウンロード致しまして」
「「えへへへへへ」」

レナとキラばかりで盛り上がって、ハイタッチまでしてしまった。
従魔たちはくびをかしげているが、レナの故郷ということで察せるものがある。
|故郷の動画(テレビ)にこのようなオコメミタイナモノが登場していたのだろう。
ここまで訓練済みである。

「今夜みんなで観ようね。鑑賞会の内容、決定〜」

レナが宣言した。独断で決めるのは珍しい、それくらいお米はレナを狂わせるのである。スカーレットリゾート有名にしたいとか言い出した時点で知ってた。
従魔は訓練済みなので「楽しみ(主人の喜ぶ姿が)」とのほほんと受け入れた。

「それはそうと、ね」

レナがお米みたいなものをつまんで、凝視する。
小首をかしげた。

「小麦粉ですから、味も食感ももちろん本物とは異なりますけれどこれはこれでおいしいはずですよ。|あちら(・・・)の世界最小のパスタ、クスクスをご存知ですか? それに最も近いですね」
「でもクスクスというよりは|故郷の映像(テレビ)なんだ?」
「マスター・レナが喜ぶと思いまして」
「「あははははは」」

レナたちがほころぶように笑う。身内のお花畑たわむれが止まらない。

「まだキラも食べてないの?」
「はじめては皆さんと一緒がいいんですぅ」
「じゃあ一緒に作ろう!」

▽お料理をしよう
▽上手にできるかな?

ドン!!!

肉、野菜、きのこ、ハーブ、香辛料……

何ができるんだろう。でもレナとキラは心得ているようだった。手伝っていけばわかるはずだ。
二人をこんなに笑顔にするとてもいいものが、なにか。

従魔が張り切ってエプロンをつけた。

ルーカが魔剣で器用に肉を切り分ける。
野菜の皮剥き、みんな小さな手でもピーラーが上手に使えるようになった。
キノコをほぐす、おかしなものが入っていないかパトリシアがチェック。やたらと珍しいキノコが多い以外は問題ない。
ハーブの使い方をルージュがマイラに教えてあげた。

「イカ入れてもイイ?」
「いいよ」

「チョコ入れてもいいですかー?」
「あとでお願いするからね」

(チョコ、いれていいんだ……?)

チョココとのやり取りを見守りながら、従魔たちは不思議に思った。
これまで、料理にチョコレートを入れようとしたりお菓子化させようとしたチョココを止めるのが常だったのだ。
まさか肯定されるとは。
どのような料理ができあがるのか、いっそう想像が難しくなった。

全ての材料を大鍋にいれて、火を付ける。
カルメンの白炎で炙ったイカの切り身も。

ぐつぐつと煮立ってきたら、キラが理想的な配合で「スパイス」を投入した。

「さすがアリス様の選んだスパイス……香りが素晴らしいですね。新鮮なものでないとこうはいかないでしょう」
「良いものを良い状態で縁を繋げてこそ、バイヤーですもの」

目の肥えた二人が満足そうにうなずき合っている。

そんなアリスの喉もコクリと鳴るほど、スパイシーな良い匂いが食欲を刺激してくる。

レナが鍋をかき混ぜて(なお異世界人の力をわずかに使うほどの力作業だ)、キラが他のものに仕上げの指示をする。

「シュシュさん。ローレルの葉を5枚」
「ほいっ」

「リリーさん、ミルクを少々……そうそれくらい」
「かしこまり♡」

「ハマルさん、夢産のお醤油を」
「こーですねー?」

「最後にチョココさん」

呼ばれたチョココは、目をつややかなクーベルチュール色にしながらキラを上目遣いした。

「どのテイストにしますか?」
「スイートテイストでお願いします」

チョココがぽとぽとん! とチョコレートを3粒入れた。
料理にもチョコレートを使ってもらえたのが嬉しくて、くるくると回る。
ミディと手を取り合って、

「イートミィ♪」
「スウィートミィ♪」

レナが真心込めて、大鍋に手をかざした。

「黄魔法[熟成]」

鍋の中で、黄金色の油がキラキラと表面に輝き、かき混ぜるとまろやかなブラウンのスープがたっぷりと渦を巻く。
ふわわわんとスパイシーな香りがお屋敷中に満ちて、湯気を食べた影の魔物たちが満足そうにお腹をこすり、香りにつられたロベルトが庭から様子を見にきたほどだった。

レナが「あとで差し入れしますからね〜」と笑う。
彼らも業務後に食べられるよう残しておこう。

クスクスが蒸しあがった。
黄色の粒がつやりと光を反射する。

真っ白のシンプルなお皿に、クスクスとスープを半分ずつ盛り付けて、完成!

「カレー・クスクスです!」

▽レナが 宣言した!
▽イエーーーーーーー!!
▽カレーってテンションが上がる!

もう十分に食欲を刺激されていた従魔たちは、早々に席についてナプキンを首にかけていた。
そわそわと獣耳や尻尾が揺れて、モスラやルージュがカレーを配ってくれるのを待つ。
顔にかかる湯気の熱さが、またいい。

嬉しそうな主人が最後に席につきに行く時、通りかかられた従魔たちは揃って机に突っ伏したり顔を手で覆うことになった。
ご機嫌極まった主人と、心拍数が共鳴してしまったのだ。
主従じゃなければ恋に落ちそうなほどであった。

レナがオコメミタイナモノに恋してる。

進化したばかりのジレ・アグリスタ・マイラ、ギルティアなんてたまったものじゃなくて、顔を真っ赤にして撃沈した。

オコメミタイナモノの力はすごいなー!!

「「「いただきますっ」」」
「「ぱふぱふ〜。クスクス〜♪」
「みんなの声が弾んでる」
「それはもう」
「マックスハイテンションですよね?」

スプーンの上に、クスクスとカレーが半分ずつバランスよく乗っているものがレナの口に。

「はふう」

噛みしめた。
ふるふると震えてようやく感想をいう。

「おいっしい〜! 本格的な本場カレーって感じ。味は甘口〜中辛くらいかな、お肉と野菜がゴロゴロ入ってて、柔らかくてほろほろ。味わいが濃い〜〜!」

他のみんなも、それぞれ一口食べてほこっと湯気を吐き出した。

クスクスは噛むとぷつぷつした食感で、解けるように舌の上で転がるのが面白い。
お米とは違うもののこれもまた美味であった。

それから思い思いにソースをかけたりマヨネーズをかけたり、刻んだフルーツをトッピングしたり、ハチミツを垂らしたりと……辛さや味を自分好みに調整していく。
そしてまたひと口。
味の楽しさに夢中になって食べ進めた。

ルージュがしげしげとカレーを眺めた。

『これは珍しいものですわ。わたくし食べることが好きでしたから、世界中の料理を食べたつもりでしたけれど。似たものはミネストローネスープやポトフでしょうか……これはスパイスが非常によく効いているけれど、尖った難しい味ではなくて様々な人が受け入れやすいと感じました』

「絶賛だ。ルージュにそんな風に言ってもらえると自信になるねぇ」
『ふふ。現にここにいる従魔みんなが一斉になんて珍しいほどの喰らい付きですよね』
「いつもはちょっと個人差あるし話ながら食べるって感じだもんね〜」

それに比べて今日は、あまり話さずにもうお皿を空にしてしまっている。
ある一言を、レナが心待ちにしている。

「おかわり」

「はいはい〜」

みんなにおかわりをよそってあげたレナ。
たくさん食べて大きくなーれ! と頭を撫でて回った。

「アリスちゃんもどう?」

グルメなアリスに尋ねると、上品に手を挙げられた。
それから、

「レナお姉ちゃん、これスカーレットリゾートの看板メニューにするといいよ」

ビジネスとしてのアドバイスが返ってくる。
熱が入ったのか、アリスが早口でまくしたてた。

「白炎で焼かれたデリシャスクラーケンに、キラさんのスパイス調合術と、スイーツプリンスのチョコレート。こんなのどんな料理人も絶対に真似できないよ! 独立している旨みはすなわち力だよ。お料理界のニュースターだよ!!」
「ア、アリスちゃんが熱い……!」
「有名になれるよ」

有名になれる。
レナにとって一番ホットな話題である。
それも、わざわざ出歩かなくてもスカーレットリゾートを運営しているだけで噂が勝手に広まってくれそうなのが良さそうだ。

勝ちを確信したアリスが、付け加える。

「ただこのカレーをまるごと提供するのかはニスロクさんと相談するのがいいと思う。入ってる素材が珍しいぶん、本来であればものすごく高い料理になるはずだから。悪目立ちはしたくないよね、手遅れな点はまあおいといて。
でね、スープだけ作っておいて入ってる野菜を取り除いて、別茹でした一般的な野菜に入れ替えてから提供するのがいいんじゃないかな。それなら旨味を絞りきるまでスープをたくさん作れるし、高級食材を使っていても値段が抑えられると思うんだ。さらに素材を勘ぐられない」

「さすがアリスちゃん、的確!」

「ちょっといいディナーぐらいまで値段を控えたいところだねぇ。スカーレットリゾートに来るようなお客さんなら安いと感じるくらいのラインがいい。
カレー、盛り付けに華があるし。ハーフサイズの提供も考えればもっと気楽に頼んでもらえるようにもなるよね」

「私もいいですか?」
「うん、モスラ」
「レシピの秘匿は同意です。ただ、ここでしかカレーが食べられないとなると顧客が増えすぎる可能性があります。そこでカレーも、以前レナ様が使用されていたコンソメキューブのように固めて遠くまで持ち運べるようにできればと思いました。お土産用ということですね」
「保存もきくだろうし、より遠くまで噂が広がってくれそうだよね! できれば東方の国まで」
「はい」

レナの満面の笑みをいただいたモスラは、微笑みを返してから口をつぐんでわずかに目を泳がせた。
レナがやりたくなったからというていで、今日はスタイリングをしていないモスラの髪をさらさらと撫でに行った。

▽スカーレットリゾートの目玉メニューが 決定した!

▽いつかカレー|ライス(・・・)を完成させることも夢見て……

ちなみに付け合わせには無発酵パンのナンも作ってみたところ、こちらの方がラナシュ人には人気であろうと判断された。
主食がパンのためである。

ガックシと肩を落としたレナであったが、いつかお米好きの同士を見つけられる喜びが増すとして、ポジティブにカレー鍋をかき混ぜ続けるのであった。

 

 

 

 

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