322:スカーレット会議

 

「幻覚会議……」

ギルド長が頭を抱えた。

シヴァガン王国の会議室のひとつに、宰相とギルド長のみがポツンと座っていたのだけれど。
どうやって遠方のレナパーティとの会議をするのかと思えば、まさかの、他の席にはレナパーティの幻覚が座ったのだから。

(これに驚かずにどうしろというのか。丸ごと一人分の幻覚がいるんだぞ! 半透明だけど映像は鮮明だ。あえて半透明にしているまでありそうだ……)

ギルド長はレナの服の裾を引っ張ってみようとしたら指がすり抜けて「うおっ」と驚き、従魔に半眼で睨まれた。そのまま攻撃されることはなかったが、攻撃「できない・しない」のどちらなのかわからない。いっそ攻撃してみせてくれたら透過技術として安心できたのだが……おっと、宰相もギルド長を半眼で見ている。

レナときたら、イタズラが成功した子どもみたいな顔をしている。

『グルニカさんが開発するといいかもしれませんよ』
「それは確かにそうですね。我が国からアイデア提供料を払います」
『あー、うちからってバレると厄介なのでいいですよ。料金なしで。こちらとしてはグルニカさんが開発してくれると堂々とこの幻覚会議を使いやすくなりますし』
「承知致しました」

さすが判断が早い。
宰相はさらさらと悪魔文書に内容を記録し、レナに(良いか?)と見せてOKをもらってから、自分のサインを施すと「グルニカ宛てに」と朱蜘蛛に渡した。

『うわっ』
『あー椅子からすり抜けてるよアグリスタ~。ほら集中してごらん~』
『面白い~! ミィもやるノヨ~!』
『こらこらはしゃがないの』

幻覚のレナパーティが戯れている。
赤の聖地では、ふわふわと浮かびながら会議に挑んでいる……そうで、空気椅子のような状態からバランスを崩したりしているらしい。

実際にグルニカが似た魔道具を作るとなったら、双方が魔道具を持ち、直立か椅子などに座る、もしくは上半身のみを映す会議とするのがいいだろうと宰相が考える。
レナたちほどシンクロさせる必要はないだろうと文書にメモを添えた。

「あのさあ幻覚会議ぃ……」

ギルド長がまたぼやいている。

「くれぐれも今は、議題に集中してくださいね」

宰相がいう。
レナパーティがあのざまなのにギルド長ばかり叱られて理不尽である。
けれど大人なので聞き流す。

「へーい。余計なことを言い出す暇もなさそうな議題だからなァ」

白竜のことはまたの機会にという指示であった。

議題が書かれた紙を眺め、ギルド長が顎をこすり、宰相はメガネをかけ直した。

<議題>
スカーレットリゾート従業員を募ろう!
クエストを発注しよう。

『こちらで従業員リストを用意してます』
「早い早い早い」
『ルーカさんの千里眼で』
「ちょっと待て。ガチなやつすぎるだろ」
『みんなでルーカさんを応援しながら頑張りました!』
「仲良いなァ……」

つまり。
ルーカが努力して遠方にいる知り合いを目視+気分が悪くなってきたらみんなで「がんばれ!」と癒し溢れる応援をしてドリンクとおやつを差し入れして、一件視れたらめっちゃ褒めた!のである。
ホワイトな職場だ。
──とアリスが口にしたところホワイトチョココがホワイトチョコレートを撒き散らし、ノアが食べきったのは記憶に新しい。

▽情報量が多い。
▽絞っていかないと こりゃ終わらないなぁ!

『仲良いなあ、ですって? はい!!』

▽レナの 輝く笑顔!

ギルド長のツッコミはただレナたちを喜ばせただけに終わった。とくに深い話に繋がることはなかった。
宰相は(律儀だな)とギルド長を若干同情のまなざしで眺めている。全員揃ったレナパーティを自分のペースに引き込もうなど無理な話である。

リストを指でなぞって、宰相が尋ねる。

「基本的には、旧知の仲に頼むのですね」
『私、縁故上等なんですよね。仲良しの人にほど尽くしたいタイプです』
「なるほど」

一番の技能はこちらでなんとかできますし、とレナは若干声を潜めていう。
ほどほどの能力者がお手伝いに来てくれたらいい、それならば知り合いの利益にしたいということだ。仲良しがたまたま実力者ばかりであることはこの際置いておく。

レナパーティは、改めてガチ集団。
もし足りないものがあれば、いざとなれば進化すらもして見せるのだろう。

『というわけで!』

・建物監修:ドワーフ鍛治工房
・料理監修:デモンズレストラン
・服装監修:エルフィナリーメイド
・家具監修:ルネリアナ・ロマンス社
・内装応援:サキュバス(淫魔ネレネによる後輩選抜)
・警備応援:ギルド選抜
………

(順次 必要に応じて募集)

「ふむ……じゃあ冒険者ギルドを通してそれぞれの依頼発注だな。クエスト作成、了解だ」
「この選抜にプライベートのうちの従業員が紛れ込んでいたらよろしくお願い申し上げます。優秀であれば採用をご検討いただきたく。例えばロベルトがSランクギルドカードを持つように可能性があるという話です」
『はーい。お給料はずみますからね!』
「ありがとうございます」
「おー。そりゃ助かる」

((……仲良くしておいてよかったな))というのが、大人二人の本音である。

レナパーティは金銭や立場による買収もできない。興味があるのは身内の平穏だ。
さらに自らの意思で、いざとなれば土地ごとどこかへ逃げられる集団の、なんと強いことか。
先にも認識した通り、進化やテイムという選択肢もあるのだから。

(依存しねぇ程度に甘い汁を共有したいもんだ)

ギルド長がふっと息を吐く。

(よくぞここまで)……と、宰相は、魔王国にやってきたばかりの危なっかしいレナパーティを思い出しながら、メガネの曇りを拭いた。

あと自分たちに気合いを入れた。
下手な縁結びでもしようもんなら、このレナパーティからの信頼を無くすのだ。絶対嫌だ。腹の底で本気の選別をすでに始めている。

「それにしてもよくここまで大規模に展開する気になったなァ。お嬢さん、目立ちたくないとか言ってなかったか?」
『わりと限界かなって……』
「まあ……な……」

レナパーティはどうしても目立つ。
どこにいたって目立つ。
理由はもう一つあって、従魔をただひたすらに隠すのも、夢組織からやってきた新人たちを見ていると、コンプレックスになってしまうかも……と思ったのだ。

主人はみんなを幸せにしたい。
レナはもうたくさん幸せにしてもらったから。

まあそれは心に潜めて。

目の前の大人たちには、綺麗事よりも現実が効く。
(とレナが思っている以上には大人も涙もろいのだが)

『お米のためです!!!!』

▽レナが ぶちかました!

「急になんだよ」
『ふふふ説明いたしましょう。私がハマっている食品です。あれは昔旅をしていた時のことでした……お腹が空いて困っていたひよっこ魔物使いの私の前に、コロコロとおむすびが転がってきました。あっおむすびっていうのはお米を蒸して丸めた料理で、とっても美味しいです。美味しかったんですよ! わずかに振られたお塩とお米は相性がよくて、噛みごたえもぷつぷつふっくらと楽しく、くうぅ』
「落ち着けよ。従魔さん翻訳よろしく」
『主人が可愛い……』
「宰相!」
「藤堂レナ様はお米に思い入れがありそれを取得したいと思っている、有名になればお米が手に入るツテがあるらしい、という点がわかればよろしい」
「要約うまいな……」

レナがよだれを拭いた。
そのしぐさから、本当に好きらしいということは理解された。
そもそもレナが従魔と友人以外のことに執着を示すことは稀である。

「ちなみにレナ様」
『はい! 荒ぶった私に代わりご説明ありがとうございました』

レナはこの時知る由もなかったのだ、この笑顔がぶちこわされるだなんて。

「魔王国内の『お米』は全滅しております」
『ノーーーーー!?』
「もともと保有量が少なかったことと、生米では3ヶ月ほどしか鮮度がもたないこと、離れた土地にある米の類につきましては土壌汚染によって滅しております」
『最近話題のやつですね!? 許せない!』

レナが拳を握ってぶるぶる震えている。

そう、最近話題の──。

宰相が目を伏せた。

「土壌のかなり下の方、空の上空の方、それぞれ『穢れ』とでもいうべきものが溜まっています。ヘドロ状の土では生き物が呼吸できず、水を腐らせて環境をじわじわと壊します。見つけ次第[|浄化(パージ)]の部隊を送っておりますが、対処療法しかできないのが苦しいですね。ラナシュ全土の異変と考えられます」

「空の件については、凍土に向かっているときに空賊と会っただろう。あいつらは飛行困難な雲の中を進んでいたはずだが、それも上方にある穢れに触れたくなかったからだ。とくに白魔法に適性があるものについては穢れに直接触れると体が傷むまである」

『ルーカさんの運が悪い!』
『やばいよ白魔法適性!』
『心配!』

▽白竜が察されることはなかった。

▽白魔法適性のうえ悪運がひどいルーカが心配されまくっている。
▽シュシュにまで。

『ミィ、あのネー。こないだ狩りの時にシー・フィールドしてて、地面に潜ってたんだケド、すっごく下のほうなーんかマズそうで嫌な予感がしたノヨー』
「先日狩りをしていた辺り……浄化指示を出します。ご連絡ありがとう御座います」
『ハーイ!』

ミディがきゃっきゃと手を挙げた。
傷心のレナにひしっと抱きしめられた。

「これは世界全土の課題です。いずれミレージュエ大陸の国々とも話しますし、こちらで対処を行なっていきます。対策本部も立てました。みなさんは気になる箇所があればご報告ください」
『はい』
「ちなみに今度藤堂レナ様に貸し出すスカーレットリゾート地につきましては、入念に浄化を施してあります」
『さすがです! 年貢を納めますね!』
『税金ね、レナ』

▽お米脳になっている。

スカーレットリゾートの敷地は当初、キラがダンジョンの敷地をバグらせて諸々建設しようとしていたのだが、やがて身内向けだけの施設ではなくなる方針にきりかえたため、正式に魔王国から借りることにしたのだ。
キラがダンジョン内で創造したり、ハマルが夢吐きした設備を[スペースカット][スペースペースト]して早期建設を目指している。

オズワルドが『こほん』と咳払いした。

宰相が最後に、告げる。

「それでは、スカーレットリゾート開業と、魔王国の武闘大会。どちらもの成功を祈っております」
『はいっ。たまたま開催時期が同じみたいですから、仲良くしてください』

ジーニアレス大陸の各地から、戦闘力自慢がやってくる武闘大会!
優勝したものは、次の魔王の座が確約される。

そんな場所でもスカーレットリゾートの制服を着たものが活躍すれば、一気に有名になるに違いないのだ。
有名になる。これが大事。

▽全てはお米のため!
▽ちゃんと従魔も楽しみにしているよ
▽お米を食べた時のご主人様の笑顔を!

武闘大会の予選では全員参加可能、途中辞退もできること、本当に魔王になろうと思えば従属永久解除を宰相が告げようとしたところで…………

『『『ぎゃーーーー!?』』』

レナパーティの全員がいきなり立ち上がり、一箇所を見て騒ぎ始めた。

宰相とギルド長もにわかに切迫する。

▽幻覚がひとつ増えた。

▽魔王ドグマが 現れた!
▽レナとミディをひょいと抱っこした。

『ふはははははは!! 武闘大会の盛り上げとは大変結構、よろしく頼むぞ!! ははははははは!!』
『声量下げてくださいぃぃ耳痛いぃぃ』
『ミィー! 高いの楽しいノヨー♪』

わーわーと騒ぐレナたちの幻覚が部屋のあっちこっちを行き来している。

ギルド長はこれまでにないほど見事にずっこけていた。

「……なんだよ……なんなんだ……」
「彼女らを型にはめないほうが精神衛生上よろしい」
「つーか魔王様派遣したの同罪だぞ。驚いちまった」
「両イベントが成功するようにという橋渡しです」
「本人をぶつけるな。お嬢ちゃん困ってんじゃねーか」
「魔王様と会えばどのみちこうなると思ってましたよ。オズワルドがなんとかするでしょう」
「なんとかできてねぇ。歯がたたねぇ」
「武闘大会の士気になるのでは」
「先が長い『なんとかする』だな!」

律儀につっこんだギルド長と、議題の資料を整えた宰相が、はい会議終了……とお互いに礼をした。

▽クエスト発注の支度が整った!
▽あとは上手くしてくれるでしょ!

▽爆速で、スカーレットリゾートの制服が届いた。
▽エルフの本気
▽耐久生地のエプロンだよ! お楽しみに!

 

 

 

 

 

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