321:[小話]必要としてね?

 

ジレ・アグリスタ・マイラが庭の片隅に集っている。

服装はそれぞれゆったりしたシャツとハーフパンツ。支給された「スニーカー」という靴だ。
トレーニング用の服に着替えているのは、三人がひっそりと「朝練」していたから。
大きく変化した自分の体はまだ思い通りに動かせない。

例えばアグリスタは六本の脚を絡ませてしまうし、ジレは立つのがやっとのヨチヨチ歩き&這いずればお腹を擦ってしまう。
マイラは今朝、ティーカップに触れたとたん魔法の指先が誤って「関西弁をしゃべるカップ」に変化させてしまった。

はあーーー、と三人ともが息を吐く。

ようやく朝日が顔を出し始めたところでまだうす暗い庭で、シャボンがうっすらと照らされている。
ひんやりした風がくすぐるように三人の朝練で火照った体をなぐさめていった。
ジレがタオルに顔をうずめる。

「なあ……俺たち何もできてないよな? せっかく進化したっていうのに、自分の体に慣れるので精一杯」

ジレの声は途方にくれたようだった。

アグリスタは膝を抱えつつ、こぼれた紫髪を指先に巻きつけていじる。

「うん……うー、先輩たちはぁ、レナ様のために進化してすぐに戦ったりとかベッドになったりとか役立ったんだってぇ……いいなあ」

このあたり、わりと複雑な従魔心というやつである。

変わりたいと思っていた。叶えられた。できることが増えたら、先輩従魔がもっと羨ましくなってしまって。

強欲だ。と、真面目なジレは頭を抱えてしまい、アグリスタは首の縄に髪の毛をからめ始めた。
二人はまだ知らないが、これは「礼」という心である。

((ところでマイラが静かだな……))

二人が横を向いたら、目玉がティーカップに入っている。

「うわあ!?」
「マイラ目ぇ入れて、目ーー!」

「虚無虚無虚無虚無虚無虚無虚無虚無……」

マイラは木の幹に頭を預けてどんよりと影に沈み、しゃべるティーカップの<おうおう根暗は堪忍やで>という言葉を無視してまで、ひたすら地面に「の」のラナシュ文字を書き続けていたのである。
虚無癖を隠そうともしていない。

アグリスタが目玉をはめ込んであげた拍子に、共感してしまいぐらりと揺らぐ。

「レナ様に対して甘やかし発動させちゃうことぉ、悶えているらしいよぉ〜……」

ティーカップが<あんさんようやってまんなぁ。まるで聖母のようやないですのん>と戯言でちゃかし続けているのが効いたらしい。
ジレとアグリスタが、その甘やかしについてフォローの言葉をかけようとし、

((……ある意味、一番役に立ってるのかも))

じとり、とした気持ちを抱いた。

本人が恥ずかしがっているとはいえ、マイラだけはレナの役にたっているのだ。

ティーカップが<なんや修羅場でんなあ>と呟いた──。

「こっちにおいでよ」

▽シュシュが 現れた!
▽マイラと 肩を組んだ。

(やばい、先輩に取り込まれるぞ! 今の虚無状態のマイラに、目にハイライトがないシュシュ先輩をぶつけるのは危険でしかないぞからっぽになってるところに)
(闇が入り込んじゃううううう!?)

▽先輩に闇とかおやめなさいね。

「病みぃ!?」

マイラも同様の感想を抱いていたようであった。
目にハイライトのないシュシュを見て、小さく悲鳴をあげてプルプル震えた。

「ヤミー? ミィ!」

▽ミディが 現れた!
▽美味しい気持ちだヤミーヤミー。

「ちがあう」

マイラの切実な主張は、美味しく食べられたいばかりのデリシャスクラーケンに理解されたか不明である……。
病みという感覚はネガティブをもつ者にしかわからないものだ。

後輩三人が「ヤンデレ」という造語を知るのはもっと後になってからのことである。

シュシュとミディは、朝練に励む後輩たちの様子を見にきたらしかった。そして同類の気配を感じたためマイラに病み絡みしたと。

水筒に入れられたチョコミントティーを飲んだ後輩は、ふうと息を吐く。

(……先輩たちはなにかに嫉妬せずに、ずっと仲良くやれているのにな……)

「ヤンデレ」という造語を知るのはもっと後になってからのことである。
大事なことだから二度言った。
嫉妬はある。
まあそれでも、従魔同士で主人を取り合っての争いがないのは事実である。

種族が違うことによって生まれるはずの嫌悪もない。

従魔契約によって「主人のもと仲良く集う」という意識が生まれている。

そしてジレたちとギルティア四人には首輪の制限があるため、従魔契約魔法の効果が削られている。
それでもしっかり望んだように進化できたのはレナが心から願ったことによる賜物でもあるのだ。
その代償として今までにないくらい派手にずっこけて恥をかいたという悪運も受けたけれど(不幸なことに護衛ドリューによって報告されてしまう)

▽雰囲気暗くなってきたんじゃない?
▽バランスブレイク! じゃーーん! ご主人様だよーー!

「ばーーん!」
「「「わーーっ!?」」」

▽レナが 現れた!
▽壁から忍者のように出現した。
▽壁内のすべり台から降りてきて 決めポーズができずにずっこけた。

「いてて……」
「大丈夫ですかレナ様? さあこちらにおいでくださいませ」

▽マイラの甘やかしは主人を前にすると自動で発動されるよ!
▽あとで厳重虚無が必要になるくらい照れてしまう代償つきであるが。

レナは膝をズタボロにしながらもにっこり力強く笑うと、みんなに宣言した。

「スカーレットリゾートの役職を決めるよ! みんなもリビングに集まってー」
「「「!!」」」

当たり前に呼ばれた。
やれることがあった!

ジレたち三人は、ぶわわっと頬を染める。

期待されることは、従魔としての喜びである!

リビングに並ぶのは軽めの朝食。

バタートーストに、ミネストローネ、シーフードのマリネ、果物の飾り切り。
あとはそれぞれ、チョコマシュマロピザとかキャベツ丸かじりとか寸胴スパイススープだとか好きなように食べている。

軽めの朝食である。
(夜はもっと重いのだ)

キラウィンドウが展開された。

レナが鞭の柄を逆向きにもつ。トン、とウィンドウにタッチすると表示が変わる。

スカーレットリゾートの全体図だ。
以前のイメージよりも現実的に、受付を通ってからの進路や、それに沿って配置されたプールやお遊びコースや舞台などが記されている。

「みんなで頑張っていい場所にしようね!」

赤丸が点滅しているところを、レナが鞭の柄で押した。

キラ(裏方)
ミディ、チョココ、ルージュ、カルメン、マイラ(キッチン)
金色子猫、クーイズ、ジレ、マッチョマン(受付)
レグルス、モスラ、オズワルド、シュシュ(見回り)
ハマル、アグリスタ、リリー、キサ(エンタメ施設)
レナ(司令)

※午前・午後で配置変更あり

他、ガーデン整備主任パトリシア・商業施設監修アリス、サキュバスの内装係に建設監修ドワーフ族……

▽職人ゲストを呼ぼう!

 

 

 

 

 

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