318:ジレ・アグ・マイラ進化

「さーて。進化の前、自分でも戦っておくといいよ~」
「「ぱふぱふ~」」

森の広場で、ハマルとクレハ・イズミがやんややんやと声援をおくった。
やわらかい草の上に座り込んで、後輩の「戦い」を見守る気が満々だ。

「あとちょっとレベルが上がったら進化しそうってー、金猫便で聞いちゃった~」
「「お返事しなきゃね♪」」

発破をかける。

広場の中心で、フリーズしていた後輩|3人(・・)は、さすがに動かなくてはならないと察した。

ビターチョココがぴょこんと飛び跳ねる。
▽チョコが散った。
▽ハッピーバレンタインデー

「よーし。戦いましょー」
「……本当に大丈夫か?」
「チョココ、戦うの怖がってないのはぁ、わかるけどぉ……戦うの初めてだよねぇ? ボクらよりも初めてだよねぇ? ねぇぇ大丈夫じゃないよねぇ……!」
「よくわかりません。だからやってみればいいと思いますしー」
(脳筋……)
(むしろ脳みそ生クリーム……)

うう、とジレたちは言葉に詰まった。

先ほどチョココが「私もやりますしー」と主張したことには驚いたが、いいことだと思った。
しかし「進化したい二人を相手にしますよー」というのは先見ができていなさすぎると説得をしたのだ。ちなみに失敗した。

ジレは高火力の[地を這う黒炎]が使えるし、アグリスタだって[疾走]など攻撃できるスキルを取得している。
それなりに戦闘経験だってある。

しかしチョココは、ぬくぬくとスウィーツパラダイスと赤の聖地で可愛がられていただけの魔物なのだ。

ジレとアグリスタは、困った目で先輩を見たが、この3人も「いいんじゃない」と賛成するばかりなのでどうしても戦闘は避けられないらしい。

「じゃあ、そっちからどうぞ」

先行をジレが勧めると(あ、それいいね!)というようにアグリスタがちいさな溜息を吐いた。

もしチョココが未熟なら先輩もやめさせるだろうし、実力を見せつけてきた暁には──

「スキル[スウィーツフレンズ]」

▽認めざるを得ないんじゃない?

チョココは、口角をくいっと上げて、ビターな微笑みを浮かべてみせた。

「「なにそれ!?」」
「えーと覚えたばかりのやつなので……よくわかりませんしー、なんとなく、多分こう?」

チョココがとてとてと歩いて、木にへばりついていたトカゲをわしづかみにした。どうやらチョコレートの甘い香りに誘われてやってきたちっぽけな魔物らしい。嗅ぎなれない香りにクラクラしている。
今度はコロコロと転がっていたストーンゴーレムミニを、チョココが手に持つ。

▽魔物たちは チョコレートの香りに包まれた。
▽ビターチョコレートカラーになった。

「「え……」」
「フレンズ成功です。それでは──たぶんこんな感じで、”スウィーツプリンスの名において戦いを命じます”」

▽チョコレートが増し、増し、増し、増し……
▽それはまるで 王が配下に贈る鎧のようだ。
▽ぽいっ、とチョココが投げた。
▽二メートル大の チョコレートに育った。

▽それぞれ恐竜・人馬に 整形された!

見上げるほど大きなチョコレートの芸術。むせかえるような甘い匂い。
モンスターチョコレートのビターな黒い瞳が、しっかりとジレ・アグリスタを捉えて敵意をぶつけてきた。
プリンスの命じるままに、甘い駒となったのだ。

あんぐりと二人の顎が落ちた。

「「ええええええ!?」」
「おやおやそんな風に口を開けてるなんて、欲しがりやさんですねー?」
『『タベテ……タベテ……』』
「ホラーじゃん!!」
「ひいいい思考もチョコまみれになってるううう」

チョココがパチーンと手のひらを打ち鳴らした。
指パッチンは出来ないのでこの仕様である。

「ゴー!」
『『タベテ!!!!』』
「「ひえええええ!!!!」」

広場のめいっぱいのスペースを使って、ぐるぐると、モンスターチョコレートとジレ・アグリスタが駆け回る。

歴戦のはちゃめちゃ従魔であるハマルとクレハ・イズミは「うーわー」とぼやきながらも、見守りの姿勢を崩さない。少し前から、この光景を予想していたのだ。

「だってねぇー、チョココが覚えた技があれだったからこうなるだろーなーって〜」
「やるじゃんね甘い後輩! ヒューヒュー」
「レナのこと見てて、赤の聖地でモムの指揮もしてたから学んだんでしょ。ウワーーオ!」

どっっすん!!
モンスターチョコレートの重厚な地ならし、大地が揺れる。

踏み潰し、からすんでのところで脱出したジレは、覚悟を決めたようだ。

『これくらい強かったら確かに、レベリングにふさわしいよな……いくぞ!』

煉獄火蜥蜴の姿になって、ねばついた炎を燃え上がらせた。
黒焦げになった鱗の残骸がバラバラと散らばる。体にひび割れが走る。

『[地を這う黒炎]』

チョコレートモンスターの行く先を予想して、その下に炎の海を作り上げた。
ねばついた炎は、その場だけを燃やして広がらず、炎が長続きするのが特徴だ。

ハマったのは、恐竜モンスターチョコレート。
片足を丸ごと溶かされて、地面にビターチョコ溜まりを作って倒れこんだ。

溶けた断面から、トカゲの尻尾が飛び出している。

『そこかっ』

▽ジレが 噛み付いた!

ばくんと、裂けたような大口の中に捕らえた。
核を失ったためか、チョコレートは形を失ってトロトロになり地面に染み渡っていった。
ごっくん、ジレはトカゲを飲み干した。

『……なんか、久しぶりに魔物らしい食事をした気がする』
「「お見事!」」
『わっ』

走りこんできたクレハとイズミに、飛びつくように抱きしめられた。
二人には毒なんて効かないのだ。
そう思うとジレは安心して、されるがままにチョコレート沼から運び出された。

「うおっと!?」
『……!』

▽ジレの炎が 白炎に一部変化する。

「イズにまかせて! さー鎮火してごらん」

ひんやりとした手のひらで、ジレの鱗が砕けたところを撫でて、漏れ出た炎を抑えていく。
オオサンショウウオに似たジレの体を抱えて、赤子をあやすようにとんとんと背中にも触れる。

クレハは離れた。
白炎を貰いうけて、ジレに影響のないところまで走ってから、キッと虚空を睨む。
瞳が|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)のようにぎらぎら光っている。

「もーカルメン姉様ひっどーい。ちびっこに白炎はダメだってば!」
『む……我々はわざとしたのではない。祝福のつもりだったのだ…………やりすぎたとは思わなくもない……』

クレハがいつになく厳しい視線を向けたので、カルメンもかなり反省している。
素直ではないが謝りもしたので、許してあげることにした(そのようにジレが懇願した。自分のことで先輩と聖霊が喧嘩するのはいたたまれなかったようである)。

<従魔:ジレのレベルが上がりました!+1>
<☆進化の条件を満たしました>

<進化先:Gーレックス・リトル>

アグリスタは一生懸命逃げていたものの、息切れを起こし、だんだん人馬との距離が縮まってきていた。
距離が近くなるにつれて、共感を呼び起こしてしまう。

『タベテ……タベテ……』
『た……食べ、て……? うう』

ふらふらと人馬のほうに寄って行って、あーんと口を開ける仕草までして見せた時だ。
馬耳がピクリと震えた。
先輩ハマルの声をききながせなかった。

「あーあ。そんな共感に甘えてるようじゃー、ご褒美もらえないぞー」
『ゴホウビ……?』

スケルトンホースの体が不安定に透け始める。

▽人馬の 踏みつけ!
▽アグリスタは ふらりとかわした。

「ひゅう。そうご褒美っていうのはねー、良い成果を上げた従魔がー、レナ様にあーんなこと♡ こーんなこと♡ お願いできる権利のことだよー。縛って叩いて従えてー♡」

ハマルは途中から感情が高ぶってきて、祈るように手を組むと、手首の手枷ブレスレットに頬ずりしながらふんわりと幸せそうに微笑んでみせた。
幻想的ですらある姿。
うつくしいマゾである。

──過去にご褒美があったのだろう、主人の手ずから甘い痛みを提供されて縛ってもらえていつも一緒だと言ってもらえるような幸福な時間がたっぷりと(後半はアグリスタの被害妄想であるが、おおよそ現実を兼ねる)

アグリスタの紫のたてがみの先端が、緑の嫉妬に燃えた。

「ねえ、甘えるならご主人様にー、でしょー? チョコレートの甘さに負けちゃダメー。ファイトだよー」

ハマルがめえめえとほくそ笑んで、指先でアグリスタの後ろを示した。

人馬の蹄がまた、頭上に迫っている。
となりの白炎に当てられたのかタラリとチョコレートが垂れて、アグリスタの顔にポタポタとチョコのしみをつけた。

ゆらりとアグリスタが顔を上げる。

『──食べて欲しいなら、食べてあげるぅ。対価にボクは、レナ様のゴホウビをモラウ……』
『タベテ……タベテ……』

▽[幻覚]を使い 踏みつけをかわした。

<従魔:アグリスタのレベルが上がりました!+1>
<スキル[イートトラップ]を取得しました>
<ギルドカードを確認して下さい>

『こんな感じぃ? スキル[ロックオン][イートトラップ]』

▽地面に靄(モヤ)が立ちこめる。
▽人馬の脚が からめとられた。
▽地面から 影のトラバサミが現れた。

『イタダキマス』

ガブリ!!──人馬は丸ごと食べられて、罠の効果でそのまま地中に引きずり込まれてしまった。
地層の一部に、やけに甘いの層ができたようだ。

ハマルが呟く。

「結局ー、食べられたい気持ちを昇華してあげたのかー。やさしーんだからもー。おーいっお疲れさまー」
『……ひええぇクラクラしますぅぅぅ』
「そりゃあ急にレベルアップの連続だからねぇ。この地域でだけレベルアップ連続しすぎてー、ちょっとタイムラグ現れてるくらいだもんー。あ、ちょ、あぶなっ」
『ほわっ』

▽アグリスタは チョコ溜まりに 落ちた。
▽チョコまみれだ。
▽ネガティブオーラに包まれて 撃沈している。

「あちゃー。チョココー」
「はあい、ホワイトチョココ! 私がホワイトな気持ちにして差し上げますねー♪」
「……あちゃー」

テイストチェンジしていたチョココはニコニコとチョコ溜まりに入っていった。プリンス行進曲が聞こえるかのようなコミカルな歩み。歩いたところから、ホワイト・ビターのマーブルチョコになる。

「チョコレートは幸せの香り♪ おめでとうございまーす♪」
『……溺れるぅぅ』
「じゃあ岸までいきましょうー、ハイヨー」

なぜかアグリスタはチョココを乗せる羽目になった。
まあ、歩き出す気力を共感提供してもらったと見るべきか。
ホワイトスケルトンホースとスウィーツプリンスの組み合わせは、いやに様になっていて面白い。
ハマルはぷくくと笑いをこらえた。

歩いてくる時、アグリスタの尻尾の先から垂れたチョコレートで、地面には甘い道が作られた。

<従魔:アグリスタのレベルが上がりました!+1>
<☆進化の条件を満たしました>

<進化先:スレイプルート・リトル>

地中ではミディがぐんぐんと沈んでいる。

『ミィ? この先なんだかマズイ気配』

急上昇!

『これくらい助走をつけたら大空に羽ばたけちゃいそーネ! ジャーーンプ!!』

▽巨大クラーケンが 地面から現れた!
▽地上の魔物を根こそぎ撥ね上げる!

『「いやあああああ」』

キサとマイラがあまりの光景に悲鳴をあげた。
半透明になったウルウルイカボディから、外の景色が透けて見える。
すでに木々よりも高い!

ミディが自重で自然落下を始めた時、キサはそのまま落下ジェットコースターに巻き込まれたが、マイラはするりとすり抜けてしまって空中に放り出された。

『あっ!?』
「大丈夫だよシュシュがいく。押忍!」

自由の翼をバッサーー!!と力強く羽ばたかせて、シュシュが飛ぶ!
マイラをキャッチした。
しかしそのまま地上には戻らない。

「! 天使の上昇気流だ──ディスが言ってたのってこの感覚かな。よし何事にもチャレンジしてみようマイラ」
『……はいっ!?』

▽シュシュの翼が上昇気流に乗った。
▽さらに高く ウィーキャンフラーイ!
▽雲の近くで ウィーキャンジェット!

「さあ落ちるよよよよよ」
『あばばばばばば』

口の中にたっぷり空気が入り込んでくる。
マイラの体はしっかりとシュシュにだき込められていた。
まだシュシュの飛行は不安定らしく、羽ばたきはなく弾丸のように落下スピードが加速するばかり。

目玉こぼれ落ちちゃう!と目を瞑ったマイラの耳に、シュシュが唇をくっつけて、囁いた。

「しっかり下見て、虚無っててもいいから」
『!?』

速攻でマイラは虚無った。
心がひややかに凪いでい……いかない……落下怖すぎる……いやだ、なんかもう、いっけーー!凪いだ。

(そのいきだよ!)

というように、シュシュが肩で笑った。
シュシュの腕が片方のびて、真下を指す。マイラの視線もそれを追った。

『カモ?』
「獲物だ」

翼を広げている鳥が二体。
大型のカモ、どうやら気流がおかしいので飛行が乱れているようだ。ほとんど空中の一点から動かない。

「よっ」

シュシュが体を傾ける。翼で風向きを掴み、方向調整。
カモの方にそのまま落ちていきそうだ。

「いっくよー!」
『──!』

▽ゴン!!!!

…………

▽マイラとシュシュは 頭突きでカモを仕留めた。

マイラがその腕にカモを確保した。
シルクゴーストの腕はしゅるりと伸び、器用に指を絡めたのだ。

『……ご飯の材料……』
「えっらい! うわ!」

地面が目前に迫ってきているが、直前に無駄話をしていたシュシュは対応が遅れてしまい、翼をバタバタさせても今さら飛ぶことができなさそうだ。

金色の光がやってきて、二人を受け止めてくれた。

<従魔:マイラのレベルが上がりました!+1>
<☆進化の条件を満たしました>

<進化先:シルキー・リトル>

「…………さっき、金色子猫ルーカさんを投げた時に『方向がちがああああう』って言われちゃったけど、木の幹にキックしてきちんと方向転換したのさっすがだよねー。あとでたくさん褒めよう〜そうしよう〜」
『現実逃避せず謝ったほうがいいかもしれません、レナ様……』
「うう、そ、そう思う? ルーカ先生モードだったしお叱りいただいちゃうかな? うう」
『レナ様は投擲が苦手だということを知りました』
「私、運動全般ヘタだからねぇ……」

レナは火炎獅子にもたれかかり、モフモフ埋もれながら、テヘヘと頬をかいた。
頑張ってテヘヘの表情をしているだけで、その実めちゃくちゃ気まずそうだ。汗が滝のよう。

異世界人の称号を使っての運動の練習マイナス点、とルーカ先生に酷評されるのはどのような賄賂を詰んでも避けられないだろう。
これまで散々叱られてきたでしょう? ということには、でもせっかくなら褒められたかったじゃん!? と返したい。
▽ドンマイ

『しかしレナ様……本当はあなたが行きたかったのでは?』

レナはずっと、従魔たちが訓練している方から視線を外していなかった。
レグルスが心配そうに寄り添う。

「もちろんだよ。けれど私がそばにいると、主人にとって有益な進化先に変えられることがあるかもーって、ルーカさんとキラが判定していたじゃない? 予防のため。みんな自分が望む姿があって、それを叶えてあげられる余裕が今はあるんだから」
『──俺でよければ撫でてもいいですよ』
「わーい! 役得」

レナが、もっふりと深くレグルスに埋もれて、手を動かした。
火炎獅子の体は金から赤のグラデーションカラーに燃え上がり、尻尾の先はわずかに白い。

レナはくるりと回って背中をレグルスの毛並みに預けて、空を見上げながら(イカジャンプの名残で雲が乱れている)夢組織の子どもたちがやってきてからの日々を振り返った。

(身内に変化はあったけど、居る場所は損なわれなかった。私たちは赤の聖地でまだ暮らしてる──)

それを嬉しく思う。
口元がふんわりと微笑み、主人の安定を悟ったレグルスがグルルと喉を大きくならした。

胸にしまったギルドカードにレナが手を添える。

「Gーレックス、スレイプルート、シルキー。みんなリトルがついてるのは首輪の影響もあるんだろうね。よーし落ちついて進化できるように、帰……」

レグルスが唸り声をあげて姿勢を低くした。
すぐ隣を、地割れをともなう衝撃波が走っていく。
ドドドドドド!! と木々を粉砕した。

「っ」

レナが腰の鞭に手を当てる。

「大丈夫か!? 獣から離れなさい、そこの君!!」

──どうやら、いたいけな少女が獣に襲われている! と勘違いされたようであった。

 

 

 

 

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