317:狩りレベリング

「「いやああああああ」」

草原を羊が爆走中である。
アグリスタとジレが悲鳴をあげ、ふんわりした羊毛にしがみついている。ぐわしっ、と引っ張るように掴んでも、鈍感羊はびくともしない。むしろ、生ぬるいと言わんばかりに速度を上げた。さらに引っ張られて、ようやくご満悦である。

『たのしいですね~♪』

二人の間に挟まれたチョココだけが、きゃっきゃとはしゃいでいる。
アグリスタとジレの間にいれば、少なからず空気が和むだろうという配慮と、チョココ自身が外に行ってみたいと意欲を示したため初めての狩りとなった。

『獲物をチョコまみれにしたいです~♪』

▽やめようね。

『はいジャンプ』
「「あああああああ……!!」」

アグリスタとジレの悲鳴は尾を引いて遠くまで響いた──。

「もっとやってえぇぇ……」
「アグ!? しっかり!?……ジャンプと締め付け、どっち?」
「締め付けぇぇ……」

ふらふらと動くアグリスタの紫頭。ぐるぐるの目。
落っこちそうになったので、紫の触手が『よっ』と体を支えてやった。

「それクーイズ先輩の束縛技術だから!! アグが望んでるのはレナ様のだろ、惑わされるな!」

早くもマゾヒストの扱いを把握したジレであった。

「あっ言葉遣いすみません、クーイズ先輩」

先輩への気遣いにも余念がない。えらい。

「ほら、チョココに共感して……」

落ち着かせてあげようと行ったフォローも完璧であった。

「「たっっのしー」」
『お? そう? もう一本ジャンプ行っちゃう?』
「そっちに共感解釈されるとはあああああああ」

▽ハマルが加速した。どんまい!
▽パコーーーン!
▽猛牛の群れを撥ね跳ばした
▽レベリングは 順調順調ぅ!

地面の下を巨大なクラーケンがスルスルと泳いでいる。
その体内に、ゴーストを潜ませて。

『いくノヨー♪』
『いやああああああああ』

どこも一緒の有様だ。

このようになった経緯はというと、ミディが泉に浸かって水の極大魔法[アクアフュージョン]を使い巨大化。
[シー・フィールド]で大地の下を爆走中なのである。
水のように土をかき分けて泳ぎ、魔物がいたら[毒手]で仕留める。地上へのアッパーだ。

土の中には襲われることなくぬくぬくと成長してきた高レベルの魔物がおおく、みるみるうちにマイラのレベルが上がっていく。

『こんなのいいのでしょうかああああ』
『美味しければオッケーなのヨー♪』
『美味しいですか……!?』
『地上でシュシュ先輩が[|浄化(パージ)]の訓練をしているノヨー。うまく毒抜きできたら、美味しい魔物が出来上がり♡ ワーオ! イート……ミィ!』
『混ざるつもり満々なんですねぇぇぇ……! ヒッ』

悲鳴をあげて怖さをごまかしていたマイラの前に、
▽鎧蟲が現れた!×30
▽合体
▽巨大|鎧蟲者(よろいむしゃ)となった。

おぞましいホラーである。
暗闇のジェットコースターの行く先にこれが大口を開けていて、蟲の脚が無数の歯のようにうごめいているのだから、キッツイ。

『うごうごしてます。気持ち悪いです。威嚇人相の鎧甲羅、ぶよぶよした脚が絡まりうごめき、死者の怨嗟のよう……うっ、[虚無]』

マイラはよほど受け付けなかったらしく、沈黙してしまった。

『うーん、ミィもイヤ。だって蟲の体液が青のタイプはマズイノヨー。[イカスミバブル]』

真っ黒の泡が、鎧蟲を一つずつ包み、まるでブドウの実のように引き剥がしてしまった。
鎧蟲たちを放っておいて、しかしミディは逃してやるつもりはない。よい経験値になるのだから。

力強く泳いで、遠方で頭を出した。

「けほっ!?……なんじゃミディか」
『お茶飲んでたところゴメンネー、キサー。ミィには難しい獲物がいたカラ、手伝って欲しいノ!』
「そして妾を頼ってきたのじゃな。ウフフ、良いぞ。共に参ろう」

キサがにこやかに了承して、休憩組の席を立った。
自分が選ばれた理由はわかっている。

上着を脱ぎ去り、シンプルな着物の装いになってから、ミディの体内に入り込んだ。
ミディの体内にいれば海の中のように地中を移動でき、キサのギフト[壮絶耐久]を持ってすれば呼吸の問題もクリアする。
少々の苦しさには慣れよう、と花のような穏やかな呼吸でキサが囁くように呟いた。

『行くノヨー♪』

──想像していただろうか。ブドウのようなオブジェと出会って。それの中身が……

「[|氷の槍(アイスジャベリン)]」

おぞましい蟲だなんて!
▽イカスミバブルから 蟲のパーツが弾けた。

「いやああああああああ」
『い~や~ぁぁぁ……』

▽キサと マイラと ミディのレベルが上がった!
▽狩りは 順調順調ぅ!

「──大丈夫かな?」

レナが後方を振り返って呟く。
森の中、木々がさわさわと動いた。
その端がじゅわりと焼ける。レグルスがレナに寄り添う。

『レナ様が従魔を信じてくださっているのであれば、問題なく』
「うん、じゃあ大丈夫だねー。あはは。えっと野性の魔物にやられることは心配してないんだけど、従魔たちの間でレベルや実戦経験の差があるから、うまくマッチしてるかな?って」

レグルスがグルル、と唸った。

(その保証はできない)

先輩従魔たちは可愛い見た目に反してなかなか苛烈な性質を持つものばかりだ。
特訓もハードモード(レナパ流)に違いない。

ヘニョリとレグルスの獣耳が下がったのを、レナが撫でてあげようとした。
手が届かない。よじ登って、さらに手を伸ばす。

「ふんぬっ」
『……足音が』
「え? お耳がひくひくしているの可愛いねぇ」
『それは……』
「あ、つい独り言が。照れさせちゃったね」

たてがみのように、炎がぼふっと燃えている。陽の光のすべてを集めたかのように、黄金、橙、紅、赤のグラデーションカラーに揺らめく。
親しいものへのダメージはない体毛の延長だと分かっていなければ、レナも慌てて落ちていたはずだ。
今は、落ち着いて座っている。
王者の風格。

『地上の羊と、地下のイカどちらもこちらに』
「ほう!」
『それから猫も』

レナが嬉しそうに頷いた。

「狩りは順調みたいだよ」
「あ、ルーカさん」
「おまたせ。シュシュは[|浄化(パージ)]を一人でできるようになったし、あちらの先生はおしまい。次はこっちで指導できます」
「よろしくお願いしまーーす!」

軽やかに、ルーカはレグルスの背に飛び乗ってみせた。
レナの後ろに着く。

懐かしい感じがする。かつてのレナはハマルにも満足に乗れず、ルーカが補佐をしてくれていたのだ。
今日は、レナが一人でレグルスを駆る練習となる。
思えば遠くまできた。

成長をジーーンと噛み締めていると、ルーカ先生からの指示がきた。

「はい脚でしっかり火炎獅子の腹を挟んで。手は首元のリボンを掴む。骨格が頑丈だから、レナが引き締めても問題ない。[異世界人]の称号を使うときはちょっとだけ注意」
「はいっ」
「ハマルとミディが追いついてきたよ。さあ先頭を行くのはあなただ、ご主人様!」
「緊張させにくるぅ……!」
『参ります』

ガオオオオ!! レグルスが吠えた。追ってくる仲間に、場所を正確に知らせる。

レナがリボンを引き締めて脚でトンと火炎獅子のあたたかい腹を蹴ると、グン!! と前に進んだ。

「ひゃあ!」
「右」
「っはーい!えい!」

レナが右側に体を倒すと、わずかに右側の腹に脚がくい込み、それを合図にレグルスが方向転換する。
向かい風によって、ルーカの小声の指示は後方に流れていく。
レナの脚の動きで、レグルスを駆るのだ。

木々はレグルスが避けてくれる。

森の奥のほうへと、ちいさな太陽が弾丸のように進んだ。

「前方、左に魔物!」
「いくよレグルス、スキル[鼓舞]」
『参ります!!』

▽頭突き!!!!

まっすぐにど突き、木の幹に魔物を衝突させた。

目を回しているていどの軽度のダメージだが、レグルスはそのまま去る。

炎が開いた獣道を、ハマルが追いかけてやってきた!

『獲物みーーっけ』

▽パコーーン!
▽締殺ゴリラが 宙に舞った。

『後輩たちよー。こっからはイージーモードになるからねー。道は開いてるしー、魔物は動かないしー。おつかれさんー』

イージーってなんだっけ。
すっかり羊酔いしたジレとアグリスタの口内に、ビターチョココの魔の手が入り込んだのであった。

▽チョコレートボンボン(お酒の代わりにエリクサー)

『イージーですって。簡単ってことらしいでしたっけ、これからは遠足ですね?』
「……それ、多分、常識、ちが……」
『よくわかりませんし。脳みそ生クリームなので』

▽追加チョコレート
▽たくさん食べてもらえて嬉しいことはわかるよ!

ビターな遠足は続くのだった。

「スキル[伝令]──王道に地上を駆けるハーくん! 地下からアイキャンフライするミディ! どっちが多く魔物を狩れるかな!? ファイトだよ〜!」

『めええええええええ』
『ミィィィィィィィィ』

その日、森の上空には多くの魔物が舞ったという。
地獄絵図。

遠くからその光景を見ていたものたちは、ざわざわ騒いで、土地の管理者である魔王国に連絡を殺到させたそうな。

「うーん、数レベル上げただけで進化とはならないの、首輪の影響かな。ルーカ先生、見解どうでしょう?」
「その通りと視た。まだまだレベリング続行!」

▽鬼教官!
▽レナがあざやかにレグルスを駆った。

▽Next! 進化、そして出会い

 

 

 

 

 

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