316:報告・シヴァガン王国2

 

「聖霊対策本部としての話に移ります」
「「「はい」」」

さっくりと宰相が進めていく。
淡々と、必要なことを確認する。

「レナパーティが持ち帰った氷の聖霊。検査するために、赤の聖地にグルニカを送り込むことを相談して下さい」
「承知致しました」

──頷いたものの、三人ともの顔色が優れない。

よりにもよってグルニカ。前科がありすぎる。

確実に狂人でトラブルメーカー、しかし彼女以上の開発の才能を持つものはいないのだ。
複合アンデッド・ユニオングールである故に、優秀な脳みそを4つも持っている。
その思考が組み合わされて生まれる開発品はいつも魔王国に貢献してきた。

「氷の聖霊杯をこちらに運んでくるならば、その間に何が起こるとも分かりません。最悪奪われたり、逃げ出したりするケースが想定されます。であれば、今安静にしているらしい赤の聖地にて調査を行うのが適切でしょう。……私もその際うかがいます。捕縛には自信があります」

これには、無表情を頑張っていた3人もにっこりと目元がやわらいだ。
魔王束縛に定評のある宰相がいてくれるなら安心だ。わざわざ時間も作るのだろう。

「はたして、しばらく様子見をするのか、それとも早めに聖霊を起こしたほうがいいのか……」

まだイメージ段階の話を宰相が口にするのは珍しいことだ。

「凍土の荒れ具合を考えると、氷の聖霊がいなくなって元に戻る単純な話ではないようです。現状、まだ土地が乱れていると知っていましたか?」
「いえ……初耳です」
「レナパーティが帰還する際には、土地が元に戻ったようであると報告がありましたからね。スクー」
「その通りです。冷気はほどよく、凍土の魔物に馴染みのある気候に戻っていたと」
「その後、調査を続けておりました。数日で異変が現れ、湖底がヘドロで濁り、氷は溶けすぎているとのこと。むしろ氷の聖霊杯を復活させて土地の安定に努めてもらえたなら……と考えております」
「そんなにですか」
「引き続きアイスワイバーン部隊に調査をさせます。今の所、二度部隊を送って、気候変化はそのたびに進行しているようです」

朱蜘蛛が糸でつりさげて渡した報告書を、三人が手に取り眺めた。

「ロベルト隊長も向かわせるご意思が?」
「想定はしていますし、その場合レナパーティに冒険者としての依頼をすることになりますね」

宰相が、人差し指でトントンと自分の首筋を指してみせた。ロベルトに施した悪魔契約。それによって、レナパーティから一定距離離れることができないのだ。

レナが参加せずとも他の従魔をつければロベルトの遠征は可能だが、それにしても従魔がレナパーティの枠に収まっているため、依頼をする必要があるだろう。善意の口約束ではなく、契約を交わしたほうが双方にとっても安心である。そのための国庫金である。

「いずれはロベルト・レナパーティ・氷の聖霊で凍土の調査に行ってもらえたら」

ここで、4人の考える事は1つである。

「…………穏やかな人格の聖霊であれば良いのですが…………」

9割無理だとも思っている。自由奔放な大精霊シルフィネシアに、苛烈なカルメンを見ていれば、聖霊に柔らかな印象など抱けない。
もともと、崇拝され力を振るうすさまじい存在である。

「1つ連絡が」

リーカが手を挙げた。

「モスラさんが、長期間赤の聖地を離れるそうです。アリスさんと一緒に、必要な装備を集めるため、商業活動に専念するのだとか。レナパーティには凍土までの移動手段を提案する必要があります」
「承知致しました」

宰相はすでにこのことを知っている。トリックルームでキラから伝えられていたのだ。
その時、キラがやけに消耗していたのが気になったので差し出されたエリクサーをあちらに飲むように勧めたことを思い出した。
苦笑を浮かべたキラはやけに大人びて見えて、また進化するのではないだろうか……と考え、ここで思考を戻した。
いま頭痛を加速させるべきではない。

「移動手段ならこちらに」

宰相がパチンと指を鳴らした。
空気が変わる。

執務室の紙とインクの匂いが消え、まるで日を浴びながら自然の中で深呼吸しているような清らかな空気につつまれた。圧倒的な清浄パワー。
部下3人はその空気に呑まれそうになり──しかしピリリとした怒りが混ざっていることを肌で感じる。
サッと臨戦態勢を取る。

「よろしい」

宰相が立ち上がって、後ろを向いた。
広いスペースが空いており、普段ならば魔王がたたずむこともある場所に、先程まで気づくこともできなかった厳重な結界が貼られている。

「グルニカの新作ですよ」

リーカが奥歯を噛み締めた。
グルニカの作品を確かめたかったのだろうけど、メデュリ・アイとして悔しい。もっと精進を、と己を見つめる。

宰相がまた指を鳴らしたことで、隠蔽が解かれる。
結界内があらわになった。

「これは……!」
「竜人族の白竜です。しばらくこちらに謹慎処分となっております。危ない飛行など罪状がついたため、その分の奉仕作業をしなくてはいけない」

見事な白銀の鱗。首には、違和感のない白銀の首輪が巻かれている。通常のような黒の首輪でないのは、竜人族の立場を配慮したものである。
一部、鱗にはひび割れがあった。

宰相は含みのある視線で、じっと白竜を見上げた。
そして聖霊対策本部に向き直る。

「コレが、凍土までの送り迎えを行います」
(((心配しかない!!)))

***

赤の聖地に帰還したドリューは、気まずぅぅい書類を手に、門をくぐった。

まずロベルトを探…………エントランスホールに待機している。
上司を見て、ドリューはビクッとする。
(待ち構えていたでしょ!)

「こ、今回の報告書の返事です」
「ご苦労」

さっと目を通したロベルトは涼しげな顔をしているけれど、顎をさすって思考する時間は長かった。
目線が上から下に動く。
こめかみの辺りをぐりぐりと指先で揉んだ。おそらく白竜のくだりを読んでいるのだろう。

「まぁ、やるべきことをやるだけだ。問題がありすぎてただのいつも通りだな。よしまかせろ」
「ロベルト隊長、潔いですね……」
「任務が完了するならそれでいい」
(社畜)

それからクドライヤの元を訪れる。
というより同じくエントランスホールにいた。
ギルティアを寝かしつけた後なので男装で目つきは鋭く、正直いま会いたくはなかったのが本音である。

「あー、可愛らしい魔物の姿に変化したことな。その見解はサディス宰相と一致だ。うん可愛らしいよな、ウンウン」

ごまかしきっている。
魔人族が魔物に変化した問題点、などと口にしない。
ここは赤の聖地なのだから、気をつけないと主人の侮辱には従魔がヤンデレ化する。
いつ敵扱いになるかはわからないのだ。

クドライヤが読んだ部分の文章は消えてしまった。

(もしかして俺、一番やばい爆弾持たされてたんじゃない? もしこの文書が従魔のみなさんにまず見られてたらさ……)

ブルルッとドリューが震えた。
そう考えると、報告任務にレグルスが呼ばれなかったのも納得である。

「田舎者は噂話を気にするもんだよ。樹人集落は風にのった声を拾い、情報収拾する。窓を閉めた宰相の執務室にも、結界の貼られた赤の聖地にも、感謝だな。覚えとくといいぜ、都会っ子」
「いや俺、海底の限界集落出身なんで、田舎者っすよ」
「ほーう」

あの大都市育ちでよくそう言えたもんだなー! とクドライヤがヘッドロックを仕掛けた。
田舎者の田舎比較は容赦がないのだ。
ドリューが泡を吹いてしばらく意識を飛ばした。

『あら。お帰りなさいませ』
「説明しますね」

ルージュに会釈をし、持ち帰られた報告をクドライヤが伝えた。
白竜のくだりは、ルージュの眉間をけわしくさせた。

『ウフフ。その白いケダモノ、レナ様を乗せるだけの価値がある魔物にしなくてはね。腕がなりますわあ』

──熟練の魔物使いの本気、こっわあ。

魔人族ふたりは、それぞれ雪豹の尻尾をぶわりと膨らませて、頭の木の葉をざわざわと揺らすのだった。

目を覚ましたドリューが口元のよだれを拭いて、佇まいを直してからルージュに駆け寄る。

「あの。レナパーティのみなさんはどこに?」
『藤堂レナ様でしたら、従魔を連れて進化のための狩りに出かけておりますわ』
「もう!?!?」

また新しい報告が必要になる!!

調査のため大急ぎでレナパーティのあとを追うドリューに、先輩2人とルージュは手を振って見送ったのであった。

▽報告が山積みだね!
▽いってらっしゃい!

▽Next! 煉獄火蜥蜴、スケルトンホース、シルクゴーストの進化へ

 

 

 

 

 

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