315:報告・シヴァガン王国

 

シヴァガン王宮内、宰相の執務室。
昼の日差しがうっすらと差し込むものの、書類の束が積み重なり室内は薄暗い。書類はそれぞれがきっちり整理整頓されている。欲しい内容のものを、宰相はすぐに蜘蛛糸を使ってたぐり寄せることができる。

そして数枚の資料を、朱蜘蛛が運んだ。
樹人の生態記録。

宰相はそれをめくりながら、さらに新たな報告書を受け取った。

「ギルティアの進化はこのようになったのですね──。よく調べられていると思います」

まずねぎらいの言葉を。
この辺り、宰相はかなり丸くなった。

ホッと胸を撫で下ろして礼をするのは、報告者であるリーカ・ドリュー・スクー。

「メドゥリ・アイの目で調べることもレナパーティが許容しました。ギルティアは、我が国管理の犯罪者でもありますから。与えた水分のデータはあちらの提供によるものです。快く教えてくれました」
「承知致しました」

ギルティアの首輪が取れるまで、シヴァガン王国でも監視をしなくてはならない。
トンデモ変化に付き合って、対応し、いちいち城内共有する必要があるのだ。

お互いにとって負担は大きい。
早く首輪が取れることを、王国側としても願っている。

宰相はギルティアの容姿をイメージしてみた。

(ふわふわとした綿毛の顔、花弁を逆向けたようなボディ、手のひらに乗るほど小さく、樹人の葉とツタと棘が見られる……?)

すぐにやめた。

(こうしている間にも、レナパーティがギルティアを成長させているかもしれない)

頭の中で行うだけの予測は、無駄になることだろう。

「ただ祝福されるだけとはいきませんね」

たっぷり間をとってからわざわざ告げられた無駄口に、報告者三人は、首をかしげたい気分だった。
ドリューは実際に首を傾げてしまったので、リーカに足を踏まれた。
精進せよ。上司の前だぞ。

意図があるのだろう、と姿勢を正す。

「”生まれもっての魔人族が、ある魔物使いの力によって、魔物の姿に戻されてしまった”。などと、マイナスの解釈を想定しています」
「なっ」

ドリュー、アウト!
腰の肉を両脇からつねられた。

宰相は書類に落としていた視線を、さらに伏せた。

「犯罪者の情報は城内共有となりますが、その際『レナパーティである』という点を正確に読み取る者は少ないでしょう。レナパーティは王国職員では御座いません。派手なことをしつつも積極的に関わろうとしてこなかった……正確な姿を知るものはわずかです。城内で有名なのは『魔物使いレナ』という点ですからね」
「はい」

三人の中では前に出る立場であるリーカが、相槌を打つ。

「赤の女王様レナ、がやけに有名な点はいったん置いておいて……」
「はい」

これにはリーカもわずかに苦笑する。

「いち冒険者の魔物使いが、魔人族を、ただの魔物にまで戻してしまった。さらにそのまま手中において活用している」
「……」
「もっとも悪い印象で捉えるなら、こうなります」
「サディス宰相はどのような印象を広めたいとお考えでしょうか?」

リーカたちはもともと諜報部の所属だ。
情報を持ってくることに加えて、噂を広めていくことも業務のうちだった。
それには上司の意向が前提となる。

「”レナパーティにはそのような技術がある。悪用ではなく、従魔の進化としてそのような結果となった。責任を持ってともにいる”」
「承知いたしました」
「疑念をすべて真っ向から否定しないほうがいいでしょう。言葉の綾でうまく繋げて、丁寧に、悪用ではない点を広めてください」
「はい」

リーカはふわりと微笑を浮かべた。

部下と上司の気持ちが一致しているならば、良い仕事が完成する。
レナパーティの安寧を思いつつ噂を広めたなら、きっと良い未来に繋がるだろう。
邪魔がなければ。

宰相が資料を閉じた。

「この後、リーカは噂を広げること。スクーは噂を捻じ曲げる者がいないか調べること。ドリューはこの決定を赤の聖地に持ち帰るように命じます」
「「「はっ」」」

魔人族に影響するという点は、みな自分をあてはめて警戒して受け取るだろう。

先に公表をして、さらに印象操作をしておくのが最適解と宰相は決定した。

(魔王様も同じように判断なさるでしょう)

魔王は現在、単独で火山火口に業務に出向いている。
マグマのその下に毒とヘドロが沸いている。そのような報告があって、魔王として対応しているのだ。

「……再確認ですが、ギルティアは幼い魔物になりつつも、弱体化ではなく『強い変化の兆し』──なのですね?」
「はい。世界樹ネオという新種族であり、レアスキルを所有、さらに大精霊シルフィネシアからの極大魔法も習得するようですから」
「理解しました。とてもレナパーティです」

4人ともが、深ーーーく頷いた。

「その情報全てを明かす訳では御座いませんが、悪意はないという根拠になるイメージとしてどうにか活用しましょう」
「樹人のネオ種……くらいでしょうか?」
「ええ。それから容姿も詳しくは公表致しません」
「はい。想定されるのは誘拐ですか?」
「赤の聖地にいればよほど大丈夫でしょう。しかし彼女らは突発的に出かけたり、トラブルに巻き込まれたりしますから……」

全員の、深い、頷き。

「誘拐については以上の理由で警戒を。そしてギルティアの首輪が取れた将来に、樹人種族にアプローチしたかなったときに過去が鎖とならないように……」

将来、無垢なギルティアを初めて眺めた樹人と、例の|砂漠の魂喰い花(デザートギルティア)をイメージして恨みを募らせた場合では、成長したギルティアに対する態度は変わるだろう。

宰相のメガネがきらりと光って、表情はうかがえない。
しかし目元が柔らかくなっているかもしれない部下は思った。

「火炎獅子のレグルス、それから羅美亜(ラミア)のキサ、両者にもこの城内を歩くように伝えてください」
「はい。アピールですね」
「一度弱体化させられたものの、今となってはより強い魔人族となった前例。少なからず見たものに安心感を与えることでしょう」
「伝えます。ね、ドリュー」
「はいっ」
「了承されると想定していますが……」
「私どももです。とくにレグルスは協力的かと」

一時弱体化したことへの反応を、レグルスはよく知っている。

実家の炎獅子の家系が、宰相の想定した状況とまるで同じだったのだ。

レベルが下がってから実家を訪れた際、弱体化したことは魔物使いの影響だと誤解をつきつけられた。かばうほどに「飼い慣らされた」と話に耳を傾けられなかった。しばらく無視を貫かれたほどだ。
現場を見ていない者たちの思い込みはおそろしい。
ギルティアの場合は犯罪者という弱い立場であり、城内の職員数は膨大であるため、さらなる情報統制が求められる。

「レグルスは実家にて決闘し、火炎獅子の姿と実力を見せてからやっかみも収まったそうです」
「いざという時はそれが一番。我々は魔物ですから」

強いものに従う。
魔人族のことをさんざん言っておいて、魔物であるからと、宰相は皮肉ってみせた。

であれば、より強いものが現れたとしても藤堂レナに付くであろう従魔たちは、やはり異質なのだ。
もはや魔物というより従魔。

思考が深淵に入りこみそうだったので、宰相はこの議題を終了させた。

 

 

 

 

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