313:どんな魔物になりたいの?インタビュー3

 

おかしな進化先にされまいと、マイラとアグリスタは一生懸命に考えて、ギルティアに話した。
それは意外にもインタビューそのものになっていて、先輩従魔は笑いを堪えながらお菓子をつまんで見守っている。

小さなギルティアは、綿毛の耳を持ちあげて、ぷわり! とマイラを指した。

驚き目玉をこぼしそうになりながらも、マイラが話す。

「えっと。私は、キッチンで作業することが多いけど、高いところのものが取れないとか、今できないことを解消したい……かな。仕事を”させてもらってる”のが分かるの、一人分こなせていないの。もっと、って、思うの……」

ヘニョリとマイラの眉が垂れる。
長い前髪の中なので表情がわかりにくいが、声の調子から、しょんぼりしていることは十分伝わった。

ただ「楽でいいや」なんて考えられなかった。
昔のキッチンでは歩くことすら許されず、夢組織にいた頃はろくにできることがなくて、やっと手にした自分の仕事。
できることが増えていく日々は、マイラにとって楽しかった。

それ以上を、もしも、進化に望めるのであれば。

「つまり。よく動ける魔物ってことで。ギルティアお姉ちゃんが言ってくれた、すごく遠くまで移動できるやつ……で合ってるのかも?」

マイラは控えめに小首を傾げた。
そこだけ見えている口元はくにゃくにゃと曲がっている。
こういう時、どんな表情をすればいいのかわからない。

ギルティアは憮然と「膨らみ」を崩さずに頷いた。
リリーの顎の下にふわふわが当たり、気持ちよさそうに頬ずりをされる。

「ぷぷっ」
<あたし間違わないもん>

プイッと横を向いて、リリーに頭突き(ふわふわ)をしているのは、素直に受け入れられてむずがゆいようだ。
攻撃は全く痛くないので、リリーと戯れてただただ体力を消耗したギルティアであった。
そこでキラがエリクサーを出したのだから飲むしかない。

▽飲まなきゃやってられっかよお!
▽いつでもレナペースに巻き込みやがって!
▽レナは 遠方で くしゃみをした。

<……合ってるし、なんならもっと欲張っちまえ。貰える機会なんて貴重なんだぞ。マイラはゴースト種族だ。海の中、空の上、森の奥、大地の下、どこでだって息ができる>
「あ、それはそうですね……動けるようになったから、私の範囲って、とてもたくさんなのかも」

マイラの胸が、とくん、と高鳴った。
ミディが飛びついてきて、すりすりと頬をすり付けてくる。

「ミィが、シーフィールド教えてあげル! だからマイラはネ、空の上に連れてって」
「なるほど……」
「空も海になったらイイナーって! ミィ、大地には潜れるカラ。一緒にデートしなイカ?」

ルーカが紅茶を噎せた。ダジャレがツボにはまってしまった。

マイラは頬を赤くした。

「う、うん。ミディは私の教育係だから……一緒に、訪れましょう。いつか」
「キャー! 早く進化してー!」
「えっと」

マイラの微笑みは、きっと自分へのほのかな期待を込めて。

「頑張ります……」
「きっとできるよ!」

できることは、増えていく。

▽キラウィンドウに マイラの進化先希望が 記された。

<で。アグリスタ>
「ふええぇ!?」
<それがお前の言ってた、直したい”怖がり”?>
「そ、そうですうっ」

アグリスタが赤いフードを目深にかぶり、影のかかった顔の中で緑眼をぐしゅりと光らせる。
涙目になりながらもきちんと答えられたのは、チョココを抱っこしているから心強いのだろう。
ついでに言えば、後ろには鈍感&強メンタルのハマルがいる。
大中小の抱っこ三段構えだ。

キラ&リリーにより似たような三段構え抱っこをされているギルティアは、姿勢に突っ込む気がない。
やぶ蛇なのかしっかりわかっているのであった。

アグリスタは瞳を伏せた。

「あのぉ……怖がりを直したいけどぉ、そもそもどうして怖いって思うんだろうぅ……?」
「ボクにも怖いものってあるよー?」
「…………………はえぇ!?」
「もー。当たり前じゃんー? ボクはかよわい草食獣だぞー」

ルーカが紅茶を噎せた。ギャグがツボにはまってしまった。

目の前にシュシュがいるのも運が悪かった。
レナパーティにおいて草食獣がかよわいとはギャグなのだ。

「ボクはねー、いつ消えるかわりと分かんなかったからー。レナ様とのお別れが怖かったんだー」
「………………えっと?」
「金毛羊(ゴールデンシープ)のスターライトカラーっていう希少種魔物だったんだけどねー。それってラナシュにほとんど情報が無くてー。世界に情報がないってことは『無い』でしょー? 存在がいつ消えてしまうかなって、怖くてめえめえ鳴いちゃったんだからー」
「……ええ!?」
「キラ先輩が頑張って世界情報をキープしておいてくれたんだよー。ありがとー」
<お役に立ててよかったです♡ やめろあたしが話してるみたいだろうが!>
「あははははー」

キラの本心とギルティアの翻訳が混ざる。
のんびりとハマルが笑う。

腕の中にいるアグリスタはがくがく震えているのが伝わってきた。
涙をぶわりと溜めて、ハマルを見上げた。

「それってぇ、ぐすっ、とっても怖いですねぇぇ……!?」
「うんー。だから従魔でいる限り、ずうっと怖いよー?」
「ひええええ」

二人が思い浮かべていたのは主人のこと。

「消えたらレナ様に会えなくなっちゃう〜ってボク怖かったんだー」

ハマルの瞳は懐かしむようにやんわりと細められた。

アグリスタは主人との別れを一度経験している。生前、と言った方が正しいか。
スケルトンホースとして誕生して以降、飼い馬として生きていた記憶に随分と苦しめられたものだ。
あれは苦しみだったけれど、今は”怖い”。
その正体がわかった。
現在を失いたくないからだ。
いつか、レナと別れたら、なんて、狂ってしまうのではないだろうか? と思う。

緑眼が澱(よど)む。

「あううううう、ずうっと紐で繋いでおいてもらわなきゃぁぁ……ボクのことぉ……もう離れないくらいきつく、酷くつよく、思いっきり……縛ってぇぇ……! ブツブツ……」
「そうそうーそのいきだよー」

「ぱぷぅ!?」
<お前っ!?>

「アグリスタが一番怖かったものの正体がわかってよかったねー。ね? これに比べたら日常のちょっとしたハプニングなんて怖がらなくていいってー、スパイスみたいなもんでしょー」

いやレナパーティの日常はわりとえぐいハプニングだが。
それはさておき。

「ボクはぁ、もぅぅ、別れたくないですぅぅ……」

ギルティアは言おうと支度していたことを飲み込んだ。
戦闘力を上げろ。自分に自信をつけろ。そしたら怖いものなんて無くなる。
そんな、自分が築いてきた価値観とは、はるかに離れたところにアグリスタたちは行ってしまったようだった。

(変化なら既にしてるじゃんか。じゃーどう変化したいんだよ。それが答えってことか)

「別れはくるよー。だってレナ様はヒト族だから魔物よりも寿命が短いしー。肉体は死滅するよー」
「ぴッ!?」

アグリスタが白目を剥いた。

「ぱぷぅ!?」
<お前っ!?>

ギルティアがぷわわんと膨らんだ。
今度は、リリーから頬ずりをされなかった。

チョココが甘ったるいホワイトボディで、アグリスタの頬を撫でる。
ホットチョコレートのあたたかさに、涙の塩気が混ざった。

『あ、塩チョコですねぇー!』
「……チョココ怖くないのぉ!?」
『よくわかりませんー。脳みそ生クリームなのでー。うふふー』

そんなことってある? 従魔なのに? 飼われているのに? とアグリスタは混乱を極めた。

「チョココ、新作の塩ホワイトチョコ、アグリスタの口に放り込んでやってー」
『スウィートミィ♪』

▽アグリスタの口が 封じられた。

「おちつけよー後輩よー。ボクは夢の中で何度だってレナ様に会うよー、幼い頃もー出会った頃もー現在もねー。あ、同期たちもおちついてねー」

ガタッッッ、と前のめりに立ち上がったシュシュやルージュたちに、ハマルがひらひらと手を振った。
これはまた幼レナ様ふれあいドリームツアーに招待しなければ許してもらえなさそうである。

「で、何が言いたかったかっていうとー。思い出の中にはずっといろんなレナ様がいるでしょー? ってこと。頭の中、夢の中、キラ先輩の記録の中、世界の情報の中……」

ハマルが一呼吸おいて、アグリスタがしゃくりあげるのを待った。
背もたれになるように少し力を強めて抱いて、するとアグリスタにはハマルの心音が聞こえる。とてもゆっくりと、子守唄のようなテンポ。
長く生きる種族であることを意味していた。

「自分が消えなければね」

「ぱぷぅ……!?」
<お前っ>

ギルティアのツッコミの翻訳をするキラの声にも感情が混ざり、どこか苦笑しているようであった。

眠気を誘うテンポにいざなわれてトロンと瞼を落としかけていたアグリスタの目が、ドロリとした深緑色に輝く。

「……ギルティアお姉ちゃんの言ってたこと、合ってたぁ。ボク、すごく強くならなきゃぁぁ……」
<そこであたしを巻き込むなよ>
「あのねぇ、消えないようにしないと。ボクの主人の記憶が消えないようにぃ、しないとぉ……」
「それからーレナ様が敵襲で死んでしまってもー記憶が短くなっちゃうぞー?」
「ヒッ!? そっかあ。すうっごく強くなるんだぁ……」

アグリスタの声は地を這うようなねばりがあるのに、晴れ晴れとしているのがおそろしい。

いや本当に、おそろしいものが目覚めてしまったかもしれない。

「心をずうっと縛ってもらうぅ……」

根暗系マゾヒスト。
正統派であるが今までレナが出会ったことのないタイプ、これは手綱を取るのが厄介そうだ。
▽うまいことまとまった。
▽馬だけに。
▽なんちゃって。

▽ダジャレでも挟まなければやってられっかよぉ! はい根暗おしまい!
▽結果オーライ。アグリスタの覚悟がキマってよかったね。

▽キラウィンドウに アグリスタの進化先希望が 記された。

<それでは、こちらが進化先のイメージ画像のカタログでして>

キラが別ウィンドウを展開する。

アグリスタとマイラは恐る恐る指を近づけて、すっすっと横にスクロールしていった。

「う、わ。これ魔物図鑑? ラナシュの全部?」
<ンーどちらかといえばマスター・レナの故郷です。マスター・レナの故郷ってさあどうなってんの?>
「「え?」」
<ギルティアさんの思想と混ざっちゃいました。てへっ>
「あぷぷうぅ!」
『わ、暴れないの。もう、くすぐった、クスクスっ♪』

「あれもこれも……気になるのってたくさんあるけどぉ、数が多すぎて決められないよぉ〜……強いのって、こういうサタンとか?」
「いきなりその飛躍はリスクが高いかな。手伝おうか?」

口の端にお菓子のかけらをつけたルーカがやってきた。
ペロリと猫のように舐めてごまかすように笑った。

そのしぐさに、ビビりかけていたアグリスタとマイラはホッとしたようだ。

「ええと……お願いしたいです」
「私も。結局どれが遠くに行けそうな魔物?ってわからないです……」
「ぱっふぱっふ!!」
「うわシュシュの効果音力強っ! ふふっ、じゃあ久しぶりにルーカ先生をしようかな」

ルーカの指がウィンドウについた瞬間、ものすごい勢いで画像が流れ始める。
キラの操作だ。そして魔眼はそれを全て確認することができる。

「──はい、君たちが望む能力を持ちそうなモンスター例。今の魔物姿から派生しやすい、容姿のモンスター例。ピックアップしたから、いくつか選んで組み合わせよう」
「く、組み合わせ?」
「スウィーツプリンスや、デリシャスクラーケン。もともと居たと思う?」

アグリスタとマイラは、パートナーをまじまじと眺めた。
新種であり珍種である。

「それからギルティアもね」

ぷぷぅ!そんな目でみんな!とギルティアが膨れあがった。

「僕のネコミミヒト族も。レナの【☆7】[レアクラスチェンジ体質]が適用されるため、従魔にはあらゆる可能性がある。さらにキラが世界の情報を加筆してくれるから、新種の魔物になっても、消えたりしないよ」

リリーの足元がキラリと光った。
台座のキラが、ウインクをしたようだ。

ルーカがリリーにこしょこしょと耳打ちした。
リリーはギルティアにこしょこしょと耳……はどこかわからないのでささやきかける。綿毛に顔が埋もれた。

「〜〜ぷっぷ!」
<さあ、君たちをどのようにでも変えましょう>

神託のように声が響いて、アグリスタとマイラの瞳がきらめいた。

▽インタビュー 完了!
▽お疲れさま!
▽ギルティアは気力を使いきり 赤ちゃん状態にもどった。

 

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!