312:どんな魔物になりたいの?インタビュー2

▽オラオラオラオラァァ!!!!

▽キラとリリーは 廊下を爆走中!

お行儀が悪いって?
ジョギングコースを新たに創造したから問題ないのである!
むしろお行儀がいいまである!

ジョギングコースは走るっきゃないよね!

軽やかに動く、乳白の脚と、艶やかな褐色の脚。
身につけている短パンとタンクトップユニフォームが風をきって揺れる。
リリーの手のひらにしがみつくギルティアもぐわんぐわん揺れる。

▽ゴールテープが 現れた!

▽通り抜けて リビングへ フィニッシュ──!

さわやかな笑顔で立ち止まる二人。両手をあげると紙吹雪の幻覚が降り注ぎ、ラッパの音のBGM。盛り上げならこの二人におまかせあれ!
頬を伝っている汗が二割増し輝いている。

「ふうっ。いい汗かいたの。あれ? どうしてアグリスタは羽交い締めされているの?」

リリーがきょとんと頭を傾けた。
陸上スタイルフェチが見ていたら魂を抜かれそうな健康的な色気だ。

「うう……」

身動きを封じられながら、うなるアグリスタ。
ちらちらとリリー、キラをみては、顔を赤くしたり青くしたり目をぐるぐるさせたりしている。

「あらかじめ、私たちが行くとアナウンスしていましたよね? んもーアグリスタさぁーん。逃げないで下さいまし?」

軽口を叩きながらも、キラは苦笑気味だ。
理由をわかっているのだろう。

羽交い締めしていたハマルが、こちんとアグリスタのこめかみのあたりに頭突きした。

「いたっ」
「アグリスタ共感するからさー、キラ先輩とリリー先輩を前にするとー、天然と養殖で心がこんがらがっちゃうらしいですー」
「ほほう」
「そそそそっ、そん、うっ、うわあん」
「否定も擁護もできないとこ、素直なんだけど〜。君もほんとーに生き悩む子だよねー。迷える子羊よー」
「馬ですぅ……」

すんすんとアグリスタが泣いてしまった。
やべ、とハマルが舌を出した。

「ボクの精神力は強いらしーから〜、そばにいて二人に対峙したら、アグリスタの訓練になると思ったんだけどなぁ〜。敵わないですーさすがですー」
「今日の私たちはテンションが高いですからね!!!!」
「いえい!!!!」

チョココが恋しい。
そう、心から思ったアグリスタであった。

キッチンからふわんとチョコレートの香りが漂ってくる。

「チョコレートケーキ、焼けました〜。スウィート、ビター、ミルクのテイスト♪」

▽チョココが 現れた!

「焼きマシュマロパイもあるノヨー♪ 素材はイカに決まってるじゃなイカー♪」

▽ミディが 現れた!

癒される。
そうアグリスタが感じると、ほんわかした空気が流れた。

「はい通りまーす」

▽ルーカが 現れた。
▽共感したら危ないぞ!

「シュシュ、後ろの皿も運んでくれる? レナへの献上物」
「押忍!!」

▽ポジティブと ネガティブで 中和中和!

アグリスタは頭をふるふる震わせた。
虚ろな目で、へにゃりと笑う。

「えへへへぇ……なんだか安定してきたぁ。ボクの中にぃぃいっぱい詰まってるぅぅ……ネガティブとぉポジティブとぉ甘いスウィーツ……ブツブツ……」
「やば。マイラおいで」
「はいー!?」

ルーカに呼ばれたマイラがすたこらさっさとやってきた。
メイド服のスカートを少しつまみ、足を引っかけないように小走りに進む。その作法にルーカは(おお)と目を見張った。キッチンから顔を出してにこりとしたルージュが仕込んだのであろう。

▽キラリリ インパクト!
▽陸上スタイルに驚いたマイラの目玉が 転がり落ちた。

さすがにこれは種族特性なので修正が難しい部分である。
影の魔物が目玉を拾ってくれたので、マイラはいったん目玉を預けたまま、ルーカの前に佇んだ。

「できるね?」
「[虚無]」

すんっ──とアグリスタが落ち着く。
深緑の目には光が宿らない。
ネガティブには、時に闇落ちすることが救いになることもある…………語り手がルーカなので説得力が段違いである。

「さて。ギルティアのお仕事だったよね。僕たちは見守っているから、続けてどうぞ」
「プゥーーーーーーーー!!」
「『平然とティータイムをすんなーー!!』」

翻訳の悲劇なのだが、側から見ているとルーカの一人ノリツッコミである。
言った本人が「ふはっ」と噴き出してしまった。

しかたがないのでキラが翻訳を代わる。

「『頭の中をかき乱して、虚無でのみこませて、洗脳じゃねぇか!』……と。ギルティアさん言語化が上手ですよね、なんか気にくわないとかで収めようとしませんから」
「わー! えらいねー!」

▽キラと リリーの 布陣が独特。
▽レナパーティに慣れよう!

ギルティアはふらふらとテーブルの上に降り立つと、ぼふっと綿毛を膨らませてルーカたちを見上げる。

紅茶は丁寧に淹れられているため良い香りを漂わせて、焼きたての菓子類は表面に誘うような艶がある。ほこほこと目視できる湯気も食欲をそそる。
水蒸気を吸っただけでもギルティアは震えたほどである。

チョコレートケーキの端っこをつまんだシュシュが、ギルティアに首を傾げてみせた。

「洗脳はみんなされてる。なにが良いのか幸せなのか、それぞれの価値観は全部洗脳だよ。アグリスタとマイラについては、赤の聖地にやってきて共感することも虚無を使うことも受け入れた従魔仲間を、先輩として歓迎しているだけ。あなたが気にくわないのは本当は何?」
「……!」
「腹を割って話し合おう。押忍」

シュシュがぐっと前のめりになった。
挑むように紅茶入りのティーカップをギルティアに差し出している。
ギルティアは目つきを険しくして、ティーカップに入り込もうか悩んだ。

「ティーカッププラント……ふっ」

ルーカが横を向いてなにか想像して笑っている。
ネタバラシするならばティーカッププードルのような可愛らしいギルティアと、その時の本人の心情とのギャップをイメージして少し笑ってしまったのだ。

失礼なことを考えられている。
そして良からぬ絵面になるらしい。

そこまで察したギルティアは、ルーカに頭突きをキメた。ぷわんっっ。

これにて、アグリスタとマイラへの扱いに対する制裁としよう。そう一人で納得しておいた。

「また一人で罰を受けてレナ様のお叱りをひとりじめするんだからぁー、めぇぇ」

ハマルの文句はさらに闇が深そうなので聞かなかったことにした。

▽体勢を 整えた。

テーブルの茶菓子を囲んでルーカ、シュシュ、ハマル、ルージュが座っている。後輩を見守る姿勢だ。

別のテーブルに、アグリスタとチョココ、マイラとミディ。
妖精化したリリーに抱っこされているギルティアと、椅子になっている魔物キラ。翻訳音声が流れるオルゴールのような芸術品感。

「ぷぷぅ!」
<質問!>

<お前たちは、どんな魔物に進化したい?>

キラの音声は神託のように神秘的に響き、びくっとして虚無から現実に引き戻されたアグリスタとマイラだけでなく、当のギルティアもぷわっと膨らんで驚いた。
その様子を<ベストショット♡>と撮影するテンションの落差はさておき。

アグリスタとマイラは、顔を見合わせて、困った表情で。

「「わからない」」

ギルティアは、二人がここにきてから得たものを想像し、アンニュイなため息を吐いた。森の爽やかな香りが吹きぬける。

「将来、何になりたいかわかんない……」

(マイラ。切羽詰まってるやつは、目先の問題の解決にばっか気ぃとられるんだよ。毒を問題とみたジレみたいに。
お前はもう問題からはそれなりに解放されているんだろうな……)

将来と口にした。ここにいるだけ以上のことを、マイラは考えているとみれる。

ルージュとミディはさまざまな光景を語ってあげたのだろう。
昔に大陸中を旅した魔物使いがみたもの。
クラーケンが泳いだはるか海の底の景色。
きっとそれらがマイラの視点をぐんと伸ばした。

「あの、ボク……。……ふぇ、進化ってぇぇ……なにか変わること、だよねぇ? ギルティアお姉ちゃんの心が変わったのが、羨ましかった。ボクの、この怖がりなとこも、なんとかなったらぁ……いいなあってぇ……。ヒッ」

(アグリスタこのやろう)

ギルティアが睨むとアグリスタは身を縮こまらせた。けれどチラチラと伺ってくるあたり、どうやらギルティアの心は前ほど刺々しくないと共感して知ったらしい。

チョココが[テイストチェンジ]──目の前で変身してホワイトになり、アグリスタの手を優雅にとってホワイトチョコレートを握らせてあげた。
それすらも、アグリスタは羨ましそうに眺めている。

ここでたくさんのお菓子を食べて、心に共感して、多様性を知るたびにきっと嫉妬したのだろう。
羨ましいと綺麗事を口にできるくらいは、勇気を出せるようになった。
その自分の変化にアグリスタは気付いていて、わずかな自信を持ったからこそ進化に興味を示したのではとギルティアは推測した。

しかし、現状、どんな魔物? とは二人ともイメージできないらしい。

「ぷぅ」
<結論>

「えっ結論?」
「いきなり!?」

戸惑う二人を、スポットライトが照らし出した。

<お前は、すごく遠くまで移動できるやつ>
<お前は、すごく強いやつ>

神秘的な音声に有無を言わさず決められてしまいそうで、アグリスタとマイラはあわてて待ったをかけて、議論は白熱していくのであった。

 

 

 

 

 

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