31:お説教

レナ達とゴルダロパーティの面々は冒険者ギルドから少し離れた小さな公園に来ていた。

パトリシアは今だに青白い顔をしている。
ギルド前では、結局嘔吐してしまっていた。

現在、レナにお説教されているのだが、吐いた嘔吐物を嫌がらずに片付けられ、背中をさすられ、イズミの出した水まで提供され…叱られるにしても人目の多いギルド前から退避までさせられたら、もう素直に謝るしかない。
たとえ、背中に感じるパーティメンバーの視線が生暖かくてもだ。
時々ツンデレしながらも、おとなしく話を聞いている。
レナさんは仁王立ちしていた。

「…パトリシアさん。
昨日、貴方は私に対して疑いの言葉を口にしましたね?
正直、ショックでした…。
でも、私が弱いのもFランクに上がったばかりなのも本当だし、疑いたくなる気持ちも分かります。
だから、一言謝ってもらえたら、その場で友達になれたんですよ…?
でも、昨日は寝てしまってお話はできませんでしたね。
ゴルダロさんから、次に会ったら普通に謝るよう進言されていた筈ですが?
…それがどうして、勝負という発想に繋がるんですか。もう!」

「……う。
…だって、普通に謝ったって…レナが無理して納得した感じになるじゃんッ!?
私に色々言われて、絡まれて、ムカついただろぉーー!
…だからー、お互いの落とし所にちょうどいいやり方だと思って、勝負……うぷっ」

「はいはい。
…イズミ、パトリシアさんの頭に乗っかって、冷やしてあげてくれるかな?
クレハは、背中に引っ付いて少しだけ温めてあげてね。
はーい、もう大丈夫ですよー。
リラックスして深呼吸して下さいねー」

『しゃーないですなー。アクアー』
『うぃーす。フレイムー』

「う…!
…ふーー、はーー、ふーー…。ふぅ…」

「はい、お疲れ様です。
……ねぇ、私、そんなに怒っていませんってば。
昨日の発言は、お酒が入っていたから言い過ぎたのもあるんですよね?
そう、思ってますから。
一言だけ、”ごめんなさい”の言葉をくれませんか?」

「…~~~~~っ…!」

「パ、ト、リ、シ、ア、ちゃんっ」

「うおっ!?……ご、ごめんな…」

「はい!友達になりましたっ」

▽レナと パトリシアは 友達になった。

ご主人さま、お見事!
勝負をせずとも、絶妙な言い回しで、あのパトリシアから謝罪の言葉を引き出してみせた。
ゴルダロパーティの面々は感心したように頷いているし、従魔たちも『ウチのご主人さますごいのー!』と得意げに胸を張っている。

当のパトリシアは、赤くなったり青くなったりと忙しい。
幼い頃から見た目も性格も男の子のようだったので、パトリシアちゃんなどと呼ばれた事は無かったのだ。
恥ずかしいらしく、口元を押さえて、またもレナから視線を逸らしている。

ご主人さまは、パトリシアの体調がもう大丈夫か確認しながら、昨日彼女にやられたようにぐいーっと顔を近づけて、まじまじとグリーンの瞳を見つめた。
ビビって彼女が一歩下がると、レナも1.5歩踏み出す。
そこはかとなく、イタズラっ子の表情をしている。

ふと、くるりとパーティの大人組を振り返るレナ。

「今日一日、パトリシアちゃんをお借りしたいんですけど…。いいでしょうか?」

「…はあっ!?」

女の子呼びは定着させるつもりらしいレナさん。
少年娘が引きつった表情で、相変わらずガサツな悲鳴を漏らしている。
大人組はニヤニヤしながら、友達になったばかりの少女2人を楽しそうに見ていた。

「おうっ!
是非、仲良くしてやってくれなー、レナ!
ガハハハハッ!」

「ちょーー可愛いんだけど♪
パトリシアちゃんって。
ぷふふっ……最近は連続でクエスト受けてて休みなかったしねー。
久しぶりの休暇、楽しんでおいでよー!」

「おー。ケガの無いように遊んでこいよー。
夜にはちゃんと家に帰るようにな。二人ともまだ成人したばっかなんだから、門限は守ること!
じゃ、そんだけだから。よい一日をー」

「…ちょ、ちょっと…!?
私は、少しレナと勝負したら、今日も依頼を受けるつもりで…っ」

パトリシアが動揺したように早口で反対の意見を述べるも、もう遅い。
彼女の本日の予定は決まってしまった。

「ありがとうございまーすっ」

レナが、笑顔でパーティメンバーに一礼する。
すぐさまハマルに巨大化の指示を出して、スライム触手でパトリシアをもふもふに縛り付けてしまった。
鞭を片手に持ちながら指示しているため、見た目的にだいぶアブナイシチュエーションになっている。
魔法使いが「ひゅう!」と余計な口笛を吹く。

ご主人さまの黒い瞳がパトリシアを見つめ、キラリと光った。

「…私たちの力でサーベルキャットを討伐したこと、まだ信じられないんですよね…?
パトリシアちゃん。
確かに、上手くキャットを罠に嵌めれたことも大きいですけど、返り討ちにするだけの実力はあったってこと、証明してみせますね!
そしたら、もうお互いにわだかまりも無くなるでしょう?」

「えっ…。確かに、そうだけどさ…」

「ねっ!」

「…いや、絶対レナ怒ってるじゃんッ!?」

「ふふふー」

にーーっこり!
可愛らしく笑うロリ娘の後ろには、何やら黒いオーラが見える気がする。
ちなみに、従魔たちの笑顔はガッツリドス黒い。

ご主人さまは、自分が弱いと言われたことに関しては全く怒っていなかったが、大事な従魔の努力が認められなかった事は許せなかったらしい。

▽パトリシアは 逃げられない!

レナ様に捕まった彼女は顔を引きつらせながらも、なす術(すべ)なく、草原へ羊連行されていった。

「…お母さーん。あれ、なーに?」
「しっ!見ちゃいけません!」

***

その日、またしても草原は荒れた。

[駆け足]スキルを使い爆走する巨大な居眠りヒツジ。(リリーの[幻覚]スキルにより、白いヒツジに見えている)
彼の額に貼りつくスライムの盾は、以前よりもさらに大きく、硬くなっており、獲物を難なく撥(は)ねあげる。
フェアリーは瞳をギラつかせながら周囲を見渡しており、モンスターを一匹たりとも見逃さない。
冷静に、美味しそうな獲物を選別すらしているようだ。

レナは、そんな彼ら全員を従えて、鞭を手にヒツジの背にしがみついている。
乗羊の腕前?…察してあげて欲しい。

目の前で起こっている蹂躙(じゅうりん)劇に、観客として強制連行されてきたパトリシアは硬直していた。
…なにコレすごい。
確かに強いけど…でも、なんか違う!と頭を抱えている。
思ってた”強さ”ではなかったようだ。
従魔それぞれのスキルが複雑に絡んでいて、戦い方の特殊さもあり、レナ達の個々の実力を測りにくくさせている。
まあ、魔物使いは主人と従魔たち全員でワンセットと言えるので、見たままがレナの実力となるだろう。
このような戦法をとる冒険者など、見たことも聞いた事も無い。
Fランクとして強いのか、はたまたその上を行く存在なのか…もう全く分からなかった。

逆らってはいけない相手だな…とは理解したので、パトリシアは蹂躙(じゅうりん)が終わるのを大人しく待つことにした。
時々「うわすげぇ…」とか呟きながら、”自分が戦っていたら”と脳内シュミレーションをしてみて、生唾を飲み込んでいる。

4匹目の魔物をハマルドライブで軽やかに撥(は)ねあげた一行は、実に満足そうな笑顔で、しとめた食材(モンスター)を回収し、覇者のオーラを纏(まと)いながら帰還した。
思わず直立姿勢になり、お出迎えをする少年娘。

「お、お疲れさまっしたー…。
……いや、なんか、ごめんな。すげーんだなぁアンタらって…」

「…えへん!」

『『『『えっへん!!』』』』

主従のどちらも、実力を認められてとても嬉しそう!
彼女らから怒りの気配がなくなったことに気付いた少年娘は、ようやくホッと肩の力を抜く。

そして、レナにだけ少し休憩するよう勧めた。
…羊酔いしたらしく、一人顔が青白かったのである…。
イマイチ、カッコ良く決まらないご主人さまだ。

「私が言うのもアレなんだけどさー。
レナ、ちょっと休みなよ…?顔色悪すぎだから。
ヒツジに乗り慣れて無かったのか?」

「ははは……。
こればかりは、生まれ持っての運動センスのせいなのですよ…。ぅぅ…。
乗り慣れるとかそういう問題ではなくてですねー?
乗りこなすのはきっと生涯ムリ、うぅぅーー……。…っお気になさらず!」

「いや、気にするわ…!休めってばッ」

「……じゃ、少しだけ、お言葉に甘えて。
ハーくん…!」

『はーい、レナ様ー。おおせのままにー!
スキル[快眠]+[周辺効果]ー』

「くぅ」

「早ッ!」

▽レナは 眠って 体力を回復している!
▽従魔は モンスターの 解体作業を始めた。

いつも通りの手順で、モンスターを部位ごとの塊肉へと変えていくスライム達。
処理の終わった生肉をマジックバッグへと運ぶリリー。
ハマルは、バッグ持ち兼主人のおふとん役だ。

目の前でテキパキと行われる作業に、パトリシアはまたも鋭い目を丸くしている。
正直、魔物たちは主人の指示が無ければ、知性ある行動なんて出来ないと思っていたのだ…。

そんな彼女の前で、リリーが蝶の状態から妖精へと変化してみせた。
そして、ローブを纏ってヒト族の姿へ。

「…えええっ!?」

パトリシアは、今日だけで何度悲鳴を上げさせられたのやら。

「……ふぅ。
これでやっと、貴方と、直接お話できるの!
はじめまして。リリーだよー。
…昨日の発言はもう水に流してあげるけどー、リリーたちも、すっごく怒ってたんだからね…!?
もう、感情にまかせて八つ当たりなんかしたら、ダメだよっ!
むぅ。
ご主人さまは、すごい人なんだからー。
それだけは…貴方に、直接言っておきたかったんだ!めっ!」

「ご、ごめんっ…」

いきなり美幼女が現れたことに混乱しているからか、ツンデレ娘は今回はとても素直に謝っている。
リリーは、ふふん!と腰に手を当てて仁王立ちした。
どうやら、ご主人さまのマネらしい。

「ふふっ!あとね…もうひとつ。
あのね。
今…マジックバッグを使ったの、見たでしょう?
それは、誰にも言っちゃダメだよー。内緒なの。
あ、リリー達がヒト族の姿になれるのも、言わないでねー!
…約束、しよ?」

「ああ、うん、そーだね…」

「【妖精契約(フェアリー・コントラクト)】!!」

『『『ひゅーひゅー!』』』

「ちょっ…何だよコレぇぇ…!?
うわ、出れねぇ!」

リリーさんは、本気でパトリシアの発言を縛るつもりのようである。

昼間の草原には、キラキラと輝くドーム状の制約魔法陣が出現していた。
もちろん、誰かに見られていないか周囲は索敵済み。

昨夜の失言でもそうだが、パトリシアはアルコールが入ると気持ちが大きくなり、思った事をそのまま口に出してしまうタイプらしかった。
マジックバッグと魔人族の情報は確実に封じておかなければ、と、リリーはこのような手段をとったのだ。

マジックバッグを今回は使用せず、ヒト化もしなければ良かったのだが、従魔一同はどうしても彼女に一言、苦言を呈(てい)したかったのである!

ご主人さまは自分に関する事では怒らないから。
自分たちが、代わりに相手に怒ってやらなきゃ…!と考えていた。
これも、一種の主従愛なのだろう。
勝手にヒト化したことは良くないが、かわいい従魔たちに素直に謝られたら、ご主人さまはきっとすぐ許してしまうに違いない。

リリー達、と幼女が発言していた通り、パトリシアはこの後、ヒト化したクレハ、イズミ、ハマル(器用に顔のみヒト化してみせた)にも順番に叱られ続けた。
比較的図太い心がもう折れそうになった頃、ようやくご主人さまが目覚める。

とたんに甘えた声を出してレナにすり寄る従魔たち。
そんな様子を見て冷や汗をかくパトリシアの手首には、リリー製の可愛らしい百合印が浮かび上がっていた。
彼女はそれを、どこか焦(こ)がれるような瞳で見つめている。

主人の体力も十分に回復したし、食材もたくさん確保できた。
今回の草原蹂躙(じゅうりん)によって、レナたち全員がレベルアップして、新しいスキルや魔法も覚えている。サーベルキャット討伐の経験値の持ち越しもあったのだろう。
ということは…?
あとは、楽しい夕食のお時間である!

今日は全員で、パトリシアの家にお邪魔することにした。

▽パトリシアとの 絆を 深めよう!
▽Next!ステータスを確認しよう!

 

 

 

 

 

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