307:ルーカの視たもの3

 

──意外に思って、ルーカは澄んだ空気をおおきく吸った。
ガララージュレ王城のすぐ近くだというのに、濁った空気ではないのだ。

思わず隣を見る。
ハマルが見返してくる。

「殻の中なんだからさー、ルーカの心が反映されてるでしょー? いくら悪夢でも、最悪の状態なわけないじゃんー」
「……ありがとう」
「辛ければいいってもんでもないでしょー。ねぇ、冷静に記憶の分析ができそー?」
「うん」

ほっと、ルーカが息を吐いた。
こんなに落ち着いた精神状態で故郷を訪れられる日がくるなんて、想像もしていなかった。
真実の湖でただそのものを視た時よりも、ずっと観察がしやすい。門のさびれた金具も、扉にある蛇の装飾も、情報が鮮明に頭に入ってきた。

「君にいてもらえてよかった」
「でっしょー。悪夢がまた暴れるようならボクが抑えててあげるからさー、協力プレイ。目的の現状解析、よろしくー」

ルーカは頷くと、城の門をくぐって庭へ。
じろじろと眺め回す。

城壁は、薄茶色のレンガが重ねられていて魔力を溶かした漆喰で固められている。他国に比べても門の高さがあり、入り口の扉は狭くなっているのは攻撃されることを前提としているためだ。
ガララージュレ王政には代々『良からぬことをしている』自覚があったのだ。けれど誰も止めなかった。ルーカティアスも。

足元の土はからりと乾いている。もともと雨が少なく痩せた土地であり、技術で生活をするしかなかったのがガララージュレ王国だ。隣国のアネース王国がゆたかな恵みで繁栄する横で、ガララージュレ王国は細々と魔法技術を研究して、周辺の水脈を借りながら生活していた。
なぜそんなところで建国を……といえば、地中の魔力が特殊な土地だったからである。
はるか昔に、それを研究するために魔眼の持ち主が訪れてやがて王国となったのだ。そして貧しさに喘ぎ特殊な魔力を浴びた結果、おかしくなっていった。

(助けを借りたらよかったのにね)
と、今のルーカならば思える。

しゃがんで、痩せた土地を手で撫でた。

(なぜ意固地になっていたのかといえば、助けられることによって何が得られるのかわからなかったからであり、奪われることはきっと良く知っていた人物なのだろう。自分たちならば助けた代償に奪う、そのようなものが元祖の紫眼の王だった。ひどく臆病で用心深く、敵しか知らないヒト族だった……か)

「……ルーカなにか視てるのー?」
「んー。痩せた土地に咲く花。白のエーディアルワイス、花弁は五、蕾は一見砂つぶのように目立たなくて足首くらいまでの高さしか成長しないけれど、根がタンポポよりも深く伸びる。そして地中の水分を集めるんだ」
「そうなんだ、かしこい花だねー」
「その代わり、周りの植物を壊滅させる」
「う、うーん」
「どれが生き残るか争奪戦なんだよね。水が少ないからさ、この辺の植物はみんなそうだよ。その代わり蕾を集めて絞ったら土地の水分を凝縮したものが得られる。栄養価の高い花水を国民はふつうの水に混ぜて飲むものだったよ。……そのままのガララージュレ王国の土地なら駄目だと思ってたんだけど、この夢の中のは澄んでる」
「ネガティブにならないー?」
「それはなんとも」
「んじゃあコレも集めていこー。レナ様の夢から取り出したポジティブ水とー、トントンになるといいよねー」

ルーカは少し笑い、剣先で花を地面から切断。
獣人パワーでハマルが蕾を絞った。
ポタリポタリと落ちた水を器に入れて、ハマルはわたぐも尻尾にしまい込む。

さらに先に進む。

ヒトの気配はない。
その代わり影のような『人型』がそこかしこにいる。
シンプルなシルエットなので貴族かメイドかもわからない。真っ黒なものも、グレーのものもいるけれど、きれいな白はいない。ざわざわと口のあたりが靄を放つと、黒い本音が溢れだした。

「魔眼ではこのように視えてるんだよ」
「ふえぇーー。魂の色ってことだねー? なるほどー。ルーカが明確に視えなくて、っていうのがよくわかったかもー。視たくないもんー」

ハマルはうんざりと耳を塞いでざわざわする雑音を防ごうとし、ルーカはさっさとまとわりついてきた靄を手で払った。

「これを視るのが僕の仕事だったよ」
「ようこそ赤の聖地へ」
「帰りたい」

▽だったら早く終わらせよー!

城内を迷いなくずんずんと進むルーカ。ハマルの手を引いていて、たまに転びそうになったりするとハマルが「おっと」と助けてくれた。ルーカがハマルに助けられているが、協力プレイなので。

ガララージュレ城の内部は足場が悪いわけではなく、青地に金色の刺繍がされた絨毯がいたるところに敷かれていてハイヒールでも歩きやすいだろう。
けれど黒い人影にぶつかりたくはないので避けながら進むと自然にふらふらとした歩みになるし、人影の悪意の言葉が霧となりやたらと視界が悪い。

この城がこんなにも歩きやすいなんて! と言ってのけたルーカは一体どんな暮らしをしていたのかと、闇が深いので割愛割愛。

さてルーカが足を止めた。

「みつけた。問題の大きな一角である、破戒僧……」
「!」

ハマルはキラナビを起動。
ルーカが眺める先を動画で撮る。
ルーカは目を細めて、自分が視るべきものに集中している。

「モレック・ブラッドフォード。中年男性、若返りの薬を使用している。その他、さまざまな薬漬け。生身の体。ガララージュレ王国内のヒト族の職業変更に大きく貢献、闇職の者を増やしている」

眺めていたシルエットがだんだんと明確になる。
白髪混じりの紫の長髪に、黄色の目。眼帯をしている。ガララージュレ王国の聖職者の服を着ていて、黒杉製の短杖を携えている。
小脇に抱えた紙をルーカがじいっと眺めると、文字が浮かび上がってきた。

「名簿。……他国の商人がここにきては消息が途絶えた、だっけ? 同意なく闇職にしてしまって、外に出られなくしたようだ」
「それって逃げられないの?」
「ギルドカードが黒く染まっていることで他国に逮捕される。その後事情を話すこともできるだろうけど、そこまで辿り着くことがまず難しいよ。ヒト族は職業変更でレベル1に戻ってしまうから国外脱出を試みるにはステータスが貧弱すぎる。それよりはガララージュレ王国で保護された方が命の保証もあるだろう。おとなしく助けを待っているはずだ」
「知ってしまうって、こーいう時につらいんだね」
「ね」

それでもまずは知ることを選んだから、ルーカは進む。
モレックのローブを可視化して、内ポケットに入っている魔道具をすべて視た。
どのような戦術をとる相手なのか知るためだ。胃薬が入っていたので苦労はしているらしいが、ハゲてしまえと思う。

階段を上がる。

「! イヴァン・デッド……」
「あいつか!……えー、いやぁ、ええぇ? 顔が違うくないー?」
「死体だよ」
「説明聞いときまーす」

イヴァンは廊下の手すりに腰掛けて、なんらかの資料を読んでいるところのようだ。
人影が鮮明になるとすらりと長い手足にまるで上流階級のような気品のある顔。蜜のような金髪に緑色の目をした青年であった。

「イヴァン・デッド……魂がイヴァン・コルダニヤのもの、身体は『デッド』のもの。……死体に魂を憑依させている。ちょっと、ナイトメアが混ざってる。
能力のベースはデッドであり、しかしイヴァンを引き継いでいるものがある。【☆7】[神童]ギフトが再スタート……このイヴァン・デッドは0歳から急成長をしているという世界判定をされている。体が代わったことで[運命の宣告(センテンスト)]を受け継いでいない。以前にモスラがしたようにマゾヒストを利用するのが難しいってこと」
「……」
「……」
「……それ以上に強くなってボッコボコにしてやんよぉー」
「そうだね。僕たちも強くなっておこう。あとは、イヴァン・デッドは時間がたつほど成長するんだから早めに対処したほうがいい……って後ろ盾と相談しようか」
「今、レナ様から興味が逸れてるらしいのが救いだねー」
「ねー」

ルーカがパチパチと瞬きする。

「[|悪運持ち(バッドラック)]は引き継がれてるな」
「悪運だけにー、離れなかった的なー?」
「そう。……頭を打って記憶喪失とかにならないかなイヴァン……」
「ルーカはなったことあるー?」
「いっそ記憶喪失になればラクかなと思ってたからそれよりも現状継続の方が昔はつらかったのかもしれない」
「余計なことを聞いちゃった……」
「ドンマイ」

まずは知る。
イヴァンの現状と、レナへの執着が薄いこと。
背後にあるのは研究室であり、異世界への研究が引き続き行われているそうだ。

ルーカとハマルは、レナパーティを守りたいという気持ちを新たにした。

階段を上がる。
大広間にて、玉座に座る人影がある。

すでに姿は現れていた。これだけは視ておかなくてはとルーカは思ったのだ。

「シェラトニカ・ダーニェ・ライアスハート」

振り向くはずはないとわかっていたから、ようやく呼べた。
その顔には包帯がぐるぐると巻かれている。顔の三分の一は露出していて、彫像のような美しい顔がまっすぐに前を向いていた。刮目した瞳は青みがかった紫。「国内を視張っているところらしい」とルーカが言った。

壇上にいる現女王を見上げて呟きそうになったハマルは口をつぐんだ。

(化粧を外したらそのまんま、ベースがルーカに似てるような……ヒト族ってこんなに血族で似るものー?)

獣のように毛皮の模様やツノの形状が違うわけではないからありえるのかなぁ? とハマルは思考を終えた。

それよりもルーカの見解を撮るのが大事だ。

「シェラトニカ・ガララージュレ王国女王。身体は死体。アンデッド種族レヴィタントとして復活を遂げて、部下のアンデッドを制御しつつ、上官はイヴァン・デッドである。目的は自分の地位の維持と、美しさを保つこと」

ルーカはふうっと息を吐いた。

さまざまなこみあげてくるものはあるが、重要人物のシェラトニカとイヴァンのどちらもの目的が内側に向いているのはひとまずの救いであると考えてよさそうだ。

玉座の奥にいる華奢な人影をそうっと視る。

「スイ、こんなところにいた」
「顔色は悪くない、よねぇ……?」
「隣にいるのがアンデッドだから比べるとね」
「ナチュラルなブラックジョークやめてくださーい」
「失礼。でも扱いは悪くなさそう。切羽詰まっていたならばオズワルドの手の刻印はもっと濃くなっていただろうから……」
「なるほどー。商人さんたちと一緒に助けられたらいいねー」

▽大規模なことは大人に相談して。

▽レナパーティはアンデッド対策を始めること。
▽やることがふえた。

▽異世界魔力を帯びた水を持ち帰った。

▽ルーカとハマルが目覚……

▽隣の、ギルティアの殻が震えている!
▽対応してたら 夜になった。

▽レナと思わぬ再会になった。

 

 

 

 

 

 

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