303:帰ってきたよ!

 

レナたちが帰還したのは夜。
帰路はゆったりとしたスピードで(当社比)、なによりも安全に気をつけて空路を進んだ。

空賊退治の証と凍土の植物を、冒険者ギルドに渡したかったが、もう閉まっている時間帯なので諦めた。
……という名目で先延ばしにした。

氷の聖霊杯まで手に入れてしまったので、寄り道はしないほうがいいと判断した。

赤の聖地に帰ってくると、まずは門のところで超速マッチョマンとスウィーツ・モムたちが相撲をしていた。
肩の力が抜けたレナが、ぷくくっ、と笑ったところで、影の魔物たちはお辞儀をした。

ルージュが現れて、優雅な淑女のカーテシーを披露する。半透明だ。レナはそっと手を伸ばすと、ルージュはその手を掴むフリをしてふわふわとすり抜けさせて見せた。
それから、『うふふ』としっかり手を繋ぐ。半透明をやめたのだ。レナの手のひらを自分の頬に持っていき、にこりとする。

『いかがでしょう?』
「うん、コミカル・ガード・ゴージャス! って感じの流れだった。ただいまぁ」
『おかえりなさいませ。気に入っていただけたようで嬉しいですわ! それに守りは堅いですわ』
「ルージュが鍛えていた影の魔物と、ルージュ自身も鞭の腕がすばらしいもんね」
『ありがとうございます』
「不審者はこなかった?」
『はい』

褒められたルージュは大輪の花のような微笑みを浮かべた。

二人ともぼかしているが『リゾートのお出迎えとしていかが?』という意味が込められた会話であった。半透明のルージュがお出迎えをするつもりらしいのだ。攻撃もすり抜けますから大丈夫、と。

忙しい今、そのことまで議論している時ではないとして、ルージュはふんわりと収めたし、レナにも通じた。
このつーかーの距離感が保てるのであれば、たくさんの予定を一緒にこなしていけるだろう。

レナは玄関まで歩きながら、ルージュに現状を聞く。

「誰が戻ってきてる?」
『リリーさんは戻っています。宝石を水に変える試みはまだ成功しませんでしたが、明日また宝飾店にて練習すると。早くに寝ていますわ』
「うんうん、えらいね。魔力をたくさん使っただろうから、回復しないとって判断ができたんだね。他の子たちからはお泊まりの連絡があった?」
『ええ。チョココさんはスウィーツパラダイスでクイーンと就寝。ミディさんとレグルスさん、ドリューさんは浜辺でテントを張るそうです。オズワルドさんは魔王国王宮で戦闘に明け暮れていると』
「了解…………あれ、ルーカさんとシュシュは?」
『本日帰宅の予定ですが、まだ連絡がありませんね……』
「私たちも帰ってきたことだし、どうする予定か聞いておこうかな?」
<真実の湖で集中しているようで御座います>
「あー……じゃあ連絡取っちゃうのはだめかぁ」
<シュシュさんに尋ねたところ『いざとなったら私がルーカを寝かしつけるから大丈夫だよ! 押忍!』と……>
「頼もしくなったね」

レナがふんわりと微笑む。
いざとなったらラリアットで寝かしつけてくれるだろう。テントも異空間から取り出せる。

<シュシュさんは暇つぶしに、天使族のディスさんとチャットを楽しんでいるみたいで御座います。せっかくなので通信対戦ゲームアプリも入れておきましたから>
「……ディスさん、塔にいるんだよね? それって引き篭もりに拍車がかからない?」
<いいのでは?>
「まあいいか」

よそのことに構っているほど暇ではないのだ。

レナが玄関扉を開けた。

花吹雪が舞った。

「「「おかえりなさい」」」

メイド服のマイラ、子供用執事服のジレとアグリスタが、レナたちにタオルを差し出してくれた。

レナは感極まって膝をつくと、慌てて駆け寄ってきた三人みんなを腕の中に収めた。

「たっっっっだいま……!!」

泣いた。

「あのねキラ、これは最高の癒しだね。花吹雪もよかったよ。三人の魅力を底上げしてくれた」
「「「そこ!?」」」

まさか自分たち+花吹雪なんて見方をされるとは思ってもみなかった三人は、困惑しながら後ろを振り返った。
キラが鏡面をキラリと光っている。

(((あ、撮影された)))

恥ずかしさはもはや無くなっていた。
レナが留守の間に観ていた「レナの冒険ヒストリー(ムービー)」に比べたら自分たちの変顔の記録なんて、なんてことないんだって思えた。

目の前で泣いているレナのことを、なんとも言えない目で眺めてしまう三人。

赤の女王様レナを畏怖してから、未熟だったころを観せられると、この主人への評価が「尊敬する主人・守ってあげたい可愛い人」の両立になる。
だいぶレナへの尊敬が確立されてきたので、あれらを観せても大丈夫、とキラは判断したのであろう。

なんとなくそのことに気づいているけど戦略的なキラを責めるつもりはない。
ポジティブな感情が自然に生まれたことが嬉しかった。
三人はそっと、レナを抱きしめ返した。

▽主人の涙がまた大量採取されました。

「ギルティアの水は見つかったんだねー?」
「うん。これが、超速くいしんぼうマッチョマンの採取品」
「きれーなマッチョだねー」
「いい水でしょ?……ふはっ」

リビングで、レナとハマルが噴き出した。
単語のすれ違いが面白いことになっていたので。

「ハーくんわざとでしょ?」
「だってー。ボク、こーいう状況整理みたいなの向いてないんだもーん。モスラたちがついてたなら記録も問題なくできてるって思うしー。なーにも心配していなかったですー。ひたすらに早く会いたかっただけ〜」
「羊姿で膝にくる?」
「うわーいっ」

ハマルが[体型変化]をして、小さな羊になると、ぽふんっとレナの膝に寝転んだ。
レナは軽くシャワーを浴びて着替えていて、バスローブ姿だ。
ふわふわの羊毛が膝にも触れてとても気持ちいい。

「キサは温泉に浸かりながら、ラミアの里の温泉水の打ち合わせをしてるね」
『凍土の水とー、温泉水とー、あとねボクは夢の中から水を取り出してみましたー』
「……そ、それは純粋な水の範疇になるのかな!?」
『レナ様の故郷の水道水?』
「やばい。えっ水もいけたの?」
『ふふーん。イケるようになったんです〜。これまでは無理だったけど精進したのです〜。がんばったでしょ?』
「すごいねぇ。えらいねぇ。すてきだねぇ! よしよし〜」
『んふふふふ』
「どうやって訓練したの?」
『夢と現実を何回も往復したのー。遠い場所の夢だとー、経験値もいっぱい溜まるみたい〜?』
「すごいねぇ!」

傍目にはただまどろんでいるだけに見えたハマルが、まさかそんな努力をしていたなんて。
ジレたちは先輩を尊敬の目で見た。
そして、結局ムービーには登場してこなかった「レナの故郷」に関心を抱く。書くことまではしないけれど。

ハマルの話した内容は、壁際に控えているロベルトには分からなかった。
スクーは瞬かせた目が痛くなり、悶絶した。

「その水、ギルティアに与えてもいいものか……ルーカさんに相談しよう」
「私が成分を視ることもできますよ?」
「スクーさん、もちろんです。けれど魔眼特化のルーカさんが視て、クドライヤさんがオッケーを出した方が、ギルティアがこれから私たちに心を委ねやすくなるのかなって」
「なるほど。サディス宰相にも、全部助けてほしいってわけじゃないって言ってましたもんね〜」

口を挟んでしまいすみませんでした! とスクーがさっと頭を下げる。
そこまでしなくても、とレナがちょっとあわてた。

「ギルティアの……」

レナが言いかけた時だった。

ドオオオオオオオン!!

なにかが破壊されるような大きな音がする。
レナは思わず立ち上がった。
けれど冷静なキラの声で、その場にとどまる。

<ギルティアさんの夜泣きですね>
「夜泣きっ!? 昨日までと様子が違いすぎない!? なにか変化があったの……?」
<悪夢を見るそうです>
「悪夢……」
『ボク、いってきまーす。悪夢の靄(モヤ)を全部喰べちゃったらー、ギルティアおちつくからー』
「わかった……。何かできることは?」
『信じていてくださーい』

ハマルはレナのお腹に頭をこすりつけてへにゃっと笑うと、キラが即席で作ったギルティアの部屋へのトンネルをくぐって『オラオラー』と向かう。

レナはその背を眺めながら(先に、ギルティアのことを聞いておけばよかったな……)としょんぼりした。

▽はい、反省終わり。
▽そして今から取り返しましょう。

キラがふわりと光を纏って人型になり、レナの隣に座った。
なぐさめの意思を察して、小さく微笑みを浮かべた。

「ギルティア、昼間にも暴れたの……?」
「はい。ツタを振り回して部屋を半壊させるので、いったん家具は撤去して、土の床とやわらかなマシュマロ壁に変えました。それでも壊れた場合は私が[ダンジョンメイキング]で修復しております」
「きっと、自分と戦っているんだね。……私だったら、癇癪を起こしてたら叱ってほしいと思う。でもギルティアはギルティアで、きっと違うから……」

レナは「よし」と手を叩いた。

「信じることにする。まずはハーくんをね」
「そうですね。ハマルさんも嬉しいと思いますよ! ギルティアさんを信じるのはまだ先でいいと思います」

ジレたちは、ほっ、とした。
あの状態のギルティアを丸ごと信じるとレナに言われたら、それはちょっと……と思ったから。

安心したのはロベルトやスクーも同じ。
レナの従魔想いは時々暴走するので。
これでも昔よりはかなり子離れしたのだ、とそっと伝えられたスクーは(えらーい!)と涙ぐみそうになった。
子離れのつらさも、養うことの苦労もよく知っている。
全体が成長日記のようなレナパーティにはできれば幸せであってほしいと思うのは、スクーの本心だ。

集まった水を、キラが手ずから異空間にしまう。
ウィンドウの「貴重品・水」スペースにアイコンが増えたのをレナが確認した。

「じゃあ一件落着だね。あとこれだけやっておきますか」
「「ぱふぱふ〜!」」

クーイズが明るく告げたので、レナはにっこりとした。
▽やることが同じなら、明るいほうがいいもんね!

▽イズミが、バッ! とバスローブをはだけた。

「いやぁん。氷の聖霊杯よ〜っ!」
「なにその掛け声!?」
「雰囲気」

イズミのお腹がくぼむと、内側は青スライムになっており、砂時計のようなアイテムがにゅるりと出てきた。

「「「うわぁ……」」」
「三人ともよく覚えときなよ〜。スライムって使い勝手いいんだぜ」
「先輩は使い方が柔軟すぎます」

ジレが真顔で言った。クレハに頭を撫でられついでに毒を味見されながらである。本当に隙あらば驚かせにくる先輩ばかりだ。

「レナによるスライムの使い方の柔軟性?」
「……肯定しかできない!」
「いろいろやってたもんねぇ。スライムオーブン、スライム鍋、スライムロープ……」
「そんで白炎聖霊杯(カンテラ)をクレハボディに入れてたしね〜」

あの時は、全員がほぼずっと一緒に行動していたので、全力でカルメンに対応できた。

「今は人数が少ないから、この氷の聖霊杯を起こすようなアクションはしないほうがいいと思う。暴走があった時に対応がきついからね〜。あとギルティアの対応を優先したい」

カルメンの声が、レナの耳を撫でる。

『凍土の大地に埋まっていたものが、我々の聖霊杯であったら、優先をしたか?』
「同時に行なっていたと思うよ?」
『そうか!』

カルメンがニヤリと口角を上げる。
レナが(そこ気にするなんて可愛いとこあるじゃん〜)と思っていたら。

『はははは凍土で発掘された聖霊杯よ! お前は白炎聖霊杯(カンテラ)よりも位が下だ。確かにこの世界に刻まれた情報である。よーーく理解するように!』

ビシリ! と凍る砂時計に指を突きつけながら言い放った。
よく通る声はこの館を揺らがしたほどだ。
つまり太古の響きを使ってまで、宣言した。

「ちょっとカルメン!?」
『この場の支持を誰が集めているのか? これは聖霊にとっては重要なことなのだ。今後現れるであろうこやつに、横入りされるのは屈辱だからな』
「……見捨てないで〜って顔に書いてあるよ? 見捨てません」

レナはわざわざしっかりと言葉にした。
キラに目配せすると、苦笑しながらウィンドウを操作して、世界の情報をより適切に整えている。
ちょうど、ロベルトたちからは見えない角度で。

ね? とレナがカルメンに言い聞かせる。

(半身が見つからなかったカルメン。白炎聖霊杯(カンテラ)の力は今でも強力なのに、もしかしたら氷の聖霊杯に負けるって思ったの? 半身だから? 氷の聖霊杯もおそろしい力を持っているみたいだね。それからカルメンが半身を取り戻したらいったいどれほどの……!)

▽よし、強くなろう。
▽反省おわり!!!!!!
▽やるっきゃない!!!!

レナの首に腕を回して顔をすりつけたまま離れないカルメンをそのままほっといて、レナはキッチンに向かった。

氷の聖霊杯をおなかに戻したイズミがやってきて、ひょっこりとレナの手元を覗き込む。

「なに作るの?」
「ホットミルクだよ。ミルクを温めてハチミツいれるの。ハーくんが戻ってきた時に飲んでもらおうと思って。私にできるのはこのくらいだから」
「植物(ギルティア)はミルク飲まないもんね〜」
「そうそう。……私、昔から、夜のホットミルクって好きなんだよねぇ〜」

レナが鍋にミルクをそそぐ。
コトコトと弱火で煮て、ハチミツをちょっとだけ入れた。

その作業を、イズミはただ静かに横で眺めていた。
レナの横顔が、なんだか懐かしさに浸っているようだったからだ。

「ひとり一杯ずつで足りるかな?」
「レナの優しさでおなかいっぱいになるよぅ〜♪」
「なにキャラ?」

ふふっとレナが笑う。
たくさんのカップを、手伝いに来てくれたマイラやモスラと一緒に運んだ。
ちょうど、ハマルも帰ってくる。幸運タイミング!

リビングでホッと一息。

氷の聖霊杯の中身が、しゅわりとほんのわずかに溶けて、また沈黙した。

▽Next! おでかけ従魔たちの様子は?

▽ルーカが視るもの

 

 

 

 

 

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