302:凍土の氷4

▽レナたちの採取がひと段落ついた。

「さて、そろそろ帰るとしますか。……あーー」
『白熱しているだろう?!』

カルメンが楽しげに手を叩く。

はるか空の上に白炎の花火が現れて、クレハの髪の毛先がパチパチと音を立てると|緋々色黄金(ヒヒイロカネ)をわずかに散らした。影響を受けてしまったようだ。
ロベルトとノアとスクーが悲鳴をあげて拾う。

「暴れすぎだなぁ、と思ってたのに、もっと暴れさせちゃってどうするのカルメン〜!」
『楽しかったから』
「……悲しかったから、の間違いじゃないの? ほらおいでよ」

レナが、少し遠くの宙に浮かんでいたカルメンを、手招きする。
そのような反応をされるとは意外だったカルメンは、ふむ? と小首をかしげてから、いつものようにレナの首にふわっとまとわりついた。

『悲しそうか?』
「私にはそう見えたな。この凍土での探索に期待していたぶん、思っていたのと違って残念だなぁって気持ちと、悲しさと、憤りがあの花火には詰まってたんじゃない?」

花火はカルメンの制御を外れて少し暴走していたようにみえる。
燃えきれなかった白炎のかけらが、凍土の隅に落ちて、じゅうっと雪の大地を溶かしたのだ。

カルメンはお調子者だけれど、このような制御不足は彼女のプライドに関わるらしいので、普段は絶対にこうはならない。
レナは口をへの字にしたカルメンを落ち着かせるように無言で耳を撫で、髪を撫で、静かに隣に寄り添った。

「片割れさんじゃなくて残念だったよね。でも、きっと会えるように、私たちと幸運ががんばるからね。カルメン」
『よろしく頼む……』

(他にもおかしな現象が起こっている地域はあるっていうし)……とレナは遠い目になる。
その全部をとは言わないがある程度危険なお出かけをすることになるのだろう。

赤の聖地に引きこもってばかりではラナシュの幸運と悪運を一箇所に溜めてしまって良くないだろうから、ちょうど良いさ、とポジティブに考えることにした。

▽何事も運命なのだ。
▽はい、皆さんご一緒に。
▽運命! 運命!

「キラが妙なナレーションしてる〜」
<おや、聞こえてしまいましたか? この氷のバトルを含めて、赤の教典の良い素材になりそうだなぁと、ゲフンゲフン>
「それもー、どれくらいの大長編……?」
<モスラさんが執筆した印税、最近続々と振り込まれてきていますね>
「初めて聞いたんだけど!?」
「あ、一冊ずつください」
「スクーさん!?」

スクーの肩を、ポン、とモスラが叩いた。いい笑顔だ。

「未発表のものまで含めてこの金額になります」
「どっひゃー」

思わぬ出費をすることになったスクーは、大地に倒れ付した。
ロベルトの「自分で言いだしたことだから出費は覚悟するように」という言葉は、(レナパーティのこと詳細に調べてまーすって上部に報告してボーナスもらおう)という下心を完全に理解している。
実際にボーナスは支払われるはずなので、しばらく節約をしてなんとかするしかない。

「あっ、横道にそれちゃったけど……!」
「超速くいしんぼうマッチョマンが満腹になったぞ!」

ロベルトの発言に、やはり雪豹たちは首をかしげた。

もともと10メートル級だったマッチョマンは、氷柱の怪物と戦うことで、その水すらも吸収して40メートル級にまで成長している。
パンチが氷のボディにくいこむたびに、ぐいぐいと飲み干しているのだ。氷の怪物はまた地中から澄んだ水を吸い上げて、マッチョマンが吸い、その繰り返し。大きさがグンと変わるので押したり押されたり、見応えがある対決である。

そのマッチョマンが動きを止めた。吸い込んだ水を凝縮し、ひとつの種になる品種なのだ。

まず、首から上の花の部分がもげた。
水色の花弁がしゅるりと包むようにしぼむと、内部に水球が生まれていると、スクーが視る。
ホオズキのような形である。
直径3メートルほどになったそれが落下していく先には、しおしおとしぼんで根の残骸のようになったマッチョマンのホワイトボディーがある。
うまくそこに落ちてくれたらクッションのようになるのだが。

氷柱の怪物がそれを許さないようだ。
氷の触手を差し伸べてくる。

「モスラ、切り裂いて!」
「承知いたしました」

瞬時に蝶々になったモスラは、一陣の風のように特攻し、[風斬翅]で氷の触手を切り落とした。

ぽとん、とホオズキの種が、クッションに落ちる。

「……あ、やばいです! あの氷の怪物、めっちゃ怒ってます! 魂が闇堕ち寸前!」
「スクーさん了解です、狩り時ですね」
「狩るの!?」
「そうします」
「穏やかな採取は!?」
「なるようにしかならないんですよ!!!!」

ケースバイケース。
レナパーティは不測の事態に強かった。
ここにいたのが精鋭の護衛もとい元諜報部で本当によかった、驚きつつも瞬時に判断を切り替えられる。
(隠れないんだ)
ノアはブルリと震えながら「攻撃は最大の防御ぉ!!」とか言い放っているレナの背中を見つめた。

レナは雪豹姿のロベルトにまたがると、さっそうと駆け出した。
そのあとに、仲間の雪豹に乗った従魔たちが続く。

キサが新たに作った氷のすべり台を、ロベルトがおもいっきり走る。

▽レナの 高笑い!
▽カッコイイーーーー!
※悲鳴をあげそうなので女王様の称号を使ってごまかした。

ロベルトが思いっきりジャンプした。

「さあ、あの氷の怪物の根元のところに滑り込んでおしまいなさい!」

ロベルトは加速することで返事とした。

レナは内ももに力を入れて、異世界人の脚力で、雪豹にしがみつく。
片手を鞭に添えて、もう片手もロベルトの首から離した。
離した方の手を、ぐっと拳の形にすると、下から突き上げるように掲げた!

アッパーのような仕草である。

「称号[退魔師]セット。|魂の昇華(ウルトラソウル)ッ!」

ハアアアアアア!!

気合の叫びが上がった。

光の拳が下から現れて、氷の怪物を空に打ち上げた!

もう地中から水を吸い上げる事はできない。

その状態でカルメンの白炎に燃やし尽くされた。

あたり一帯に白い水蒸気が満ちる。

モスラがそれをはばたきで空に巻き上げた時、雲が割れて、太陽が覗いた。

──奇跡が起こったかの如き光景である。

これを人力で行うものがいるかよ……とスクーが顔を引きつらせてレナを観察する。

ひとつ、光るものが空から落ちてくる。

レナがそれをぱしんと受け取った。
まるでレナの元にあるためのように一直線に落ちてきた。
はい、幸運。

「これ、さっきカルメンが投げたやつだよね? 片割れさんではなかったけど、結局何だったのか、教えてくれるかな〜……?」
『大体の予想はついているであろう。氷の聖霊の器である』

レナの下でロベルトがうなった。
やばいものだとは思っていたけれど。
自分たちは白炎聖霊対策本部だったからなんてイイワケは通用しそうにない。このレナとカルメンをさしおいて、誰が氷の聖霊を見張れるというのか。護衛するべき対象が増えることは確実である。

「ロベルトさん。あとで報告だけすることにしてこの氷の聖霊杯、置いてっちゃダメですか……?」

ロベルトが人型に戻った。
レナの前に跪く。

「ここに置いていって凍土がめちゃくちゃになると俺も心が痛むんです。私情ではありますがこのまま頭を下げることも辞さない……」
「いいですしなくていいです! ちょっと聞いてみただけですから! スクーさーん!」
「私っ!?」
「はい。この氷の聖霊杯、どんな状況ですか?」
「視るのが怖すぎる……。えっと、気絶状態です。あと瀕死です。魂の名残がかろうじてあるくらいで、とても弱いですね……」
「…………持って帰らなきゃいけないならちょうどいいくらいだね!」
「やりすぎですって!」
「私、モンスターテイムのために、魔物をギリギリまで弱らせたりしたから。リリーちゃんもハーくんも。動植物を狩るし。聖霊だからって特別扱いしません」
「な、なるほど……。いや待て常識がおかし、あう……」

▽スクーは 混乱している。
▽おかし、と言ったのでノアに飴をもらった。

「もともとこの土地に影響を及ぼしていなかった聖霊ですから、暴れてさえいなかったら問題がないでしょう?」
「狩る気満々だったんじゃないですか!?」
「カルメンがしたことの後始末ですから、それくらいは……雪豹さんたち困らせちゃいますしね」
「聖霊よりも雪豹へのフォローが手厚い……」
「仲良くなった人を優先するって決めているんです」
「よろしくお願いしますマイフレンド」

スクーがレナに握手の手を差し出した。
モスラがにこやかに掴んだ。こわすぎる。

レナは凍土を眺めながら言う。

「必要であれば縁ができると思うので」
「……縁、できちゃいましたねー。さっきの聖霊杯キャッチ、超幸運だったと思います。すげーです」
「必要なんでしょうね」

レナは氷の聖霊杯を撫でた。
さて、どのような聖霊が現れるのか愉しみなところだ。
面倒ごとを増やしたという自覚はある。けれど遅かれ早かれ、この氷の聖霊杯とは関わることになっただろう。

運命(ベストタイミング)。

氷の聖霊杯は、砂時計のような形をしている。
いぶし銀の台座に、水晶をくり抜いて作られた中が空の器、そして氷の粒が入っている。

はるか昔の水分を、マッチョマンはバトルの時に吸収しているかもしれない。
ギルティアのためになるね!

もっと詳細な情報は、ルーカに尋ねたら分かるだろう。
そのルーカの力を映した結界魔道具で、氷の聖霊杯を包んだ。
さらにイズミの体内にぷよんと収めておく。

今は人型なので、おなかがぽっこりしている感じだ。

「白炎聖霊杯も沈めてさー」
「我らが合体してクーイズになってさー」
「「超巨乳ごっこしようぜ!」」

「やめようね!!」

レナさんの声はけっこう切実だと思いました。とスクーは報告書に書いた。

「なんだかんだ全部終わってよかったねぇ」

水採取、植物採取、聖霊調査。

レナがほっと息を吐く。
半日で終わらせるプログラムではない。

割れた氷を[氷の息吹]でうまくまとめて、凍り付いていた泉はクレハの炎魔法で水にする。
ロベルトが昔懐かしく思う「凍土」の光景に戻った。

「感謝します。何か個人的にお礼をできることは?」
「うーん、これからもよろしくお願いします?」

欲のない人だ、とロベルトは口にした。
スクーもその通りだと思い、自然に頷いた。

▽レナたちが 帰還した。

[スクーの報告書]

魔物使いとしてではなく、個人としての藤堂レナの考察。

レベル相応の身体能力を持つ。(ややおっちょこちょいなのは本人の性格のため)
異世界人の称号をつけることで、尋常ならざる身体強化を得られている。精神も強くなるようだ。

この特徴は、ガララージュレ王国で現在研究されている「異世界」および「異世界人」の情報と酷似。
藤堂レナの最初の目撃情報はガララージュレ王国からである。

関係性を調査するべきと報告いたします。

 

 

 

 

 

 

 

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