301:凍土の氷3

 

雪豹たちが暮らしている山の隣にある分厚い氷は、もとは真冬でも凍らない泉であったのだという。
澄んだ水は雪豹たちの喉をいつだって潤してくれていたのだ。

「ここにしよう」

クレハが氷に人差し指を立てると、爪が赤から白に揺らめきながら色づき、じゅうっと煙が上がって、指先から垂直に直径3センチほどの穴が開いていく。

指先をスライム状にして、ドンドンと穴を縦に伸ばしていく。マグマの落下さながらである。

クレハの身長はやがて半分ほどのサイズになってしまい、髪が肩につくくらいまで短くなると、旅をし始めた頃の幼児姿そっくりになったので、レナが隣でニコニコとしてしまった。

振り返った時の笑顔もウルトラ可愛いね!!

「うん、深くまで掘れたよ〜! この先、目標にしてた澄んだ水があるんだよねっ」
「おつかれさまクレハ。この穴、しばらく塞がらないかな? 種、下まで届いてくれるかなー」
「「レナの運ならいけるいける〜!」」
「あ、確かに。すごい説得力がある。最近実力がついちゃったから、あんまり運のことを思い出す機会がなかった気がするなー。トラブルの事はよく思い出してたけどね」

レナがてへへと頬をかいた。

▽幸運さーーん!
▽よろしくお願いします!

クレハが指先をしゅるんと元に戻したところで、レナが種を落とす。

シューーっ……とすきま風のような音が穴から飛び出て、種は、順調に落ちていった。

ぽちゃん、と水の音はロベルトが聞き分けてくれた。

種が割れて根が出たところを、スクーが視る。「う”わ”」と声が漏れた。

「よし成功だな」
「主なお仕事、終わりですね」

『『えーもうー!?』』

たいそうなお手伝いが必要なのだと思って張り切っていた雪豹たちは、かくーんと顎を落とした。
手伝いといえるのは、この泉の場所を教えたことくらいだ。

「この猛吹雪の中でも土地の場所をよくわかっている、お前たちの姿を見て俺は安心したぞ」
『坊……!』
「その呼び方はやめてくれ」
『ロベルトおじちゃん、他にはやることないのぉ? 久しぶりに外に出たから、ちょっと走ったりしたい』
「今はまだやめておいた方が良い。この下でマッチョマンが育っている」
『『なんて????』』
「後でわかる。泉がそのうち崩壊するだろうから、いったんここは離れよう」

獣たちの直感とでもいうべきだろうか、ロベルトの言葉には雪豹向けの親切な説明はなかったが、群れはなんとなく納得して、その場を離れた。

レナたちも氷の上で滑るようにしながら離れる。レナの手はモスラとキサが引いてくれた。

薄氷の下でキュウキュウと氷がぶつかる音が鳴っているのを雪豹たちはようやく聞く。
ほんとだねぇ、不思議だねぇ、と目を丸くした。

レナがふたつめの手伝いをお願いした。

「今から、植物が生えている場所に案内してもらうことはできますか? 私たち、凍土の植物も採取してみたくて」
『大丈夫』
『いいよ』

雪豹たちが頭を下げてくれたし、ロベルトが通訳をしてくれたので、レナはニコリと微笑んだ。

小さな雪豹たちはお出かけが嬉しいようで、レナの周りをくるくると回っている。

『今日ならあそこに行ってもいいよねぇ? 長老様ー!』
『うむ。”栄養価が高い粉雪草などが生えている特別な場所がある。普段は、同族の雪豹でもなかなか入らないようにしているのじゃが、今だったら大丈夫じゃろう”』

ロベルトが通訳をした。

「ありがとうございます。ただ、お気持ちは嬉しいのですが、普通の植物でも大丈夫なので。みなさんの大事な食料をもらっちゃうことになりませんか……?」
『”問題ない。あまり採取されないため大きく育っているが普通の凍土植物なのだ。あと、場所がそれなりに困難だが、ロベ坊たちがいるのじゃし、今だからこそ行くのが子らの修行にもなるじゃろう”』

あくまで坊とつけたいんですね、とロベルトが少し肩を落とす。獣耳も恥ずかしそうにちょっとそっぽを向いている。
だがそこにこだわって話を長引かせるつもりはない。長老と同じ方向を眺めている。

レナも目線を合わせてみると、地面から立った氷柱(ツララ)のような場所がある。乱立しているのでまるで剣山のようだ。

「なるほど試される大地か」
「た、試される……?」
「険しい氷の土地なので成長した雪豹が氷の道を作りながらじゃないと登れないんだ。風も吹き荒ぶ」
(ビル風的な……)
「しかし今であれば、そうだな。彼女がいるからみんなで登る事はたやすいだろう」
「んふふふふふふ」

キサがビシリ! とポーズをキメる。
それは嬉しそうに微笑む。
全員に頼りにされる機会なんてそうそう訪れるものではないので、活躍できるこの凍土が大好きになってしまいそうだ。

▽レナは スカーレットリゾートに 氷の城を使ってキサスペースにしてあげようと決めた。

「妾にお任せなのじゃ! 手すり付きの階段を作ってみせよう」
「ブーツには滑り止めが付いていますけれど、みなさん、滑り落ちないように気をつけてくださいね」

さりげなくレナの方を向いて言われた発言であった。

「ものすごく気をつけます」

レナは深く頷いて、

「クレハ、イズミ。階段登るときだけスライム状になって私の足に張り付いてもらうことってできるかな!?」
「「オッケー! なんかそういうことするのも懐かしい感じ〜。だって絶対落ちちゃいけないんだもんねっ」」
「そう絶対落ちちゃいけないんだよ! いや、何? この念押し、や、やらないよね?」
「「キャハハっ♪」」
「信じるからねー……! もー」

予防として手段を増やす。
正しい判断であると言える。
スライム長靴なんてレナくらいにしか考え付かない。
ロベルトとスクーは生あたたかい目でレナの足を眺めた。

それから最後尾をモスラにしておけば、何かあったときには絶対に支えてもらえるので大丈夫。

▽氷柱を登ろう!

「スキル[氷の息吹]」

キサが口笛のように息を吐きながら、優美な氷の螺旋階段を作っていった。
手すりはツタのように曲線を描き、ところどころに氷の花が咲いている。花がどことなくギルティアに似ているのは、キサなりの可愛がり方なのかもしれない。
どんな花に成長するのだろうと、みんなが楽しみに待っている。

スライムを巻きつかせたレナがまるでベルトコンベアーのようになめらかに登っていく。

子雪豹たちがピョコピョコと跳ねながら、キサのすぐ後ろで足踏みをして、楽しげな散歩になっている。

ノアの体力作りにも良さそうだ。
ロベルトとスクーが応援しながら後ろを歩いて、視線でなにやら会話をした。

▽頂上に辿り着いた!

えんぴつの先端を少しだけ削ったような狭い敷地に、こんもりと雪が積もっている。
雪豹たちがくんくんと鼻を動かして、雪を前足でかき分けると、淡い氷色の草が現れた。他にも、茶色のつぼみのような形の草、青の実をつけた雪中草なども。
鼻先に雪を乗せた雪豹が、えへん! と口角を上げる。えらいえらーいとレナたちが褒めそやす。

▽レナたちは採取を始めた。

▽ズドオオオオオオオン!!!!

▽たっぷりと水分を吸収した超速くいしんぼうマッチョマンが 凍土の中央に 出現した!!

▽地面が割れ 水と雪と氷が混ざり 恐るべき冬の柱が立ち上がる。

▽カルメンが なにかぶん投げた!

▽冬の柱に氷色の光が生まれて 怪物のように蠢き始めた。

『レナよー。|アレ(・・)は我々の片割れではなかったぞ!』
「了解……カルメン」
『少し遊ばせてもらうとしよう。我々の手では凍土に手を加えられないし、退屈していたところだ』

無視されるの好きなくせにぃ、とレナは内心つっこんでおいた。

▽カルメンの 鼓舞の唄!

▽冬の柱と 氷の花を咲かせたマッチョマンの バトル!!!!

▽怪物大戦闘を背景に レナたちはもくもくと採取を進めている。カオス。

 

 

 

 

 

 

 

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