3:君に決まった!

ギルド宿舎で簡単なパンとスープの朝食をいただいたレナは、力強い足取りでまた草原へと向かっていく。

(ええい! 今日は今日の風が吹く! もり上がれ私のポジティブ精神!)

なかなかつよい。

昨日のモンスターテイムは散々な結果に終わってしまったが、いつまでも落ち込んではいられない。
「今度こそ、共に歩む仲間を作りたいなぁ」とレナは呟く。

三つ編みを風にゆらしつつ、相変わらずセーラー服のままで、ダナツェラの街を歩いていった。
ギルドから情報が渡されたためか、街の男たちはレナを遠巻きにしている。

やる気なさげな門番にも、レナは丁寧に「おはようございます」と挨拶して、門をくぐった。
門番は眠そうにしていて、ギルドカードの確認も無しに通してくれた。
いいのかなぁ、とレナが苦笑する。

今日はモンスターを探す前に、鞭をきちんと扱ってみるつもりである。
予想よりモンスターが強そうだった事もあり、カラ元気で昨日よりさらに気合を入れる!

「よーし!」

街壁のごく近くで練習を始めることにした。
音につられてモンスターが飛び出して来ないように、草むらや岩場からはきっちり離れた場所を選んでいる。

「えーと。……とりあえず、振ってみようか?」

正しい扱い方なんて知らないので、ひたすら試すしかないのだ。

鞭はだいぶ特殊な武器だけあって、ギルド員にも扱った経験がある人はいなかった。
普通、新人冒険者は剣や棍棒を扱うものである。
レナは自分の力で、鞭との付き合い方を試行錯誤しなければならない。

柄をぐっと強めに握って、地面に向かって鞭をしならせてみる。
ピシリッ!

「!」

一応「この辺かな?」と狙いを定めていたポイントには、へなちょこ軌道ながらも鞭はヒットしている!

「おおー!」

予想よりは出来ていたようで、レナの口からは嬉しそうな声が上がった。

少しだけワクワクした気持ちになったレナ。
ピシリ!ピシリッ!と同じポイントめがけて、何度も繰り返し鞭を打ち付けていく。

…だんだんと軌道がまっすぐに揃ってきている。
すぐに変化が現れて喜んでいたが、まあ、この程度では下級モンスターすら倒せないくらいの低威力なのだった。
知らないっておそろしい。
しかしモチベーションを下げずに練習が出来ているので、今の状況はある意味幸せなのかもしれない。

ドンマイ、レナさん、練習頑張って。

ピシピシと波打つ鞭を見つめていたレナは、ふとコテンと首をかしげた。

(この動きは何処かで見たことがあったような……? あっ、あれだ。大縄跳び。学校の体育祭とかでやったやつに、そっくり)

今となってはそれも懐かしく、まるで走馬灯のように、レナの頭の中に学生生活の一コマ一コマが流れていく。

バレーボールを顔面で受け。
短距離走で足がもつれて転び。
…体育祭では必ず足手まといになってしまうタイプの運動オンチだったレナ。
…そんな彼女が今では大自然で命がけのアウトドアをしているなんて。

(人生ってほんと、何が起こるか分かりませんねー?)

口からかわいた笑い声が漏れてしまっている。かわいそうに。

「はあ」

考えるほど落ち込んでしまいそうだったので、レナはまた無心になって、ひたすら鞭を打ち付ける作業に専念した。

ピシッ、ピシッ、ピシッ!………

ふと、視界の端に、草原の緑以外の色が見えた気がしてそちらを振り向く。

「ん?」

(ぷよん?)

「ッ!? うわーーーっ」

驚きの声を上げて、尻もちをついてしまった。
へなへなの動きで慌てて立ち上がる。

なんと、昨日と同じ赤青スライムが現れた!

▽スライム×2が現れた!

ぷよんぷよんとコミカルに上下に弾む動きが、あまりにも記憶と同じ。
これは再会と考えていいだろう。

「う、うそ。また会いに来てくれたの…?」

思わず感動しながら問いかけるレナ。それに、動きで返事をしてくれるスライムたち。

「「(ぷよーーーん!)」」

「!」

一度大きめに弾むんだ彼ら? は、律儀に打ち続けられていた鞭を見て、なにこれ楽しそう!と言わんばかりに突撃して行った。
相変わらず自由すぎる。

「…あっ!? ちょっ、危ないよーー!」

焦るレナ。
しかし、彼女の心スライム知らず。
へなちょこ鞭の攻撃力程度では、スライムたちにも大してダメージは与えられないので、怖がられる様子もなかった。

マイペースに弾んだ彼らは、打ち続けられる鞭の下を器用にくぐる。
ピシリッ、と地面に鞭がつくタイミングで跳ねて、鞭が上にあるときはきちんと着地していた。

(まさに大縄跳び……!)

ちっちゃなスライム達が、ぷよーんぷよーんと飛び跳ねている様は、昨日と同じでたいそう可愛らしい。

(うわあ、うわあぁ……!)

この子たちテイムしたいよぉ…とこっそり萌える。
なんだかんだお遊びに付き合って、縄跳びの手伝いをしてあげているレナはノリのいい娘だ。

将来への不安からささくれていたレナの心が、ここにきて順調に癒されている。
殺伐とした野生モンスターのはびこる草原において、この一角だけは空気がのほほんとしている。

うふふー、と笑いながら鞭をふるうセーラー少女と、ぷよぷよ楽しそうなスライムたち。
異様な光景だが、当人たちはもう気にしていない。
似たもの同士なのかもしれなかった。

ひととおり大縄跳びを楽しんだスライム達は、ぷよん!と華麗にポーズを決めフィニッシュを迎えた。
レナはもはや鞭をしまって、パチパチと拍手をしてしまっている。
緊張感なんて欠片も存在しない。連帯感さんこんにちは。

日本人はもともと”可愛いは正義”なんて言ってしまう人種だし、レナはこの世界において、言わば誰よりもほだされやすい存在なのだろう。

スライム達は、たまたまそういう性格だったのかもしれない。
野生のモンスターは普通は好戦的で警戒心が強いもののはずなのだが。

「ねぇ。お菓子、食べる?」

遊びがひと段落した所で、

▽レナは 鞄から チョコレートを取り出した!

そう。仲良くなるにはまず餌付けから。
もしまた意思疎通のできそうなモンスターに会えたらー、なんて、昨日の夜に鞄をあさりながら考えていたのだ。

(戦闘する気なさすぎてごめんなさい。でも私のステータスはひどいんだもん)

スライムは犬猫ではないが、試してみる価値はあるだろう。

普段何を食べているかは知らないけど、チョコレートを気に入ってくれたらいいなーなんて、保母さん状態のレナは表情をゆっるゆるにして、にこっと笑いかけた。
丁寧にも、しゃがみこんで視線を合わせている。
まさに犬猫対応。

ぷよん!
一方のスライムたちは、チョコレートに興味を示してくれたようだ。
これなに?と言うように、くりくりっ?と身体を傾けている。

「(可愛い……!)チョコレートは甘いお菓子だよー。
良かったら食べてみて……?」

レナは、板チョコを少しだけパキッと割ると、自分の口に入れてみせる。
毒じゃないよ、というアピールだ。
それから、残りのチョコを半分こして、スライムたちにも差し出した。

……ぱく!

▽スライムは チョコを 食べた!

スライム達のゼリーボディが真ん丸く開いたので、レナはそこにチョコレートを放り込んだ。
ボディ全体にチョコのシルエットが浮かんで見えている状態。
チョコは、しばらくふよふよとスライムの身体の中をたゆたうと、じんわりと少しずつ溶かされ消えていった…

(味わっていたのかな?)

チョコが溶けきった、その瞬間。
ビビビビッ!とスライムたちが激しく振動しだした。

「……!? ま、まさか貴方たちにとって毒だったのかな?
大丈夫ッ……うわあーーッ!?」

「「(ぷよおーーーんっ!)」」

焦ったレナがスライム達に駆け寄っていくと、レナに向かって思いきり飛び跳ねてきた!
かつてない勢いだ!

すわ、怒りの攻撃か!?とレナは身を固くしたが……どうやら、チョコが美味しかった様子。

ダメージを与えることはなくて、ぷよぷよと、レナの肩やら頭の上で楽しそうにひたすら弾んでいた。
良かったー、とホッと息をつく。
びっくりして、心臓が激しくドキドキしている。

「……。私は、貴方たちと一緒にいたいと思っています」

もう一度、真剣にスライムたちに話しかけてみる。
彼らはレナが話し始めると、動きをピタッと止めた。

「「(ぷよっ)」」

「……従魔になってくれませんか? スキル[従魔契約]」

祈るような気持ちで、スキルを発動させた。
正直、あわよくばのつもりである。

もし彼らがこれで戦闘を挑んできた場合には、レナとて、しっかりと対応するつもりだった。
戦わずに済むならそれが一番助かるけど、もうスライムたちに逃げられて後悔したくなかったのだ。

いくつかのモンスターを見てきたけど、彼らほど従えたいと思えるモンスターはいなかった。

(この子たちに、仲間になってほしい!)

真剣な表情で視線を交わし続ける。
………。

…スライム達は少しだけ考える仕草を見せた。
そのあと勢い良くぷよんと弾んで、従魔契約の魔法陣をくぐった。

「!」

ハッと、レナが息をのむ。
攻撃を警戒していたが……頭の中に、初めて聞く甲高いベルのような音が響き渡る。祝福のようなきれいな音だ。

<<[従魔契約]が成立しました!>>
<<従魔:スライムの存在が確認されました>>
<<従魔:スライムのステータスが閲覧可能となりました>>

<職業:魔物使いのレベルが上がりました!+1>
<スキル:[鼓舞][伝令][従順][従魔回復]を覚えました>
<ギルドカードを確認して下さい>

「……! うわ。や、やったぁーー!」

涙ぐみながら小さくばんざいをするレナは、本気で感動しているようだ。
従魔となったスライムたちを大切そうに、きゅーーっと抱きしめる。

彼らも、まんざらでもない様子だ。
くりくりーーっと、主人の胸元に身体をすり寄せていてさっそく懐いている。
それにまた感動して、レナはとうとう泣き出してしまった。

「うう……ぐすっ。
これからよろしくねー、スライムちゃんたちっ」

『『はぁーーい!』』

「……えっ!?」

どうやら、従魔になったモンスターとは意思疎通が可能らしい。
驚いて目をまん丸くしていた主人は、すぐ嬉しそうに笑って、もう一度「よろしくね」と従魔に優しく語りかけた。

『従魔になったモンスターと主人とは、意思疎通ができる』
これはギルドでは教えてもらっていなかった情報だったが、それも”魔物使い”の職がレア+不遇で、就職する人が少なく、情報不足かつあのギルドの対応が適当だったためだ。

……ダナツェラのギルドは黒い噂が多く、いい話なんて一切きかない。
それは、そもそものガララージュレ王国の政府が腐敗しているからで、この国は他国からは危険認定されているトンデモ国なのだった。

この世界に来たばかりの少女はそんな情報なんて当然知るはずもない。
それは今後、どのように影響してくるのだろうか。

「今日はまだ日も高いし。一緒に特訓しよっか」

『『はーーい!』』

3人はもう少し草原に留まることにしたようだ。
スライムたちの実力も知らないし、ステータスの確認をしつつ戦力の底上げをしておきたいところである。

ひとまず木陰でお互いの自己紹介をしてから、マイペースに戦闘訓練を始めた。

 

 

 

 

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