293:赤の女王様は私のもの(死活問題r)

「称号[異世界人]について対処をしようと思っています。きっかけは、赤の女王様の観劇ですから、それを一番活用できるのが私たちでありたい」

レナがさもその通りかのように、称号の理由を語る。

「これもスカーレットリゾートに盛り込むつもりです。赤の女王様の『舞台』」
「本物に……なりますね……。大きな注目を集めることでしょう」
「リゾートの舞台で劇をするというポスターやチラシの宣伝。小冊子の配布で物語の修正。グッズ販売で親近感を持ってもらいましょう」
「なんたる商売上手……!」

急きょ呼ばれた大悪魔マモンが、思わず感心した声を出した。
舞台のチケットを販売することとチップくらいしか、これまでは舞台の稼ぎ方はなかったのだ。
思わずレナに質問をしていた。

「資金源は?」
「ポケットマネーで」
「そこが強いですよね。スポンサーが自分たちでいい、自由にあなた方の発想を活かせる。物語の修正とは?」
「称号[物語の主役]を持っていまして……」
「それはまた……。異世界人、赤の女王様、と合わせるとあなたの人生に大きな影響を及ぼしそうです。お察し致します」
「お労わりありがとうございます」

マモンの感心は続く。
宰相たちはヒヤヒヤしながらも成り行きをまず聞いている。

「みなさまは風景の映像記録が得意と聞いております。それを反映できる魔道具が、開発されておりまして……魔王国からの協力を考えられたらと」
「素敵! 映像販売、できればいいなと思っていたんですけどキラの特殊技能だから、もし一般にとって珍しすぎる技術であれば流布するのも……って悩んでいたところでした」
「こちら悪魔文書になります」
「あ、素早いですね。けれどサインをするのはもっと話をつめてからで。がいいよね? アリスちゃん」
「うん。今の時点では魔道具の使い勝手もわからないし、映像記録を反映ってことはキラさんの技能披露が必要そうだから、そこんとこ納得してからになりますね?」
「ははは。まずは受け取って読んで頂くということで」
「それなら頂戴します」

悪魔文書慣れしているレナ、ひるまない。

これを差し出された商売人は目を皿にして内容を確認するところだが、黒紫の目がいい仕事をしているのだ。
悪意が視えていないので、たしかに条件は曖昧に書かれているものの、このあとによっぽど悪い提案をされることはないのだろう。

マモンとアリスとレナはにっこり笑いあっている。

「音源販売は?」
「サントラってことですね。声と、音楽と、出演者の一言メッセージって感じでしょうか。メッセージを発するカードがありましたよね……ファーストベルカードでしたっけ? あれ改良できませんか? あなたに届いた手紙っていうコンセプトで」
「素晴らしい。より買いたくなる心理をよく理解していらっしゃる」
「私がしてもらったら嬉しいことを、反映させたらいいんですよね。商売でも」
「……経済部の椅子、空いてますけど」
「お断りしますね」
「サントラって何ですか?」
「げふんっ。「さ」いこうのお「ん」せいと「と」っておきの「ら」っきーをあなたに。……ってフレーズいかがですか?」

苦しい。
つい余計なことを言いすぎたレナが、気まずく思いながらも真面目な顔をギリギリ保った。

さっきギルド長の縮小で笑いきったルーカの落ち着きを、瞳が共有してくれた。
ありがとうギルド長。

「珍しい、目立ついい響きですね。サントラ」
<上手いことラナシュ世界情報に組み込んでおきました>
(ありがとうキラ!)

「リゾートチケット。物販。サントラ。いやあ、この事業に関われて実に光栄です!」

経済部の大悪魔マモンが、ニヤアアアアッとごきげんに笑った。
口の端が耳のあたりまで吊り上って、夜道で会ったら叫びたくなるような形相になっている。
今は本来の銀髪姿なので、とくに。

レナたちもちょっとびっくりしてしまった。
アリスなんて、レナのローブの影に隠れてしまったくらいだ。これほどの笑顔のマモンに会ったことはまだなかった。
怖がってしまったことを反省して、赤くなった頬をぺしんと自分で叩いた。ハマルが真似をする。まあそれはおいといて。

「肝心の舞台の内容はどうなるのですか?」
「これです」

▽モスラが 赤の聖典を 取り出した!
▽ドッッッッッサリ!

「これになぞらえます」
「………………なるほど。困っているのはおそらく、一般の娯楽化で過激になり過ぎた”合体勇者”などの部分と察しましたが」
「合ってます。もしも私が影響を受けて、従魔と合体できちゃったらどうなると思いますか……?」

宰相は考える。頭痛が速攻でやってきたので、心の赤仮面でメンタルガード。

「たいへん大変です」

▽宰相は 混乱している。

「すごくすごいことになりそうですよねぇ」

レナは自分の体を抱きしめるように腕を交わらせて、ぶるると震えた。

(ほんとそれが気がかり。究極体(アルティメット)レナ! みたいになっちゃう? もうロボじゃん〜。そんなひょいひょいと体作りかえられないって。でもラナシュなら、油断ならない。こわっ)

ここで、

▽グルニカが現れた!

正確には、排気口に自分の頭を転がして、会議に侵入してきたのだ。

▽べっしょん。

「うわあああああ!? 青い血いいいい」
「ヤッホー☆ 舞台の悪役に乗らせておくれよぉ! って今言わなくちゃいけない気がしてさぁぁ!」

そういえばグルニカは、旅歌劇団が行った<勇者の伝説>劇に、敵役として出演していたのだった。
アンデッドでおどろおどろしい見た目にも体を作りかえられるグルニカは、インパクトがある。それに演技もすごかった。

けれど、グルニカである。
ノリと勢いで何をしでかすか分からない。
だから縛れたらいいのだけど。

「妖精契約も効かないんですよね、グルニカ様……体のあちこちが違う部品だから」
「ヒッヒッヒッ。人格への信用がなあ〜い」
「悪魔契約の出番ですか?」

意外なことにマモンが間に入った。
巨額のお金が動くであろう舞台には、できるだけ多くの身内をかませたいようだ。

「ええと。それなら約束を調整できるんですか?」
「悪魔契約なら可能です。妖精契約は体を媒体に、悪魔契約は物を媒体に契約をしますからね。悪魔文書のように」
「紙、ってことですね。納得しました。対アンデッドなら悪魔契約……覚えておきます」

レナはリリーを撫でまくりながら返事をした。

「しょんぼりりー……くすん」
「そ、そう。世の中のほとんどの人はアンデッドじゃないんだから、リリーちゃんの力もたくさん役に立つんだよ。これまでどれほど助けられてきたと思ってるの? 大好き!」
「従えてーーーー!」

▽いつもの。
▽レナパーティは テンションが上がった!

人が増え、話が増え、だいぶ脇道に逸れてきたので、宰相がこの辺で一度まとめる。

ーーーー
舞台:赤の女王様。

販売:チケット・チラシ・グッズ・映像・音声。

経由:経済部マモンが交渉中

出演:グルニカ・メデューサ
ーーーー

グルニカの出演は仮承諾。

メデューサについては、出演することが「異世界人称号をつけてもらう」ことへのお礼として事前に話していたためだ。

レナからはまた新たな交渉が登場して、宰相は意外そうに目を瞬かせた。

「他のキャストとして、牢の吟遊詩人を、と?」

先ほど廊下ですれ違ったものの、なぜあの者なのか、宰相にはピンときていない。

「はい。なぜか赤の宣教師の称号を持っているようで……ほったらかしにしておくのもこわいので……」
「なぜか。というと、彼はレナ様たちと同じ客船に乗っていたそうです。クラーケン討伐の様子を目の当たりにして、その感動を歌ってこの国で生活していました」
「すごく前からの縁だったんですね……!?」
「どこかで繋がるものですね。彼については、呪いの魔道具のとばっちりで逮捕ですから魂は清いほうです。しかし……」

宰相が首を横に振る。

「呪いの魔道具に取り憑かれています。片時も離れないので、あの魔道具がある限り彼の解放はできません」
「それなら全然大丈夫です」
「うかがいます」

▽美しい会話の流れはもはやテンプレートと言ってもいいのではないだろうか。

「この鞭。靴。服。マント。……とか」

レナはちょっとモジモジした。下着のことまで言ってしまいそうだった。危ない危ない。

「元は、全部呪いの魔道具だったので」
『なんだと!?』
「ギルド長落ち着いて下さい。だった、とは?」
「私、称号[祝福体質][退魔師]を持っておりまして」

▽称号無双がすごいぞ。

「浄化……したんですね……さすがです……。呪いの魔道具リュートも問題ないでしょう。浄化を確認したのち、吟遊詩人への交渉を認めます」
「ありがとうございます!」

彼は牢屋でもずっと歌っている。

リュートは弾けないように封印してあるが、その伸びやかな声だけでも、囚人たちを魅了してやまなかった。
遠くからの歌声をわずかに耳にした宰相でさえも作業の手を一瞬止めて聞きいってしまったくらいよい歌声なのだ。

浄化されたリュートを弾いたとき、どれほど素晴らしいハーモニーになるのだろう? と考えると、宰相はまたひとつ、赤の女王様の舞台の大成功を確信するのであった。

ーーーー
出演:グルニカ・メデューサ・吟遊詩人
ーーーー

あとは、従魔たちが役をやるのだろう。
赤の経典にも書かれている。

その間手薄になるリゾートの警備を真剣に考えなくては。
開発部の人形製造が急務だ。
テーブルの上に置かれたグルニカの生首が、ニマニマニマニマと笑っている。

▽赤の女王様の舞台が 楽しみ!
▽レナたちの話し合いが終わった。

▽休憩。みんなでブドウジュースを飲んだ。

会議室の前で、護衛たちが、空気がわずかに震える程度の小声で話をしている。

「聞きましたか先輩? 悪魔契約の重要性を知ってくれたみたいですよーっと。ワタシ、さっそく頼りにされちゃうかも」
「お遊びじゃないからな、新人。レナパーティのあの雰囲気に自分まで染まりすぎないように、その緩んだ頬を引き締めるんだ」
「こわい顔していたらいい仕事ができるってわけでもないですから。ワタシは真顔がマモン様のように怖いし、にこやかにしておいたほうがあの子たちには印象がいいはずですよ」
「……まあ、うまく力が抜けていると考えることにしよう」
「ありがとうございまーす」

にこ! と朗らかに笑ってみせるのは、蝙蝠人。諜報部の中でも変わり者である。

たくさんの弟妹たちを食べさせるために、給料がいい仕事をしたいんです! とわざわざ危険な諜報部の扉を叩いた。
その経歴のためか、いつも相手を和ませようと明るく和やか。

レナパーティとは相性が良さそうだと、厄介な聖霊対策本部に選ばれた。
そのことも「やったー給料が増えるの嬉しいです! 頑張ります」と喜んだくらいである。

後輩を見るロベルトのため息もいつもより柔らかい。

「お前のようなものもいてくれるといいのかもな。これからまた忙しくなる……様々な上客が集うから、白炎聖霊杯の名残がないか調べるんだ」
「リーカ先輩の出番ですね」

蝙蝠人、わっしょいも忘れない。

「あなたの嗅覚にも期待しているわ」
「ワタシの直感、便利な力だと自分でもよく思ってます! 魔王様の野生の本能には敵いませんけれど」
「当たり前だろ。不敬だぞ」
「だって魔王様怒んないんですもん。向上心があって実にいいな! ですって。ワタシあの方好きです」
「物言いが物議を醸す」
「さすがにごめんなさい」

蝙蝠人は薄っぺらい舌をチロリと出した。

回廊の先に魔王の執務室が見えている。

今、息子のオズワルドが訪れて、武闘大会についてなど話しているところだ。

「今の魔王様から変わっちゃうの、やだなあ」
「私語は慎むように」
「最後にひとつだけ。ワタシ、そろそろレナパーティの皆さんに紹介とかされますか? ワクワクしてます」

ぴょこんと飛び跳ねて音もなく着地する蝙蝠人の頭を、クドライヤが拳でぐりぐりとした。

「いってふふふふふふふ」
「諜報や護衛は影に潜むものなんだよ。本来は。だから紹介はタイミングが合えばだ。レナパーティは忙しい。これから帰宅後、また新たな従魔を迎えることになるしな」

蝙蝠人は目を丸くする。

「|砂漠の魂喰い花(デザートギルティア)、目覚めたんですか?」
「本日、月夜に咲くのだそうだ」
「へええ」

護衛たちは、青空に浮かぶ生白い月をみつめた。

どうなることやら。
護衛にできるのは、レナパーティがもしも傷つきそうになったら護ることくらいである。

▽ギルティアを従えよう!

 

 

 

 

 

pixiv fanbox

 こちらにはイラストまとめ、創作裏話、ホームページ制作の記事を書いています。ぜひお楽しみいただけますように。
 100円ご支援いただけることは、書籍一冊買ってくださったのと同じ助けになります。
みなさまいつも応援ありがとうございます!