292:スカーレットリゾートの相談

 

「議題です」

<スカーレットリゾート一般開放計画>

ドン!! とキラがウィンドウを出現させる。

施錠された会議室の半分を埋めるくらい大きなウィンドウ。映画用のスクリーンさながらである。音響もまさに「ドン!」臨場感たっぷり。

宰相はもはや眉一つ動かさない。
こんなものこれまでに一度見れば慣れて対応するのが影蜘蛛の嗜み。ちなみに何度も見ている。レナパーティが敵意を持っていない平和な話し合いということが重要なのである。

巻き込まれたギルド長は、ぱかんと顎を落とした。
なにか言いたげというよりは、思わず口が開いてしまった、という表現が正しい。
レナパーティの規格外の戦闘能力は体感していたが、補助技能までこれほど奇々怪々だとは、とても想像が行き届かなかったのだ。
レナパーティ検定、まだまだこれから、なんちゃって。

「スカーレットリゾート一般開放。その狙いは?」

宰相が尋ねると、キラが即座に言葉をスクリーンに映し出す。
すべて記録されるということだ。うかつな確約はできない。

ギルド長はそれに対して、自分が先ほど口にした「謝罪の気持ち」を思い出して(しまった)と頭を抱えた。

小ドラゴンがもぞもぞ動いたので、ノアが「ひゃっ」と声を上げる。

宰相はこれには心のメガネが割れる心地だったが、耐えた。
ここには娘の親としてではなく、重要人物の相談を受ける宰相として出席しているのだから。

▽ギルド長への好感度は 地に落ちたが。
▽仕事はこなす。

「狙いについて。まず白竜が関係してくるんですけど……」

▽ギルド長の胃が痛い。
とそれは置いといて、レナはキラに指示をしてスライドショーを展開させる。

白竜のイラスト。赤の聖地へ近づく様子がアニメーション表示される。
白竜の頭の上に、ハテナマークが加わった。

「これ。この大きな施設は何? ということが周知されていないので、たまたま見つけるに到った者がより興味を抱くんですよね……白竜もそうだったみたい。だったら、その施設が何なのか、周知される方が安全だと思いました」
「なるほど。その方法が、一般開放?」
「周知が目的なので。ちなみにどこにでも入れるのではなくて、一部開放、と思ってます。順を追って説明しますね」

レナが人差し指をツンとスクリーンに向ける。
施設のイラストが一つ、ポンと加わった。
ポンと。
その大きさといえば、お屋敷の二倍以上はあるのに。
|これ(・・)が、|ポン(・・)と。

いとも簡単な表示であったが、宰相は察した。
それは夢物語などではないのだろう……と。

レナパーティの規格外さには信用があるし、レナたちの真剣なプレゼンは「できる」という確信が感じられる。

「施設を増やします」

▽ほらねーーー!

「この増やしたところだけ一般開放します。ウォータースライダープールや温泉、遊園地にスウィーツバイキングなど」

(だけ、とは……言葉の意味を忘れそうになりますね)

「めちゃくちゃ派手にすることで、その奥の本館(・・)を目立たなくさせる狙いがあります。私の故郷の言葉で、木を隠すなら森の中……っていうのがありまして。いかがですか?」

レナはにこっとプレゼンを終えた。

宰相が人差し指で顎を撫で、二秒ほど、思案した。
彼にしてはかなり長いほうだ。

「仰ることは分かりました。複数質問を」

キラがスクリーンに表示を追加した。

・施設は聖地内に作られるのか?
・施設の建築はどのような手段? 証明できる建築安全基準を満たしていなければ商業施設として商業ギルドに登録ができない。ダンジョンという基準では不安定。
・集客への協力は必要か?
・従業員の協力は必要か?

これに対して、レナパーティの回答。

・施設は聖地内に収める。敷地に余裕はある。

・施設建築はドワーフ鍛治工房による同種族のツテと、ルネリアナ・ロマンス社に相談をして進める。アリス・スチュアートが商談を担当する。

・集客への協力はぜひ。

・従業員の紹介もぜひお願いしたい。

……とレナが言って、スクリーンに問答が記録された。
うんうん、と頷きあう宰相とレナ。

ギルド長は生唾を呑む。

(俺でも理解できる。これは……相当な規模の事業になるな。シヴァガン王国としても、巨大な雇用と消費が行われるこの計画に参加したいことだろう。そういえばレナパーティが住んでいるとはいえ、あの土地の名義はシヴァガン王国からまだ変わっていないはず……事業は歓迎だがトラブルは勘弁、のバランス次第。レナパーティがどこまで頑張れるか見ものだな。ううむ……)

宰相は「失礼致します」と言ってメガネを拭いた。
ギュっと眉間を揉む。

「長らく見ていると、そのスクリーンとやら、目に負担をかけるものですね」
「あ、では優しいグリーンカラーにして差し上げますね。ソイヤ!」

キラがえいやっと派手に杖を振ると、ミントグリーンの色に変わった。
爽やかついでに、全員に粗茶(エリクサー)を出す。
ふう、と一息。

ギルド長は持ち前の回復力で全快しているはずなので、サイダーを出して、驚かせてみた。翼をブワッと広げて、いい反応だ。

『<こういう商品を出すのか……! スカーレットリゾートでしか体験できない、これも相当なウリになるな>』
「ええ。名物をいろいろと作ろうと思っていますよ」

そうすれば今後レナパーティが何か画策していても、リゾートの新商品開発か、としか思われないのだろうし。
宰相がこめかみをトントンと叩いた。

レナパーティの魂が善寄りなのが救いである、本当に。

相談されたのだから、この機会にできるだけ共犯になって蜘蛛糸のひとつでも絡めて状況把握すべきだ、と宰相が覚悟をキメた。

「皆様の事業に賛成します。それぞれ具体的な計画を持っていらっしゃることと、開業を急ぐ理由についても」
「やった!」
「前言について、まずは宰相サディス・シュナイゼが保証しましょう。確約はこれから内容を詰めて、魔王国会議にかけた後に……」
「はい」

宰相は悪魔文書にさらさらと今の内容を書き込んで、サインし、レナに渡す。
たしかに、とレナは黒紫の目を瞬かせた。

「仮であろうと保証は大事ですから。こちらの気持ちを受け取って頂けると幸いです」
「はいっ、気遣ってくれてありがとうございます。安心できます〜」

レナがホッとしたように微笑んだので、贔屓ぎみの判断は正解であったと、宰相もひと息ついて粗茶を飲んだ。

「それでは、詳細を詰めましょう。みなさまも予定があるそうですから、一時間の範囲として……なにから話し始めましょうか」
「そうですね。まず施設建築については『できる』ですけど職人さんを巻き込んでからのほうがいいと思います。開業してからのイメージを共有したいなと……シヴァガン王国にも協力してもらうことを」
「よろしくお願いします。一番心配しているのはセキュリティですね」
「ですよねっ」

そこが、スカーレットリゾート一般開放の目的でもあるのだから。

「お客様を見る受付には、ルーカさんを配属しようと思っていますよ」
「……大丈夫ですか……?」

宰相の顔があからさまに曇った。
これほどに宰相の表情筋を動かす事態も珍しい。

嫌な意味で注目されたルーカは、苦笑しながら、軽く片手を上げて話し始める。

「僕が魔眼でお客さんを視ることについて、分析力は心配されていないと思います。苦手なものが多い僕が、どれくらい耐えられるのか? というところですよね。その点は、先日レナがあれほど頑張ったのだから僕も応えたいんです」

宰相の目元は和らいで、不安もなさそうだ。

従魔が、主人のためを思って行動するというのなら、さらに自分で「やりたい」の意思があるなら大丈夫であろうと納得した。
レナパーティはこれで強くなっていくから。

「女性恐怖症は大丈夫ですか?」
「ですよね、お気遣いありがとうございます。性別に関して考えず、魂の白黒と、滞在理由に嘘がないかを暴くためだけに受付にいるって感じにします。あとは白炎聖霊杯(カンテラ)の情報を探りますよ。
容姿は猫です」

ルーカはヒト型から一転、ポンと子猫になってみせた。
机に座って動きをとめる。まるで置物だ。
二股の尻尾だけがゆらゆらと揺れた。

(これはこれで女性人気が出てしまいそうですが)とは、話がややこしくなるので宰相はスルーした。
ドヤ顔の金色子猫に幸あれ。頑張れ。
白炎聖霊杯(カンテラ)については部屋の隅に控えているロベルトにあとで判断させることにした。

「セキュリティについて、見回りの人員が従魔だけでは足りないはずです。これほど大きな施設なのですから。我が国からも人員を紹介するつもりですが、その際戦闘力も考慮致しますか?」

奉公特化か、戦闘力特化か、ということを宰相が尋ねる。もともと兼ね備えたものは珍しいので、レナパーティが教育する必要があるだろう。

「想定してる種族があって。スカーレットリゾートは淫魔のお宿♡チェーン系列って建前も考えて……淫魔の方がいいかなって。索敵得意だそうですし、お客さんの扱いが上手であれば戦闘の必要も減ると思うんですよね」
「検討します」
「ありがとうございます!」
「必須能力はベッドメイキング、リメイクルーム、コミュニケーション能力くらいでしょうか?」
「はい」

リメイクルームが使えるのは上位淫魔だ。
それを提案してくるあたり、宰相は熱心に人員を探してくれると察せられる。

そしてここまでくると、ギルド長にも話の流れが読めてくる。
働き方に魔物の能力、ギルドでよく目にする話だ。

おそらく宰相は、自分にもわかりやすいようにわざとこの話し方をしたな、と思うと、ため息が溢れた。
ちょっとした不服を込めたつもりでも、エメラルドドラゴン特有の爽やかなそよ風になってしまうのが、なんだか腹立たしい。
ノアのスカートが揺れた。

『<魔王国からの従業員の斡旋。軍事施設なんて深読みをされても困るわけだな。となると、冒険者ギルドを通した依頼とするのが最もスマートだ>』

レナパーティ全員がニコッと笑った。

ギルド長は、はっ、とこしゃくな鼻息を吐いた。
ぷう、と可愛らしい音がしてしまうのはもう諦めた。

(ギルドにとっても美味しい依頼となる)

頭を切り替えると、緑のウロコがキラキラ光った。

『<ギルドにおいて、冒険者の方から求人依頼(クエスト)を出すこともできる。応募者の中から誰を選ぶかは決められるから、信用できる取引先を選ぶといいぞ>』
「分かりました!」
『<資金は?>』
「もちまえの貯金でなんとかします」
『<たまげた。借りなくてもいいのかい? 冒険者ギルドから商業ギルドを紹介すると、手数料が安くなるぜ>』
「「ダイジョーブっ」」

クレハとイズミが、ギルド長を覗き込んで、歯をキラリとさせた。
その容貌の美しさに圧倒されながら、ギルド長は(どんだけ秘密を隠しているんだか)と興味深いクリクリとした目で見つめた。

探ろうとしてもかわされるのであろうとは、なんとなく分かってきた。でも(いつか把握してやるからな)と果敢に思うのは、ギルド長として長年冒険者を見てきた性分なのであった。

「ジャーン。こーいうの、資金源にするから、大丈夫なのっ。可愛い……でしょ?」

▽リリーが ギルド長の首に アクセサリーをかけた。

「「リリーっ!?」」
(なるほど、妖精王族候補のアクセサリーは高く売れるに違いないな。それにしても口が軽くて素直そうだ、この妖精は要チェック……)
「ご購入、されますか? えへへ」
『<押し売りじゃねぇか>』
「でもね……とっても素敵な、回復効果が、あるのだよっ。正直、破格。おすすめっ」

リリーが宝石部分を押した。ポチッとな。

『<うおおおおなんだこれはあああ!? 体がポカポカと……>』
「増血効果。だからね、ポカポカ気持ちいいし、普段以上の……戦闘能力が発揮できるのだよ。あと赤くて、可愛いでしょ?」
『<言い値で買いたい……>』
「ほーら。こうやって、お金、稼ぐの!」

ギルド長は項垂れた。
全てにおいて想定以上をぶっ飛んでいくレナパーティ、やばい。

▽ギルド長は 赤のアクセサリーを 購入した。
▽ルーカが鑑定して アリスが仲介して 経済部部長マモンが駆けつけて 売買が成立した。

▽こういうことだよ!!!!

▽クーイズの スライムジュエルの秘密は 誤魔化された。

▽ギルド長が 赤色組の 仲間になった。

何事もまずは赤のアイテムを身につけるところから。
お揃い♡ をこなしていくと少なくとも敵意は持たなくなるものだ。

レナは一連の流れを「もーしょうがないなぁ」「ギルド長、似合っていますね」の二言で片付けると、マイペースに話を続けた。

「あとはグルニカ様が人形を作っていましたよね? 購入したいです」
「用途を」
「影の魔物がその中に入って、動かす。従業員の一員となれますから。安全な人員って感じですね」
「……元の影の魔物のままの方が、機動力がいいのでは?」
「ルージュが喜ぶので!」

これ以上ない納得の理由である。
宰相は迷うことなくメモにペンを走らせて、キラはスクリーンの文字に<マスター優しい♡>のメモを付け足してハートマークを散らせた。

精霊が働くことの調整もロベルトにまかせようと決めた。試練である。

宰相がひとつ、切り込む。

「従業員として雇う者は仮従魔にしたいなど、意図は御座いますか?」
「うーーん……可能なんですね? でも、やめておきます。責任が増えますから。まずは一般的な働き方だけを考えます」
「承知致しました」

レナなら、仮にも従魔とした時点で、その者の今生に責任を感じてしまう。
だから仮従魔であろうとも慎重になる…………魔王国にとって、安心して従業員を貸し出せる保証となった。

「あ、でも社食を食べてもらうわけですから、成長促進はされますからね。私たちと同じく白炎の料理を提供します。そこを冷遇すると、一緒に働く者としてぎくしゃくすると思うし……私の故郷の言葉で、同じ釜の飯を食べる、というものがありますし」

レナの故郷には釜がある。
そういえば米を欲していたな……と宰相が脳内にメモをする。
後ほどの交渉に使えそうだと思った。現在、魔王国には各国の使者が集っているから。

そんな思考をしているとまたレナが爆弾をぶつけてくる。

「能力アップご飯、せっかくだから、魔王国としても
育てたい従業員に食べてもらうといいのかなって思います」
「特別優秀な人材を選ぶことをお約束申し上げます」
「やったー」

レナが軽快に笑う。

ギルド長は驚き疲れてきた。
まあ豆系樹人族が作るプロテインの強化版か……などと考えることで精神を落ち着かせた。

レナパーティも魔王国を信頼しているのだ、と会話を聞いていて思った。

冒険者ギルドもいつかそうなりたいものだ、と心に留めた。

 

 

 

 

 

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