290:聖地にやってきたトラブル

 

▽レナたちの帰路。

キラから連絡がある。

<マスター! 厄介な来訪者が……>
「えっなに?」
<空に白竜。オズワルドさん曰く、竜人族の血縁者らしいですね……ギルド長が竜の里に『ドラゴンNG』を伝えたはずですけれど、それが悪くも何らかの呼び水になったのやもしれません>
「なんてこと……」

レナの心がざわめいた。
一番に心配になったのは、最近苦手に挑戦したばかりのあの子だ。

「ジレは?」
<周りのみんなで撫でくりまわしております>
「よし。継続して!」
<承知致しました!>

わーっやめっうわーっ! とキラテレフォンから騒ぎ声が漏れ聞こえてきている。
わざとそうやってお知らせしてくれたのだろう。

レナがくすりと笑ったので、側にいた従魔たちはホッとした。

「それにしてもギルド長にはあとで苦言を伝えなくちゃね。もう、あんなに気をつけてって言ったのに!」

▽レナが 苦悩している。
▽従魔みんなでサポートするよ!
▽ギルド長にお話しなくちゃ。

「モスラ。今の安全性を保ってもっと速く飛べるかな?」
『もちろんです。私の自己申告に頼ってくださって大変光栄です、天帝ヴィヴィアンレッドバタフライの実力をお見せ致しましょう』
「「ヒューヒュー!」」

▽モスラの加速!
▽ついでに空賊クラウドホークを撃ち落とした!×15
▽野良ワイバーンを撃ち落とした!×5
▽ガンガン経験値を得よう。

「どんどんすごくなるね。シュシュも飛行負けていられないな!」
「私も。翅……使いこなし、たいな」
「……飛行かぁ。天使族の誤解どうしようかな、うっ、頭が」

▽雲の上からさまざま観られている感じがする。

「ほーらネガティブにならないの。しょんぼりした子は撫でくりまわしって今ルールが決まったばかりだよ?」
「オッラーー!」
「そーーれ!」
「うわ!」
『背中が平和ですねぇ。フフ』

▽モスラの加速!
▽さらなる追い風に恵まれて、弾丸のように飛んでいく。

▽翅の模様が赤くきらめく。
▽光が移動する様は 彗星のようであった。

▽赤の聖地が 見えてきた。

「あれ、白竜?……でかい!?」
「かなりの大物だねー! ドラゴンってことはハマルの餌食?」
「いや、まだ上空にいる状態で先制攻撃したらこちら側に悪評がつきかねない。だからハマルも待機してる、適切な判断だね。──竜人族の族長の息子か。魂はギリギリグレー。うーん近ごろこんなのばっかりだな……」
『そこまでの者ならばギルド長グレイツ・ハーヴァの直轄ではないのですか? 不備ですね』
「思考視てみるよ」

ルーカが紫眼を細めた。

「……里に碌に帰らない不良息子。いつもと違う散歩コースでたまたま見つけた赤の聖地に興味を引かれて、せっかくなら秘密基地にしてやろうと、降下を試みている。ルージュたちの防衛に阻まれて、今のところ着陸ならず」

ロクデナシ、決定。
ルーカの冷めた半目がそう告げていた。

「ということでレナ? あー怒ってるよねぇ」
「ここで怒らなきゃ主人がすたるでしょ。あの場所は従魔の安息の地であってほしいもん!」
「レナにとってもね。そこを言い忘れないで。じゃ、どうしたい?」
「撃退」
「僕たちはどうすればいいかな?」

打てば響くような会話が心地いい。
爆速で移動しながらも、従魔とレナは和やかに作戦を話した。

「まず低空飛行の白竜を撃ち落とします。飛行事故というていで。まあ魔王国には通じるでしょう。
ルージュたちに防衛をやめてもらって、キラにフリースペースを作ってもらって、そこに白竜を着地させます。一応言いぶんを聞いてから、場合によっては私が一撃入れましょう」
「はーい」
「うおおぉ押忍!」
「積極的だね、いいと思う。攻められた時はどうするか、最初が肝心だから。じゃあ準備は万全にしなくちゃね。ステータスも共有しちゃおうか」
「「ぱふぱふー」」

リリーとシュシュが、クーイズを真似た。

「名前:スイツァ・ハーヴァ
種族:白竜♂、LV.40
装備:竜の装束、ブーツ、サークレット、M服飾保存ブレスレット(銀)
適性:青魔法[水]白魔法[光]

体力:80
知力:48
素早さ:90
魔力:56
運:20

スキル:[切り裂き]、[ドラゴンブレス]、[アクアブレス]、[光球]、[加速]、[持久力]、[水流耐性]
ギフト:[光の愛子]☆6
称号:魔人族、イタズラ小僧」

▽竜人族の秘蔵っ子についてすべてバレた。
▽ギルド長との交渉材料にしよう。

よし、と鞭を握り直しているレナを眺めて、ルーカが目を細める。ずいぶんと鞭の扱いが様になってきたものだ。昔、鞭の持ち方から指導したことを懐かしく思い出した。

「たくましくなったよね。レナ」
「ふっふっふ。──変わるべき時に来てるんだ、って思いますから。私が……異世界からラナシュに来た時のように。赤の聖地って拠点を手に入れた時のように。変わらなきゃいけない時がある。……その時にはずっと従魔が支えてくれました。みんな、これからもどうぞよろしくねっ」

▽レナの感謝が 魂にダイレクトアタックしてきた。
▽従魔は 顔が真っ赤になった。
▽大好き!!!!

▽レナパーティ式 エネルギーチャージ完了!

「さあ立ち向かってみせましょう」

レナが服装チェンジ。
赤のフルコーディネートになる。

ルーカ、リリー、シュシュも赤の祝福戦隊の正装になった。

いつものキラの演出がなくて地味な変身だが(当社比)気持ちがキリリと引き締まる。

「トラブル、悪運、なんのそのっ」
「ほんとそれ。トラブルを乗り越えるために僕たちは力をつけてきたわけで」
「はあああんご主人様の勇姿が楽しみすぎて鼻血でそううううぅ」
「称号[お姉様][赤の女王様(覇道)][サディスト]……[異世界人]セット!」

本日二度目の称号フルコンボだ。

レナがモスラの背中で立った。
眩しい後光。
モスラの翅が内側から透かされて、まるでもう一つの太陽のようですらある。

「オーーーッホッホッホ!!」

▽キターーーーーーー!
▽威風堂々とした高笑いーー!

「レナ、こっちみて。一応[身体能力補正]を受け取ってほしいんだ。これから白竜に挑むでしょ? 僕の心配を緩和するために、お願い」
「よろしくてよ!」

レナとルーカが視線を合わせた。
感覚が交わり、レナの[友愛の笑み]とルーカの[身体能力補正]がトレードされた。

その影響か、わずかによろけてしまったルーカを、レナがしっかり支えた。

「ウヒャアご主人様絵になjれおうgゔぉfmごえ」
「かっこいい♪」
「シュシュ、リリー、ありがとう」

▽レナは 賞賛を受け取った。
▽モスラが 最終加速!

『あなたの従魔としてふさわしい働きを捧げます!』
「オーーッホッホッホ! お行きなさい!」

▽まるでミュージカルのような華麗な流れであった。

▽赤の聖地上空に 到達。
▽モスラが 急上昇!
▽ドラゴンブレスをかわした。

▽急降下──撃ち落とし!!

▽ドガァァァァァン!!

硬質なものが硬質なものに衝突する、空気がビリビリ震える轟音。
衝撃のあまり雲が飛び散り、辺り一帯の草木はぶわっと項垂れるように倒れた。赤の聖地だけは[サンクチュアリ]で穏やかに守られていて地上の楽園のようである。

▽ルージュたちが防衛を解いた。
▽キラが[ダンジョンメイキング]砂の大地を作り出した。

連絡のとおり、すみやかな連携だ。

ズタボロの白竜が砂場に衝突し、大地にクレーターをつくる。
雄大に降下するはずが、まさかこんな悲惨な現実となるなんて。

クラクラと目を回している白竜は、高飛車な少女の声を聞いた。

「ねぇあなた」
『ンだよォ……』
「ドラゴンブレスを攻撃意思と受け取ったわ。お覚悟はよろしくて?」
『だぁれぇがぁ、反省だってぇ? よろしくねーわッ!!』

ギャアア! と白竜が威嚇の声を出す。
解釈を歪ませている辺り、脳がパニックになっているらしい。もしくはおつむが軽いのか。両方だ。

戦闘本能により、翼を引きずりながらも体勢を整えて声の方向をすばやく見上げた。

小柄な黒髪少女が、赤のドレスをなびかせて、吸い込まれそうな目で見つめてきている。──落下。

白竜が視認した瞬間に勝負は決まった。
レナの動きが早すぎて感知すらできなかったのだ。

「[みね打ち]ッ!!」

バシィィィィン! 轟く打撃音。

白竜の顔面には深い傷が刻まれて、鱗は割れ、ツノの先端がばきりと折れた。

(これだけ的(まと)が大きかったら外すはずもないし)

……というのがレナの新技能チャレンジの決定打になった。そんな理由だなんて白竜が知って顎を落とすのは、しばし後のことである。

白竜は白濁した視界で、レナの鮮烈な赤色をぼんやりと覚えた。それから天使の翼と妖精の翅が合体しているおかしな姿だという誤解も。

その額にうっすらと文様が浮かび上がる。

(あ、やばい。魂が黒寄りのグレーなんだっけ? ってことは[運命の宣告(センテンスト)]を授けちゃうみたいな……!? 粘着される前に早く帰らせないとっ)

傷に向かって鞭の柄をビシリとつきつけるレナ。

「立ち去りなさい!!」

▽圧!!!!

ビリビリと白竜の本能が危険信号を鳴らす。

従魔たちも膝が砕けそうだった。

キラの粋な演出。

▽ちゃぶ台を取り出して 湯呑みをおもむろに持ち お茶をぶっかけた。
▽帰れ&エリクサー治療!

もちろん主人が罪に問われないようにという身内向けの気遣いの賜物である。そして空気がすこぶる和んだ。

白竜はキッとレナを睨みつけると、空に羽ばたいていった。
エリクサーの効果もあり飛行は安定していて、またたく間に赤の聖地からは見えなくなった。

「さて……みんな、ただいま! 新しい私(ワタクシ)はどうかしら?」

レナがくるぅりと振り返ると、従魔たちはどきりと肩を跳ねさせた。

赤のドレスのひらひらした動きに目を奪われるし、後光は眩しい。自信に溢れた笑顔はとても綺麗だと見惚れた。魅了された赤い顔で主人を見つめる。

遠征どうだった? 大丈夫だった? は、聞かずともわかった。

強靭な力を手にして、きちんと戻ってきてくれたのだ。
異世界人という称号に対して、従魔たちはどこかで恐ろしく思っていた。どうしようもない別離を嫌でも想像させたから。

今、目の前にレナという存在がしっかりと在ることが嬉しい。

「ああ、いつもこのような力を振るうわけではないのよ。強大すぎる力は使いづらいもの。それに体幹が従来のままらしいから……うっかり狙いを外してしまっても困るものね」

わずかに苦笑する様子は、本来のレナらしさが滲んでいるように感じられた。
これまでの赤の女王様であれば「秘めたる力は使い時なのよ! オーッホホホ!」と表現したのではないだろうか。

異世界人の赤の女王様。
レナはレナらしく、特別な魔物使いに成長している。

ラナシュの法則に縛られすぎず、従魔とともに道をつくる様子に、ルージュは胸を躍らせた。

「いざとなったら自分の身を守る力は手に入ったから良かったわ。さあ、教えてね。あなたたちの主人に相応しいかしら?」
「『<従えてぇーーーーー!!!!>』」
「これからもどうぞよろしく、藤堂レナを助けて頂戴ね」

レナが美しく一礼した。
赤のドレスからしなやかに覗いた脚が交差して、ハイヒールがカツンと綺麗な音を立てた。
鞭の先端がしなやかに地面に円を描く。

「押忍!」『『ふぉーりんらぶー!』』「末長く従えてぇ……!」「持ちうる力の全てを捧げます」など、従魔たちが愛を叫ぶ。

ショーの後のファンコールの如しであった。

▽新レナパーティは いっそう仲良し。

▽いつもより熱い おかえりの抱きしめ会が行われた。

みんなとお茶したいわ、というレナの一声で、ガーデンティーブレイクが決定した。
ガーデンの中央に集い、優雅なティータイム。

レナは手ずから、ギルティアの芽にエリクサーを注いだ。

「あなたに会うのを楽しみにしているからね……」

慈しみの言葉がやわらかな黒土に沁み込んでいく。
芽はさわさわと揺れた。

ギルティアの若葉が濃い緑となり、伸びたツルの先がティーカップを持つレナの指先に、こつんと当たった。

それは挑んでいるようにも、愛情表現にも、偶然すなわち運命とも見てとれる。
レナの微笑みがすべてを物語っている。

「楽しみにしているからね」

▽赤の聖地のトラブルを解決した。
▽運の天秤が おおよそ均衡に戻った。

▽魔王国とギルド長にお話しておこうね。

▽メデューサ族長に追加のお礼(ファンサ)をしよう。
▽[異世界人]称号の アフターフォローをしよう。

 

 

 

 

 

 

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