287:カルメン先生と森授業

▽カルメン先生と夜の授業が始まるよ!

レナたちがやってきたのは赤の聖地から比較的近い森林地帯。土地の起伏や崖もある、足場の悪い場所である。隠れる場所が多いぶん、魔物は多い。すこし煙たさを含んだ風がつめたくレナたちの髪をなびかせた。

『我々の出番だな……! フフフフ!』

カルメンが一番前に立って、森の入り口を眺めて盛大に高笑いする。

「カルメン〜。獲物逃げちゃうよ?」
『構わぬ。弱い者まで乱獲する訳ではないだろう? では我々に挑もうという魔物が残ったはずだ! 胸が躍るではないか!』

薄闇の中、カルメンの褐色の肌と黒のドレスは溶け込むように馴染み、赤髪が燃え上がるように鮮やかだ。
それに堂々とした存在感。

レナでさえ一瞬、見惚れた。

(聖霊は人の祈りと自然の神秘から生まれたって言われてるの、その通りかもしれないなぁ)

『どうしたレナよ?』
「ううん。よろしくお願いします、カルメン先生」

レナがぺこりと頭を下げた。
今日はレナが生徒なのだから。

(カルメンはここで一体、私にどんなことを教えてくれるのかな?)

レナはまだ訓練内容を知らない。
ルージュ先生の授業の後、急きょ引っ張られてきたのだ。

ともに選ばれた従魔は、レグルス・オズワルド・クレハ・ジレ・ハマル・リリー。

カルメンの力を分け与えられている者が集うのは納得できるが、ジレまで、半ば強引に引きずり出したことについてはレナはちょっと怒っていた。

カルメンに『来ると言え』なんて誘われたら、ジレは本心がどうであれ、頷かざるを得ないから。

了承しただろう? とカルメンが悪びれていないのも、ジレが「来いって言われるのは嫌では……ないので」と陰りのある苦笑で過去のトラウマを滲ませたのも、悩ましい。

(いったんジレが承認したことを私が返させるのも違う気がするし。はー)

カルメンを一発ビンタして場を収めたものの、ただただ愉しげだったのも悩ましい!!

(もっとビンタの威力を増すべき? そしたらロベルトさんたちに泣きつかれるような気がするな〜、聖霊相手にやめて下さい!!って)

レナはふうっと一息。

気持ちを切り替えて。
これから狩りなのだ、そのことだけ考えよう。
いかにレナたちが強くなったとはいえ、油断は大敵。

「よし!」

レナは鞭を握った。
赤のローブにキュロットスカートの動きやすい軽装。とんとんとブーツのつま先を地面にあてた。足の疲労もとれている。

「クレハ、ジレのこと本当にお願いね」
「あいあいさー!」

クレハはぴしっと敬礼した。
輝く宝石みたいなウインクで、雰囲気を和ませてくれる。

獣型のオズワルドにさっそうとまたがると、クレハは足の間にジレをちょんと乗せた。
ジレの尻尾が、クレハのお腹部分を突き破って背中に出ているのでシュールである。スライムボディだし通した方が収まりがいいのはわかるけれども。ジレは緊張しているようで、毒混じりの汗をかいたが、クレハがぺろりとおでこを舐めて食べてしまった。

「オズ〜、我らのことお願いね♡」
『スライムの触手で腹をくすぐるのをやめろ、今すぐ! 許容するのはシートベルトまでだから』
「あいよ〜」

軽口の応酬で、また場が和んだ。

リリーが「クスクスっ」と笑う。
こちらはレグルスに乗っている。

レナは乗り慣れているハマルに乗った。

『スキル[体型変化]〜 小さくなーれ。あれ〜? このくらいかなー、大きくなーれ。小さくなーれ〜、うんうん、こんなもんだね〜』

▽ハマルは 森の中を走りやすいように 体の大きさを調整した。
▽約体長2メートル。

「うん、アネース王国のラチェリではこのくらいの大きさでよく走ってたよね〜。やっぱり乗りやすい。ハーくん、今夜もどうぞよろしく」
『は〜い! 最近では従魔がたくさん乗れるように巨大化かー、持ち運びに便利な手のひらサイズでしたからー。ボクも懐かし嬉しいです〜」

ハマルのわたぐも尻尾の中で星がきらきら瞬いている。

『久しぶりの狩り〜!』

▽ハマルは 張り切っている!

レナがやるべきはこのやる気を伸ばしてあげること。夜の森を怖がっている場合ではない。

「む、武者震いだし! 押忍!」
『ふふ〜。シュシュみたいなレナ様可愛い〜』

『ほれいくぞ』

カルメンの塩対応、イチャイチャ主従コミュニケーションをぶち切る。
彼女には彼女のペースがあるのだ。

大きく腕を広げて、ピューーウ! と口笛を鳴らしたカルメン。

<キラウィンドウ展開致しまーす。ソイヤ!>

分身体が表示したウィンドウには、冒険者ギルドの依頼書が映されていた。

「これ……お昼のうちに受諾してたの?」
『その通りだ。せっかく狩りをするなら依頼として受けた方が得なのだろう?』
「そうだとは思う。従魔と相談したの?」
『そうだ! 我々も含めてみんなである!!』

カルメンがそれは満足げに胸を張る。ドン!!

「レナパーティではなくて個人で依頼を受けることももうできるもんね〜。うう、一人立ちが胸にじんわりくるなぁ……」
『我々の名で依頼を受けた』
「……カルメンが!? それは護衛の皆さん驚いてたんじゃないの?」

レナがぷはっと吹き出して、笑った。
ケラケラと肩を揺らして、目尻の涙を拭う。

依頼をじっくり眺めた。

ーーーー

○火口火竜の討伐(冒険者ギルド)
……外来種の駆除を求ム。
郊外の森が荒らされている。対象を討伐し、心臓を納品スル。報酬前払い5000リル、その他応相談。

ーーーー

レナパーティなら確実に討伐するだろうし、望みの報酬が想定できなさすぎるからあとでな! というクエストらしい。わりと強引に受諾したようだ。

「カルメン先生の授業、こなしてみせましょう」
『それではゆくぞ。太古の鼓動を蘇らせろ、大地よ──!』
「……ちょ!?」

カルメンの声が轟く。
ゴゴゴゴゴゴ! と大地が揺れた。

森から鳥たちが大慌てで飛び立ち、小動物が逃げ惑っているざわざわとした気配がある。

▽火球が 森の中から飛んできた!×1
▽ビュッッッ!

「わっ!?」
『お任せを』

レグルスがさっと前に出て、大口を開くと、火球を喰らった。
ボフっと口の中から消滅音がして、レグルスの首のあたりにたてがみのような炎がぶわっ! と燃え上がる。

『ちょうどいい餌でした。太陽光の代わりです、俺の力になります』
「すごーい……!」
『光栄です!!!!』
「クスクスっ。レグルスが発光してて、前が、明るいね。明るすぎるね? じゃあ……本番まで、この明かりはとっておくの」

▽リリーの スキル[幻覚]
▽白炎化した獣の毛並みが 漆黒に偽られた。

「闇に紛れるのは好きな戦略。できるだけ目立たずに、相手の懐に奇襲をかけられたら最高だから!」
『レナよ、いい性格をしているなァ』

カルメンがゾクゾクと昂ぶっている。
レナは(早く行こう?)と促した。
お屋敷のみんながご馳走を作って待ってくれているはずだから。レナはにこっと笑った。

▽戦闘開始!
▽クエスト[夜の森・火口火竜の討伐]

森の中は先ほどの地鳴りによって、騒然としている。
足元をチョロチョロと動く小動物や、木々を見事に避けながら、カルメンの恩恵を受けた従魔たちが吹き抜ける熱風のように走る。
行く手を阻むツタは、瞬時に消し炭にした。
じゅっ……と焦げる音すらも速度に飲み込まれた。

静かに静かに、進軍する。

森の半ば差し掛かったとき。

▽銀の鹿が 現れた!×3

『火竜の眷属になったみたい。ほら、足元、爪が燃える岩みたいになってる』
「へー。そういうもん? ジレ」
「そうだと、思います……!」
「レナの経験値チャンスじゃ〜ん! 誘導しよーぜ、オズ」
『了解』
「いくぜジレ!」
「っはい」

▽オズワルドの 体当たり!
▽銀の鹿が ふっとんだ!×1

暗闇からいきなりやってきた衝撃になすすべもなく、銀の鹿はドミノ倒しのように倒れる。

レグルスが踏みつけて、3体ともの動きを防いだ。
リリーが待ったをかける。

「これ……美味しい、かな? それなら持って帰りたい。ミディたち、連れてくれば良かったかも……。ううん、私のフェアリーアイでも、なんとかっ……!」

リリーが青の瞳をきらめかせる。
魂の色がグレーだとは分かったが、そこまでだった。

「あーん、だめ〜。もっと視れないかな……そうだ! ご主人さま♡」

▽リリーの[軽業]。
▽羊に 飛び乗った。

「血、ちょーだい♡」
「仰せのままにーっ……! もーしょうがないなぁ。おねだりの顔が可愛すぎたよ」
「私のことが、大好きだから、そう見えるんでしょ……? ねっ」
「プリンセスフェアリーと書いて小悪魔!」
「ウフフ♡」

▽リリーの[吸血]。
▽なんとか一噛みで自重したよ!
▽ブラッディフェアリーに変身した。
▽成長したフェアリーアイは 食材判定に使われた。

「肉質……アウト。ちぇっ」
『ほれハマル。仕留めるといい』
『はーーいっ』

▽レグルスが 前足を離した。
▽重なった銀の鹿を ハマルが撥ねる!
▽パコーーーーン!

▽銀の鹿を 倒した!×3
▽銀の尻尾を 採取した。×3
▽炭化した爪を レグルスが踏み砕いた。

銀の鹿の魂が、レナの胸に吸い込まれていくのがリリーには視えていた。これは経験値の動きなのだろう。
そしてレナの魂が輝くと、従魔にも輝きが分配されていく。
従魔契約の甘美なつながりに、リリーはうっとりと酔いしれた。

<職業:魔物使いのレベルが上がりました! +1>
<スキル[騎乗]を覚えました>
<ギルドカードを確認して下さい>

「おー!」

レナが喜ぶ。

『狩りはもっとリズミカルに』

▽カルメン先生の 教育的指導。
▽リリーが テヘヘと舌を出した。

「食欲、つい。あ、でもね……いいこともあるよ。ブラッディフェアリーの私になら、視える……森の奥……火竜の、魂の色。あれは……ほどよいおこげ、みたいな色」
「美味しそう?」
「うんっ! ご主人さま! あの火竜のお肉、美味しいはずなの! じゅるり……」
『白炎で焼くか』
「マグマにも耐える、火竜……だけれど、白炎の方が、つよい! クスクスっ!」
『こんがりといこう。実に心が踊るなァ!』

▽カルメンの 高笑い。
▽森が 激震した。
▽火竜が 慌てふためいている。

レナパーティの進軍、再開!

リリーがさざめきのような歌を歌って、この森に住む蜂や蝶を操り、動物たちを眠らせたり麻痺させる。
見張り番をしていた他の銀の鹿たちは、残らずオズワルドとレグルスが狩った。
クレハがスライム触手でちょっと炭爪をつまみ喰いしたり。

前が開けられた道を、ハマルがびゅんびゅんと羊らしからぬ豪脚で駆ける!

([騎乗]スキルのおかげでこれまでよりもハーくんに乗りやすい! それにハーくんも動きやすそう。これまで私を気遣って丁寧に走ってくれていたんだよね)

レナはぎゅっと手綱のリボンを引き締めた。
ハマルが『きゃんっ』とテンションオーバーした。
レナは手綱を握る手を、片方外して、鞭をもつとピシリ! と横腹を打つ。

▽加速!!!!!!

(私も強くなれば、従魔たちはもっと戦いやすくなるんだ。本来の力を発揮できる。よし、頑張ろう……!)

ハマルとレナも風になった。

カルメンの声はそれは愉しげに、火竜の鼓膜をざわめかせ続ける。

▽森の最奥にたどり着いた。
▽洞窟がある。

煤っぽいにおい。巨大な岩みたいなごつごつと丸い形状の洞窟は、おそらく火竜が過ごしやすいように作り変えたのだろう。入り口の亀裂からマグマのような赤銅色がのぞいている。

「この中に……火竜は、いないよ」

リリーが赤い目を瞬かせた。

「魂の在り処はここ。だから岩肌と、自分の体、カモフラージュ……してるっ」
「私たちと同じ戦略ってことだね」

レナが確信した。
あちらの作戦はおそらく、洞窟内に敵が入っていったら、外に控えていた自分が洞窟内を攻撃する! というものだろう。

(結構ちゃんと考えてるねー。だけど……)

ここまで静かにやってきたレナたちだが、レベルアップのためにそろそろ派手に魔法を使う気なのだ。

カルメンがにいいっと笑った。

『ワッッッ!!』

轟く太古の音を聞いてしまって、火竜が飛び上がる。
▽カモフラージュが 乱れた。

レナが指示をする。

「オズくん、レグルス! 焼き払いっ!」
『『[オーバーフレイム]!』』

ゴウウウウウ!!と大地が燃える。洞窟の周りの草木を灰にする。

「ハーくん、ガード」
『スキル[夢吐き]光の聖結界の夢〜』

レナたちをギリギリ範囲外にして、ルーカのみた夢が洞窟周辺を覆った。
中で白炎が煌々と燃えている。

”炙り焼き”。

見晴らしがすっきりしたところで、火竜がその姿を表した。

▽火口火竜が 現れた!×1

白炎に焦がされてぷすぷすと体から煙を出している。
溶岩石を貼り合わせたようなゴツゴツとした鱗、亀裂には赤銅色のマグマボディが覗いている。目はギョロリとした暗緑色。動く活火山のようだ。

「キラ。クエストウィンドウ」
<ガッテン承知で御座います!>
「ん、ありがとう。討伐クエストの特徴と一致しているね」

キラが表示したウィンドウの明るさが気に食わなかったのだろう。

▽火竜は 火球を吐き出した!×1
▽レグルスが 飲み込んだ。ボウッ! とたてがみが燃える。
▽両者は睨み合っている。

火竜はダン! と足踏み。

地面の亀裂から、眷属化されたワイルドワームが飛び出してきた。
黒と銀と赤銅色が混ざった超大型のワームが、火竜を守るように伸びて、4メートルもの壁を作った。

『おー。さらに経験値ですねー。痛くないように一撃ですませましょー』
「ワイルドワーム……もう自分の意思では、あそこから動くこと、できないの。完全洗脳、壊されてる」

リリーが首を横に振った。

「あと不味い」
『残念〜』
『火竜は美味いんだろ?』
「うんっ」
『じゃ、配下のぶんはボスに責任とってもらわないとなァ』

オズワルドが獰猛に唸る。
レナは隣で、頷いた。

(オズくん、主人は責任を取るものだって当たり前に考えているんだね……。嬉しい。ちょっと自惚れだけどさ、そんなオズくんが私を主さんって呼んでくれるのは、従魔を守る主人だって認めてもらってるみたい)

レナがにこーっと笑う。

(もしもオズくんが誰かの上に立つ存在になった時にも、今の考え方は役に立つと思うよ。武闘大会どうするんだろう……)

思考を馳せかけて。
レナは今に気持ちを切り替えて、前を向いた。

(迷惑をかける配下でごめんなさい……)と考えていたジレが、レナを見て戦慄した。
(これから戦うって時にこの余裕……!)
▽レナは 尊敬された。

震えたジレを、クレハがぎゅっと抱きしめた。

「あ、あの……?」
「目ぇ見開いて、歯ぁ食いしばっとけ?」
「その流れはなんですか!?」
「今から特攻だもんよー! イヒヒ!」

クレハはケタケタ笑うと、髪を縛っていたリボンを解いて、自由になった髪をスライム触手のように伸ばしてジレをしっかり包む。

「守ってやるから大丈夫。よーく見とけよ〜、それだけ約束だッ」
「……っ」

──昨夜の従魔会議。
この火口火竜を狩りに行くと話題になった時、ジレは自分から震える手を挙げた。

自分の故郷にいた火竜種であることと、その戦法や弱点をレナパーティに伝えたのだ。
その時にも、クレハとイズミが抱きしめてくれていた。

それがあったから多分、カルメンの誘いに前向きに「行きます」とも言えたのだ。

(火口火竜も故郷も……嫌だ、恐ろしいけれど……ここで、なら、向き合うことも、できそう。というか今しかないんだ、俺が変わるとしたら……)

「目を、閉じません!」
「マジで? そこまでしなくてもいいとは思うけどぉ〜……」
「トカゲ種なので大丈夫です。目は早々乾きません」
「そんじゃ、あのオオトカゲモドキ倒すの観戦しようぜ〜!」

にしし! と笑うクレハが竜種をトカゲ扱いしたことに驚愕し、ジレはうっかりバランスを崩した……と思ったが、シートベルトがしっかりと役目を果たしてくれた。

『んも〜、クレハ先輩〜。ボクが戦うんだからドラゴンって言ってくれないと困るぅ〜』
「あ、ごめんよ。んでも後輩と話すの楽しくってさぁ」
『許しまーす。レナ様ー、ドラゴンって三回言って?』
「ドラゴンドラゴンドラゴン」
『よーし! レナ様がドラゴンって言ったからー、あれはドラゴンー! いっくぞー称号[ドラゴンキラー]セット』

「長く話してるとマグマドラゴンブレスまでの時間経過しちゃうって俺言いましたよねーー!?」
『大丈夫だってば。お前は座ってろ』

ジレがドギマギと主張したら、オズワルドが冷静に返事をした。

カルメンはにやにやしながら口を噤んでいる。

「カルメン先生。やる気出していきましょう!」
『いいだろう! レナ、もっとだ!』
「…………」

▽戯言を無視した。
▽カルメンのテンションがぐーーんと上がった!

「白炎の準備もバッチリみたいだね。じゃあオズくん、レグルス、いってらっしゃい! 活路を開けて! 方法は踏みつけ」
『『了解』』

レグルスとオズワルドがまっすぐに駆け出していく。

「真正面からッ……!? ちょっ……」

道連れとなったジレは必死で目を開けている。
ボウボウと白炎が燃える地面、迫るワイルドワームの壁。しかしワイルドワームは蠢くばかりで、オズワルドたちを攻撃してくる様子はない。

「ウフフ! 虫の本能が……まだ残ってたみたい、だね?」

王族妖精が微笑みかけてあげることが、ワイルドワームへの餞別になった。

▽オズワルドと レグルスの 踏みつけ!
▽ワイルドワームは ひれ伏した。

▽オズワルドと レグルスの 踏みつけ!
▽火口火竜は ドラゴンブレスを 飲み込んでしまった!

頭を踏みつけられた時、顎が閉じてしまい、口の中に溜めていたマグマブレスをごっくんと喉に落として内側から焼かれてもがいている。
▽火口火竜……

「ハーくん、スキル[鼓舞]」
『まっすぐならボクが一番つよーい! めええええええ!』

走りながらどんどんとハマルが巨大化していく、2メートル3メートル4メートル……
レナがしっかりしがみついて手綱を締めている。
鞭をスパァン!

▽ハマルのテンションが ぐーーんと上がった!

▽ワイルドワームの壁を 粉砕した!

▽火口火竜を前に ドラゴンキラーのステータスアップ!
▽火口火竜を 撥ね跳ばした!

▽ドオオーーーーーン!!

▽マグマが内側から爆発して 体が四散した!
▽カルメンが 花火を上げた!

おそろしい炎の祭りであった。
爆発と白炎と花火の騒がしさの中を、体半分を白くしたオズワルドとレグルスが駆ける。
超巨大ハマルはのっしのっしと数歩動いて、燃えていない森の中で、しゅるしゅると縮んでいった。最後はレナのお尻に踏まれた。

『はうん♡』
「お疲れさま、ハーくん。危なげない、いい走りだったね〜」
『レナ様もお疲れさまですー。鞭の訓練の後だったのにーさらに訓練、えらーい。鞭の使い方お上手でしたー』
「本当? やったあ!」
『「ふい〜」』

レナがハマルを抱えて撫でて、ひと息ついた時。

『主さん』
『レナ様』
「あ、オズくんレグルス、お疲れさま〜。ええと」
『これだ! ハハハハハ!』

レグルスの影からひょっこり現れたカルメンが、赤銅色に燃える岩を掲げる。

『火口火竜の心臓。クエストクリア、と言うんだったか? 我々の勝利だなァ!』
『探したのは俺たちだけどな』
『カルメン様は……あちこち遊びに行って捜索を手間取らせていましたね……』
「こらっカルメン!」
『んんっ……』

▽カルメンは 歓んだ。
▽カルメン先生は 終了した。

レナはリリーを労った後、ジレに向き合った。

「ジレ。どうだった?」
「……すごく……すごかった、です……」

ジレは、レナパーティの奇策であったり火口火竜爆発であったり、間近で見るジェットコースター体験であったり、さまざまな非常識が押し寄せたため、あっけにとられた顔をしている。ずっと口が半開きで小さな牙がのぞいている。

その感動がジレの心に反映されるのは、もう少し落ち着いてからだろう。

レナはにっこり笑って「お疲れさま」と優しい声をかけた。

「レーナ! そろそろじゃない!?」
「あ、そうかも。特訓の成果。体が熱い……!」

<職業:魔物使いのレベルが上がりました!+1>
<スキル:[羊鞭]を覚えました>
<ギルドカードを確認してください>

「羊鞭ぃ!?」

レナがスキルの詳細を確認する。
ギルドカードをポチッとな。

[羊鞭]……羊毛のような分厚い毛皮を持つものに適した鞭打ち。鞭がすべらず、羊毛に埋もれず、上手な鞭打ちが可能。

「ウーン……!」

レナががっくり項垂れる。なんという罪深いものを取得してしまったのか。
それから苦笑した。

「まあ、こういうのもいいかな。レベルアップおめでとう、私」
『「おめでとう!」』

従魔たちからの手放しのお祝いに、レナは嬉しそうに微笑んだ。

そしてきらめく羊の瞳を、ちゃんと見てあげる。
(うわっっっまぶしっっっ)

『レナ様……♡』
「はいはい。そうだよねー。大活躍のハーくんにご褒美あげなくちゃね?」
『わーーいっ!! ボクレナ様の従魔になって良かったですー! 最高の環境ですー!』

ハマルがぴょんぴょん飛び跳ねて、白金色の羊毛をキラキラさせるのはとても美しく可愛いのだが。
その発言の真意ときたら。

察しのいいジレがハラハラとしている。
しかし「おうちに帰るまでが戦闘」と律儀に目を開け続けている。かわいそうなのでこの展開を早急に終わらせてあげよう……待てをしているハマルもそわそわとだいぶ限界だ。

レナはばさあっとマントを翻した。
▽かっこいいーーー!

「スキル[羊鞭]!」
『うわああああい!』

ピッシーーーーーン!

と、それはいい音が夜の森に響いた。

ハマルがくったりと横になって、満足げに、余韻に浸っている。

みんなもう相当慣れていて、そっと目を逸らしながらハマルが現実に戻ってくるのを待った。

「私のレベリングがここで+2。それから火口火竜の討伐完了、ついてきてたクドライヤさんが森の緑を治してくれているし〜。ドラゴンのお肉はほとんど吹っ飛んじゃったけど、尻尾が残っててよかったねぇ」
<マジックバッグに保存しております>
「キラもありがとう!」
<マスターたちの勇姿、バッチリ撮影させていただきましたー♡>

むくりとハマルが起き上がったので、帰り支度を……と行きと同じように騎乗する。

「ハーくん、行ける?」
『なんだかー、カラダが熱いですー?』
「えっ?」
「あっ」

リリーがピシリとハマルを指差した。

「進化」
「えっ!?」

レナが驚愕の声を上げた時、世界の|福音(ベル)。

またしてもレナの従魔が強くなりすぎた。

今回はハマルのテンションが上がり攻撃がいわゆるクリティカル判定で経験値が多く、レナの羊鞭に打たれたことが決定打となった。
さらにレナがレベルアップするほど、従魔の成長促進補正も大きくなる。

(これも、従魔をたくさん従えることの難しさ〜!?)

普通にレベルアップをするだけではもうレナは従魔に追いつけないだろう。
特別な一手が必要だ。

▽ルーカに相談してみよう。
▽魔王国に相談してみよう。

▽Next! ハマルの成長

 

 

 

 

 

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