285:鞭の訓練します!1

ガーデン中央に朝礼台がデデンと作られている。
レナが留守にしていた間の、従魔たちの作品だ。
ここで朝のミーティングするといいんじゃない!? という思いつきは、ギルティアを心配する新人3名のためにと……先輩従魔が考えた。

白の木作り、カラフルな絵が描かれているのはお子様たちの合作。
ちなみに見た瞬間レナは泣いた。
絆が尊い!!

早朝のさわやかな日差しの中、レナが壇上に立つ。
そこから横を見下ろすと、ギルティアのちいさな若葉が見える。
そっと微笑みかけた。

「えー、テステス」

拡声器を持ったレナが、声を拡大する。
耳が幸せ……と聴力が良い獣人たちがジーンと噛み締めた。

気持ちを切り替えたレナの、元気がはじける笑顔!

「それでは朝礼を始めます。おはようございまーす!」
「おはようございまーす!」
「みんな〜元気〜?」
「はーい!」
「体操いっくよー!」

▽ラジオ体操が始まった!
▽レナが一番へたっぴだった。

「はあはあ……二番までやるときついね……」
<三番はどうしますか?>
「ちょっと技術的に無理」
<承知いたしました>

三番は一気に難易度がはね上がるのだ。
それはさておき。

呼吸を整えると、レナは手を鳴らした。
ピチューーン!

▽キラウィンドウが現れた!

レナの背後に、薄緑色の大きなウィンドウ。
まだ何も書かれていない。

<おはようございます!>

▽天使族ディスが 割り込んできた。

「あいつ朝から元気だな……」「おっはよー」「押忍!」など従魔がざわざわとする。

▽キラが従魔の挨拶を反映させて 適当に切った。

<んもー。思いの丈が強くって、こっちにまで割り込んできました。侮れませんね初恋>

「うっ」
▽ルーカが ダメージを受けた。
▽金色猫に変身した。レナに預けられた。

<ささ、レナ様項目を>
「はーい。今日の予定を確認しましょう!」

レナが拡声器を持つ!

▽獣人がゴクリと生唾をのんで来るべき快感に備える。
▽ハマルはすでにそろそろ限界だ。手袋の音が効いた。

「リリーちゃん。宝飾レッスン、クーイズとマリアベルさんと一緒に行っておいで」

レナが呼ぶと、リリーはにこにこと二人と手を繋いだ。
クーイズが、いつもよりちょっと細身で背を伸ばした紫髪の美人に変身している。
マリアベルが鼻血を流した。

<リリー・クーイズ・マリアベル 宝飾店メディチ>とウィンドウに書き込まれる。

「オズくん、シヴァガン王宮へ。レグルスは実家に挨拶だね」

二人は眉間にシワを寄せて頷いた。
あまり嬉しくない予定のようだ。
レナが苦笑いする。
(それでも自分たちで行くって決めたんだよね。それなら私は……応援! 頑張れ!)

チョココがやってきて、二人に飴を渡した。
ほんわりと空気が和んだ。

<オズワルド シヴァガン王宮>
<レグルス カーネリアン御殿>
<※行き帰り リリーたちの送迎を兼ねる>

「モスラとアリスちゃん。エルフィナリーメイドで商談の打ち合わせ」

二人はここにいない。
いつでもいいですよーというエルフの言葉をがっつり甘受して、先制攻撃をしかけるべく夜明けにさっそうと出かけたのである。おねむのエルフたち相手に商談を貪って、最善の報告を持ってくるだろう。

「パトリシアちゃんとリオくん。お花屋さんのお店番でアネース王国へ」

▽レナは パトリシアから 護衛用の種をもらった(過保護)

「ジレ、アグリスタ、マイラ。みんなでお屋敷の家事をお願い。今日は影の魔物と協力して館内清掃してね」

三人が緊張したようにギクシャク頷く。
いつもとは違う協力業務だ。
ワンステップ上がった感じがした。

わっ! とキサが後ろから声を出して、三人の緊張を解いた。
妾たちも助けるから大丈夫じゃ、ところころ笑うキサ。美しい姿に、従魔となった三人は親愛の情を抱いて淡く頬を染めた。

「そうそう。キサ、ミディ、ルーカさん。三人のサポートをお願いします」

▽ミディはにこにことイカフライ串を後輩に渡した。
▽そうじゃない。

にゃふふ、とルーカが笑う。テンションが回復してきたので、レナは解放した。

「うーん、ご褒美おやつタイムはまだ早いけどね……? せっかくだから召し上がれ〜」

▽レナが 許可を出した。
▽新人三人は イカ焼きを満喫した!
▽ソース味が美味しい。

<モスラ・アリス エルフィナリーメイド>
<パトリシア・リオ アネース王国花屋>
<ジレ・アグリスタ・マイラ 館内清掃>
<キサ・ミディ・ルーカ 清掃サポート>

「チョココとキラ、ノアちゃんは特別特訓。スウィーツバイキング!」

まるまるとしたノアの手が、食欲全開に挙げられた。
もうあと少しで「体形変化」を覚えられそう、とのルーカの見解。
……スキルがなくてもすでに見た目はぷっくり変化しているが。目的は防御力強化である。宰相が目に涙を浮かべて喜ぶに違いないんだ、きっと、多分。

<チョココ・キラ・ノア 食欲訓練>

さて……と、レナが深呼吸する。

「私も特別レッスンを始めます!!」
「「なーーーーにーーーー!?」」

クーイズがぴょんと飛び跳ねて、周りも目を丸くしている。

ここ最近のレナは、従魔同士の関係を円滑にするため誰かと一緒にいることが多かったが……

「鞭の修行なのです!」

ピシャーーーーン! と雷が落ちたような衝撃が仲間に走った。
反応は様々。

「「レナー!? 無理はしないでね! 運動するの久しぶりでしょ、怪我に気をつけてっ」」

「レナ様……どれくらい凄い鞭さばきなのか興味、あります……」

「よくわかんないけど頑張っててえらーい♪」
「ご褒美にイカ焼き用意しておくノヨー」

全ての反応に返事をすることは無理なので、レナは鞭を取り出し、柄の宝石を薔薇のように咲かせることで返事とした。
上に掲げる!

▽キラがBGMを鳴らす。
▽こうなったら変身するしかないじゃない!
▽そーーれ!

「月の光に導かれ……!」

「今、朝ですよね?」
「そうヨネー?」

幼児たちの純粋な疑問が胸に痛い。

「──ライティングパワーメイクアーップ!!」

▽レナはアレンジを施した。
▽レナクラスチェンジ、レナクラスチェンジ。

「従魔のために成長よっ!」
「キャーー! ご主人様ーー! 従えてーーっ!!」

▽朝のウォーミングアップが終わった。
▽全力でファンコールして 喉の調子が良くなった。
▽従魔のテンションが上がった!
▽やったね!

用事がある従魔たちがそれぞれ出かけていく。
レナの隣にはルージュの姿。

「それではルージュ先生。よろしくお願いします」
「はい。よろしいですわ」

ルージュが訓練用の鞭を片手ににっこりと微笑んだ。
(なんか隙がない……)
優雅な立ち振る舞いの中に恐るべき闘気を感じ、レナは無意識に覇気を醸し出した。

▽闘気VS覇気
▽仲良しだよ。

(なんだあれすごい)

護衛たちが遠巻きに眺めて、ゴクリと喉を鳴らした。
報告しようか、頭を悩ませるところである。

ルージュと見つめ合っていたレナが、パッと視線を外した。
手荷物をそろえた従魔が、わらわらと門の近くに集まってきている。

「あっすいません、見送りだけしてきてもいいですか? 生き甲斐なんです」
「ふふ。いいですよ」

クスクスとルージュが笑って手を振る。

「それが終わったら気持ちを切り替えて訓練ですわね」

レナは背中を、薔薇の瞳で射抜かれたような感覚を覚えた。
ゾワワっと鳥肌を立てる。

「ひえっ……行ってきまーす!」

レナが駆け出すと、ルージュは微笑ましそうに目元を和ませた。
後輩の魔物使いの成長が楽しみで、足元はふわふわとステップを踏んで、ハイヒールのかかとが浮くくらい浮かれている。

レナは従魔たちそれぞれの望む通りに、抱きしめたり、握手をしたり、頭を撫でたりして送り出す。

「みんな、無事に帰ってきてね。私の従魔だからきっと大丈夫、強いもん。待ってるよ!」

(もう帰るぅ!!!!)……とダダをこねたいところを従魔たちは我慢して、出かけていった。
▽早く帰るから!
▽ダッシュ!!!!

▽護衛が大変そうだった。

レナは、館内清掃の新人三人、サポート三人も見送る。
(館内だからって見送りたいんだからしょうがない〜!)
▽みんなが嬉しいから良い判断だね!

「今日もきっとよくできるよ」

レナが小さな手をそっと包んで伝える。
新人三人の魂がじんわりと熱くなり、頷く時の表情はすこしだけ自信がついたようだった。

レナはルーカの頭にポンと手を置く。

「よろしくお願いしますね。ルーカさん」
「まかせて」

ルーカはそう言ったものの、レナの頭の中に、不安のアラームがチリリと鳴る。

(あれ?)

「……ルーカさーん? もやっとしてるもの、吐き出してみなさい? ほらほら、こっそりとでいいから」

レナは自分の耳を手を添えて、ルーカのほうに向けてみた。

「んー……」

ルーカはすこし考える仕草を見せて、ひょいとレナの顔を覗き込む。
目を合わせてテレパシーで伝えたほうが早いと思ったのだ。

感覚共有でなんとなく、気持ちがわかった。

(教育係がルージュだったから、僕は、ちょっと羨ましかったのかもしれないね……)
(あとでまたルーカさんにもお願いしますよ)

「ふふ、いじらしいですね!」

レナは明るく言って、ルーカの金髪をめちゃくちゃに撫でてやった。
サラサラと元のヘアスタイルに収まるのだから、大したものだ。
ルーカはレナに似た、明るい表情を見せた。

「ん。今日は、僕ができる範囲で、清掃サポートや料理とか、やるべき分野をこなすよ。レナの修行はまず僕のレベルを超えるのが目的なのに、こっちがさらに引き離してしまっても困るしね」
「不便をおかけします」
「レナパーティのね、チームで強くなろうってやり方、正直とても好き。従魔っぽくてさ」

ルーカは猫耳をごきげんに揺らすと、首元のチョーカーをつついた。
その後ろで新人三人が、なんとなく自分たちの首元に触れている。

ふんわりと甘くさわやかな風が吹いて、みんなを包んだ。

「ミィもあーいうの欲しいナー」
「アクセサリーならあるぞ? 貸してやろう」
「キサ、ありがとナノヨー!」

このままでは微笑ましいやりとりを、いつまでも見ていてしまいそうだ。
そう思ったレナは、ぎゅーっと握りしめていた手をふりふり、6人を見送った。

(一緒にがんばろ!)

「……さて!」

ドキドキしながら振り返ると、

▽闘気メラメラのルージュ先生
▽倒れ伏したハマル
▽やる気まんまんに翼を伸ばしているシュシュ

「よろしくお願いしましゅっ!」

▽レナは噛んだ。
▽特訓を始めよう!

 

 

 

 

 

 

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